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今は。
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太陽の国、と聞けば誰しもがこう答えるであろう。
『麗しく、強く、賢い王が治める、美しい大国』と。
*
そんな太陽の国は今日から一週間、平和祭という祭が始まる。
この祭は、現国王アエスタース・カエルレウス・アルボルが、王子時代に勇者アオと共に魔王を倒し、凱旋帰国した日を平和が始まった日として定めたものである。
今や大人から子供まで、一年に一度の祭を楽しみにしている。他国からは王族、貴族、商人から旅人、竜族などの種族の違う者達も太陽の国へと訪れ、魔王の居ない平和な世界、祭を堪能していくのだ。
所変わって、太陽の国のとある宿屋。
「はい、ここでおさらいするわよ。太陽の国の王様は?」
「アエスタール・カエルレウス・アルボル!」
「ルじゃないよ、スだよ。アエスタースだよ」
あれ、そだっけ? 解答の間違いに首を傾げお道化る男の子、そんな男の子に呆れ溜息を吐く女の子に問題を出した女はクスクスと笑い、そんな三人を見守っていた女はケラケラ笑う。
「まぁ、覚えなくても大丈夫だから王族とは仕事しないし」
「あら、一般常識としては必要だと思うわよ?」
この大陸で一番の大国の名前くらい憶えていないと! 先ほどの上品にクスクス笑っていた姿はどこへやら。目をカッ! と大きく開き力説するのはラクリマ・スタンヌムというここの宿屋の女主人である。
そんなラクリマに「えー」と不服そうに顔を顰め、お茶を啜るのはナツという薬師。
「そうだよお母さん、一般常識は覚えておいて損はないよ」
「うん、でも王族の名前ってくそなげーよね、なんで?」
「知らない」
えーえぇ? 答えになってねーよーと騒ぐ男の子はカイという。
「知らないものは知らないよ」とコップを両手に持ちお茶を啜る女
の子はソラという。
二人とも海の底を想像させるような髪の色をしており、瞳は空のような青色、ナツの髪も瞳も同じ色だ。
対してラクリマは蜂蜜色の髪、瞳も同じ蜂蜜色。太陽の国出身に見られる特徴で、ナツは海の国出身に見られる特徴だ。カイとソラは母親のナツに似たということになる。
他にも砂漠の国や、雨の国、火の国など国ごとに髪や瞳、身体の特徴が変わってくるのだが長くなるので今回は置いておくことにする。
「お母さん、外行っていい?」
「あ、ずりぃ俺もいく!」
いいよ、行ってきなーとナツが返事をすれば、勢いよく外へと駆け出していくカイとソラ。
お祭りだし、お小遣いをもう少し持たせておくべきだったかな。と思いながらナツは再びお茶を啜る。
そんなナツの思考を読んだのか、「さっき私からお小遣い上げたから当分戻ってこないわ」クスクス笑い、ナツの持つコップにラクリマは慣れた手つきでお茶を注いだ。
「ごめん、払うよ」
「いいわよ、親友の可愛い子供達の為だもの……にしても、大きく
なったわね」
「もう八歳だからね、この間までハイハイしてたと思ったのにさー」
「子供ってのはそんなものよ、で? どうして戻ってきたの?」
ラクリマの問いかけにナツはうぅん、と唸り、コップを机の上に置いた。
「あの子達に一応見せておかなきゃいけないかなー、とか思って」
「父親を?」
「うん、二人とも頭いいし歳相応じゃない言動をするから何となく
は気が付いているとは思うけど……」
仕事で太陽の国に来なきゃ行けなかったし、平和祭で人も多いから隠れながら見るには丁度いいかなーと思ったのは、ただの建前だ。
本当は気になっていた。
目の前から消えて八年。カイとソラには死んだと伝えている父親のことが。
あちらもあたしの事は死んだと思っているだろう、そう思うようにあたしが仕向けたのだから当たり前だけど。
「カイ君はさておき、ソラちゃんは頭もいいし冷静沈着よね、八歳
にみえないわ」
「カイはわざとお道化てるだけ、ソラは父親に似たみたい……あー
もう、何も考えないで寝ていたい」
カウンターテーブルに突っすナツに、「仕事は? 仕事」とナツの頭を叩くラクリマ。
「ここに来る前に納品してきたからもう何もない、寝る、眠い、家
に帰って篭る」
「来たばっかで何言ってるのよ。カイ君もソラちゃんもお母さんと
遊びたいと思うけど?」
「大丈夫、明日一日かけて出店を回る約束してる。誕生日にまとも
に祝ってあげられなかったから贅沢させてあげるつもりー……あ、
ケーキ美味しい店教えて」
「うちで誕生日パーティーやればいいじゃない、リュンが張り切っ
てたわ、懐かしい糖分仲間が来たって」
「リュンクスのアップルパイは美味いよね……あー眠いお、無理、
寝るお……」
「はいはい、寝るのはいいけどベットで寝なさい、親の威厳を保つ
ためにね」
「威厳もクソもないよもう……二人が帰ってきたら起こしてね、あ
とパーティーに関しては夜になったら詳しく話す」
「はいはい、」
席を立ち、荷物が置いてある部屋へとフラフラしながら向かうナツの背中を見送り、ラクリマは一つ息を吐いた。
何故あの男はナツを追いかけないのだろうか。
あれだけ愛を囁き、一生を捧げると誓っていた男は何をやっているのか問いただして、急所を蹴り飛ばしたい位だ。そんなことをしたら不敬罪で捕まるかもしれない、その前にお目にかかることはないと思うが。
どんな結果であれ親友が幸せなら、それでいいか。
ラクリマは腰に手を当て再び息を吐きだしたあと、夕飯の下ごしらえを始めようと厨房へと向かった。
*
「リンゴ飴と綿あめ……」
「俺がリンゴ買うから、ソラは綿あめにすればいーよ」
「じゃ、あとでカイが欲しいのを半分こして買う」
「おう!」
はぐれない様に手を繋ぐのはお母さんとの約束第三条の為。
大国と言われるだけあって色んな国から訪れている人も多い、海の国以外では目立ってしまう髪の毛と瞳の色を気にする人は居らずカイとソラは久しぶりに楽しく外を歩く。
「何でお母さんはこんないい国を避けてたんだろーな?」
「さぁ? でもお母さんが嫌なら私はそれに従うよ。お母さんは理
由なく嫌うことはしないからね」
「俺もそう思う、けど気になる」
「あとで聞けばいいと思うよ? 教えてくれるかは分からないけど」
「だよなー」
沢山の人の中に紛れて街の中を歩くカイとソラ。ナツに連れられ色んな国を見て周ってきたが、太陽の国は別格だ。
人々の活気のある声、裏通りまで整備されている道路に衛生管理。
八年前の状態を知っている者ならばよくぞここまで!と大声でいうだろう。
そんな街の中央にドンッと佇むのは、今まで見たこともないほどに大きくも美しく、凛と佇んでいる真っ白な城。そんな城の門の前に辿りついたカイとソラは、口を大きく開け、カイに至っては持っていた綿あめの袋を地面へと落とした。
「……白い」
「……海の国もここまでじゃねーよな」
「入ったら迷う気がする」
「うん、わかるわそれ」
二人は顔を見合わせ頷くと、身体の向きを変え、母親のいる宿屋に向かって歩きだそうと二人同時に一歩踏み込んだ、が。カイがあるものに気づいき、構えを解いた。
そして急に駆け出したのでソラは慌ててカイの後を追うと、ある店の前で腰を屈める一人の老人が。
右足首を抑えているから捻ったのだろう。
「じいちゃん、大丈夫?」
カイが話しかければ、驚いたのか老人は一瞬体を震わせる。そんな老人に構うことなく二人はキョロキョロと辺りを見渡す。
「誰かと一緒ではないのですか?」
「あ、あぁ、わし一人じゃ」
「じいちゃん足捻った? 歩ける?」
いや……。首を振る老人に、大丈夫ですよ。とソラは笑い、老人の右足首に手を当てると、一瞬手が光り輝き、老人は目を見開く。
「お嬢ちゃんは魔法が使えるのか……?」
「ちょっとだけです、家はどこですか? 送っていきますよ」
いや、大丈夫じゃよ。そう言う老人に無理矢理ついていき、老人が泊まっているという宿に着いた後ソラはもう一度魔法を掛け、右足首の痛みを消す。
「痛いのを消しただけなので、ちゃんと冷やしてくださいね」
「あ、氷足りねぇや。作るかー」
カイが桶の前に手を翳し、光ったと思えば氷の山が出来ている。
そんな光景をみて老人は再び目を見開いたかと思えば、ニヤリと笑う。とてもいいものを、面白いものを玩具を見つけた子供の様に目を輝かせながら。
「すまんのぉ、こんな見ず知らずのじじいの面倒を見てもらって…
…」
「いいよ、俺らがしたくてしてるだけだし」
「でもそろそろ帰らないとお母さんが心配してると思う」
「え、もうそんな時間?!」
ソラが部屋にある時計を指さし、カイがその方へ顔を向ける。
「遊びに行くのはいいけど、この時間までにはお母さんの所に帰ってきなさい」とお母さんとの約束第四条で決められている時間まで、あと十分。
約束を守らなかったらどうなるか、身をもって知っている二人は、怒られた時のことを思い出したのだろう、小さく悲鳴を上げる。
「やべ、帰るぞソラ!」
「じゃお爺さん、ちゃんと冷やしてくださいね」
「お? おお! ちょっと待つんじゃ! まだお礼をしておらん!
!」
待つんじゃ!! ベットの上で声を上げる老人に「いらないよそんなもん!」と叫ぶカイはその場で足踏み。
ソラも「いらないですよ」と笑うが、老人は首を横に振り自分の手首に付けていたシルバーのバングルを外したかと思えば、どうやったのか一つだったバングルが二つに増えている。
「これを身に着けておけば、あとでいい事が起こる」
いい事って? 不思議そうに首を傾げるカイとソラだったが、時間を告げる鐘の音にハッと自分たちの置かれた状況を思い出し、受け取ったお礼もそこそこに二人は走り出した。
そんな二人を窓から見送り、老人はニヤリと笑う。
「色ボケ息子の後を継がせるにはいい子たちだわい……さて、」
老人は懐から魔方陣が描かれた紙を出し、紙に向かって『帰宅』と呟けば、視界が安っぽい宿屋から見慣れた書斎へと変わる。
急な老人の登場にさして驚くこともなく、机で仕事をこなす男に視線を向け、老人は溜め息をはいた。
「アエスタース」
「……なんでしょうか、元国王陛下」
手に持つ書類に目を向けながら返事をする男、アエスタース・カエルレウス・アルボル、太陽の国現国王である。
その顔立ちは世界中の女性が放っておくはずがないという言葉通り整っている。太陽の国王族の特徴であるプラチナブロンドの髪がその美しさを強調させ、赤い瞳は宝石のよう。
勇者と共に魔王討伐に行ったことから、服の下に隠れている身体もしなやかで、無駄がなく彫像のよう。魔力も勇者と同等の力を持っている。と城のメイド達、貴族の女達が黄色い声を上げる。
結論から言えば、全てを兼ね備えたイケメンだ。
しかし、よく見ると長く伸ばされたプラチナブロンドの髪に光沢はなく、適当に後ろで一つに束ねられている。宝石と称えられた赤い瞳に光は無く、坦々と紙に書かれた文字を追っている姿は……草臥れた、ただの男。
黒のシャツ、黒のズボンを着ているせいか、喪に服しているようにしか見えない。
「アエスタース、お前本当にいいのじゃな?」
「いいも何も、八年間此処に縛りつけたのは貴方でしょう?」
そうじゃったな。苦笑する老人もとい、元国王カンケル・カエルレウス・アルボル。アエスタースの父であり、魔王討伐を勇者に命じた張本人である。
今でこそ好々爺と呼ばれ、自慢だったプラチナブロンドの髪はくすんでいるが、赤い瞳だけは昔のまま強い光を放っている。
そんな元国王の悩みは、息子が愛した女を追いかけようとしていること。
いや、追いかけようとしていた所を八年前、カンケル自ら止めた。魔王が滅び世界が平和になったとしても、国は安定していないからと……。
それも今年の平和祭で終わりだと、アエスタースは微笑む。八年間太陽の国のため休まず働いてきた。
やっと、追いかけることができる。死者となりこの世にいないとわかっていても、追いかけなくてはならないのだ。
「俺の後は貴方が適当に決めればいい、誰がなったとしても崩れな
い基礎は作ってありますので」
「あぁ、その件じゃがな」
さっき決めてきた。次期国王を選んだという事をケロリと話すカンケルにアエスタースは「そうですか」と軽く返事をし、手元の書類に判を押していく。
「なんじゃ、次期国王の事は気にならんのか?」
「どうでもいいですね」
「我が息子は冷めておるの……まぁいい、では呼んでみようか」
カンケルはポキポキと指を鳴らし、右手の平を床と平行になるように構え、呪文を唱える。
召喚という魔力の多い人又は大人数でしか使うことの出来ない魔法だが、召喚する対象に目印を付けておくことで、魔力の消費を抑えることができる。
カンケルも魔力はそれほど多くはないので、目印をつけなければ使うことは出来ない。
目印をつけたということは、相手も王になることを了承しているのだろう。アエスタースは興味が失せたのか視線を再び書類へと戻した。
魔法陣が床に描き浮かび、赤く光輝いた。その中心に現れたのは、大男でもなく、美しい男でもなく、貴族でもなく、この国の将軍でもない……小さな影が二つ。
「じいちゃんを助け、て、……あれ?」
「ちゃんと宿まで送り届けてきまし、た、……え?」
聞こえた幼い声にアエスタースは「まさか子供を選んだのか」と顔を顰め、視線を上げた。
海のような青い髪の頭が二つ、空のような青い瞳が四つ。どちらも見慣れない色合いだが、その小さな姿に見覚えがあり……息を飲んだ。
髪、瞳の色は全く違うが、アエスタースの幼い頃の姿にとてもよく似ている。
髪、瞳の色は全く違うが、愛した女の面影がある。
ツーっと、アエスタースの頬に一筋の涙が伝った。
そんなアエスタースにギョッと、未知のものを恐ろしいものをみたという目で見るのはカンケルのみ。
幼い男の子と女の子は急に知らないところへ召喚されたせいか、落ち着きなく辺りをキョロキョロと見渡し、恐る恐る女の子が声をかけてきた。
「……あの、ここは」
「……お城の中ですよ、お嬢さん。この老人がお二人に会いたいと
騒ぐものでこちらから召喚させていただきました。親御さんには私
がお話しいたしますので、安心して」
声を掛けようとしたカンケルの口を魔法で閉じたアエスタースは、興味が無い姿から一転して笑顔で二人に話しかける。
いや、安心できねーから。男の子のツッコミをアエスタースはさらりと受け流し、頬に残った涙を手でぬぐう。
そして、男の子女の子と視線を合わす様に床に膝をつき微笑む姿は……八年前、勇者と凱旋帰国した時の雰囲気とよく似ていて瞳に光が戻っていた。
そんなアエスタースの変化に気づき、「これはイカン!」と焦っているカンケルなのだが、息子の魔法に打ち勝てるはずもなく口をもごもごさせているだけ。
「俺の名前はアエスタース、君たちの親御さんのお名前は?」
「何で親の名前なの、ねぇ。」
普通俺らの名前聞くよね!? 男の子のツッコミを再びさらりと受け流したアエスタースはくすっと笑った。
二人の母親の名前がアエスタースの思っている人物ならば、この二人の名付け親はアエスタースでもあるのだ。
「とある国の言葉で海と書いてカイ、空と書いてソラ。カイ、ソラ、君たちのお母さんの名前は?」
ねぇ? と微笑むアエスタースに問われ、カイとソラは無意識に身構えた。
(なんかこいつやばい!)
危険を感じた二人は顔を見合わせ、頷き、二人同時に両手を前に突き出し言い放つ。
『風よ、我契約の名の元に命ずる、転移!!』
二人の声に呼応するように赤い魔方陣が光輝きながら一面絨毯の床に展開され、勢いよく風が起こった。転移の魔法は使える者はごくわずか、いや、たった二人だけしか使えなかった筈と言ってもいいだろう。
転移という魔法は魔力の消費量が半端なく多く、風の精霊と契約を交わし、尚且つ難解な魔方陣を描き表せねばならないという魔法。
最初の二つの条件をクリアしたとしても、魔方陣を瞬時に描くのは難しく、戦闘中なら尚更難しいことこの上ない。魔方陣を紙に描いておき使うことも可能だが、まず魔方陣を描ける者が少ないのだ。
ということで、普及もせず、魔法書という魔法使い達の教科書にすら載っていない珍しい魔法。
そんな難しい魔法をケロリとした顔で使えるのは、国王アエスタースと、魔王を倒し世界に平和をもたらした勇者アオのみ。
だった、筈だった。
『大風よ、我契約の名の元に命ずる、止めよ』
凛とした声と同時に吹き荒れていた風が止まり、暴れていた部屋のカーテンもゆっくりと動きを止めた。
声のした方へアエスタースは視線を向けて、極上の微笑を浮かべる。
(あぁ、やっぱり)
生きていたんだね、君は―――――――。
凛とした声を裏切らない空のような瞳がアエスタース睨み付け、窓からヒラリと飛び降りるのは海のような青い髪色をした女。
女はアエスタースを睨み付けたままカイとソラに手を伸ばし、二人を引き寄せ抱きしめる。
「ごめん、遅くなった」
「お、かあさん?!」
「お母さん駄目! こいつなんかやばい!!」
早く逃げよう!! 叫ぶ二人にナツは「逃げれるもんならねー」と力なく呟き、再びアエスタースを睨み付けた。そんな女にアエスタースは苦笑する。
「アオ、久しぶり」
「どなたとお間違いになっているのでは?」
「カイとソラを強制召喚したことは謝るよ、うちの馬鹿親父が二人を気に入ってね、王位を二人に渡そうと思って呼び出したんだよ」
「……何を勘違いなさっているのかわかりませんが、私どもは海の
国の者。お戯れは国を傾けることになりますよ、国王陛下」
「アオ、おいで」
「……」
「その子達は、俺の子でしょう? 俺にも子供とその子を産んでく
れた妻の面倒をみる権利はある筈だ」
「そんなに似ているのですか? しかし私どもは初めてこの国に来
たばかりでして、ましてや平民の身で国王陛下にお目見えするなど有り得るはずがございません」
「……アオ?」
アエスタースを見つめるナツ瞳は感情の揺れがない、ただ冷めた瞳で坦々としている。
ナツはソラとカイの耳を塞いだ。二人にも「耳を塞ぎなさい」といいながら。
「私はアオという名ではありません、国王陛下。それにこの子たち
の父親は第八次魔勇大戦の時に死んでいます」
「……死んだとは?」
「勇者軍にいたのです、そして死にました。海の国の民の多くは勇
者軍に身を置いていたのは勇者様と共にいた陛下もご存知でしょう。
それに貴方様の子でしたら髪は銀色の筈、この子たちの髪は海の国
の民の色です、私も夫も海の国の民ですから当たり前で、……っ!」
いつの間にかアエスタースの整った顔がナツの目の前に。
離れようと後ずさるが遅く、ナツとアエスタースの唇と唇が触れあったと思えばアエスタースはナツの首にあった赤い石のついたチョーカーに手を当て『砂となれ』と唱えた。
ナツが「やばい」と声を上げると同時にチョーカーが砂となり、海の底のような色の髪から、魔族を表しすべてを飲み込む漆黒の闇色の髪と、夜空を思わす瞳へと変化した。
後ろの方でカンケルが声を上げた、ソラとカイも「えっ!?」と母親の姿に声をあげるが、アエスタースは驚くどころか、笑みを深くし、ナツの腰を抱き寄せ、その黒い髪に愛おしそうに口づけた。
「一発で双子ができたんだ、一日中ヤってたら何人できるかな?」
「くたばれ変態!!」
――――――――太陽の国、と聞けば誰しもがこう答えるだろう。
『美しい黒髪、黒い瞳の王妃にベタ惚れの王が治める大国』と。
『麗しく、強く、賢い王が治める、美しい大国』と。
*
そんな太陽の国は今日から一週間、平和祭という祭が始まる。
この祭は、現国王アエスタース・カエルレウス・アルボルが、王子時代に勇者アオと共に魔王を倒し、凱旋帰国した日を平和が始まった日として定めたものである。
今や大人から子供まで、一年に一度の祭を楽しみにしている。他国からは王族、貴族、商人から旅人、竜族などの種族の違う者達も太陽の国へと訪れ、魔王の居ない平和な世界、祭を堪能していくのだ。
所変わって、太陽の国のとある宿屋。
「はい、ここでおさらいするわよ。太陽の国の王様は?」
「アエスタール・カエルレウス・アルボル!」
「ルじゃないよ、スだよ。アエスタースだよ」
あれ、そだっけ? 解答の間違いに首を傾げお道化る男の子、そんな男の子に呆れ溜息を吐く女の子に問題を出した女はクスクスと笑い、そんな三人を見守っていた女はケラケラ笑う。
「まぁ、覚えなくても大丈夫だから王族とは仕事しないし」
「あら、一般常識としては必要だと思うわよ?」
この大陸で一番の大国の名前くらい憶えていないと! 先ほどの上品にクスクス笑っていた姿はどこへやら。目をカッ! と大きく開き力説するのはラクリマ・スタンヌムというここの宿屋の女主人である。
そんなラクリマに「えー」と不服そうに顔を顰め、お茶を啜るのはナツという薬師。
「そうだよお母さん、一般常識は覚えておいて損はないよ」
「うん、でも王族の名前ってくそなげーよね、なんで?」
「知らない」
えーえぇ? 答えになってねーよーと騒ぐ男の子はカイという。
「知らないものは知らないよ」とコップを両手に持ちお茶を啜る女
の子はソラという。
二人とも海の底を想像させるような髪の色をしており、瞳は空のような青色、ナツの髪も瞳も同じ色だ。
対してラクリマは蜂蜜色の髪、瞳も同じ蜂蜜色。太陽の国出身に見られる特徴で、ナツは海の国出身に見られる特徴だ。カイとソラは母親のナツに似たということになる。
他にも砂漠の国や、雨の国、火の国など国ごとに髪や瞳、身体の特徴が変わってくるのだが長くなるので今回は置いておくことにする。
「お母さん、外行っていい?」
「あ、ずりぃ俺もいく!」
いいよ、行ってきなーとナツが返事をすれば、勢いよく外へと駆け出していくカイとソラ。
お祭りだし、お小遣いをもう少し持たせておくべきだったかな。と思いながらナツは再びお茶を啜る。
そんなナツの思考を読んだのか、「さっき私からお小遣い上げたから当分戻ってこないわ」クスクス笑い、ナツの持つコップにラクリマは慣れた手つきでお茶を注いだ。
「ごめん、払うよ」
「いいわよ、親友の可愛い子供達の為だもの……にしても、大きく
なったわね」
「もう八歳だからね、この間までハイハイしてたと思ったのにさー」
「子供ってのはそんなものよ、で? どうして戻ってきたの?」
ラクリマの問いかけにナツはうぅん、と唸り、コップを机の上に置いた。
「あの子達に一応見せておかなきゃいけないかなー、とか思って」
「父親を?」
「うん、二人とも頭いいし歳相応じゃない言動をするから何となく
は気が付いているとは思うけど……」
仕事で太陽の国に来なきゃ行けなかったし、平和祭で人も多いから隠れながら見るには丁度いいかなーと思ったのは、ただの建前だ。
本当は気になっていた。
目の前から消えて八年。カイとソラには死んだと伝えている父親のことが。
あちらもあたしの事は死んだと思っているだろう、そう思うようにあたしが仕向けたのだから当たり前だけど。
「カイ君はさておき、ソラちゃんは頭もいいし冷静沈着よね、八歳
にみえないわ」
「カイはわざとお道化てるだけ、ソラは父親に似たみたい……あー
もう、何も考えないで寝ていたい」
カウンターテーブルに突っすナツに、「仕事は? 仕事」とナツの頭を叩くラクリマ。
「ここに来る前に納品してきたからもう何もない、寝る、眠い、家
に帰って篭る」
「来たばっかで何言ってるのよ。カイ君もソラちゃんもお母さんと
遊びたいと思うけど?」
「大丈夫、明日一日かけて出店を回る約束してる。誕生日にまとも
に祝ってあげられなかったから贅沢させてあげるつもりー……あ、
ケーキ美味しい店教えて」
「うちで誕生日パーティーやればいいじゃない、リュンが張り切っ
てたわ、懐かしい糖分仲間が来たって」
「リュンクスのアップルパイは美味いよね……あー眠いお、無理、
寝るお……」
「はいはい、寝るのはいいけどベットで寝なさい、親の威厳を保つ
ためにね」
「威厳もクソもないよもう……二人が帰ってきたら起こしてね、あ
とパーティーに関しては夜になったら詳しく話す」
「はいはい、」
席を立ち、荷物が置いてある部屋へとフラフラしながら向かうナツの背中を見送り、ラクリマは一つ息を吐いた。
何故あの男はナツを追いかけないのだろうか。
あれだけ愛を囁き、一生を捧げると誓っていた男は何をやっているのか問いただして、急所を蹴り飛ばしたい位だ。そんなことをしたら不敬罪で捕まるかもしれない、その前にお目にかかることはないと思うが。
どんな結果であれ親友が幸せなら、それでいいか。
ラクリマは腰に手を当て再び息を吐きだしたあと、夕飯の下ごしらえを始めようと厨房へと向かった。
*
「リンゴ飴と綿あめ……」
「俺がリンゴ買うから、ソラは綿あめにすればいーよ」
「じゃ、あとでカイが欲しいのを半分こして買う」
「おう!」
はぐれない様に手を繋ぐのはお母さんとの約束第三条の為。
大国と言われるだけあって色んな国から訪れている人も多い、海の国以外では目立ってしまう髪の毛と瞳の色を気にする人は居らずカイとソラは久しぶりに楽しく外を歩く。
「何でお母さんはこんないい国を避けてたんだろーな?」
「さぁ? でもお母さんが嫌なら私はそれに従うよ。お母さんは理
由なく嫌うことはしないからね」
「俺もそう思う、けど気になる」
「あとで聞けばいいと思うよ? 教えてくれるかは分からないけど」
「だよなー」
沢山の人の中に紛れて街の中を歩くカイとソラ。ナツに連れられ色んな国を見て周ってきたが、太陽の国は別格だ。
人々の活気のある声、裏通りまで整備されている道路に衛生管理。
八年前の状態を知っている者ならばよくぞここまで!と大声でいうだろう。
そんな街の中央にドンッと佇むのは、今まで見たこともないほどに大きくも美しく、凛と佇んでいる真っ白な城。そんな城の門の前に辿りついたカイとソラは、口を大きく開け、カイに至っては持っていた綿あめの袋を地面へと落とした。
「……白い」
「……海の国もここまでじゃねーよな」
「入ったら迷う気がする」
「うん、わかるわそれ」
二人は顔を見合わせ頷くと、身体の向きを変え、母親のいる宿屋に向かって歩きだそうと二人同時に一歩踏み込んだ、が。カイがあるものに気づいき、構えを解いた。
そして急に駆け出したのでソラは慌ててカイの後を追うと、ある店の前で腰を屈める一人の老人が。
右足首を抑えているから捻ったのだろう。
「じいちゃん、大丈夫?」
カイが話しかければ、驚いたのか老人は一瞬体を震わせる。そんな老人に構うことなく二人はキョロキョロと辺りを見渡す。
「誰かと一緒ではないのですか?」
「あ、あぁ、わし一人じゃ」
「じいちゃん足捻った? 歩ける?」
いや……。首を振る老人に、大丈夫ですよ。とソラは笑い、老人の右足首に手を当てると、一瞬手が光り輝き、老人は目を見開く。
「お嬢ちゃんは魔法が使えるのか……?」
「ちょっとだけです、家はどこですか? 送っていきますよ」
いや、大丈夫じゃよ。そう言う老人に無理矢理ついていき、老人が泊まっているという宿に着いた後ソラはもう一度魔法を掛け、右足首の痛みを消す。
「痛いのを消しただけなので、ちゃんと冷やしてくださいね」
「あ、氷足りねぇや。作るかー」
カイが桶の前に手を翳し、光ったと思えば氷の山が出来ている。
そんな光景をみて老人は再び目を見開いたかと思えば、ニヤリと笑う。とてもいいものを、面白いものを玩具を見つけた子供の様に目を輝かせながら。
「すまんのぉ、こんな見ず知らずのじじいの面倒を見てもらって…
…」
「いいよ、俺らがしたくてしてるだけだし」
「でもそろそろ帰らないとお母さんが心配してると思う」
「え、もうそんな時間?!」
ソラが部屋にある時計を指さし、カイがその方へ顔を向ける。
「遊びに行くのはいいけど、この時間までにはお母さんの所に帰ってきなさい」とお母さんとの約束第四条で決められている時間まで、あと十分。
約束を守らなかったらどうなるか、身をもって知っている二人は、怒られた時のことを思い出したのだろう、小さく悲鳴を上げる。
「やべ、帰るぞソラ!」
「じゃお爺さん、ちゃんと冷やしてくださいね」
「お? おお! ちょっと待つんじゃ! まだお礼をしておらん!
!」
待つんじゃ!! ベットの上で声を上げる老人に「いらないよそんなもん!」と叫ぶカイはその場で足踏み。
ソラも「いらないですよ」と笑うが、老人は首を横に振り自分の手首に付けていたシルバーのバングルを外したかと思えば、どうやったのか一つだったバングルが二つに増えている。
「これを身に着けておけば、あとでいい事が起こる」
いい事って? 不思議そうに首を傾げるカイとソラだったが、時間を告げる鐘の音にハッと自分たちの置かれた状況を思い出し、受け取ったお礼もそこそこに二人は走り出した。
そんな二人を窓から見送り、老人はニヤリと笑う。
「色ボケ息子の後を継がせるにはいい子たちだわい……さて、」
老人は懐から魔方陣が描かれた紙を出し、紙に向かって『帰宅』と呟けば、視界が安っぽい宿屋から見慣れた書斎へと変わる。
急な老人の登場にさして驚くこともなく、机で仕事をこなす男に視線を向け、老人は溜め息をはいた。
「アエスタース」
「……なんでしょうか、元国王陛下」
手に持つ書類に目を向けながら返事をする男、アエスタース・カエルレウス・アルボル、太陽の国現国王である。
その顔立ちは世界中の女性が放っておくはずがないという言葉通り整っている。太陽の国王族の特徴であるプラチナブロンドの髪がその美しさを強調させ、赤い瞳は宝石のよう。
勇者と共に魔王討伐に行ったことから、服の下に隠れている身体もしなやかで、無駄がなく彫像のよう。魔力も勇者と同等の力を持っている。と城のメイド達、貴族の女達が黄色い声を上げる。
結論から言えば、全てを兼ね備えたイケメンだ。
しかし、よく見ると長く伸ばされたプラチナブロンドの髪に光沢はなく、適当に後ろで一つに束ねられている。宝石と称えられた赤い瞳に光は無く、坦々と紙に書かれた文字を追っている姿は……草臥れた、ただの男。
黒のシャツ、黒のズボンを着ているせいか、喪に服しているようにしか見えない。
「アエスタース、お前本当にいいのじゃな?」
「いいも何も、八年間此処に縛りつけたのは貴方でしょう?」
そうじゃったな。苦笑する老人もとい、元国王カンケル・カエルレウス・アルボル。アエスタースの父であり、魔王討伐を勇者に命じた張本人である。
今でこそ好々爺と呼ばれ、自慢だったプラチナブロンドの髪はくすんでいるが、赤い瞳だけは昔のまま強い光を放っている。
そんな元国王の悩みは、息子が愛した女を追いかけようとしていること。
いや、追いかけようとしていた所を八年前、カンケル自ら止めた。魔王が滅び世界が平和になったとしても、国は安定していないからと……。
それも今年の平和祭で終わりだと、アエスタースは微笑む。八年間太陽の国のため休まず働いてきた。
やっと、追いかけることができる。死者となりこの世にいないとわかっていても、追いかけなくてはならないのだ。
「俺の後は貴方が適当に決めればいい、誰がなったとしても崩れな
い基礎は作ってありますので」
「あぁ、その件じゃがな」
さっき決めてきた。次期国王を選んだという事をケロリと話すカンケルにアエスタースは「そうですか」と軽く返事をし、手元の書類に判を押していく。
「なんじゃ、次期国王の事は気にならんのか?」
「どうでもいいですね」
「我が息子は冷めておるの……まぁいい、では呼んでみようか」
カンケルはポキポキと指を鳴らし、右手の平を床と平行になるように構え、呪文を唱える。
召喚という魔力の多い人又は大人数でしか使うことの出来ない魔法だが、召喚する対象に目印を付けておくことで、魔力の消費を抑えることができる。
カンケルも魔力はそれほど多くはないので、目印をつけなければ使うことは出来ない。
目印をつけたということは、相手も王になることを了承しているのだろう。アエスタースは興味が失せたのか視線を再び書類へと戻した。
魔法陣が床に描き浮かび、赤く光輝いた。その中心に現れたのは、大男でもなく、美しい男でもなく、貴族でもなく、この国の将軍でもない……小さな影が二つ。
「じいちゃんを助け、て、……あれ?」
「ちゃんと宿まで送り届けてきまし、た、……え?」
聞こえた幼い声にアエスタースは「まさか子供を選んだのか」と顔を顰め、視線を上げた。
海のような青い髪の頭が二つ、空のような青い瞳が四つ。どちらも見慣れない色合いだが、その小さな姿に見覚えがあり……息を飲んだ。
髪、瞳の色は全く違うが、アエスタースの幼い頃の姿にとてもよく似ている。
髪、瞳の色は全く違うが、愛した女の面影がある。
ツーっと、アエスタースの頬に一筋の涙が伝った。
そんなアエスタースにギョッと、未知のものを恐ろしいものをみたという目で見るのはカンケルのみ。
幼い男の子と女の子は急に知らないところへ召喚されたせいか、落ち着きなく辺りをキョロキョロと見渡し、恐る恐る女の子が声をかけてきた。
「……あの、ここは」
「……お城の中ですよ、お嬢さん。この老人がお二人に会いたいと
騒ぐものでこちらから召喚させていただきました。親御さんには私
がお話しいたしますので、安心して」
声を掛けようとしたカンケルの口を魔法で閉じたアエスタースは、興味が無い姿から一転して笑顔で二人に話しかける。
いや、安心できねーから。男の子のツッコミをアエスタースはさらりと受け流し、頬に残った涙を手でぬぐう。
そして、男の子女の子と視線を合わす様に床に膝をつき微笑む姿は……八年前、勇者と凱旋帰国した時の雰囲気とよく似ていて瞳に光が戻っていた。
そんなアエスタースの変化に気づき、「これはイカン!」と焦っているカンケルなのだが、息子の魔法に打ち勝てるはずもなく口をもごもごさせているだけ。
「俺の名前はアエスタース、君たちの親御さんのお名前は?」
「何で親の名前なの、ねぇ。」
普通俺らの名前聞くよね!? 男の子のツッコミを再びさらりと受け流したアエスタースはくすっと笑った。
二人の母親の名前がアエスタースの思っている人物ならば、この二人の名付け親はアエスタースでもあるのだ。
「とある国の言葉で海と書いてカイ、空と書いてソラ。カイ、ソラ、君たちのお母さんの名前は?」
ねぇ? と微笑むアエスタースに問われ、カイとソラは無意識に身構えた。
(なんかこいつやばい!)
危険を感じた二人は顔を見合わせ、頷き、二人同時に両手を前に突き出し言い放つ。
『風よ、我契約の名の元に命ずる、転移!!』
二人の声に呼応するように赤い魔方陣が光輝きながら一面絨毯の床に展開され、勢いよく風が起こった。転移の魔法は使える者はごくわずか、いや、たった二人だけしか使えなかった筈と言ってもいいだろう。
転移という魔法は魔力の消費量が半端なく多く、風の精霊と契約を交わし、尚且つ難解な魔方陣を描き表せねばならないという魔法。
最初の二つの条件をクリアしたとしても、魔方陣を瞬時に描くのは難しく、戦闘中なら尚更難しいことこの上ない。魔方陣を紙に描いておき使うことも可能だが、まず魔方陣を描ける者が少ないのだ。
ということで、普及もせず、魔法書という魔法使い達の教科書にすら載っていない珍しい魔法。
そんな難しい魔法をケロリとした顔で使えるのは、国王アエスタースと、魔王を倒し世界に平和をもたらした勇者アオのみ。
だった、筈だった。
『大風よ、我契約の名の元に命ずる、止めよ』
凛とした声と同時に吹き荒れていた風が止まり、暴れていた部屋のカーテンもゆっくりと動きを止めた。
声のした方へアエスタースは視線を向けて、極上の微笑を浮かべる。
(あぁ、やっぱり)
生きていたんだね、君は―――――――。
凛とした声を裏切らない空のような瞳がアエスタース睨み付け、窓からヒラリと飛び降りるのは海のような青い髪色をした女。
女はアエスタースを睨み付けたままカイとソラに手を伸ばし、二人を引き寄せ抱きしめる。
「ごめん、遅くなった」
「お、かあさん?!」
「お母さん駄目! こいつなんかやばい!!」
早く逃げよう!! 叫ぶ二人にナツは「逃げれるもんならねー」と力なく呟き、再びアエスタースを睨み付けた。そんな女にアエスタースは苦笑する。
「アオ、久しぶり」
「どなたとお間違いになっているのでは?」
「カイとソラを強制召喚したことは謝るよ、うちの馬鹿親父が二人を気に入ってね、王位を二人に渡そうと思って呼び出したんだよ」
「……何を勘違いなさっているのかわかりませんが、私どもは海の
国の者。お戯れは国を傾けることになりますよ、国王陛下」
「アオ、おいで」
「……」
「その子達は、俺の子でしょう? 俺にも子供とその子を産んでく
れた妻の面倒をみる権利はある筈だ」
「そんなに似ているのですか? しかし私どもは初めてこの国に来
たばかりでして、ましてや平民の身で国王陛下にお目見えするなど有り得るはずがございません」
「……アオ?」
アエスタースを見つめるナツ瞳は感情の揺れがない、ただ冷めた瞳で坦々としている。
ナツはソラとカイの耳を塞いだ。二人にも「耳を塞ぎなさい」といいながら。
「私はアオという名ではありません、国王陛下。それにこの子たち
の父親は第八次魔勇大戦の時に死んでいます」
「……死んだとは?」
「勇者軍にいたのです、そして死にました。海の国の民の多くは勇
者軍に身を置いていたのは勇者様と共にいた陛下もご存知でしょう。
それに貴方様の子でしたら髪は銀色の筈、この子たちの髪は海の国
の民の色です、私も夫も海の国の民ですから当たり前で、……っ!」
いつの間にかアエスタースの整った顔がナツの目の前に。
離れようと後ずさるが遅く、ナツとアエスタースの唇と唇が触れあったと思えばアエスタースはナツの首にあった赤い石のついたチョーカーに手を当て『砂となれ』と唱えた。
ナツが「やばい」と声を上げると同時にチョーカーが砂となり、海の底のような色の髪から、魔族を表しすべてを飲み込む漆黒の闇色の髪と、夜空を思わす瞳へと変化した。
後ろの方でカンケルが声を上げた、ソラとカイも「えっ!?」と母親の姿に声をあげるが、アエスタースは驚くどころか、笑みを深くし、ナツの腰を抱き寄せ、その黒い髪に愛おしそうに口づけた。
「一発で双子ができたんだ、一日中ヤってたら何人できるかな?」
「くたばれ変態!!」
――――――――太陽の国、と聞けば誰しもがこう答えるだろう。
『美しい黒髪、黒い瞳の王妃にベタ惚れの王が治める大国』と。
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