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フルシュターゼの町編
最終話
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「ああっ、また、見ましたか?見ましたか、エル様っ」
地面に敷物を敷いて座り、アリスを背後から包み込んで自分の胸に寄りかからせ、空を見上げていた。
街から馬車では行けない場所が、噂で聞いた場所だ。馬で二時間と聞いたが、ゆっくり進むため、三時間かけて目的の場所へ辿り着いた、宵闇の頃。小さな草原に腰を下ろし、エリアストは、自分とアリスを一緒に毛布に包む。
「ふふ、とても温かいですね、エル様」
振り返ってエリアストに微笑むアリスに、エリアストも微笑んでくちづけた。
「寒くないなら良かった、エルシィ」
赤くなるアリスの頬を撫でながらそう言うと、はい、とアリスは恥ずかしそうに俯いた。
「ほら、エルシィ。下を向いていては見えない」
背後から回したその手をアリスの顎に添え、そっと上を向かせる。
「まああ」
見上げた夜空に、たくさんの星が輝く。アリスは感嘆の声を漏らす。宵闇でこれだけの数が見えるのだ。もう少し時間が経てば、さらに素晴らしいだろう。
「エルシィの髪と同じ色だ」
星空色のアリスの髪にくちづけながら、エリアストはそう言った。
「まあ、エル様。わたくしの髪は、こんなにも綺麗ですか。ルタにますます感謝ですわね」
毎日丁寧に手入れをしてくれる侍女を思う。
「いや。もっと、エルシィの髪は美しい」
「まあ、エル様ったら。ああっ」
アリスが驚きの声を上げた。
「今、今、見ましたか、エル様っ。星が、星が降りましたっ」
気持ちが昂ぶるアリスに、エリアストは微笑んだ。
「いや、わからなかったな、エルシィ」
「きっと、きっとまたすぐ降りますわ。とっても短かったです。瞬きをしたら見過ごしてしまうくらいでしたよ、エル様」
頬を染めてキラキラと目を輝かせるアリスが、どうしようもなく愛おしい。
「ああ、では次は見落とさないようにしないとな、エルシィ」
アリスに回していた腕に、力を込めて抱き締める。空を見上げるアリスの額にくちづけて見つめていると、アリスが恥ずかしそうに言った。
「あの、エル様。わたくしではなく、空を見なくては、星が降るのは、見えませんよ?」
「エルシィの瞳に映るから大丈夫だ」
「ふえぇ、エル様ぁ」
堪らずアリスは再び俯いて、両手で顔を覆ってしまった。
「わかった、すまない、エルシィ。星を見よう」
頭に、頬に、耳に、首筋にくちづけながら、アリスの手を顔からそっと外し、その顎を捉えて上向かせると、美しい黎明の瞳がエリアストを映した。吸い寄せられるように、その唇にエリアストは優しくくちづける。唇が離れると、真っ赤なアリスとお互い微笑んだ。
アリスがエリアストの胸に寄りかかって空を見上げている。安心してその身をエリアストに委ねていることが、堪らなく嬉しい。
「ああっ、また、見ましたか?見ましたか、エル様っ」
星が降った方向を指しながら、アリスがエリアストを振り返る。
「ああ、見た。本当に星が降るのだな。本当に一瞬だったな、エルシィ」
「はい、はい、そうです、ほんの瞬きの間に終わってしまうのです。良かったです、エル様と見られて」
無邪気に笑うアリスが愛おしすぎる。アリスの頬に、エリアストは頬をすり寄せた。
「その、ほんの瞬きの間に願い事をすると叶うらしい、エルシィ」
「ええ?あの一瞬にですか?」
「そうだ、エルシィ。それも、三回」
「三回も、ですか」
むむむ、と難しそうな顔をするアリス。
「難しそうだな、エルシィ」
フッと笑うエリアストが、アリスの眉間に寄った皺を人差し指で撫でる。
「星に願わなくとも、エルシィの願いは私が叶える」
「エル様」
「私以外が、エルシィの望みを叶えるなど許し難い」
アリスの手を取り、指を絡めてそこにくちづける。
「望みは何だ、エルシィ」
くちづけながら、強い目が、アリスを射貫く。アリスはその目にゾクリと体を震わせる。視線だけで、アリスのすべてを攫っていく。
「ずっと、ずっとエル様と、共に」
エリアストはアリスの唇を自身のそれで塞いだ。深く、深く。
「ああ、アリス。それは望みではない」
ようやく離したアリスの唇を、エリアストは愛おしそうに親指でなぞる。アリスの体が震えた。
「それは摂理」
エリアストの両手が、アリスの頬を包む。
「私とアリスが共にいることは、摂理だ」
もう一度、唇が重なった。
死すら二人を別つことは出来ない。どんな時もふたり、共に。
星降る空の下、ふたり、永遠を誓った。
*おしまい*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
前作からお読みくださっている方々も、長々とお付き合いくださり本当にありがとうございます。作者がとても気に入っているふたりの話を、たくさんの方々に読んでいただけたことに心から感謝申し上げます。
こちらで本編は終了となりますが、この後いくつか番外編をお届けいたします。架空の話もあります。もう少し、ふたりの物語にお付き合いください。
地面に敷物を敷いて座り、アリスを背後から包み込んで自分の胸に寄りかからせ、空を見上げていた。
街から馬車では行けない場所が、噂で聞いた場所だ。馬で二時間と聞いたが、ゆっくり進むため、三時間かけて目的の場所へ辿り着いた、宵闇の頃。小さな草原に腰を下ろし、エリアストは、自分とアリスを一緒に毛布に包む。
「ふふ、とても温かいですね、エル様」
振り返ってエリアストに微笑むアリスに、エリアストも微笑んでくちづけた。
「寒くないなら良かった、エルシィ」
赤くなるアリスの頬を撫でながらそう言うと、はい、とアリスは恥ずかしそうに俯いた。
「ほら、エルシィ。下を向いていては見えない」
背後から回したその手をアリスの顎に添え、そっと上を向かせる。
「まああ」
見上げた夜空に、たくさんの星が輝く。アリスは感嘆の声を漏らす。宵闇でこれだけの数が見えるのだ。もう少し時間が経てば、さらに素晴らしいだろう。
「エルシィの髪と同じ色だ」
星空色のアリスの髪にくちづけながら、エリアストはそう言った。
「まあ、エル様。わたくしの髪は、こんなにも綺麗ですか。ルタにますます感謝ですわね」
毎日丁寧に手入れをしてくれる侍女を思う。
「いや。もっと、エルシィの髪は美しい」
「まあ、エル様ったら。ああっ」
アリスが驚きの声を上げた。
「今、今、見ましたか、エル様っ。星が、星が降りましたっ」
気持ちが昂ぶるアリスに、エリアストは微笑んだ。
「いや、わからなかったな、エルシィ」
「きっと、きっとまたすぐ降りますわ。とっても短かったです。瞬きをしたら見過ごしてしまうくらいでしたよ、エル様」
頬を染めてキラキラと目を輝かせるアリスが、どうしようもなく愛おしい。
「ああ、では次は見落とさないようにしないとな、エルシィ」
アリスに回していた腕に、力を込めて抱き締める。空を見上げるアリスの額にくちづけて見つめていると、アリスが恥ずかしそうに言った。
「あの、エル様。わたくしではなく、空を見なくては、星が降るのは、見えませんよ?」
「エルシィの瞳に映るから大丈夫だ」
「ふえぇ、エル様ぁ」
堪らずアリスは再び俯いて、両手で顔を覆ってしまった。
「わかった、すまない、エルシィ。星を見よう」
頭に、頬に、耳に、首筋にくちづけながら、アリスの手を顔からそっと外し、その顎を捉えて上向かせると、美しい黎明の瞳がエリアストを映した。吸い寄せられるように、その唇にエリアストは優しくくちづける。唇が離れると、真っ赤なアリスとお互い微笑んだ。
アリスがエリアストの胸に寄りかかって空を見上げている。安心してその身をエリアストに委ねていることが、堪らなく嬉しい。
「ああっ、また、見ましたか?見ましたか、エル様っ」
星が降った方向を指しながら、アリスがエリアストを振り返る。
「ああ、見た。本当に星が降るのだな。本当に一瞬だったな、エルシィ」
「はい、はい、そうです、ほんの瞬きの間に終わってしまうのです。良かったです、エル様と見られて」
無邪気に笑うアリスが愛おしすぎる。アリスの頬に、エリアストは頬をすり寄せた。
「その、ほんの瞬きの間に願い事をすると叶うらしい、エルシィ」
「ええ?あの一瞬にですか?」
「そうだ、エルシィ。それも、三回」
「三回も、ですか」
むむむ、と難しそうな顔をするアリス。
「難しそうだな、エルシィ」
フッと笑うエリアストが、アリスの眉間に寄った皺を人差し指で撫でる。
「星に願わなくとも、エルシィの願いは私が叶える」
「エル様」
「私以外が、エルシィの望みを叶えるなど許し難い」
アリスの手を取り、指を絡めてそこにくちづける。
「望みは何だ、エルシィ」
くちづけながら、強い目が、アリスを射貫く。アリスはその目にゾクリと体を震わせる。視線だけで、アリスのすべてを攫っていく。
「ずっと、ずっとエル様と、共に」
エリアストはアリスの唇を自身のそれで塞いだ。深く、深く。
「ああ、アリス。それは望みではない」
ようやく離したアリスの唇を、エリアストは愛おしそうに親指でなぞる。アリスの体が震えた。
「それは摂理」
エリアストの両手が、アリスの頬を包む。
「私とアリスが共にいることは、摂理だ」
もう一度、唇が重なった。
死すら二人を別つことは出来ない。どんな時もふたり、共に。
星降る空の下、ふたり、永遠を誓った。
*おしまい*
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
前作からお読みくださっている方々も、長々とお付き合いくださり本当にありがとうございます。作者がとても気に入っているふたりの話を、たくさんの方々に読んでいただけたことに心から感謝申し上げます。
こちらで本編は終了となりますが、この後いくつか番外編をお届けいたします。架空の話もあります。もう少し、ふたりの物語にお付き合いください。
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