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幸せの一幕
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らがまふぃん投稿開始一周年記念 第三弾
アルファポリス様にて投稿させていただき、みなさまに支えられながら活動して早一年。楽しく活動出来たことは、優しく見守ってくださるみなさまのおかげです。これからもほそぼそ頑張って参りますので、これまで同様、温かい目で見守って、お付き合いくださいませ。
*∽*∽*∽*∽*
「ねえ影艶殿」
ある昼下がり。神殿に出向いているウェンリアインが、影艶に話しかける。真白は禊ぎ中。
「真白は誕生日を知らないよね。戸籍を見れば誕生日はわかるだろうけど、私と出会った日が誕生日っていうのはどうだろう」
「それで言うなら私だろう。私が真白と出会った日の方がしっくりくる」
二人は見つめ合う。そこに、優しい雰囲気はない。一触即発の雰囲気が漂っている。
「私は真白とキスだってした仲だ」
ピクリと影艶の頬が引き攣る。
「私は常にしている」
ピキリとウェンリアインの額に青筋が入る。
「私の贈り物に、ものすごおおおおく可愛い顔で喜んでくれたなあ」
「私と出かける度に嬉しそうだ」
「私をカッコイイと言ってくれたな」
「私のもふもふに癒されると言っている」
「私に特別な愛称をくれた」
「私は名を貰った」
「え。何してるんですか」
禊ぎから戻った真白が、ウェンリアインと影艶を見てそう言った。
二人は取っ組み合いのケンカをしており、互いに上になったり下になったりゴロゴロと転がっている。無言で。
「仲がいいのは結構ですが、邪魔なんですけど」
「真白!真白の誕生日は私との出会いの日がいいよね?!」
「私とに決まっている!なあ、真白?!」
真白の声に二人はピタリと止まり、加速装置でも付いているのかという速さで真白に駆け寄る。
「誕生日?二月二十二日ですよ」
「「え?」」
真白の答えに二人は間抜けな声をあげる。
「今世ではなく前世の話ですが。今世は知らないですけど」
真白の言葉に、二人は考える。タイミングがいいと言うべきか。明日がその日ではないか。
「ちなみにその日は、ねこの日です」
「「ねこの日?」」
真白は頷く。
「二月二十二日、二、二、二で、にゃーにゃーにゃー」
真白は猫手をつくって招き猫のように片手をあげた。二人が固まる。その反応に、真白は自分が失態を犯したと気付く。動物のことになると、少し箍が外れてしまう。何とか誤魔化そうとする。
「えっと、ねこ」
何も誤魔化せていなかった。
しかし。はにかむ真白に、二人は床に倒れ伏した。
「なにそれ、反則でしょ」
「可愛すぎる。目が、目がぁ」
誤魔化せたのか誤魔化せていないのかまったくわからない状況になったが、いずれにせよ、二人にはご褒美以外の何ものでもなかった。
だいぶ経って、ようやく落ち着いた二人は、先程までのマウントの取り合いは鳴りを潜めて相談を始める。この時、なかなか復活しない二人を放置し、真白は祈りの時間だと行ってしまっていた。
「過ぎてなくて良かったけど、明日というのは時間がなさ過ぎないかな」
「真白は華美を好まないからシンプルでいいとは言え、どうしたものか」
「母上に相談すると、全部持っていかれそうだしなあ」
「だが言っておいた方が良さそうだぞ」
後で何をされるかわからない怖さがある。
「そうだよねえ。仕方がない。とにかく時間がないから、一旦王城へ行こう。みんなでプレゼントとパーティーを考えよう」
翌朝、再びやって来たウェンリアインに、今日のお務めが終わったら王城に来るようにと言われた真白。お務めが終わる頃に戻って来た影艶に乗って、真白は王城へとやって来た。
王妃の女官が門で出迎えてくれ、ウェンリアインにとってご褒美であった真白の謹慎期間に過ごした部屋へと案内された。よくわからないまま部屋を開けた真白は、そのまま止まってしまった。
「白雪、おいで」
ウェンリアインが微笑んで手を差し出している。その奥に、王妃と王、ソフィレアインにそれぞれの側近や女官などもいる。過ごしていた日々にはなかった大きなテーブルに、たくさんの食事が所狭しと並べられ、みんな笑顔で真白を見つめていた。
戸惑って動けない真白を、後ろから影艶の鼻が押す。ト、と足が前に出ると、すかさず王妃が飛んで来て、真白を抱き締めた。
「シラユキちゃああああん!お誕生日おめでとう!」
大きなお胸が真白の顔を包む。王妃の発言に、ウェンリアイン、影艶、ソフィレアインはご立腹だ。
「ひどいですよ、母上ッ。おめでとうは全員で言うって約束だったではないですかっ」
「側にいるから一番に言えたのに、それを我慢して黙っていたというのに」
「母上、ズルイです」
真白はよくわからないままされるがままだ。
誕生日?
真白の頭はハテナでいっぱいだ。実のところ、真白に日付の感覚はない。だいたい今この月であろう、程度の認識しかないのだ。だがすぐに思い出す。昨日、誕生日の話をしたことを。
そうか。今日は、誕生日。ねこの日の、誕生日。
私の、誕生日。
「ええ?わたくし、言ってしまった?イヤだわ、ごめんなさいねぇ。無意識だったわ」
本当に無意識だったのだろう。王妃の声に、少しの焦りと申し訳なさが滲んでいた。みんなが呆れたように息を吐くと、ウェンリアインが王妃のお胸で窒息死しそうな真白をベリッと剥がす。フラフラな真白を支えながら、所謂お誕生日席に座らせる。着席を確認すると、みんなは示し合わせたように声を揃えた。
お誕生日、おめでとう!
真白は驚いて周囲を見る。みんなが優しく見つめている。真白を祝うために、忙しいのに準備をして、集まってくれている。
真白は、側にいた影艶を引き寄せ、その首にしがみつく。
「あり、がと」
照れて真っ赤な顔を隠すように、もふもふに埋もれつつそう言った。
「ずるい!影艶殿ずるい!白雪、抱きつくなら私にして!」
影艶を引き剥がすと、ウェンリアインが真白に抱きつく。イラッとした影艶に、ウェンリアインは頭をガジガジされている。ソフィレアインも真白を抱き締めたいが、この二人をどうにか出来ると思えず、ウロウロしてしまう。ウェンリアインと影艶の攻防がヒートアップしていく中、僅かな隙に、王妃が真白を攫って膝の上に横抱きにして乗せていた。王妃のぼいんぼいんに半分顔が埋まっている真白を見て、何となく何も言えなくなった三人だった。
「白雪、これ」
パーティーもそろそろ終わろうかという頃、ウェンリアインがリボンのかかった箱を差し出してきた。真白が受け取って、ジッとウェンリアインを見上げている。
「う。そんな可愛い顔で見つめられると、ああ、うん。あのね、プレゼントだよ。白雪、開けてみて」
プレゼントの言葉に、真白は驚きつつ、嬉しそうに頬を染める。尊すぎて、全員が床に膝をつきそうになるのを何とか堪えた。
箱に納められていたのは、金色のブローチ。天使の羽をモチーフとした、美しい細工のものだった。金は加工しやすいため、時間がない中でも妥協せず贈れるものとして選ばれた。さらには、真白に想いを寄せる三人に共通している色だったので、金細工一択だった。
「私たちの魔力が込められている。いざという時のお守り代わりに身につけてくれ」
影艶の言葉に、真白は戸惑いながら頷いた。
「陛下とわたくしからはこれよ、シラユキちゃん」
王妃が真白に渡したものは、かつて真白が着せ替え人形よろしく着せられていたドレスより、さらにランクが上だとわかるドレスだった。ちなみに一日で仕上げられるものではないが、真白の今世の誕生日を知っていた王妃が作らせていたものだ。その用意周到さに、男性陣はガクブルだった。
「私どもからはこちらです」
王妃の女官が代表として、真白に一冊の本を渡した。
「魔法に、とても関心が高いと伺いましたので、少しでもお役に立てば幸いです」
それは、アールグレイたちの国で購入を断念した魔法書だった。それを知っていたはずもないのに、一般の者が購入出来る、最高峰の魔法書ということで手に入れてくれたのだろう。
真白は、どうしていいかわからなかった。こんなにも良くしてもらえたことはない。どうしたらいいかわからないけど、とってもとっても嬉しいから。だから、せめて。
「みんな、本当に、ありがとう」
薄く涙を滲ませた真白が、満面の笑みを浮かべた。
今度こそ、全員が床に膝をついて倒れた。
尊い!!
*おしまい*
らがまふぃん一周年記念にお付き合いくださり、ありがとうございます。
活動を始めて一年。長いようなあっという間だったような。
みなさまのおかげで、充実した一年を送ることが出来ました。
本当にありがとうございました。
真白がその後も、みんなに大切にされているというお話しでした。タイトル通り、これは一幕に過ぎません。もっとたくさんの幸せが、真白には待ち構えていることでしょう。
第二弾は、美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛 にてお送りしております。
お時間の都合のつく方は、是非のぞいていただけると嬉しいです。
第四弾は、明日R5.11/1 これはひとつの愛の形 にてお届け予定です。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
アルファポリス様にて投稿させていただき、みなさまに支えられながら活動して早一年。楽しく活動出来たことは、優しく見守ってくださるみなさまのおかげです。これからもほそぼそ頑張って参りますので、これまで同様、温かい目で見守って、お付き合いくださいませ。
*∽*∽*∽*∽*
「ねえ影艶殿」
ある昼下がり。神殿に出向いているウェンリアインが、影艶に話しかける。真白は禊ぎ中。
「真白は誕生日を知らないよね。戸籍を見れば誕生日はわかるだろうけど、私と出会った日が誕生日っていうのはどうだろう」
「それで言うなら私だろう。私が真白と出会った日の方がしっくりくる」
二人は見つめ合う。そこに、優しい雰囲気はない。一触即発の雰囲気が漂っている。
「私は真白とキスだってした仲だ」
ピクリと影艶の頬が引き攣る。
「私は常にしている」
ピキリとウェンリアインの額に青筋が入る。
「私の贈り物に、ものすごおおおおく可愛い顔で喜んでくれたなあ」
「私と出かける度に嬉しそうだ」
「私をカッコイイと言ってくれたな」
「私のもふもふに癒されると言っている」
「私に特別な愛称をくれた」
「私は名を貰った」
「え。何してるんですか」
禊ぎから戻った真白が、ウェンリアインと影艶を見てそう言った。
二人は取っ組み合いのケンカをしており、互いに上になったり下になったりゴロゴロと転がっている。無言で。
「仲がいいのは結構ですが、邪魔なんですけど」
「真白!真白の誕生日は私との出会いの日がいいよね?!」
「私とに決まっている!なあ、真白?!」
真白の声に二人はピタリと止まり、加速装置でも付いているのかという速さで真白に駆け寄る。
「誕生日?二月二十二日ですよ」
「「え?」」
真白の答えに二人は間抜けな声をあげる。
「今世ではなく前世の話ですが。今世は知らないですけど」
真白の言葉に、二人は考える。タイミングがいいと言うべきか。明日がその日ではないか。
「ちなみにその日は、ねこの日です」
「「ねこの日?」」
真白は頷く。
「二月二十二日、二、二、二で、にゃーにゃーにゃー」
真白は猫手をつくって招き猫のように片手をあげた。二人が固まる。その反応に、真白は自分が失態を犯したと気付く。動物のことになると、少し箍が外れてしまう。何とか誤魔化そうとする。
「えっと、ねこ」
何も誤魔化せていなかった。
しかし。はにかむ真白に、二人は床に倒れ伏した。
「なにそれ、反則でしょ」
「可愛すぎる。目が、目がぁ」
誤魔化せたのか誤魔化せていないのかまったくわからない状況になったが、いずれにせよ、二人にはご褒美以外の何ものでもなかった。
だいぶ経って、ようやく落ち着いた二人は、先程までのマウントの取り合いは鳴りを潜めて相談を始める。この時、なかなか復活しない二人を放置し、真白は祈りの時間だと行ってしまっていた。
「過ぎてなくて良かったけど、明日というのは時間がなさ過ぎないかな」
「真白は華美を好まないからシンプルでいいとは言え、どうしたものか」
「母上に相談すると、全部持っていかれそうだしなあ」
「だが言っておいた方が良さそうだぞ」
後で何をされるかわからない怖さがある。
「そうだよねえ。仕方がない。とにかく時間がないから、一旦王城へ行こう。みんなでプレゼントとパーティーを考えよう」
翌朝、再びやって来たウェンリアインに、今日のお務めが終わったら王城に来るようにと言われた真白。お務めが終わる頃に戻って来た影艶に乗って、真白は王城へとやって来た。
王妃の女官が門で出迎えてくれ、ウェンリアインにとってご褒美であった真白の謹慎期間に過ごした部屋へと案内された。よくわからないまま部屋を開けた真白は、そのまま止まってしまった。
「白雪、おいで」
ウェンリアインが微笑んで手を差し出している。その奥に、王妃と王、ソフィレアインにそれぞれの側近や女官などもいる。過ごしていた日々にはなかった大きなテーブルに、たくさんの食事が所狭しと並べられ、みんな笑顔で真白を見つめていた。
戸惑って動けない真白を、後ろから影艶の鼻が押す。ト、と足が前に出ると、すかさず王妃が飛んで来て、真白を抱き締めた。
「シラユキちゃああああん!お誕生日おめでとう!」
大きなお胸が真白の顔を包む。王妃の発言に、ウェンリアイン、影艶、ソフィレアインはご立腹だ。
「ひどいですよ、母上ッ。おめでとうは全員で言うって約束だったではないですかっ」
「側にいるから一番に言えたのに、それを我慢して黙っていたというのに」
「母上、ズルイです」
真白はよくわからないままされるがままだ。
誕生日?
真白の頭はハテナでいっぱいだ。実のところ、真白に日付の感覚はない。だいたい今この月であろう、程度の認識しかないのだ。だがすぐに思い出す。昨日、誕生日の話をしたことを。
そうか。今日は、誕生日。ねこの日の、誕生日。
私の、誕生日。
「ええ?わたくし、言ってしまった?イヤだわ、ごめんなさいねぇ。無意識だったわ」
本当に無意識だったのだろう。王妃の声に、少しの焦りと申し訳なさが滲んでいた。みんなが呆れたように息を吐くと、ウェンリアインが王妃のお胸で窒息死しそうな真白をベリッと剥がす。フラフラな真白を支えながら、所謂お誕生日席に座らせる。着席を確認すると、みんなは示し合わせたように声を揃えた。
お誕生日、おめでとう!
真白は驚いて周囲を見る。みんなが優しく見つめている。真白を祝うために、忙しいのに準備をして、集まってくれている。
真白は、側にいた影艶を引き寄せ、その首にしがみつく。
「あり、がと」
照れて真っ赤な顔を隠すように、もふもふに埋もれつつそう言った。
「ずるい!影艶殿ずるい!白雪、抱きつくなら私にして!」
影艶を引き剥がすと、ウェンリアインが真白に抱きつく。イラッとした影艶に、ウェンリアインは頭をガジガジされている。ソフィレアインも真白を抱き締めたいが、この二人をどうにか出来ると思えず、ウロウロしてしまう。ウェンリアインと影艶の攻防がヒートアップしていく中、僅かな隙に、王妃が真白を攫って膝の上に横抱きにして乗せていた。王妃のぼいんぼいんに半分顔が埋まっている真白を見て、何となく何も言えなくなった三人だった。
「白雪、これ」
パーティーもそろそろ終わろうかという頃、ウェンリアインがリボンのかかった箱を差し出してきた。真白が受け取って、ジッとウェンリアインを見上げている。
「う。そんな可愛い顔で見つめられると、ああ、うん。あのね、プレゼントだよ。白雪、開けてみて」
プレゼントの言葉に、真白は驚きつつ、嬉しそうに頬を染める。尊すぎて、全員が床に膝をつきそうになるのを何とか堪えた。
箱に納められていたのは、金色のブローチ。天使の羽をモチーフとした、美しい細工のものだった。金は加工しやすいため、時間がない中でも妥協せず贈れるものとして選ばれた。さらには、真白に想いを寄せる三人に共通している色だったので、金細工一択だった。
「私たちの魔力が込められている。いざという時のお守り代わりに身につけてくれ」
影艶の言葉に、真白は戸惑いながら頷いた。
「陛下とわたくしからはこれよ、シラユキちゃん」
王妃が真白に渡したものは、かつて真白が着せ替え人形よろしく着せられていたドレスより、さらにランクが上だとわかるドレスだった。ちなみに一日で仕上げられるものではないが、真白の今世の誕生日を知っていた王妃が作らせていたものだ。その用意周到さに、男性陣はガクブルだった。
「私どもからはこちらです」
王妃の女官が代表として、真白に一冊の本を渡した。
「魔法に、とても関心が高いと伺いましたので、少しでもお役に立てば幸いです」
それは、アールグレイたちの国で購入を断念した魔法書だった。それを知っていたはずもないのに、一般の者が購入出来る、最高峰の魔法書ということで手に入れてくれたのだろう。
真白は、どうしていいかわからなかった。こんなにも良くしてもらえたことはない。どうしたらいいかわからないけど、とってもとっても嬉しいから。だから、せめて。
「みんな、本当に、ありがとう」
薄く涙を滲ませた真白が、満面の笑みを浮かべた。
今度こそ、全員が床に膝をついて倒れた。
尊い!!
*おしまい*
らがまふぃん一周年記念にお付き合いくださり、ありがとうございます。
活動を始めて一年。長いようなあっという間だったような。
みなさまのおかげで、充実した一年を送ることが出来ました。
本当にありがとうございました。
真白がその後も、みんなに大切にされているというお話しでした。タイトル通り、これは一幕に過ぎません。もっとたくさんの幸せが、真白には待ち構えていることでしょう。
第二弾は、美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛 にてお送りしております。
お時間の都合のつく方は、是非のぞいていただけると嬉しいです。
第四弾は、明日R5.11/1 これはひとつの愛の形 にてお届け予定です。
これからも、どうぞよろしくお願いいたします。
応援ありがとうございます!
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