暴虐の王

らがまふぃん

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 エーヴァの双剣とぶつかる。
 バルトロメウスからすかさず距離を取り、エーヴァは首を傾げた。
「?いきてる。へん」
 殺す気で放った一撃を防がれたことが、エーヴァはわからなかった。
 会場中が静まり返る。
「もう、いっかい」
 一瞬で間合いを詰めたエーヴァの攻撃は、再度防がれた。さらに、エーヴァの剣が弾き飛ばされ、バルトロメウスの剣にエーヴァの心臓は貫かれた。かに思われた。
 エーヴァの左手が心臓をガードし、貫かれたままの剣を右手で叩き折ると、すかさず弾き飛ばされた自身の剣を拾いながら再び距離を取った。
 バルトロメウスは笑った。
「貴様、名乗ることを許す」
「エーヴァ」
 左手に刺さる剣先をそのままに、エーヴァは剣を構えて躊躇うことなくバルトロメウスに突っ込む。
 だが、成人を迎えたばかりの女と、世界の頂点に立つ武力を持つ男。力の差は歴然だった。
 エーヴァの双剣の一振りはバルトロメウスの折れた剣に絡め取られ、脇腹を狙ったもう一振りは、刃に触れることなく剣の腹部分を指で掴まれその指圧のみで折られた。そのまま折れた剣も奪い取られてバルトロメウスの背後に投げ捨てられると、バルトロメウス自身が持っていた剣も同じく投げ捨てていた。
 バルトロメウスはエーヴァの首を掴み持ち上げるが、エーヴァは掴む腕を軸に蹴り上げてきた。難なく避けるが、今度は振り上げられた足を振り下ろし、掴む腕の肘を狙ってきた。驚くほど柔軟な体の成せる技。
 だが、ここでもやはり、エーヴァの力では望む結果にならない。腕が折れるか、最悪力が緩めばと思ったが、叶わない。エーヴァは自身の左手に刺さる、バルトロメウスの折れた剣先を引き抜くと、掴むその手首目がけて刃を突き立てようとし。
「ひぅっ?!」
 エーヴァの口から、可愛らしい悲鳴が漏れた。
 バルトロメウスが、その柔らかな首に噛みついたのだ。
「生への貪欲さ、気に入った」
 首から離れたバルトロメウスは、ペロリと自身の唇を舐めると、エーヴァの首を掴んでいた手を襟首へと移動させた。さながら首を掴まれた猫のようだ。
 折れた剣の切っ先を叩き落とされ噛みつかれたエーヴァの首は、バルトロメウスの歯型で血が滲む。その様に、バルトロメウスは満足する。
「メルヒ!」
 バルトロメウスは、上機嫌に側近を呼んだ。既に舞台の場外にて待機していたメルヒオールは、舞台に上がると両手を出した。
「コイツを連れて帰るぞ」
 その言葉に会場中がどよめくが、メルヒオールは違うことに驚いていた。
 連れ帰ることは、言われずともわかっていた。だから、メルヒオールは両手を出したのだ。エーヴァを受け取るために。だが、バルトロメウスから渡されたのは、エーヴァではなく、剣を拾ってくるようにとの言葉だったのだ。



「こぉてい、へいか?」
「俺を知らんのか」
「あったこと、ない」
 帰りを見送る者たちがバルトロメウスをそう呼んでいたことを、エーヴァはバルトロメウスに尋ねた。バルトロメウスの前に乗せられて、馬を操るその顔を見上げると、バルトロメウスは意地の悪そうな笑みを浮かべていた。
「俺を知らんと、俺の目の前で言うヤツなどおらんぞ」
「そう、なんだ」
 声を上げて笑うバルトロメウスに、供をしていた者たちは、驚いて馬から転げ落ちそうになった。



 城に着くと、バルトロメウスはメルヒオールに救急セットを持ってくることと、エーヴァの部屋を用意するよう指示した。バルトロメウスはエーヴァを小脇に抱えたまま自室の方へと向かう。
 その後ろ姿を見送りながら、メルヒオールは悩む。
 エーヴァは間違いなくバルトロメウスの特別となっている。そうではなければ、手ずから手当てをするなどありえない。それが、後宮にいる妃たちに知れたらどうなるか、と。
 バルトロメウスの前でこそおとなしい妃たちだが、後宮では違う。寵を争って、日々舌戦が繰り広げられている。バルトロメウスに如何に大切にされているかを自慢しあっているのだが、メルヒオールが聞こえる限りのことであるが、どんぐりの背比べだ。バルトロメウスが恐ろしくて下手に調子に乗れないため、あからさまに擦り寄る者がいないのだ。その恐怖に打ち勝てる者でもない限り、結局皆、得られる寵は似たり寄ったりでしかない。もちろん、寵などいらない、視界にも入りたくないと思っている者も、一定数いる。
 特別な存在が後宮に入ることは、トラブルのニオイしかしない。バルトロメウスの自室に一緒にいればいいのに、とこの時の考えを実行しておけば良かったと、メルヒオールは悔いることとなる。





*つづく*
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