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 「イヤよ。どうしてもって言うなら、あの子、シラユキを追い出して」
 「サリュア様」
 「何よ。私が行かないと困るんでしょ。あんな何も出来ない子と私、どちらを選ぶかなんて、考えるまでもないでしょ。私に行って欲しいならあの子を神殿ここから追い出しなさい。それが出来ないなら自分たちで何とかしなさいよ」
 神殿に来て一ヶ月ほど経ったある日。とある町の結界に、大きな穴が空いたらしい。空の魔物同士の争いで、落ちてきた魔物が原因らしい。その衝撃で、残った結界部分まで脆弱になり、風前の灯火状態だという。そのため、町を包む結界を張り直すことに。だが、そこまで大規模になると、担当聖女たちだけでは無理だという。そこで我らが千年聖女様の出番というわけだったのだが、駄々を捏ねているというのだ。サリュアの無茶ぶりに困り果てた神官たちが、お清めをしている私の元へとやって来た。なぜだ。私はご意見番じゃない。そしてバカじゃねぇの、あのクソ女。まあ出て行く口実には使わせて貰おう。
 ちなみに、結界自体を張り直すことになるのは二百五十年くらいぶりらしい。
 「え、いいんですか?じゃあ出て行きます」
 渡りに舟。人の命がかかっているのだ。仕方ないよね。あらー、残念だわー。あの女を殺すのに、別のやり方を考えなくては。
 「そんなっ、シラユキさん、お願いします、そんなこと仰らないでくださいっ」
 「シラユキさんが出て行くなら私も出ます。シラユキさん、一緒に連れて行ってください」
 「私もシラユキさんと」
 「どうか、見捨てないでくださいっ」
 えええええ?候補のみなさんどうした。特によく私に話しかけてくるコルシュという昨年出て行った出戻り候補は、無言で目を見開いてボタボタと涙を落としている。私に何を望んでいるんだ。みんな怖い。
 「ダメです、シラユキ様が出て行くなんてっ。サリュア様に物怖じせずにいられる貴重な存在なのです!我々を見捨てると?!」
 「それに、出て行ったなんて王太子殿下とソフィレアイン殿下に知られたらどうなることかっ」
 「出て行ってくれなんて話ではありませんよっ。何か打開策があればとのご相談ですっ」
 神官まで何か必死だな。マジでどうなっているんだ。十五歳のか弱い美少女に出来ることなどささやかですよ?兄の威光を期待しておるのか?他人の威を借ることなどせぬぞ?私の利益のためならやぶさかではないがな。
 「そうですか。例えばですが、結界の縮小は可能でしょうか」
 「結界の、縮小、ですか?」
 神官が渋い顔をする。
 「それですと、見捨てる場所が出て来てしまうかと」
 民を見捨てるなど、とても出来ることではない、と。
 「ギリギリの規模で行っているわけですね。では小分けは?」
 「小分け?」
 「はい。聖女様たちが無理のない範囲で出来る結界を、こう、たくさん、わかります?」
 両手で器を作り、次に甲が上に来るようにして、マル、マル、と球体を作るようなジェスチャーを繰り返す。
 「ああ、小さな結界で、町を隙間なく埋めるということですか」
 「はい。結界の堺に来るたびにもよんもよんしますので、そこを上手く何とか出来れば。まあ何とも出来なくてそのままになったとしても、慣れれば気にならないのでは」
 そこまで小分けにもならないだろうし。精々五コか六コに分かれる程度ではないだろうか。
 「なるほど。確かに」
 「一番は人命だと思いますので、結界の形など、些細なことではないでしょうか、と思ったまでですが」
 「いや、その通り。形に囚われすぎておりました。早速そのようにいたしましょう。ありがとうございました、シラユキ様」
 神官たちが頭を下げて、慌ただしく去って行った。
 それを知った千年聖女が、また癇癪を起こして私の元へ飛んできた。


*つづく*
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