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お兄ちゃん
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ゲルトは、冷酷な人間としてその世界では知られていた。彼の意に沿わぬ者には容赦をせず、時には一族郎党悲惨な末路を辿る。
眉間には深く皺が刻まれ、眼光鋭く周囲を見据えるその姿に、誰もが居住まいを正す。彼の叡智により国は富み、それによって王族さえも忖度するほど。
そんな彼が、僅かにではあるが、人らしい感情を見せたのが、数年前に亡くなった妻だ。妻の言葉に、時々表情を動かすことがあった。まあ、それだけではあったが。
そんな彼が杖を投げ出して走るその姿に、一同は唖然とした。
〖咲穂!!〗
駆け寄るゲルトを、サーフォニアは目を見開いて見つめながら、無意識に体は彼に向かって動き出す。
咲穂。
ああ、そう、そうだ。
サーフォニアの脳に、次々と溢れてくる記憶。自然と受け入れていく、かつて、別の世界で生きていた記憶。
優しい、大好きな兄ユーリィ。けれど、どこか違和感があった。兄は、こんな感じだっただろうか、と。それでも、いつでもサーフォニアを守る姿には、どこか既視感があって。
伸ばされた細い両腕に応えるように、ゲルトはサーフォニアを抱きしめた。
〖咲穂、咲穂、会えた、やっと会えた。良かった。ずっと、ずっと探してたんだよ、咲穂〗
驚きすぎて言葉も出なかったサーフォニアも、やがてゆっくりゲルトの背中に手を回す。
たくさんの涙が、サーフォニアからあふれた。
〖お、兄、ちゃん〗
〖ああ、ああ、咲穂、そうだよ、咲穂の兄ちゃんだよ〗
前世の兄妹は、再び巡り逢った。
よく聞き取れないが、何か言葉を交わして強く抱きしめあう二人に、誰も何も言えなかった。
冷酷で、亡き妻以外感情を動かさないと言われているゲルト。そんな彼が、まったく誰も見向きもしない、どこの家の者かもわからない少女に駆け寄り抱きしめたのだ!
泣いて縋りつく幼子のような少女を懸命に抱き締め、その涙を止めようとあやすように声をかけ続けるゲルト。慈しむように抱きしめるその手で少女の背中を愛おしく撫で、時には落ち着かせるように優しく叩き、くずおれる少女に付き添うようになんと自身も床に膝をついてあやし続けた。
誰も何も言葉を発することが出来ず、ただその光景を、舞台のワンシーンのように見つめることしか出来ずにいた。
ようやく少女が落ち着いた頃、ゲルトは僅かに少女から体を離し、涙やらなんやらで大変なことになっているサーフォニアの顔を、優しく拭いながら覗き込む。
〖咲穂、可愛い顔を、兄ちゃんによく見せて〗
〖やだ。もともとない目が腫れて余計なくなってるもん〗
俯いてゲルトの胸に頭をゴンゴンぶつけるサーフォニアの行動に、ゲルトは蕩けるような笑みを見せた。それは、先程までの誰も見たことのない行動よりも、衝撃だった。
そうしてしばらくの後。
「ところでさあ、咲穂」
先程まで、誰も聞いたことのない言葉を交わしていた二人。それが突然、誰もがわかる、この国の言葉へと切り替わった。
サーフォニアを抱きしめながらもドス黒い笑みを浮かべ、今にもここにいる全員の首を刎ねんばかりの凄まじい殺気を放ちながらも、サーフォニアの枝のように折れそうな体を優しく撫でながら、事情を知る者はいないか会場の全員に問うようにかけられた言葉に戦慄が走った。
「どうしてこんなに痩せているの?」
*つづく*
眉間には深く皺が刻まれ、眼光鋭く周囲を見据えるその姿に、誰もが居住まいを正す。彼の叡智により国は富み、それによって王族さえも忖度するほど。
そんな彼が、僅かにではあるが、人らしい感情を見せたのが、数年前に亡くなった妻だ。妻の言葉に、時々表情を動かすことがあった。まあ、それだけではあったが。
そんな彼が杖を投げ出して走るその姿に、一同は唖然とした。
〖咲穂!!〗
駆け寄るゲルトを、サーフォニアは目を見開いて見つめながら、無意識に体は彼に向かって動き出す。
咲穂。
ああ、そう、そうだ。
サーフォニアの脳に、次々と溢れてくる記憶。自然と受け入れていく、かつて、別の世界で生きていた記憶。
優しい、大好きな兄ユーリィ。けれど、どこか違和感があった。兄は、こんな感じだっただろうか、と。それでも、いつでもサーフォニアを守る姿には、どこか既視感があって。
伸ばされた細い両腕に応えるように、ゲルトはサーフォニアを抱きしめた。
〖咲穂、咲穂、会えた、やっと会えた。良かった。ずっと、ずっと探してたんだよ、咲穂〗
驚きすぎて言葉も出なかったサーフォニアも、やがてゆっくりゲルトの背中に手を回す。
たくさんの涙が、サーフォニアからあふれた。
〖お、兄、ちゃん〗
〖ああ、ああ、咲穂、そうだよ、咲穂の兄ちゃんだよ〗
前世の兄妹は、再び巡り逢った。
よく聞き取れないが、何か言葉を交わして強く抱きしめあう二人に、誰も何も言えなかった。
冷酷で、亡き妻以外感情を動かさないと言われているゲルト。そんな彼が、まったく誰も見向きもしない、どこの家の者かもわからない少女に駆け寄り抱きしめたのだ!
泣いて縋りつく幼子のような少女を懸命に抱き締め、その涙を止めようとあやすように声をかけ続けるゲルト。慈しむように抱きしめるその手で少女の背中を愛おしく撫で、時には落ち着かせるように優しく叩き、くずおれる少女に付き添うようになんと自身も床に膝をついてあやし続けた。
誰も何も言葉を発することが出来ず、ただその光景を、舞台のワンシーンのように見つめることしか出来ずにいた。
ようやく少女が落ち着いた頃、ゲルトは僅かに少女から体を離し、涙やらなんやらで大変なことになっているサーフォニアの顔を、優しく拭いながら覗き込む。
〖咲穂、可愛い顔を、兄ちゃんによく見せて〗
〖やだ。もともとない目が腫れて余計なくなってるもん〗
俯いてゲルトの胸に頭をゴンゴンぶつけるサーフォニアの行動に、ゲルトは蕩けるような笑みを見せた。それは、先程までの誰も見たことのない行動よりも、衝撃だった。
そうしてしばらくの後。
「ところでさあ、咲穂」
先程まで、誰も聞いたことのない言葉を交わしていた二人。それが突然、誰もがわかる、この国の言葉へと切り替わった。
サーフォニアを抱きしめながらもドス黒い笑みを浮かべ、今にもここにいる全員の首を刎ねんばかりの凄まじい殺気を放ちながらも、サーフォニアの枝のように折れそうな体を優しく撫でながら、事情を知る者はいないか会場の全員に問うようにかけられた言葉に戦慄が走った。
「どうしてこんなに痩せているの?」
*つづく*
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