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どうして?
わたくしのことが好きなのでしょう?だから、どんなにわがままを言われても、今まで何も言わずに一緒にいたのでしょう?
どんなわたくしでもいいから、好きだから、許してくれていたのでしょう?
緊張して、顔が強ばってしまっていたのでしょう?だから、表情が変わらなかったのよね?会話だってままならなかった。
わたくしが大切だから、触れずにいたのよね?大切すぎて触れられないことってあるものね?
それら全部、全部全部、わたくしのことを想うあまりのことだったのでしょう?
そうでしょう?
それなのにどうして?
どうしてソレに、そんなにも優しい顔を見せるの?
どうしてソレに、そんなにも優しく話しかけるの?
どうしてソレに、そんなにも優しく触れるのよ!
「薄汚い平民風情が!奴隷の分際でわたくしのモノを奪うなんて赦さないわよ!!」
受け入れられない現実に、ヒンディルは愚かにも、ノノに魔法をぶつけようと魔力を込めたその時。
ドゥマたちとヒンディルの間に境界を作るように、数メートルの線が入った。その線はグツグツと煮えたぎり、灼熱の温度を放っている。
ドゥマの魔法だった。
ドゥマの魔法は凄まじかった。
たった一人の少女を“守りたい”と願い、ドゥマは努力をした。
魔力があるだけでは意味がない。魔法として行使してこそ、意味を持つ。
今まで言われるがままに行ってきた魔法は、初級魔法であるにもかかわらず、中級同等の威力を持っていた。興味がなくて、そうだったのだ。
努力をしたらどうなるか。
上級魔法の威力さえ凌ぐ、最早異常と呼べる威力へと昇華されていた。
初級の火魔法を放っただけで、土が溶けているのだ。線状に引かれた場所からの熱気から逃げるため、悲鳴を上げながらヒンディルは数メートル後退った。ドゥマは熱気からノノを守るために、こちら側には氷と風の複合魔法で、何ら熱さを感じなくさせている。
世界に類を見ない漆黒の色を持つ男の魔法。黒に近い濃紺の色を持つ王族すら息をのむ。
「権力より、暴力の方が、圧倒的だと思わないか?」
黒と紺。
これ程までに、隔絶された力の差。
「おまえもそう思うから、今、魔法を使おうとしたんだろ?」
抱き締めたままのノノの背中を、心配いらないと言うように優しく撫でている。
「存外気が合うのかもな、俺たち」
クッと喉の奥で笑う。
「ということは、もしかしておまえもノノが好きなのかな」
やはり感情の読めない目が、ヒンディルを見る。
ヒンディルは知らず、ゴクリと喉を鳴らした。
どちらで答えたら正解なのだろう。
間違えたら、きっと命はない。好きと言えば同志だと思われ助かるのか、恋敵だと殺されるのか。嫌いと言えば害する者として排除すべく殺されるのか、奪わない者として見逃されるのか。
「す、好き、よ、そう、好きなの、本当は」
「そう。ノノをとられたら困るな」
細められた目に、ヒンディルの全身が粟立つ。
好意的な方が生き残る確率が高いと踏んだが違ったようだ。慌てて言い直す。
「じょ、冗談よ!キライに決まっているじゃない、そんな子!好きだったらもっと大事にしているわよ!」
「ああ、そうだろうな」
薄く笑うドゥマに、ホッとしたのも束の間。
「ノノに害をもたらすモノなんていらないな。消すか」
正解は、“どちらで答えてもヒンディルが助かる道はない”だ。ただ、死に方が変わるだけ。
ノノを傷つけた者を、赦すはずがない。
ノノを抱き締めていた両腕の片方を外すと、手のひらをヒンディルに向けた。
「塵も残さず消えろ」
広げた手のひらを握ろうとして、その腕に縋るものがあった。
「ノノ?」
腕にしがみつき、ふるふると首を横に振っている。
「殺すなって言っているの?」
今度はブンブンと縦に振った。
ドゥマはノノの必死な様子に逡巡する。少しして、ノノの頭を優しく撫でた。
ノノが顔を上げると、ドゥマが優しく微笑んでいた。
「ノノに感謝しろ」
冷たい目と声でヒンディルにそう伝えると、指を鳴らした。瞬間、ヒンディルが崩れ落ちる。ノノが息を飲む音が聞こえた。
「うるさいから静かにさせただけだよ。直に目覚める」
安心させるようにそう言うと、ノノは安堵の表情を浮かべた。
今後の話をしよう、とドゥマは国王たちを向いた。
「俺の心変わりでの婚約破棄だ。俺は王族に賠償責任があるのだろう?」
ドゥマは自分の非を認め、賠償までするという。はっきり言って、今まで良く耐えてきてくれたと、非はこちらにあると、寧ろ王家が賠償する側なのだ。けれどドゥマにそんな意識はない。婚約破棄に至った経緯などは一切省みず、事実のみを拾い上げて判断を下す。恐ろしいほどそこに私情も感情も挟まない。
ノノ以外、自分さえ、本当にどうでもいいのだ。
そんなドゥマが、国王に向けて指を三本立てた。
「三度。三度、俺はおまえたちに俺を使う権利を与えよう」
*最終話につづく*
わたくしのことが好きなのでしょう?だから、どんなにわがままを言われても、今まで何も言わずに一緒にいたのでしょう?
どんなわたくしでもいいから、好きだから、許してくれていたのでしょう?
緊張して、顔が強ばってしまっていたのでしょう?だから、表情が変わらなかったのよね?会話だってままならなかった。
わたくしが大切だから、触れずにいたのよね?大切すぎて触れられないことってあるものね?
それら全部、全部全部、わたくしのことを想うあまりのことだったのでしょう?
そうでしょう?
それなのにどうして?
どうしてソレに、そんなにも優しい顔を見せるの?
どうしてソレに、そんなにも優しく話しかけるの?
どうしてソレに、そんなにも優しく触れるのよ!
「薄汚い平民風情が!奴隷の分際でわたくしのモノを奪うなんて赦さないわよ!!」
受け入れられない現実に、ヒンディルは愚かにも、ノノに魔法をぶつけようと魔力を込めたその時。
ドゥマたちとヒンディルの間に境界を作るように、数メートルの線が入った。その線はグツグツと煮えたぎり、灼熱の温度を放っている。
ドゥマの魔法だった。
ドゥマの魔法は凄まじかった。
たった一人の少女を“守りたい”と願い、ドゥマは努力をした。
魔力があるだけでは意味がない。魔法として行使してこそ、意味を持つ。
今まで言われるがままに行ってきた魔法は、初級魔法であるにもかかわらず、中級同等の威力を持っていた。興味がなくて、そうだったのだ。
努力をしたらどうなるか。
上級魔法の威力さえ凌ぐ、最早異常と呼べる威力へと昇華されていた。
初級の火魔法を放っただけで、土が溶けているのだ。線状に引かれた場所からの熱気から逃げるため、悲鳴を上げながらヒンディルは数メートル後退った。ドゥマは熱気からノノを守るために、こちら側には氷と風の複合魔法で、何ら熱さを感じなくさせている。
世界に類を見ない漆黒の色を持つ男の魔法。黒に近い濃紺の色を持つ王族すら息をのむ。
「権力より、暴力の方が、圧倒的だと思わないか?」
黒と紺。
これ程までに、隔絶された力の差。
「おまえもそう思うから、今、魔法を使おうとしたんだろ?」
抱き締めたままのノノの背中を、心配いらないと言うように優しく撫でている。
「存外気が合うのかもな、俺たち」
クッと喉の奥で笑う。
「ということは、もしかしておまえもノノが好きなのかな」
やはり感情の読めない目が、ヒンディルを見る。
ヒンディルは知らず、ゴクリと喉を鳴らした。
どちらで答えたら正解なのだろう。
間違えたら、きっと命はない。好きと言えば同志だと思われ助かるのか、恋敵だと殺されるのか。嫌いと言えば害する者として排除すべく殺されるのか、奪わない者として見逃されるのか。
「す、好き、よ、そう、好きなの、本当は」
「そう。ノノをとられたら困るな」
細められた目に、ヒンディルの全身が粟立つ。
好意的な方が生き残る確率が高いと踏んだが違ったようだ。慌てて言い直す。
「じょ、冗談よ!キライに決まっているじゃない、そんな子!好きだったらもっと大事にしているわよ!」
「ああ、そうだろうな」
薄く笑うドゥマに、ホッとしたのも束の間。
「ノノに害をもたらすモノなんていらないな。消すか」
正解は、“どちらで答えてもヒンディルが助かる道はない”だ。ただ、死に方が変わるだけ。
ノノを傷つけた者を、赦すはずがない。
ノノを抱き締めていた両腕の片方を外すと、手のひらをヒンディルに向けた。
「塵も残さず消えろ」
広げた手のひらを握ろうとして、その腕に縋るものがあった。
「ノノ?」
腕にしがみつき、ふるふると首を横に振っている。
「殺すなって言っているの?」
今度はブンブンと縦に振った。
ドゥマはノノの必死な様子に逡巡する。少しして、ノノの頭を優しく撫でた。
ノノが顔を上げると、ドゥマが優しく微笑んでいた。
「ノノに感謝しろ」
冷たい目と声でヒンディルにそう伝えると、指を鳴らした。瞬間、ヒンディルが崩れ落ちる。ノノが息を飲む音が聞こえた。
「うるさいから静かにさせただけだよ。直に目覚める」
安心させるようにそう言うと、ノノは安堵の表情を浮かべた。
今後の話をしよう、とドゥマは国王たちを向いた。
「俺の心変わりでの婚約破棄だ。俺は王族に賠償責任があるのだろう?」
ドゥマは自分の非を認め、賠償までするという。はっきり言って、今まで良く耐えてきてくれたと、非はこちらにあると、寧ろ王家が賠償する側なのだ。けれどドゥマにそんな意識はない。婚約破棄に至った経緯などは一切省みず、事実のみを拾い上げて判断を下す。恐ろしいほどそこに私情も感情も挟まない。
ノノ以外、自分さえ、本当にどうでもいいのだ。
そんなドゥマが、国王に向けて指を三本立てた。
「三度。三度、俺はおまえたちに俺を使う権利を与えよう」
*最終話につづく*
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