最恐お兄ちゃん

らがまふぃん

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人間国宝咲穂たん

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「も、もうしわけ、ございません、閣下。私の、不徳の致すところですっ」
「兄様、違う、兄様のせいじゃないよっ」
 床にひれ伏し赦しを乞うユーリィを、サーフォニアは慌てて抱き起こそうとしたが、ゲルトに腰を引き寄せられ、ゲルトの膝の上に座る形になってしまった。
「兄様?」
 ゲルトがサーフォニアとユーリィに視線を行き来させる。
〖今の私のお兄ちゃん。お兄ちゃんと同じで、ずっと守ってくれてたんだよ〗
 その言葉にゲルトは優しく頷くと、
〖後で詳しく聞かせて、咲穂〗
 そう言って頭を撫でながらサーフォニアごと立ち上がり、ユーリィも立ち上がるよう促す。そしてゲルトは、大きくはないがよく通る声で言った。
「この国に私がもたらした恩恵は、すべてこの子のため。この子は私がずっと探していた子だ」
 ゲルトは全員に、よく顔を覚えておくようにと言うように、サーフォニアをよく見えるように抱えなおす。
〖お兄ちゃん、さすがに抱っこは恥ずかしいお年頃だよ、私〗
〖兄ちゃんが抱っこしたいお年頃なんだよ、咲穂〗
 恥ずかしそうにゲルトの肩口に顔をうずめるサーフォニアに、彼は愛おしく笑った。そんな彼の表情に、やはり会場中が驚愕し、その少女を決して粗末にしてはいけないことを知る。
「それより、こんな体じゃダメだ。先に食事にしよう、咲穂。キミも、ああ、名前を」
 色々なことが衝撃的で、ユーリィは自分がヘイモとしてここにいるということが、すっかり頭から抜け落ちていた。
「は、はい、ユーリィ・エルランジェと申します」
 ユーリィの名乗りに、ざわめきが広がる。多くの視線が、ゲルトたちともう一ヶ所を行ったり来たりしている。そのざわめきと視線の意味を今は知らないまま、会場を出るときに、青ざめて震える姿を見た気がした。視線を集めるもう一ヶ所、後見人一家のそんな姿を。


………
……



「咲穂、よく噛んで食べるんだぞ。ほら、これも好きだろう?」
 賓客室にて。
 甲斐甲斐しくサーフォニアの世話を焼くゲルトに、常に側に仕える者たちは混乱している。顔には出さないでいるつもりだが、出てしまっている。それほどに、あり得ない光景なのだ。人を使うことはあれど、使われる、自ら使わせるなど。
「ありがとう、お兄ちゃん。最初に飲んだスープがおいしかったよ。あれをもう少し飲んだら終わりにしたい」
「全然食べていないじゃないか!なんてことだ!咲穂が死んでしまう!」
 医師を呼べ、と涙を溢れさせながら取り乱すゲルトを、サーフォニアは頬を膨らませながら注意をする。
「お兄ちゃん、落ち着いて。これ以上食べる方が危ないよ。私の体を見れば、わかるでしょう?」
「ああ、そうか、そうだね。兄ちゃんが悪かったよ。ごめんな」
 取り乱すことも涙を流していることも信じられない、まして少女と呼べるほどの子供に注意をされるなんて、それによってしゅんとした上に謝罪を口にするなんて!
 冷酷な彼が、唯一少しだけ人間らしさを見せたのが、亡き妻であった。それでも、これほどまで心を砕き、喜怒哀楽にあふれた姿など一度として見たことなどない。妻と二人だけの時はどうだったか知らないが、少なくとも人前でこのような姿を晒すことは決してなかった。
 情報量が限界を超えたようで、返って冷静になった側仕えの者たち。
 サーフォニアがゲルトを何と呼んでいるのか、ゲルト自身も自身を何と呼んでいるのかが聞き取れないが、間違いなく名前ではない。とても親しみのあるように呼んでいることは確かだ。
 とにかく、先程会場でゲルト自身が宣言していた通り、この少女は大切な子なのだ。国宝級に扱うこと必須。
 それが、皆の認識として落ち着いた。



*つづく*
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