あなたは一体誰ですか?

らがまふぃん

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8.もうひとつの姿

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 予想外、と言ってしまっていいのか、定刻通りに第四皇子は現れた。

 馬車の扉が開き、姿を見せたカダージュ。

 淡い水色の髪は後ろで一つに高く結い上げられ、陽に透けて金色に輝いて見える。しかし、相変わらず長い前髪で顔は見えない。

 カダージュは伯爵たちの側まで来ると、気の抜けた声を出した。

 「ぅえ~、腰痛ぁ」

 いつもボソボソと話していることは知っていた。こんな話し方をするのか、と伯爵たちは苦笑いをした。すると、フラリとカダージュの体が後ろに倒れる。伯爵たちは驚き、慌てて支えようとするが、すぐ後ろに控えていた護衛に寄りかかりたかったようだ。

 「うあ~、長距離の移動は疲れるねぇ」

 カダージュはふにゃりとしていた。
 長距離。皇城からティシモ伯爵家のタウンハウスまで、馬車で多く見て三十分。

 長距離。

 ゴクリ。

 ティシモ家は唾を飲んだ。
 護衛の体を背に、ズルズルと座り込みそうなカダージュを、慣れた様子で護衛は支えた。

 「殿下、ご挨拶なさいませんと、伯爵様たちも動けませんよ。あと少ししっかりなさいませ」

 護衛に支えられるカダージュに、側近が耳打ちをする。

 「カダージュ・アス・ヒオニアですぅ。今日はよろしくねぇ」

 よっこらしょ、と護衛から離れ、少しふらふらしながらそんな挨拶をしてきた。伯爵家は戸惑いつつ挨拶を返し、応接間へと案内するのだった。

………
……


 「殿下。シャンとなさい。殿下の望んだ席ですよ。伯爵家のみなさんに失礼です」

 ぐったりと背もたれに背を預けて傾いているカダージュを、側近は注意する。

 「長距離移動ですべての体力を使い果たしたなあ。ごめんねぇ、メリオラーザ嬢。伯爵たちもぉ」
 「いいえ、お気になさらないでください、殿下」
 「そうですわ。我が家と思ってくつろいでいただければ、ええ」

 伯爵と夫人が笑顔を貼り付けてそう言った。しかし、メリオラーザは。

 「殿下はだいぶお疲れのご様子。こんなところでは体を休めることもままならないでしょう。すぐにお休みになれるよう調えますわ」

 本気で心配をしているメリオラーザを、側近は驚いたように見る。

 「殿下はあまり部屋から出ないと伺っておりましたのに、気が利かず申し訳ございません。体力が回復なさったなら、改めてお話しをさせていただきたく思います」

 こんな様子では、マトモに話も出来ないだろうと、メリオラーザは仕切り直しを提案した。

 すると。

 「こんな僕に、あなたはチャンスをくれるんだね」

 先程までの弛緩した空気はない。だらしない格好のまま、クツクツと喉の奥で笑うカダージュが、グッと体を起こすと、長い前髪をかき上げた。

 いつも髪が邪魔をして見えない顔。全員が、初めて見る第四皇子から目が離せなかった。

 皇家の色である金色の瞳は軽く細められ、すべてを支配するような覇者の光を帯びている。白磁のように滑らかな肌は、日に当たらないためか少々青白いが、それが強い瞳と相反していて、美しさを一層引き立てる。唇は淡い紅を引いたように色付き、妖艶さを垣間見せていた。

 わずか十一歳。成長が楽しみと言うべきか、恐ろしいと言うべきか。

 そんな周囲を気にすることなく、肘置きに頬杖をつき、足を組んで座り直したカダージュは、側近に言った。

 「ねえ、ビズ。僕の見る目はなかなかだろう」

 楽しそうなカダージュに、ビズは呆れながら、どこか嬉しそうに応じた。

 「ティシモ嬢に同情を禁じ得ませんよ」

 カダージュは笑った。

 「メリオラーザ嬢」

 カダージュが立ち上がり、メリオラーザを見る。
 その目は、ひどく怜悧であった。

 ああ、この方は。

 メリオラーザは理解した。カダージュが、皇家において、どのような立場であるかを。
 カダージュは、メリオラーザの前に膝をつく。

 「どうか、私の妻になっていただけませんか」

 手袋を外したカダージュがメリオラーザの手を取り、くちづける。メリオラーザは驚きに目を丸くし、やはり、と納得した。少しの間の後、メリオラーザは頷いた。

 「慎んで、お受けいたします」

 まさかの発言に、伯爵たちは口をパクパクさせながら、メリオラーザを凝視していた。

 「本当っ?!」

 カダージュの弾ける笑顔に、ティシモ家は口を開けたまま真っ赤になった。

 「嬉しい、ありがとう、リオ!大好き!」

 メリオラーザの脇に手を入れ持ち上げると、クルクルと回ってはしゃいだ声を出すカダージュを、ビズと護衛は安堵の息と共に、嬉しそうに笑った。




*つづく*
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