暴虐の王

らがまふぃん

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………
……



 昔、私たちのご先祖様が、罪を犯したんだって。
 だから、私たちはご先祖様の罪をすすぐために、ここにいるんだって。
 何の罪を犯したんだろうね。
 犯した罪すら知らないまま、その罪を雪ぐためだけに生まれて。
 その罪って、あと何年経てば綺麗になるのかな。
 ずっと昔から、罪を知らないほど昔から雪ぎ続けて、未だなお許されないほどの罪って何なんだろうね。
 戦い続けていれば、いずれは許される?
 勝ち続けて、生き残り続ければいいの?
 それとも、戦って死ねば雪がれる?

 罪の雪ぎ方も、知らないね。





 物心ついた頃から、ひたすらに戦う日々。体力の限界まで戦わされて、一日が終わる。
 十五歳成人を迎えると、闘技場と呼ばれる舞台で戦うこととなる。
 この舞台に立つと、今までとは状況がまったく異なる。 厳しい監督者がいなくなる代わりに、見たこともないほどの大勢の人間、観客の前で戦う。そしてこれまでは、監督者の采配があり死ぬことはなかったが、これからは、その命をかけて戦うこととなるのだ。
 舞台に立って、初めて知る。
 帰ってくる者と、帰ってこない者がいる理由を。
 年齢の高い者がいない理由を。
 この場所は、そういう場所だった。



「今日は、皇帝陛下が来るんだって」
「生き残れたら、何でも願いを叶えてくれるってさ」
 はしゃぐ馴染みたちの声に、ジェリは隣にいる一つ下のエーヴァの肩を抱き寄せて、耳元で興奮気味に言った。
「聞いた?エーヴァ。ここから出られるかもしれない!」
「おねえちゃん」
 今年成人を迎えたエーヴァは、幼子のような話し方しか出来ない。そんなエーヴァを、ジェリは妹のように可愛がり、自分をお姉ちゃんと呼ばせていた。この場所で生まれ、死ぬ者たちは、血の繋がりがわからない。男は精通をすると、女は月のものがくると、交わらされた。人としての尊厳などない。だから、本当に兄弟姉妹かもしれないし、違うかもしれない。ジェリとエーヴァも、そんな関係だった。
「大丈夫。ここから出よう」
 ジェリは、エーヴァとコツリと頭をくっつけた。
「こんなところから出て、三人で暮らそう」
 ジェリは、少し離れたところで話をしているパーシュを見た。パーシュはジェリの恋人だった。
「その夢を、諦めたくないんだ」
 エーヴァの肩に乗せた手に、自然と力が入る。
「おねえちゃんと、おにいちゃんと、わたし」
 エーヴァは二人を見ていることが好きだった。ジェリがパーシュをとても大切にしている姿が好きで、パーシュがジェリを他の男たちから守る姿が好きだった。
 不特定の者たちと交わらされるここで、二人はお互い以外に体を許すことはなかった。それが出来たのは、二人が強かったということもある。
 二人の互いを想いあう姿は、エーヴァの胸を締めつけた。
 それは、純粋な感動からのものだった。
 ジッと見つめるエーヴァに、ジェリは柔らかく微笑む。
「そう。三人で暮らすのよ」
 ジェリはエーヴァの肩に乗せていた手で、優しくエーヴァの頭を撫でる。
「エーヴァにも現れるといいね。自分の命よりも、大切な人が」
「うん。おねえちゃんと、おにいちゃん、みたいに、なる」
 ジェリは笑うと、もう片方の手を自身のお腹にそっとあてる。ジェリのお腹には、パーシュの子が宿っていた。膨らんでもいないので、知っているのはジェリだけ。
 ジェリは迷っていた。
 パーシュとの子は飛び上がるほど嬉しい。けれど、この子が生まれたら、自分たちと同じ道しか歩めない。パーシュとエーヴァ、二人の愛する人と出会えた自分は間違いなく幸運だったけれど、この子はどうだろう。
 こんな世界に産み落とされて、幸せになれるのだろうか。
 そう考えると、妊娠を二人に伝えることが躊躇われた。
 妊娠すると、出産するまで手厚い待遇を受ける。
 パーシュは、ジェリを少しでも危険から遠ざけようとする。だから、伝えたらすぐに監督者に伝え、闘いと無縁の日々を送らせるだろう。
 だが、状況が変わった。

 伝えていなくて良かった。
 伝えていたら、少なくとも子を産むまではここから出られなかったのだから。



 妊娠すると、出産するまで手厚い待遇を受けるのは何故か。
 生まれる子どもは、皇帝陛下を楽しませる、次代の担い手になるからだ。
 こういった施設が世界中のあちこちにあることを、そこで生まれ、死ぬ者たちは知らない。
 まだ、アルバトロスが帝国になる前。罪とも呼べない罪で投獄された先祖たちの子孫たちは、“暴虐の王バルトロメウスを楽しませるために”、ここに囚われていることを知らないし、それがであることを、知らない。
 日に三度の食事はしっかりと出るし、衛生環境だっていい。怪我や病気には手厚い看護を受ける。それが、少しでも生き存えさせるためのことだと、知らない。
 闘技場の舞台に立つ者が足りないことにならないように、一人でも多くの者を残らせるためだと、知らない。
 そうして、罪人以外の国民たちがここに入れられることを防ぐためにされている真実ことを、知らない。





*つづく*
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