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96 ~サリュアside~

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 最低な思考回路の表現が出て来ます。不快に思われると思います。申し訳ありません。

*~*~*~*~*

 ゆるゆると腕で揺れているのに、外そうとしても外れない。
 「何なのよ、何なのよ!ふざけないでよ!何だって言うのよ!」
 道具を使っても叩きつけても外れない。腕も指も傷だらけになる。
 「ほんとに、なんなのよお」
 痛みと恐怖で涙が滲む。魅了なしで、あの恐ろしい王子と戦えるのか。無理だ。逃げなくては。何としても、逃げ切らなくては。
 暫くして、さっきの農民が戻ってきた。
 「聖女様、来る途中で王国騎士団の人を見ました。ここは危険だ。場所を移しましょう」
 あれほどもて囃されていた自分。それが今、頼れるのはこの薄汚れた農民である事実に、無性に腹が立った。
 なんでこんな目に遭うのよ。私が何をしたって言うのよ。私を千年聖女だとかしずいてくれていたじゃない。ウェンリアイン様だって、私を一番可愛がって、誰よりも特別に扱ってくれていたのに。あの女、シラユキが現れてからよ。すべてがおかしくなったのは。もしかして、あの子こそ魅了を使っているんじゃないの?そうよ。絶対そうだわ。シラユキ!絶対赦さないわよ!私をこんな目に遭わせて!あんたこそ、処刑されるべきだわ。ウェンリアイン様を、王族を、魅了にかけたんだから!
 悔しくて悔しくて、どうあの子を同じ目に遭わせてやろうか考えていると、新しい小屋についた。その移った先で、別の男を紹介された。この辺りに詳しい猟師とのこと。
 「千年聖女様は、命に代えてもお守りいたします。なに、すぐに聖女様の無実は証明されます。それまでの辛抱です」
 当然よ。みんな、私のためにその命を使うべきだわ。こんな風に惨めに最期を迎える女じゃないのよ。私は千年聖女ですもの。誰もが羨み、憧れと尊敬の眼差しで賞賛されるのが、私という人間のあるべき姿よ。見ていなさい。やられた分はきっちり百倍にして返してやるわ。それまで精々今を楽しむといいわ。
 そうして何度か場所を変えつつ、人を交代しつつ、捜索の目をかいくぐっていた。
 今の場所に移った翌日。
 逃亡生活にも慣れ始めて、周りを見る余裕が出始めた。体を清めるため、少しずつ小屋から出るようになり、あるものに気付く。
 「何があるかわからないもの。ひとつ持っておこう」
 ハンカチで一枚の葉を取ると、小屋にあった小瓶にそれを入れ、水に浸しておいた。まだ聖女ではなかった頃、母から教えてもらった知識が、こんなところで役に立った。
 また別の場所に移って数日。今日も水浴びのために、そっと辺りを窺いながら、小屋を出る。ウェンリアイン様から逃げて、十日くらい経っただろうか。周囲の警戒も上手くなった。
 そう思っていたのに。
 「みーつけた」
 思いきり肩が跳ねる。これは。この声は。
 忘れてはいけなかった。なぜ、忘れていたのだろう。
 「こんなところまで逃げるなんて。随分探したよ、サリュア」
 この国随一の、魔法の使い手だということを。
 心臓がうるさい。喜びからではない。
 「ウェン、お、王、太子、殿下」
 恐怖からだ。
 いいえ、恐れることはないのよ、サリュア。ウェンリアイン様はあの女の毒牙にかかっているだけ。そうよ。大丈夫。あの日々は、ウェル様と過ごした日々は、嘘じゃない。私の愛が伝われば、きっとその悪い魔法が解けるはずよ。


*つづく*
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