13 / 20
13.再会
しおりを挟む
「あら。おまえは」
メルナーゼは、姿は初めて見るが、その声に覚えがあった。
「やあ。さっき振り、とでも言えばいいのかな」
軽く首を傾げる男に、メルナーゼは呆れたように息を吐く。
「さっきと言うには時間が経ち過ぎね。ひと月くらいは経ちますのよ」
「そう。ボクには瞬きほどの時間だから」
お互い微笑み合う。けれど、彼女の目は笑っていない。寧ろ不機嫌だ。
「わざわざ姿を現してどうしたのかしら?」
“おまえが助けないということは、おまえは命を生みだし見守ることしか出来ない、ということですわね”と言った。神は、“その通りだ”と返したのに。
そう、創造主たる神が顕現したことで、彼女は神に謀られたと気付いたのだ。いや、メルナーゼの記憶を見れば、神が降臨した事例があったことも知っていたはずなのだ。メルナーゼの記憶は、必要時のみ引っ張り出すことにしていたことで、気付くのが遅れた。
「キミに、お礼をと思って」
「まあまあ。創造主から直々に。光栄ですこと」
まったくそう思っていない声音で言うと、彼女は目を細める。それを気に止めることなく、神はそれはそれは嬉しそうに告げた。
「あの子が目覚めたんだ」
その言葉に、彼女は神に謀られたことが間違いではなかったのだと、改めて腹立たしく感じた。
「それはようございました」
想像を遥かに超えた出来事に、誰もの理解が追いつかない中、メルナーゼが平然と会話をしていることさえ理解が出来ない。それも、知り合いのような気軽さが見て取れる。
誰もがただその光景を見ていることしか出来ないでいると、神が、痛みも忘れて呆然と這いつくばるヤトラスや、腰を抜かしてへたり込む者たちを向いた。
「ああ、キミたちにも礼を言うよ。ボクの子を受け入れないでくれてありがとう」
ヤトラスたちは混乱している。
何故、礼を言われたのか。
ボクの子とは。
受け入れなかった?
一体何の話をしているのだろう。
そう思っていると、神が伸ばした手に、何もない空間からその手を取る者が現れた。
美しい神の隣に立っても遜色ない、美しい女性。すべてが淡く輝き、視線ひとつで平伏したくなる神々しさ。誰もの歓喜を、畏怖を感じ取った神は、満足そうに頷くと、言った。
「かつて、キミたちがメルナーゼと呼んでいた子だよ」
誰もが言葉を失った。
アレが、メルナーゼだって?あの、傾国の美女という言葉すら陳腐なものに思えるほどの、あの美しい人が?
神に寄り添う輝かしい人に、どうしても一目でいい、視界に入れて欲しくて堪らない者たちは、無意識に手を伸ばす。決して届くことはないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。
その反応にも、神は大いに満足した。
「この子はね、手違いでこの世界に堕とされたんだ」
髪を撫でる手が、愛しいと言っている。
「これが、この子の本来の姿。美しいだろう?」
誰にも触れさせまいと、両の腕で抱き締める。
「キミたちのおかげで、早い段階でボクの元に戻ってきてくれたんだ」
過去の酷い仕打ちを聞かせないよう、腕の中の彼女の耳をそっと覆いながら、神は微笑む。
「誰もこの子を受け入れなかったから、この子はこんなにも早くボクの元へ還って来られた」
その頭に、見せつけるようにくちづけを落とした。
「ねえ、メルナーゼ。キミのカタルシス、大いにいいと思うよ」
入れ替わったあちらのメルナーゼにそう言うと、神は腕の中のかつてのメルナーゼを連れて、花片と入れ替わるように消えた。
しばし魅入られた時間を過ごし、その姿がなくなると我に返る。
そして、ふと、気付く。
アレが、メルナーゼだというならば、コレは?コレは一体、何だというのか。
自分たちが虐げ、嗤っていた彼女ではないというのなら。
今のメルナーゼは、何に対して、あれほど残酷になれるのか。
かつての彼女の復讐代行、とも思えない。
ならば、あれは、今のメルナーゼの元々の性格だというのなら。
そう考え、震える。
答えが欲しくて、見慣れたメルナーゼに視線を移そうとし、彷徨う。
こちらのメルナーゼも、執事の姿と共に消えていた。
*つづく*
メルナーゼは、姿は初めて見るが、その声に覚えがあった。
「やあ。さっき振り、とでも言えばいいのかな」
軽く首を傾げる男に、メルナーゼは呆れたように息を吐く。
「さっきと言うには時間が経ち過ぎね。ひと月くらいは経ちますのよ」
「そう。ボクには瞬きほどの時間だから」
お互い微笑み合う。けれど、彼女の目は笑っていない。寧ろ不機嫌だ。
「わざわざ姿を現してどうしたのかしら?」
“おまえが助けないということは、おまえは命を生みだし見守ることしか出来ない、ということですわね”と言った。神は、“その通りだ”と返したのに。
そう、創造主たる神が顕現したことで、彼女は神に謀られたと気付いたのだ。いや、メルナーゼの記憶を見れば、神が降臨した事例があったことも知っていたはずなのだ。メルナーゼの記憶は、必要時のみ引っ張り出すことにしていたことで、気付くのが遅れた。
「キミに、お礼をと思って」
「まあまあ。創造主から直々に。光栄ですこと」
まったくそう思っていない声音で言うと、彼女は目を細める。それを気に止めることなく、神はそれはそれは嬉しそうに告げた。
「あの子が目覚めたんだ」
その言葉に、彼女は神に謀られたことが間違いではなかったのだと、改めて腹立たしく感じた。
「それはようございました」
想像を遥かに超えた出来事に、誰もの理解が追いつかない中、メルナーゼが平然と会話をしていることさえ理解が出来ない。それも、知り合いのような気軽さが見て取れる。
誰もがただその光景を見ていることしか出来ないでいると、神が、痛みも忘れて呆然と這いつくばるヤトラスや、腰を抜かしてへたり込む者たちを向いた。
「ああ、キミたちにも礼を言うよ。ボクの子を受け入れないでくれてありがとう」
ヤトラスたちは混乱している。
何故、礼を言われたのか。
ボクの子とは。
受け入れなかった?
一体何の話をしているのだろう。
そう思っていると、神が伸ばした手に、何もない空間からその手を取る者が現れた。
美しい神の隣に立っても遜色ない、美しい女性。すべてが淡く輝き、視線ひとつで平伏したくなる神々しさ。誰もの歓喜を、畏怖を感じ取った神は、満足そうに頷くと、言った。
「かつて、キミたちがメルナーゼと呼んでいた子だよ」
誰もが言葉を失った。
アレが、メルナーゼだって?あの、傾国の美女という言葉すら陳腐なものに思えるほどの、あの美しい人が?
神に寄り添う輝かしい人に、どうしても一目でいい、視界に入れて欲しくて堪らない者たちは、無意識に手を伸ばす。決して届くことはないとわかっていても、そうせずにはいられなかった。
その反応にも、神は大いに満足した。
「この子はね、手違いでこの世界に堕とされたんだ」
髪を撫でる手が、愛しいと言っている。
「これが、この子の本来の姿。美しいだろう?」
誰にも触れさせまいと、両の腕で抱き締める。
「キミたちのおかげで、早い段階でボクの元に戻ってきてくれたんだ」
過去の酷い仕打ちを聞かせないよう、腕の中の彼女の耳をそっと覆いながら、神は微笑む。
「誰もこの子を受け入れなかったから、この子はこんなにも早くボクの元へ還って来られた」
その頭に、見せつけるようにくちづけを落とした。
「ねえ、メルナーゼ。キミのカタルシス、大いにいいと思うよ」
入れ替わったあちらのメルナーゼにそう言うと、神は腕の中のかつてのメルナーゼを連れて、花片と入れ替わるように消えた。
しばし魅入られた時間を過ごし、その姿がなくなると我に返る。
そして、ふと、気付く。
アレが、メルナーゼだというならば、コレは?コレは一体、何だというのか。
自分たちが虐げ、嗤っていた彼女ではないというのなら。
今のメルナーゼは、何に対して、あれほど残酷になれるのか。
かつての彼女の復讐代行、とも思えない。
ならば、あれは、今のメルナーゼの元々の性格だというのなら。
そう考え、震える。
答えが欲しくて、見慣れたメルナーゼに視線を移そうとし、彷徨う。
こちらのメルナーゼも、執事の姿と共に消えていた。
*つづく*
2,485
あなたにおすすめの小説
[完結]いらない子と思われていた令嬢は・・・・・・
青空一夏
恋愛
私は両親の目には映らない。それは妹が生まれてから、ずっとだ。弟が生まれてからは、もう私は存在しない。
婚約者は妹を選び、両親は当然のようにそれを喜ぶ。
「取られる方が悪いんじゃないの? 魅力がないほうが負け」
妹の言葉を肯定する家族達。
そうですか・・・・・・私は邪魔者ですよね、だから私はいなくなります。
※以前投稿していたものを引き下げ、大幅に改稿したものになります。
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
手放してみたら、けっこう平気でした。
朝山みどり
恋愛
エリザ・シスレーは伯爵家の後継として、勉強、父の手伝いと努力していた。父の親戚の婚約者との仲も良好で、結婚する日を楽しみしていた。
そんなある日、父が急死してしまう。エリザは学院をやめて、領主の仕事に専念した。
だが、領主として努力するエリザを家族は理解してくれない。彼女は家族のなかで孤立していく。
婚約者に心変わりされた私は、悪女が巣食う学園から姿を消す事にします──。
Nao*
恋愛
ある役目を終え、学園に戻ったシルビア。
すると友人から、自分が居ない間に婚約者のライオスが別の女に心変わりしたと教えられる。
その相手は元平民のナナリーで、可愛く可憐な彼女はライオスだけでなく友人の婚約者や他の男達をも虜にして居るらしい。
事情を知ったシルビアはライオスに会いに行くが、やがて婚約破棄を言い渡される。
しかしその後、ナナリーのある驚きの行動を目にして──?
(1万字以上と少し長いので、短編集とは別にしてあります)
婚約者を借りパクされました
朝山みどり
恋愛
「今晩の夜会はマイケルにクリスティーンのエスコートを頼んだから、レイは一人で行ってね」とお母様がわたしに言った。
わたしは、レイチャル・ブラウン。ブラウン伯爵の次女。わたしの家族は父のウィリアム。母のマーガレット。
兄、ギルバード。姉、クリスティーン。弟、バージルの六人家族。
わたしは家族のなかで一番影が薄い。我慢するのはわたし。わたしが我慢すればうまくいく。だけど家族はわたしが我慢していることも気付かない。そんな存在だ。
家族も婚約者も大事にするのはクリスティーン。わたしの一つ上の姉だ。
そのうえ、わたしは、さえない留学生のお世話を押し付けられてしまった。
(完)妹の子供を養女にしたら・・・・・・
青空一夏
恋愛
私はダーシー・オークリー女伯爵。愛する夫との間に子供はいない。なんとかできるように努力はしてきたがどうやら私の身体に原因があるようだった。
「養女を迎えようと思うわ・・・・・・」
私の言葉に夫は私の妹のアイリスのお腹の子どもがいいと言う。私達はその産まれてきた子供を養女に迎えたが・・・・・・
異世界中世ヨーロッパ風のゆるふわ設定。ざまぁ。魔獣がいる世界。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる