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リード・ザルツside
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リード・ザルツ十歳の春。
貴族は八歳から十二歳の間にお見合いをして、婚約者を選ぶ。私も何度か見合いをしたが、今一ピンとこない。
今日は格上の侯爵家が相手だ。失礼があってはならないが、実は少し興味がある。
鬼畜令嬢と噂のある子だからだ。
女の子に鬼畜って、と思うが、どんな子だろうと考えてしまう。きっと、キツい顔立ちの、いかにも意地の悪いオーラを撒き散らした、高慢で傲慢な女の子なんだろう。そんな子を将来の伴侶に、なんて、絶対にお断りだが、ネタとしてお見合いをしてみようと思った。万が一にも気に入られてしまわないように、注意しなくてはならないが。
そんな感じで臨んだ見合いの席で。
「おい、あの子か?あの子が本当にあの噂の?」
輝く黄金の髪に、宝石と見紛う青い瞳。おっとり穏やかな見た目の天使が、そこにはいた。
「どの噂かは存じ上げませんが、お初にお目にかかります。ガーディニー侯爵が娘、サファイアにございます。遠いところ、ようこそおいでくださいました」
侍従に零した言葉が、まさか聞こえていると思わなかったため、焦る。
「大変失礼いたしました、ガーディニー令嬢様。初めまして、ザルツ伯爵が嫡男、リードにございます」
慌てて謝罪をした。これほど美しい女性を見たことがない。不快な思いをさせてしまったかと思うと、不躾な言葉を発してしまった自分を呪いたくなる。下げた頭を上げると、サファイア様は、穏やかに微笑んでいた。
ああ、あの噂は嘘だ。サファイア様の美しさを妬んだ者たちが、彼女を貶めるために流したのだ。その証拠にほら、サファイア様は微塵も怒っていない。
と思ったのも束の間。
「では、ごゆっくり」
そう言って、顔合わせ直後に部外者よろしく去ろうとするサファイア様。
えっと。何が起きているのかな。
ドレスを翻して颯爽と去る彼女を、両親と共に口を開けたまま見つめてしまう。
「ふぁ、ファー?!ダメダメ!お見合い!これ、お見合いだから!」
「主役が戻ってどうするの?!お父様とお母様だけいても意味がないわ?!」
呼び止める侯爵夫妻に、サファイア様が振り返る。
「お父様、お母様。わたくしに仰ったではありませんか。ご挨拶だけでも、と」
本当に挨拶だけでしたね。
「じ、実に、素直な、ご令嬢ですね。いやあ、な、なあ?」
「え?ええ、ええ、そうですわ、ね?これほど素直?な、ご令嬢、なかなか、おりませんわ?」
両親が大変ポジティブに捉えようとしておられる。
「素直さがウリですの。わかっていただけて嬉しいですわ。では、あとはみなさまでごゆっくりどうぞ」
自由すぎるサファイア様が、再び踵を返そうとしたので、行ってしまうと慌てて呼び止める
「あ、お、お待ちください!わ、私が最初に不快な発言をしたことを怒っていらっしゃるなら謝ります!どうか、少しでも挽回のチャンスをくださいませんかっ?」
話を、話をしたいんだ。こんなに綺麗な子、見たことがない。
「まあ。残念ですが、あなた様はわたくしの望む方ではございません」
明確な拒絶に泣きそうになる。それでも僅かでもチャンスがあるなら縋りたい。
「では!参考までに、あなた様の理想を教えていただきたい!」
サファイア様は、それはそれは優しく微笑まれた。
「一晩中殴り続けても、笑っていられる方など良いですわね」
おーぅ。
言葉と顔が合っていない。
私は殴られて笑っていられるだろうか。それも、一晩中。彼女の理想にはなれないのか。そもそもこれほどか弱い少女が、一晩中殴り続けることなど、出来るのだろうか。一発でその腕が折れてしまいそうなほど華奢ではないか。
ガーディニー侯爵家の娘は、鬼畜である。
噂は真実であった。
「わ、私に、は、そんな、体力も、気概も、ありません」
「まあそうでしょう。見るからに無理そうですもの」
ネタとしてお見合いをしてみよう、万が一にも気に入られてしまわないよう注意しようなんて思っていたのに。
サファイア様に一目惚れをした。中身が鬼畜だけど、諦められるかなあ。今日は一先ず帰って、対策を練らなくては。
*つづく*
貴族は八歳から十二歳の間にお見合いをして、婚約者を選ぶ。私も何度か見合いをしたが、今一ピンとこない。
今日は格上の侯爵家が相手だ。失礼があってはならないが、実は少し興味がある。
鬼畜令嬢と噂のある子だからだ。
女の子に鬼畜って、と思うが、どんな子だろうと考えてしまう。きっと、キツい顔立ちの、いかにも意地の悪いオーラを撒き散らした、高慢で傲慢な女の子なんだろう。そんな子を将来の伴侶に、なんて、絶対にお断りだが、ネタとしてお見合いをしてみようと思った。万が一にも気に入られてしまわないように、注意しなくてはならないが。
そんな感じで臨んだ見合いの席で。
「おい、あの子か?あの子が本当にあの噂の?」
輝く黄金の髪に、宝石と見紛う青い瞳。おっとり穏やかな見た目の天使が、そこにはいた。
「どの噂かは存じ上げませんが、お初にお目にかかります。ガーディニー侯爵が娘、サファイアにございます。遠いところ、ようこそおいでくださいました」
侍従に零した言葉が、まさか聞こえていると思わなかったため、焦る。
「大変失礼いたしました、ガーディニー令嬢様。初めまして、ザルツ伯爵が嫡男、リードにございます」
慌てて謝罪をした。これほど美しい女性を見たことがない。不快な思いをさせてしまったかと思うと、不躾な言葉を発してしまった自分を呪いたくなる。下げた頭を上げると、サファイア様は、穏やかに微笑んでいた。
ああ、あの噂は嘘だ。サファイア様の美しさを妬んだ者たちが、彼女を貶めるために流したのだ。その証拠にほら、サファイア様は微塵も怒っていない。
と思ったのも束の間。
「では、ごゆっくり」
そう言って、顔合わせ直後に部外者よろしく去ろうとするサファイア様。
えっと。何が起きているのかな。
ドレスを翻して颯爽と去る彼女を、両親と共に口を開けたまま見つめてしまう。
「ふぁ、ファー?!ダメダメ!お見合い!これ、お見合いだから!」
「主役が戻ってどうするの?!お父様とお母様だけいても意味がないわ?!」
呼び止める侯爵夫妻に、サファイア様が振り返る。
「お父様、お母様。わたくしに仰ったではありませんか。ご挨拶だけでも、と」
本当に挨拶だけでしたね。
「じ、実に、素直な、ご令嬢ですね。いやあ、な、なあ?」
「え?ええ、ええ、そうですわ、ね?これほど素直?な、ご令嬢、なかなか、おりませんわ?」
両親が大変ポジティブに捉えようとしておられる。
「素直さがウリですの。わかっていただけて嬉しいですわ。では、あとはみなさまでごゆっくりどうぞ」
自由すぎるサファイア様が、再び踵を返そうとしたので、行ってしまうと慌てて呼び止める
「あ、お、お待ちください!わ、私が最初に不快な発言をしたことを怒っていらっしゃるなら謝ります!どうか、少しでも挽回のチャンスをくださいませんかっ?」
話を、話をしたいんだ。こんなに綺麗な子、見たことがない。
「まあ。残念ですが、あなた様はわたくしの望む方ではございません」
明確な拒絶に泣きそうになる。それでも僅かでもチャンスがあるなら縋りたい。
「では!参考までに、あなた様の理想を教えていただきたい!」
サファイア様は、それはそれは優しく微笑まれた。
「一晩中殴り続けても、笑っていられる方など良いですわね」
おーぅ。
言葉と顔が合っていない。
私は殴られて笑っていられるだろうか。それも、一晩中。彼女の理想にはなれないのか。そもそもこれほどか弱い少女が、一晩中殴り続けることなど、出来るのだろうか。一発でその腕が折れてしまいそうなほど華奢ではないか。
ガーディニー侯爵家の娘は、鬼畜である。
噂は真実であった。
「わ、私に、は、そんな、体力も、気概も、ありません」
「まあそうでしょう。見るからに無理そうですもの」
ネタとしてお見合いをしてみよう、万が一にも気に入られてしまわないよう注意しようなんて思っていたのに。
サファイア様に一目惚れをした。中身が鬼畜だけど、諦められるかなあ。今日は一先ず帰って、対策を練らなくては。
*つづく*
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