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最終話
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「どんな内容でも構わん。必ず望む結果を与える。但し、俺とノノの時間を邪魔しないことが条件。どうだ?」
あらゆる魔法に精通できる黒を纏う者。その者を行使する権利こそが、賠償だという。
それは、凄まじい、最高の賠償である。
条件から察するに、継続される願いはダメと言うことだ。死ぬまで護衛を、や、誰かとの婚姻を、などがそれにあたるだろう。
「せ、世界を、欲しても、か?」
「世界が欲しいのか?」
質問に質問で返す不敬さえ、誰も何も言えない。
「あ、いや、たとえば、の話だ」
「言っただろう。必ず望む結果を与える、と」
誰もが喉を鳴らした。それは、恐怖からか、欲望からか。
「これをやる」
「これ、は?」
成人男性の握り拳大の黒い石。光を反射することなく、すべてを飲み込む深淵のような色をしている。
「俺を使いたいときに、それに向かって俺の名を呼べばいい」
どうする、と問いかけるような視線に、国王は頷いた。
「交渉成立だ」
ドゥマはそう言うと、ノノをお姫様抱っこした。
「くれぐれも、俺たちの邪魔をしてくれるなよ」
トプン
水に沈むように、二人の姿は地面に沈んで消えた。
「婚約者である内は、何があっても目を瞑ってきた」
地面に倒れたまま放置されていたヒンディルが目覚めると、気付いた父である国王が、冷たい目で吐き捨てるように言った。
「それがなくなったおまえになど価値はない。寧ろ負債だ。面倒事ばかり起こしおって」
「お、おとう、さま?」
何を言われているのか。目覚めたばかりのヒンディルは、両親から、重臣たちから向けられるその目に混乱している。
そんな様子に呆れ、先日厨房でノノにした仕打ちのことでわかりやすくたとえてやる。
「あれで、城に仕える者たちが怯えきっておる。いつあのようなことを自分がされるか、と離職を願う者が多くいたのだぞ」
場合によっては力技を行使することを許可した騎士を、常にヒンディルの側に付けることで離職を踏みとどまらせた。
「あのような非道を行うなんて、なんて恐ろしい子でしょう」
「ノノ、といったか。黒を止めてくれずとも良かったというのに」
およそ自分の子どもに向けるような目ではない母王妃の目に、父王の言葉に、ヒンディルは冗談だと笑おうとするが、引き攣る。
「お、お母様?お父、様?何を」
「北の塔に生涯幽閉だ。おまえの顔を見るのはこれで最後だ」
「地下牢でないだけ良かったと思いなさい。最後まで王族扱いしてもらえることに、感謝するのですよ」
「え、じょ、冗談、ですわよね?」
「連れて行け」
二人の騎士に連れて行かれるヒンディルは、両親に縋る言葉を叫び、女官たちに助けるよう命令し、騎士たちに罵詈雑言を浴びせ、最後は泣き叫んでいた。
ヒンディルから、最後まで謝罪と反省の言葉を聞くことはなかった。
地面に沈むような転移魔法で来た場所は、たくさんの色とりどりの花が咲く草原だった。見渡す限り、一面の花畑。あまりの美しさにしばし呆然と立ち尽くす。
どれくらいの時間が経っただろう、ドゥマが沈黙を破った。
「ノノ。強引なことをしてすまない」
ノノは目を瞬かせると、微笑んで首を振った。そんなノノを見て、苦しそうに懺悔を続ける。
「ノノが傷つけられていることに、気付くのが遅すぎて、すまない」
ヒンディルの性格を考慮することがなかった。あまりにすべてにおいて関心がなさ過ぎた。だから、ヒンディルがノノに何をするのか、考えが及ばなかった。あれほど苛烈な性格をしていたのだ。誰彼構わず喚き散らし、勝手気ままに振る舞う横暴さを知っていたのに。もっと早く気付くことが出来ていたら、あんなにも酷いやり方で顔に火傷をするなどという恐怖を味わわせずに済んだのに。
そして、あの王女のそんな性格を助長させてしまった一端を、自分が担ってしまっていたのだろう。
ああ、本当に俺は、どうしようもない愚か者だ。
「俺、ノノに、初めて会ったとき、助けてもらったのに」
その言葉で、ノノは傍若無人な彼の元婚約者の暴力から、身を挺して庇ったことを思い出した。
「守れなくて、ごめん」
消えそうに呟くドゥマが悲しくて。
笑って欲しくて、地獄のような毎日から救ってくれたことに感謝を伝えたくて。
ノノは辺りを見回す。そして何かに気付くと、ドゥマにこのまま待つように身振り手振りで伝える。
少し離れたところにしゃがんで何かをしている。そして何かを手に戻って来た。
その手には、一輪の小さな花。
野に咲く花を、笑顔で差し出す。手折るのではなく、土ごと。
それは、淡い水色の花。
ノノの、色。
この国で自分の色を贈るのは、最大の感謝を表す。
話が出来ないノノ。
ありがとう。
そう、口が動いた。
堪らなくなった。
「あんな暮らしをさせられて、どうしてキミはそんなに綺麗なの」
困ったように眉を寄せ、泣きそうに笑う。
「ありがとう、ノノ」
花をそっと受け取ると、ノノを抱き締めた。
「大好きだよ、ノノ」
俺の、俺だけのノノ。
ああ、俺の色に、染まるといい。
*おしまい*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
このあと気まぐれに番外編投稿します。
伯爵家とか公爵家とかその後とか。
よろしかったらお付き合いください。
あらゆる魔法に精通できる黒を纏う者。その者を行使する権利こそが、賠償だという。
それは、凄まじい、最高の賠償である。
条件から察するに、継続される願いはダメと言うことだ。死ぬまで護衛を、や、誰かとの婚姻を、などがそれにあたるだろう。
「せ、世界を、欲しても、か?」
「世界が欲しいのか?」
質問に質問で返す不敬さえ、誰も何も言えない。
「あ、いや、たとえば、の話だ」
「言っただろう。必ず望む結果を与える、と」
誰もが喉を鳴らした。それは、恐怖からか、欲望からか。
「これをやる」
「これ、は?」
成人男性の握り拳大の黒い石。光を反射することなく、すべてを飲み込む深淵のような色をしている。
「俺を使いたいときに、それに向かって俺の名を呼べばいい」
どうする、と問いかけるような視線に、国王は頷いた。
「交渉成立だ」
ドゥマはそう言うと、ノノをお姫様抱っこした。
「くれぐれも、俺たちの邪魔をしてくれるなよ」
トプン
水に沈むように、二人の姿は地面に沈んで消えた。
「婚約者である内は、何があっても目を瞑ってきた」
地面に倒れたまま放置されていたヒンディルが目覚めると、気付いた父である国王が、冷たい目で吐き捨てるように言った。
「それがなくなったおまえになど価値はない。寧ろ負債だ。面倒事ばかり起こしおって」
「お、おとう、さま?」
何を言われているのか。目覚めたばかりのヒンディルは、両親から、重臣たちから向けられるその目に混乱している。
そんな様子に呆れ、先日厨房でノノにした仕打ちのことでわかりやすくたとえてやる。
「あれで、城に仕える者たちが怯えきっておる。いつあのようなことを自分がされるか、と離職を願う者が多くいたのだぞ」
場合によっては力技を行使することを許可した騎士を、常にヒンディルの側に付けることで離職を踏みとどまらせた。
「あのような非道を行うなんて、なんて恐ろしい子でしょう」
「ノノ、といったか。黒を止めてくれずとも良かったというのに」
およそ自分の子どもに向けるような目ではない母王妃の目に、父王の言葉に、ヒンディルは冗談だと笑おうとするが、引き攣る。
「お、お母様?お父、様?何を」
「北の塔に生涯幽閉だ。おまえの顔を見るのはこれで最後だ」
「地下牢でないだけ良かったと思いなさい。最後まで王族扱いしてもらえることに、感謝するのですよ」
「え、じょ、冗談、ですわよね?」
「連れて行け」
二人の騎士に連れて行かれるヒンディルは、両親に縋る言葉を叫び、女官たちに助けるよう命令し、騎士たちに罵詈雑言を浴びせ、最後は泣き叫んでいた。
ヒンディルから、最後まで謝罪と反省の言葉を聞くことはなかった。
地面に沈むような転移魔法で来た場所は、たくさんの色とりどりの花が咲く草原だった。見渡す限り、一面の花畑。あまりの美しさにしばし呆然と立ち尽くす。
どれくらいの時間が経っただろう、ドゥマが沈黙を破った。
「ノノ。強引なことをしてすまない」
ノノは目を瞬かせると、微笑んで首を振った。そんなノノを見て、苦しそうに懺悔を続ける。
「ノノが傷つけられていることに、気付くのが遅すぎて、すまない」
ヒンディルの性格を考慮することがなかった。あまりにすべてにおいて関心がなさ過ぎた。だから、ヒンディルがノノに何をするのか、考えが及ばなかった。あれほど苛烈な性格をしていたのだ。誰彼構わず喚き散らし、勝手気ままに振る舞う横暴さを知っていたのに。もっと早く気付くことが出来ていたら、あんなにも酷いやり方で顔に火傷をするなどという恐怖を味わわせずに済んだのに。
そして、あの王女のそんな性格を助長させてしまった一端を、自分が担ってしまっていたのだろう。
ああ、本当に俺は、どうしようもない愚か者だ。
「俺、ノノに、初めて会ったとき、助けてもらったのに」
その言葉で、ノノは傍若無人な彼の元婚約者の暴力から、身を挺して庇ったことを思い出した。
「守れなくて、ごめん」
消えそうに呟くドゥマが悲しくて。
笑って欲しくて、地獄のような毎日から救ってくれたことに感謝を伝えたくて。
ノノは辺りを見回す。そして何かに気付くと、ドゥマにこのまま待つように身振り手振りで伝える。
少し離れたところにしゃがんで何かをしている。そして何かを手に戻って来た。
その手には、一輪の小さな花。
野に咲く花を、笑顔で差し出す。手折るのではなく、土ごと。
それは、淡い水色の花。
ノノの、色。
この国で自分の色を贈るのは、最大の感謝を表す。
話が出来ないノノ。
ありがとう。
そう、口が動いた。
堪らなくなった。
「あんな暮らしをさせられて、どうしてキミはそんなに綺麗なの」
困ったように眉を寄せ、泣きそうに笑う。
「ありがとう、ノノ」
花をそっと受け取ると、ノノを抱き締めた。
「大好きだよ、ノノ」
俺の、俺だけのノノ。
ああ、俺の色に、染まるといい。
*おしまい*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
このあと気まぐれに番外編投稿します。
伯爵家とか公爵家とかその後とか。
よろしかったらお付き合いください。
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