乙女の憧れ、つまっています ~平凡OLは非凡な日常~

らがまふぃん

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ーマリノの恋ー

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 小さい頃から色々なものに興味があった。

 幸いなことに、人より遙かに恵まれた環境だったため、多くのことやものを目にする機会が多かった。許される限り父や母にくっついて、色々なものを見て、聞いて育った。望めば大抵のものが手に入る。私の疑問に答えてくれる、最高の教師たちもつけてくれた。好奇心旺盛な私には、うってつけの環境だった。

 知らないものを知り、見たことのないものを見て、私は満たされていた。

 そんなある日。

 護衛の中に、一際小さな人影を見つけた。護衛の服を着ているから護衛なのだろうけど、あまりにも頼りないのではないだろうか。

 「ねえ、パパ。あの子ももしかして護衛なの?」

 思わずそう父に尋ねていた。すぐに父はトーコを呼んで紹介してくれた。屈強な男たちに囲まれていたから華奢に見えたわけではない。間近で見ても、やっぱり小柄な少女だった。護衛だ、と言われた、私のひとつ下の、女の子。

 綺麗なものに囲まれて、素敵なものをたくさん見て、おいしいものを毎日食べて。興味のあるものを、好奇心の赴くままにさせてもらえて。すべてがキラキラと輝いていた。

 それなのに。

 トーコを知ったその日から、トーコだけが鮮明になった。トーコ以外が、あれほど輝いていた毎日が、色を失った。

 恵まれていると思っていた。いや、確かに恵まれている。それは間違いないのだが、それが、ひどく狭い世界での出来事だと感じたのだ。自分などより、余程トーコの方が縛られた生活をしているはずなのに、トーコがとても自由に見えた。

 自分とは真逆の世界を生きる少女。

 守られるべき少女は、守る側に。厳しい訓練に耐え、屈強な男たちを軽々飛び越えて。そんな男たちに畏怖と憧れを抱かれながら、真っ直ぐに伸びた、眩しいその背中。

 屈強な男たちに囲まれて、生と死をたくさん見て、獣やキメラを毎日討伐して。趣味も興味も知らないままに。

 ねえ、トーコ。その目には、何が見えているの。何を思っているの。

 トーコのことばかりが気になって仕方がなかった。

 事前にトーコが護衛だとわかるときは、必ず父にくっついて行った。話しかければ応えてくれる。最初はそれでも嬉しかった。けれど、だんだんそれでは満足出来なくなっていた。好きなものは何だろう。休みの日は何をしているのだろう。遊びに誘ったら来てくれるだろうか。トーコから話しかけてくれないかな。もっと近付きたい。もっと一緒にいたいよ、トーコ。

 なんてままならないんだろう。

 けれど。

 同じ女性として生まれ、似たような年齢にもかかわらず、まったく違う人生を歩む二人。それが、お互いのその環境が、偶然にも二人を引き合わせた。

 その奇跡には感謝しかない。

 ねえ、トーコ。たくさんのものを見てきた自分でも、まだ見たことのない世界。ひとりでは見ることが叶わなくとも、トーコと一緒なら見られるかな。

 だって。

 トーコが自由に見えた理由。

 随分ロマンチストだな、なんてヴァンタインたちには言われてしまうかもしれないけれど。



 トーコの背中には、翼が見えるから。




*つづく*
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