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初めて晒されたその顔に、全員が思った。
何の為に仮面を着けていたのだろう、と。
実は可愛い顔をしているかも、という淡い期待をしていた者たちは、お肉に埋もれたパンパンの顔に、残念そうに視線を落とした。そんな場合ではないとわかってはいるのだが。
仮面からはみ出るお肉から、想像していた通りの顔であったが故。
そんな周囲の反応に構うことなく、オルベスタは好戦的な発言をする。
「ふぉふぉふぉ。ここまで侵入できる腕、素晴らしいですこと。ですが、わたくしのこの肉の壁、破れるかしら?」
何度かその場でトントンとその巨体をジャンプさせると、その巨体がブレた。途端、目の前に肉薄する巨体に、男は、それでも何とかオルベスタの攻撃を回避する。が、男の体は吹き飛んだ。避けた先で、オルベスタの拳が叩き込まれたのだ。誰も何が起こったのかわからない。吹き飛ばされた男でさえ、何故自分がこんなことになったのか理解出来ていない。
そんな男には見向きもせず、別の男へとオルベスタは迷いなく突っ込んで行った。
吹き飛ばした男は、首謀者ではない。今向かう男も首謀者ではないが、敵の中で最も警戒する男だと、オルベスタは本能でわかっていた。吹き飛ばした男は他の騎士に任せ、オルベスタは迷いなく一直線で警戒する男へと疾走する。警戒する男もまた、オルベスタを敵と認識したようだ。
「歯ごたえはそれなりにある者たちばかりだったが、おまえは別格だな」
男の言葉と、二人の剣がぶつかり合う音は同時だった。
「王宮の守護者たちをそれなり、とは。楽しめそうねぇ」
オルベスタは、糸のような目をますます細めて笑うと、男と一旦距離を取って対峙した。
「レグホーン子爵家嫡女、オルベスタですわ」
オルベスタが名乗りを上げると、男は口の端を上げた。
「俺に名はない。死神、と呼ばれている」
国を股にかけた、裏社会で間違いなくトップに君臨する、暗殺者の通り名だった。
………
……
…
「どうぞ、この部屋からは出ませんようお願い申し上げます」
近衛騎士が頭を下げ、部屋の扉を閉める。
有事の際、王族が避難する部屋だ。国王夫妻と王太子夫妻、王子二人の計六人が連れて来られた。
部屋の前から近衛騎士の気配が遠ざかると、
「生きている内に、こんなことがあるなんて思いもしなかったよ」
王太子ウスターシュが、俯きながら震える声でそう言った。
「殿下」
半目で王太子妃ヒセラがウスターシュを見ると、ウスターシュはガバリと顔を上げた。
「だってそうだろ、メルレッティ!」
ウスターシュは、ヒセラに向かってそう呼んだ。その目はキラキラと子どものように輝いている。
「早く、早く行こう!ああもう!式典の衣装は何でこうも着るのも脱ぐのも面倒なんだ」
「落ち着いて下さい殿下。ほら、コレを使えばあっという間でしょう」
ヒセラではなくメルレッティと呼ばれた女性が、短剣を手渡す。
「メル、天才!」
「じゃないでしょう」
血税を切り裂こうとして、二人は王妃からゲンコツを脳天にくらう。
「騎士団長が迎えに来るまでどうせ動けないのよ。焦らず行動なさい」
「ヒセラがおまえたちの分も残してくれているだろう。だから落ち着け」
王妃と国王の言葉に、二人は渋々従う。
「ヒセラだから信用できないんだよ」
「ヒセラだから信用ならないのですけどね」
二人は同時にそんなことを呟きながら衣装を脱ぎ捨てると、中に着ていた騎士服が現れる。その用意周到さに、そこにいた全員が微妙な顔をした。式典の度、二重装備していたようだ。役に立つ日が来て良かったね、とお互いカツラを着けながらニヤニヤと笑い合っている。
そこへ、扉をノックする音が聞こえた。
*つづく*
何の為に仮面を着けていたのだろう、と。
実は可愛い顔をしているかも、という淡い期待をしていた者たちは、お肉に埋もれたパンパンの顔に、残念そうに視線を落とした。そんな場合ではないとわかってはいるのだが。
仮面からはみ出るお肉から、想像していた通りの顔であったが故。
そんな周囲の反応に構うことなく、オルベスタは好戦的な発言をする。
「ふぉふぉふぉ。ここまで侵入できる腕、素晴らしいですこと。ですが、わたくしのこの肉の壁、破れるかしら?」
何度かその場でトントンとその巨体をジャンプさせると、その巨体がブレた。途端、目の前に肉薄する巨体に、男は、それでも何とかオルベスタの攻撃を回避する。が、男の体は吹き飛んだ。避けた先で、オルベスタの拳が叩き込まれたのだ。誰も何が起こったのかわからない。吹き飛ばされた男でさえ、何故自分がこんなことになったのか理解出来ていない。
そんな男には見向きもせず、別の男へとオルベスタは迷いなく突っ込んで行った。
吹き飛ばした男は、首謀者ではない。今向かう男も首謀者ではないが、敵の中で最も警戒する男だと、オルベスタは本能でわかっていた。吹き飛ばした男は他の騎士に任せ、オルベスタは迷いなく一直線で警戒する男へと疾走する。警戒する男もまた、オルベスタを敵と認識したようだ。
「歯ごたえはそれなりにある者たちばかりだったが、おまえは別格だな」
男の言葉と、二人の剣がぶつかり合う音は同時だった。
「王宮の守護者たちをそれなり、とは。楽しめそうねぇ」
オルベスタは、糸のような目をますます細めて笑うと、男と一旦距離を取って対峙した。
「レグホーン子爵家嫡女、オルベスタですわ」
オルベスタが名乗りを上げると、男は口の端を上げた。
「俺に名はない。死神、と呼ばれている」
国を股にかけた、裏社会で間違いなくトップに君臨する、暗殺者の通り名だった。
………
……
…
「どうぞ、この部屋からは出ませんようお願い申し上げます」
近衛騎士が頭を下げ、部屋の扉を閉める。
有事の際、王族が避難する部屋だ。国王夫妻と王太子夫妻、王子二人の計六人が連れて来られた。
部屋の前から近衛騎士の気配が遠ざかると、
「生きている内に、こんなことがあるなんて思いもしなかったよ」
王太子ウスターシュが、俯きながら震える声でそう言った。
「殿下」
半目で王太子妃ヒセラがウスターシュを見ると、ウスターシュはガバリと顔を上げた。
「だってそうだろ、メルレッティ!」
ウスターシュは、ヒセラに向かってそう呼んだ。その目はキラキラと子どものように輝いている。
「早く、早く行こう!ああもう!式典の衣装は何でこうも着るのも脱ぐのも面倒なんだ」
「落ち着いて下さい殿下。ほら、コレを使えばあっという間でしょう」
ヒセラではなくメルレッティと呼ばれた女性が、短剣を手渡す。
「メル、天才!」
「じゃないでしょう」
血税を切り裂こうとして、二人は王妃からゲンコツを脳天にくらう。
「騎士団長が迎えに来るまでどうせ動けないのよ。焦らず行動なさい」
「ヒセラがおまえたちの分も残してくれているだろう。だから落ち着け」
王妃と国王の言葉に、二人は渋々従う。
「ヒセラだから信用できないんだよ」
「ヒセラだから信用ならないのですけどね」
二人は同時にそんなことを呟きながら衣装を脱ぎ捨てると、中に着ていた騎士服が現れる。その用意周到さに、そこにいた全員が微妙な顔をした。式典の度、二重装備していたようだ。役に立つ日が来て良かったね、とお互いカツラを着けながらニヤニヤと笑い合っている。
そこへ、扉をノックする音が聞こえた。
*つづく*
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