最恐お兄ちゃん

らがまふぃん

文字の大きさ
7 / 13

静かな怒り

しおりを挟む
「そう、キミがエルランジェの跡継ぎか」
 堅苦しい話は食事の後だと、とにかくお腹を満たすことを優先させた後。ゲルトが重厚感のある声でそう頷いた。
「お、恐れながら閣下、私は今夜初めて社交の場に出ます」
「そのようだな。だがエルランジェの後継者という者を、何度か社交場で見ている」
 ユーリィは、今日自分がヘイモとしてデビュタントに来ることになったおかしな経緯に繋がると思った。
「閣下。これは私の想像でしかありませんが、お聞きいただけましたら幸甚に存じます」
 ユーリィの言葉にゲルトが頷くと、ユーリィは意を決して話し始めた。

 祖父母の病気療養によりその目がなくなると、一日に二度あった食事は一度に減らされ、ついには一度でも出ればいい方となった。部屋も屋根裏へと移され、課される仕事量も増えていった。だが、ユーリィが外で働かされることで、何とか食料を手に入れられる日も多くなった。少ない使用人たちも懸命に守ってくれていたが、成長して出来ることが増えるたびに減らされ、最後の一人がついに三年程前に解雇された。
 領地経営なども教えてくれていた最後の一人だった執事が、解雇される直前、首を捻った。とある店から届いた請求書に、違和感を覚えたからだ。請求書を手に執事がヘイノに確認に行くと、ヘイノは捲し立てるように怒鳴りつけ、そのまま執事を解雇してしまったのだ。
 執事は、考えたくないことですが、と出ていくときにユーリィに伝えた。
 その請求書は、仕立て屋からのもの。その年はユーリィのデビュタントの年。そのためかと考えるも、ユーリィやサーフォニアがある程度社会のことも理解するようになると、街に出さなくなった。噂や入れ知恵などで厄介なことにならないよう、社会から離れさせたのだ。そのため、ユーリィの服だとするなら、仕立て屋がこの邸に採寸に訪れないと作れない。被服の請求は確かに毎月あるが、明らかに額が違う。となると、正装の購入と考えられた。
 執事は言った。デビュタントの日に後見人たちがヘイモを連れて出て行ったら、エルランジェ当主を挿げ替える気かもしれない、と。

「その日、叔父たちは出かけていきました。そして、私の一つ下である彼がデビュタントを迎える年、出かけることはありませんでした」
 ゲルトは黙って聞いている。
「叔父の子どもは三人、年子です。一番下は、サーフォニアと同い年なので、全員が成人を迎えることになります。私が、病気療養として遅れてデビュタントを迎える、ヘイモ・カレ・エルランジェとして、陛下にご挨拶申し上げれば」
 ヘイモとしてデビュタントすれば、ユーリィを当主とし、その役目が出来るようしっかりサポートする、と言われていた。領地経営は執事がいなくなって、ユーリィが一人で奮闘している。家のことに忙しいサーフォニアも、合間を見つけて手伝ってくれていた。
「十九になった今も、当主となるための手続きをしないことを考えると、執事が危惧した通りなのだろう、と」
「そこまでわかっていて、なぜこの場にいる」
 ゲルトの言葉に、ユーリィはこぶしを握った。
「ニアを、サーフォニアを、デビューさせられれば、と思いました」
 こんなことに巻き込まないために、何も知らないまま、優しい人に嫁いでいければいいと、少しでも早く出会いの場を、と。
 サーフォニアには、当主となればもうつらい思いをさせずに済む、と伝えたが、当主となることはないだろうと思っていた。だから、少しでも良い人に嫁がせることが、当主挿げ替えなどというエルランジェの犯した罪から離れさせることが、自分の最後の役目だと。だから、叔父の要求に黙って従った。へそを曲げられて、サーフォニアのデビュタントを取りやめられることを避けたかったから。
「世間を知らぬ子どもが、与えられたものの中で出来る最大限で、咲穂を守って来たか」
 もっとうまくできただろうと言うのは、世の中を少なからず知る者の言葉だ。
「そうか。アレは、偽物であったか。それは重畳ちょうじょう
 ゲルトは扉近くの侍従に視線をやると、侍従は頭を下げて部屋を出た。
「今まで咲穂をよく守った。礼を言う。あとのことは私が引き受けよう。よくがんばったな」
 ユーリィは、たくさんの涙を落とした。



*つづく*
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結済】25年目の厄災

恋愛
生まれてこの方、ずっと陽もささない地下牢に繋がれて、魔力を吸い出されている。どうやら生まれながらの罪人らしいが、自分に罪の記憶はない。 だが、明日……25歳の誕生日の朝には斬首されるのだそうだ。もう何もかもに疲れ果てた彼女に届いたのは…… 25周年記念に、サクッと思い付きで書いた短編なので、これまで以上に拙いものですが、お暇潰しにでも読んで頂けたら嬉しいです。 ∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽ ※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。 ※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。 ※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。 ※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。 ※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。 ※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。 ※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。 ※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

私が嫌いなら婚約破棄したらどうなんですか?

きららののん
恋愛
優しきおっとりでマイペースな令嬢は、太陽のように熱い王太子の側にいることを幸せに思っていた。 しかし、悪役令嬢に刃のような言葉を浴びせられ、自信の無くした令嬢は……

蔑ろにされた王妃と見限られた国王

奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています 国王陛下には愛する女性がいた。 彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。 私は、そんな陛下と結婚した。 国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。 でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。 そしてもう一つ。 私も陛下も知らないことがあった。 彼女のことを。彼女の正体を。

不倫の味

麻実
恋愛
夫に裏切られた妻。彼女は家族を大事にしていて見失っていたものに気付く・・・。

私の存在

戒月冷音
恋愛
私は、一生懸命生きてきた。 何故か相手にされない親は、放置し姉に顎で使われてきた。 しかし15の時、小学生の事故現場に遭遇した結果、私の生が終わった。 しかし、別の世界で目覚め、前世の知識を元に私は生まれ変わる…

【短編】ちゃんと好きになる前に、終わっただけ

月下花音
恋愛
曖昧な関係を続けていたユウトとの恋は、彼のインスタ投稿によって一方的に終わりを告げた。 泣くのも違う。怒るのも違う。 ただ静かに消えよう。 そう決意してトーク履歴を消そうとした瞬間、指が滑った。 画面に表示されたのは、間の抜けたクマのスタンプ。 相手に気付かれた? 見られた? 「未練ある」って思われる!? 恐怖でブロックボタンを連打した夜。 カモメのフンより、失恋より、最後の誤爆が一番のトラウマになった女子大生の叫び。

幼馴染

ざっく
恋愛
私にはすごくよくできた幼馴染がいる。格好良くて優しくて。だけど、彼らはもう一人の幼馴染の女の子に夢中なのだ。私だって、もう彼らの世話をさせられるのはうんざりした。

処理中です...