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 魔族はあらゆる魔法に精通している。だが、聖女が使う魔法だけは、扱えないという。
 「キミが、アッサムが見つけた子か。私はアールグレイ。この国で王をしている」
 王城で畏まってご挨拶、なんて想像していたんだけど。
 「ちょっと、こんな格好ですまないね。作業をしながらになることを許して欲しい」
 王様は、農園で収穫の真っ最中だった。キチンとした挨拶なんて出来ないからいいけど、何をしているの、王様。王様ってこういうこともする生き物だったかな。魔族七不思議のひとつかな。しかも何の農産物かわからない。ぶどうの房のように苺が生っている。苺なの。ぶどうなの。というか、忙しいなら今じゃなくて良かったんじゃないかな。何故なにゆえ今?
 「忙しそうなので出直します」
 決して手伝うとは言わない。面倒は嫌いです。街など散策してこよう。魔法について図書館とか本屋とか、その辺の人に聞くのでもありだ。魔族というだけで、人族より遙かに魔法に造詣ぞうけいが深いのだ。
 王様が私のことを知っていたのも、赤髪が先に伝達魔法で王様に伝わるよう文書を送ったから。少しして、赤髪のところに返信文書が届いた。ここへ来るよう指示があったから来てみたら、この状況。断れよ、王様め。無駄足させやがって。
 「えええ?待って待って、じゃ、じゃあ明日。明日のこの時間、またここに来てくれないかな。キミのこと知りたいんだ」
 慌てて引き止める王様。美形に言われると嬉しいんだろうな。だけどなんだろう。寒い。眼福の魔族だぞ。マジで拝むほど綺麗なんだぞ。寒いとか思う私が間違っているのかも知れないけど、すまん。寒い。そんな私の感情がわかったのか、影艶かげつやが嬉しそうに私に擦り寄る。影艶さんや、何故喜んでおるのだ。
 「はいー。ではまた明日ー」
 内心悟られぬよう笑顔で手を振る。
 「シラユキ、本当にすまない。折角来てくれたのに」
 赤髪は申し訳なさそうに宿屋に案内してくれた。せめて代金だけは払わせてくれと言っていたが、丁重に断った。キミが悪いわけではない。王様が悪い。忙しいなら断る勇気も必要なのよ、王様。と言うより、あの状況で私が行ったところで本当に何をする気だったの?何も出来ないじゃない。顔だけでも見ておきたかったとか?顔がわかればその人のところへ一瞬で行ける、考えていることがわかる、歩んだ人生がわかる、等々があるのか?だとしたら失敗だったな。いや、考えすぎかな。うーん、わからん。
 そう言えば知らなかったんだけど、影艶、大型犬くらいの大きさになれるんだよ。どうやって姿を変えられるのか知りたい。神獣だから出来るのかな。世界が広がるわー。出来ることや知識が増えれば、ケルベロスに近付けるよね。
 でも最近思う。
 いつ死んでもいいと思っていた。だけど、ただでは殺されてやらないって思っていた。
 でも。
 「影艶」
 もふもふの首に抱きつく。いつもより遙かに小さい相棒。物足りない。
 「本買ったら、森に入ろう」
 いつもの影艶に包まれたい。
 影艶が、その頬を私の首筋に擦り寄せてくれた。


*つづく*
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