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24 ~ソフィレアイン、ウェンリアインside~
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~ソフィレアインside~
ずっと、諦められずにずっと探していたシラユキが、やっと見つかった。
魔物に囲まれ、動けずにいた。馬車の小窓からそっと外を覗くと、護衛たちが奮闘している。死者は出ないまでも、数が多くて苦戦しているようだ。森の中のため、使用魔法にも制限があるせいで、思うようにいかないようだ。
「ソフィ、カーテンを閉めろ。見ていて気持ちのいいものではないだろう」
本に目を落としながら、兄が言った。はい、と返事をしてカーテンを閉めようとしたとき、魔物の動きが変わった。閉める手を止め、つい見ていると、魔物たちがキラキラと消えていく。浄化魔法だ。こんな不思議な魔法を使える者なんて、一人しかいない。そう思うと、扉に手をかけ飛び出していた。背後で兄上の声がしたが、それどころではなかった。
また、どこかへ行ってしまう。
「シラユキ!」
つい叫んで辺りを見回す。視界の端に、何かを捉えた。少し先の木の上に、いる。
「やっぱりシラユキだ」
やっと、やっと、会えた。この五年、探し続けた。信じられないほど、綺麗になっている。相変わらず表情はないけれど、変わっていないことさえ嬉しくて。
話をしていると、背後から兄上の声がした。兄上の制止を聞かずに馬車を飛び出したことを思い出す。慌てて頭を下げながら待つ。注意されるかと思ったが、兄上はシラユキに興味を向けている。
嫌だな。
胸に苦いものが広がる。兄上の性格は知っている。欲しいと思ったものは必ず手に入れる。いらないと思ったものは、容赦なく捨てる。お気に入りだって、不要になればあっさり捨てる人。
ああ、シラユキを欲しがっている。
嫌だ。シラユキは、私が先に見つけたんだ。ずっと、探していたんだ。兄上にだって譲らない。そう思うのに、声が出ない。例え最初は大事にしていたって、いずれ捨てるくせに。だったら最初から欲しがらないで。他のものは、兄上の望む通りにする。だから、シラユキだけは、シラユキにだけは、手を出さないで、兄上。
*~*~*~*~*
~ウェンリアインside~
この程度の魔物に苦戦するとは。もっと効率よく魔法を使えばいいのに。考えることを止めるものではない。教わったことだけ出来れば良いなんて考えているからダメなんだよ。まあ、私が手を出すほどではない。時間をかければ何とか出来ることだ。そう思って本を読んでいると、ソフィが窓から戦闘を覗いていた。見ていて勉強になることがあるならいいが、ただの消耗戦でしかないものから学ぶものなどないだろう。
「ソフィ、カーテンを閉めろ。見ていて気持ちのいいものではないだろう」
そう声をかけると、素直にカーテンに手をかけた。と思ったら、突然扉を開けて飛び出して行った。珍しい行動に、思わず呼び止めるが、ソフィはそのまま駆けて行った。シラユキ、と叫んで。
ほう。ずっとソフィが探していた聖女か。私も近隣国に、非公式ながら声はかけていた。まさかこんなところで見つけるとは。魔族の国が匿っていたか?あの国は情に流されやすいからな。あれでよく国として存在していられる。圧倒的な魔法がある故か、手を出そうとする国は確かにいない。
馬車を降りると、護衛たちは突然消えた魔物に困惑しているようだ。ふむ。あれだけの数の魔物がいたのに、静かなものだ。私の姿に護衛たちはついてこようとしたが、手で制する。出発出来る準備を整えておくよう伝え、ソフィが走って行った方に歩く。側近のダナだけがついてくる。遠くに、大きな白い獣がいた。
「ダナ、見ろ。驚いたな。神獣ではないか」
その側に小柄な少女の姿。遠目でも美しいとわかる。神獣を従える美しい聖女。ソフィが正しければ、大量の魔物を一瞬で浄化する腕を持つ、類い稀なる魔法の使い手。
言葉をいくつか交わしてわかる。自然と口の端が上がる。
いいね、シラユキ。
私を楽しませてくれそうだ。
*つづく*
ずっと、諦められずにずっと探していたシラユキが、やっと見つかった。
魔物に囲まれ、動けずにいた。馬車の小窓からそっと外を覗くと、護衛たちが奮闘している。死者は出ないまでも、数が多くて苦戦しているようだ。森の中のため、使用魔法にも制限があるせいで、思うようにいかないようだ。
「ソフィ、カーテンを閉めろ。見ていて気持ちのいいものではないだろう」
本に目を落としながら、兄が言った。はい、と返事をしてカーテンを閉めようとしたとき、魔物の動きが変わった。閉める手を止め、つい見ていると、魔物たちがキラキラと消えていく。浄化魔法だ。こんな不思議な魔法を使える者なんて、一人しかいない。そう思うと、扉に手をかけ飛び出していた。背後で兄上の声がしたが、それどころではなかった。
また、どこかへ行ってしまう。
「シラユキ!」
つい叫んで辺りを見回す。視界の端に、何かを捉えた。少し先の木の上に、いる。
「やっぱりシラユキだ」
やっと、やっと、会えた。この五年、探し続けた。信じられないほど、綺麗になっている。相変わらず表情はないけれど、変わっていないことさえ嬉しくて。
話をしていると、背後から兄上の声がした。兄上の制止を聞かずに馬車を飛び出したことを思い出す。慌てて頭を下げながら待つ。注意されるかと思ったが、兄上はシラユキに興味を向けている。
嫌だな。
胸に苦いものが広がる。兄上の性格は知っている。欲しいと思ったものは必ず手に入れる。いらないと思ったものは、容赦なく捨てる。お気に入りだって、不要になればあっさり捨てる人。
ああ、シラユキを欲しがっている。
嫌だ。シラユキは、私が先に見つけたんだ。ずっと、探していたんだ。兄上にだって譲らない。そう思うのに、声が出ない。例え最初は大事にしていたって、いずれ捨てるくせに。だったら最初から欲しがらないで。他のものは、兄上の望む通りにする。だから、シラユキだけは、シラユキにだけは、手を出さないで、兄上。
*~*~*~*~*
~ウェンリアインside~
この程度の魔物に苦戦するとは。もっと効率よく魔法を使えばいいのに。考えることを止めるものではない。教わったことだけ出来れば良いなんて考えているからダメなんだよ。まあ、私が手を出すほどではない。時間をかければ何とか出来ることだ。そう思って本を読んでいると、ソフィが窓から戦闘を覗いていた。見ていて勉強になることがあるならいいが、ただの消耗戦でしかないものから学ぶものなどないだろう。
「ソフィ、カーテンを閉めろ。見ていて気持ちのいいものではないだろう」
そう声をかけると、素直にカーテンに手をかけた。と思ったら、突然扉を開けて飛び出して行った。珍しい行動に、思わず呼び止めるが、ソフィはそのまま駆けて行った。シラユキ、と叫んで。
ほう。ずっとソフィが探していた聖女か。私も近隣国に、非公式ながら声はかけていた。まさかこんなところで見つけるとは。魔族の国が匿っていたか?あの国は情に流されやすいからな。あれでよく国として存在していられる。圧倒的な魔法がある故か、手を出そうとする国は確かにいない。
馬車を降りると、護衛たちは突然消えた魔物に困惑しているようだ。ふむ。あれだけの数の魔物がいたのに、静かなものだ。私の姿に護衛たちはついてこようとしたが、手で制する。出発出来る準備を整えておくよう伝え、ソフィが走って行った方に歩く。側近のダナだけがついてくる。遠くに、大きな白い獣がいた。
「ダナ、見ろ。驚いたな。神獣ではないか」
その側に小柄な少女の姿。遠目でも美しいとわかる。神獣を従える美しい聖女。ソフィが正しければ、大量の魔物を一瞬で浄化する腕を持つ、類い稀なる魔法の使い手。
言葉をいくつか交わしてわかる。自然と口の端が上がる。
いいね、シラユキ。
私を楽しませてくれそうだ。
*つづく*
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