願いの代償

らがまふぃん

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13.再会

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 「あら。おまえは」
 メルナーゼは、姿は初めて見るが、その声に覚えがあった。
 「やあ。さっき振り、とでも言えばいいのかな」
 軽く首を傾げる男に、メルナーゼは呆れたように息を吐く。
 「さっきと言うには時間が経ち過ぎね。ひと月くらいは経ちますのよ」
 「そう。ボクには瞬きほどの時間だから」
 お互い微笑み合う。けれど、彼女の目は笑っていない。寧ろ不機嫌だ。
 「わざわざ姿を現してどうしたのかしら?」
 “おまえが助けないということは、おまえは命を生みだし見守ることしか出来ない、ということですわね”と言った。神は、“その通りだ”と返したのに。
 そう、創造主たる神が顕現したことで、彼女は神にたばかられたと気付いたのだ。いや、メルナーゼの記憶を見れば、神が降臨した事例があったことも知っていたはずなのだ。メルナーゼの記憶は、必要時のみ引っ張り出すことにしていたことで、気付くのが遅れた。
 「キミに、お礼をと思って」
 「まあまあ。創造主から直々に。光栄ですこと」
 まったくそう思っていない声音で言うと、彼女は目を細める。それを気に止めることなく、神はそれはそれは嬉しそうに告げた。
 「あの子が目覚めたんだ」
 その言葉に、彼女は神に謀られたこと先程の考えが間違いではなかったのだと、改めて腹立たしく感じた。
 「それはようございました」
 想像を遥かに超えた出来事に、誰もの理解が追いつかない中、メルナーゼが平然と会話をしていることさえ理解が出来ない。それも、知り合いのような気軽さが見て取れる。
 誰もがただその光景を見ていることしか出来ないでいると、神が、痛みも忘れて呆然と這いつくばるヤトラスや、腰を抜かしてへたり込む者たちを向いた。
 「ああ、キミたちにも礼を言うよ。ボクの子を受け入れないでくれてありがとう」
 ヤトラスたちは混乱している。

 何故、礼を言われたのか。
 ボクの子とは。
 受け入れなかった?
 一体何の話をしているのだろう。

 そう思っていると、神が伸ばした手に、何もない空間からその手を取る者が現れた。
 美しい神の隣に立っても遜色ない、美しい女性。すべてが淡く輝き、視線ひとつで平伏したくなる神々しさ。誰もの歓喜を、畏怖を感じ取った神は、満足そうに頷くと、言った。

 「かつて、キミたちがメルナーゼと呼んでいた子だよ」

 誰もが言葉を失った。

 が、メルナーゼだって?あの、傾国の美女という言葉すら陳腐なものに思えるほどの、あの美しい人が?

 神に寄り添う輝かしい人に、どうしても一目でいい、視界に入れて欲しくて堪らない者たちは、無意識に手を伸ばす。決して届くことはないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。
 その反応にも、神は大いに満足した。
 「この子はね、手違いでこの世界に堕とされたんだ」
 髪を撫でる手が、愛しいと言っている。
 「これが、この子の本来の姿。美しいだろう?」
 誰にも触れさせまいと、両のかいなで抱き締める。
 「キミたちのおかげで、早い段階でボクの元に戻ってきてくれたんだ」
 過去の酷い仕打ちを聞かせないよう、腕の中の彼女の耳をそっと覆いながら、神は微笑む。
 「誰もこの子を受け入れなかったから、この子はこんなにも早くボクの元へ還って来られた」
 その頭に、見せつけるようにくちづけを落とした。
 「ねえ、。キミの、大いにいいと思うよ」
 入れ替わったあちらのメルナーゼにそう言うと、神は腕の中のかつてのメルナーゼを連れて、花片と入れ替わるように消えた。
 しばし魅入られた時間を過ごし、その姿がなくなると我に返る。
 そして、ふと、気付く。

 が、メルナーゼだというならば、は?は一体、何だというのか。
 自分たちが虐げ、嗤っていた彼女ではないというのなら。
 今のメルナーゼは、何に対して、あれほど残酷になれるのか。
 かつての彼女の復讐代行、とも思えない。
 ならば、あれは、今のメルナーゼの元々の性格だというのなら。

 そう考え、震える。
 答えが欲しくて、見慣れたメルナーゼに視線を移そうとし、彷徨う。
 こちらのメルナーゼも、執事の姿と共に消えていた。



*つづく*
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