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 「影艶かげつや、ちょっとリィン様を押さえてて」
 「ちょ、なんでなんで。というか、押さえ方。もっとやりようがあるでしょ、影艶殿」
 大型犬サイズの影艶が、兄の背中を踏み潰している。
 「シラユキさんっ、殿下です、王太子殿下ですよっ」
 「はい。王太子だろうが何だろうが、邪魔なものは邪魔なんです。このお清めが終わったら解放しますよ」
 問題ありません、とコルシュにサムズアップしてみせる。
 兄が私の背後にへばりついて離れないので、掃除が出来ぬ。イラついたので、影艶に助太刀を頼んだ。
 「わかった。白雪、邪魔しないから、影艶殿を下がらせて」
 「ホントに邪魔しないでくださいよ」
 影艶から解放された兄が、渋々壁に背中を預けて見守りの姿勢になった。その隣には影艶が見張り役で座っている。何やら仲良くお話しを始めたようなので、私は安心してお務めをしよう。

 「ねえ駄犬。真白の話を聞いて、キミはどう感じたんだい」
 「ふん。癪だがおまえと同じだと思うぞ、クソ王子」


*~*~*~*~*


 「真白。真白には、まだ秘密があるようだ」
 “リィン様。私の我が儘を叶えようとしてくれて、ありがとうございます。確かにこの手で殺したかったけど、間違いなく死んだとわかればいいんです。確実に死んだとわかれば、安心出来ます。”
 サリュアが死んだ日。城に戻る際、そう言った私に、兄が何かを言いたそうにしていた。影艶も戻り、だいぶ落ち着いてきた頃合いに、兄がそんなことを言ってきた。
 「秘密というか、どう説明したらいいのかわからないことはあります」
 城に戻る前に、いつも神殿の私の部屋で他愛ない話をしてから帰る兄。今日は、いつもと違うようだ。
 「教えて、真白。ほら、私は天才だから、きっと真白の壊滅的に意味不明な言葉でも、理解出来ると思うんだ」
 「例えが悪くて腹が立ちますが、私の心を読むくらいです。出来るでしょうね」
 ジト目で兄を見ると、兄が笑った。
 「私がいた世界には、この世界に似た物語のようなものがありました」
 寝そべる影艶かげつやに寄り添ってもふりながら、そう切り出した。
 ゲームの説明が私には出来そうもないので、物語とした。
 「この世界の、物語?」
 隣に座る兄が、不思議そうな顔をする。影艶もジッと私を見つめている。
 「物語の主人公は千年聖女。千年聖女と誰かが愛を育んで結ばれる。そんな話です」
 「誰か?物語なのに正体がわからないの?」
 「そこが、説明が難しいのです。だから、物語のようなもの、と。千年聖女と恋愛をする人物を選べるんです。何人かいて、その内の一人がリィン様、王太子だったんです」
 影艶と兄が難しい顔をしている。知らないものを説明するって難しい。
 「千年聖女が主人公で、結ばれる相手が違う物語がいくつかある、という認識でもいいかな。それでも齟齬そごは出ない?」
 「大丈夫だと思います。その話の中で、私は処刑される役割の人物でした」
 「「は?」」
 影艶と兄がギョッとした。


*つづく*
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