美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん

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ディレイガルド事変編

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 エリアストは唇を重ねたままアリスを抱き上げ、ソファに押し倒す。いつもより荒々しいくちづけに、アリスは翻弄される。ボタンが引き千切られ、胸元が晒される。
 間違いなく何かがあった。それも、エリアストを傷つける何か。
 歯列をなぞられ、喉まで犯すように絡まる舌。懸命に応える小さな口からは、飲み込みきれない唾液が零れる。アリスはエリアストの背中に手を回した。ゆっくり、ゆっくりと、優しくその背中を撫でる。そうしながら、婚約初期の頃が思い起こされた。
 欲しいものがあるのに、どうしたら手に入るかわからない。大事なものがあるのに、どう手を伸ばしたらいいかわからない。大切なものがあるのに、どのように守るのかわからない。そんなエリアストと共に歩んで来た、四年半の婚約期間。時には母のように諫め、時には姉のように慎ませ、そして婚約者の立場のままに寄り添ってきた日々。初期は、母や姉の立場でエリアストに接することが殆どだった。
 本当に久し振りに、コントロールを失いかけている。
 アリスの優しい、癒すように背中を撫でる手に気付いたのは、アリスの唇が熟れて真っ赤な果実のようになり、酸欠になりかけた頃だった。
 ようやく離れた唇に、アリスは苦しい息のもと、微笑んだ。
 「は、あ、える、さま」
 「ああ、エルシィ、エルシィエルシィ」
 泣きそうに顔を歪ませるエリアストを、乱れた胸元に抱き寄せる。ゆっくり呼吸を整え、優しく髪を撫でる。
 「エル様。約束をしましたね。欲しいものを手に入れる方法、大事なものに手を伸ばす方法、大切なものを守る方法を、一緒に考えながら歩みましょうと。ふたりでずっと、と」
 「ああ、ああ、約束をした。ふたりで、共に考えながらずっと歩もうと、約束をした」
 アリスは抱き締めていたエリアストの両頬を優しく包み、自分と視線を合わせる。
 「最近、悩んでいらっしゃいましたね。今回は、どれでしょうか。エル様のお心を乱しているものは、どれになりますか」
 美しい黎明れいめいの瞳の奥に、強い意志が見える。エリアストを傷つけるものは、悩ませるものは何なのか。その憂いを取り除いて見せましょう、と。
 「守りたい。エルシィを、私たち夫婦の関係を、守りたい、エルシィ」
 「わたくしと、夫婦の、関係、ですか?」
 エリアストはアリスを抱き上げると、破壊された机の側に落ちた、握り締めたために一部がクシャクシャになった、一枚の紙を拾い上げた。躊躇いがちに、アリスにその紙を見せる。
 アリス・コーサ・ファナトラタに戻れ。
 「まあまあ、何と言うことでしょう」
 アリスはそこに書かれた言葉に目を丸くした。
 「本当にエル様は大人気ですわねぇ」
 「すまない、エルシィ。怖がらせてはいけないと、黙っていた」
 叱られた子どものようにしょげた声を出すエリアストに、アリスはその首に抱きついた。
 「謝らないでくださいませ。ええ、ええ、確かに恐ろしいです。これは、わたくしからエル様を奪おうとなさる言葉。何て恐ろしい」
 自分が狙われているかも知れないことより、エリアストと離れなくてはならなくなるかも知れないことに恐れるアリス。いつも欲しい言葉をくれるアリスに、いつも欲しい気持ちをくれるアリスに、エリアストは満たされていく。
 「申し訳ありません、エル様」
 謝るアリスに、エリアストは首を傾げる。
 「わたくし、エル様を離して差し上げることが出来ません」
 アリスがエリアストの首にますますしがみつく。
 「わたくしを、離さないで。お願い、エル様」
 寝室へ直行した。


*つづく*
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