ヴァンパイアと聖女様

刹那

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第5話

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「出ろ。」

そう言われ、リリアナはフラつきながらもゆっくりと立ち上がるが、遅いと1人の騎士がリリアナの枯れ木のような手を捻り上げ処刑台へと引っ張られ、処刑台の上の十字架にくくりつけられる。ヴィルガーが座っている玉座を見れば隣にはリズ、後ろにはお父様達がこちらを見ていた。その目は、憎悪そのものでリリアナを鋭く睨みつけている。しかし、その憎悪の中にひとつだけ違う視線があった。それはリズ、幸福そうにこちらを見て微笑んでいるのだ。

そこで、初めてリリアナは気づいた。
自分が妹であるリズにはめられ、自分に死んでほしいとさえ思っていたことを。

なぜ、リズが私をはめようと思ったのかわからない。血は繋がっていなかったが本当の姉妹だと思っていた。そう思っていたのが自分1人だったのだと思い知らされた。

「罪人、最後に言い残すことはないか。」とヴィルガーがとう。

もう、名前すら読んでくださらないのですね。ヴィー様。
主様、お母様、少しだけ、お力をお貸してください。

リリアナはお腹に力を入れ堂々と前を見据え、辺りを見渡し、そして、最後にヴィルガーを見つめ口を開く。

「私は無実です。」

「まだ言うか。」とヴィルガーが睨む。

「…はい。何度だって言います。私は無実です。」

「…もういい!火をくべろ!罪人を燃やせ!」というヴィルガーの怒鳴り声で騎士がリリアナの下の木に火をくべる。

油を染み込ませているのか火の回りが早い。

熱い…、お母様、私も…そちらへ行きますね。

「ヴィルガー様、お父様、義母様、リズ、国民の皆様。私は本当に幸せものでした。愛しています。この国を、皆様を。」

こんな、酷い仕打ちを受けても、なお、リリアナはこの国を皆んなを愛していた。

リリアナは美しく、微笑む。
ヴィルガーが苦しそうに頭をかけるが、もう、リリアナには見えていなかった。

『…死ぬのなら、その体、俺がもらおう。』とリリアナの頭の中で男の声が響いた時、急に体が浮き、痛みも熱もなくなった。
目を恐る恐る開けると、火は消え、リリアナの目の前に黒い衣服に身を包んだ男が立っていた。

キレイ…。

リリアナは声にならない声でそう呟いていた。

その男は無表情でリリアナを見つめる。

酷く美しい人だ。

容貌もまるで芸術のように美しいが、何よりその瞳が美しいとリリアナは思った。

「…あなた様は?」とリリアナが聞けば「ただの吸血鬼ヴァンパイアだ。」と答えた。吸血鬼ヴァンパイアはリリアナの拘束をいとも簡単にとくと軽々とリリアナを抱き上げバサッと真っ黒な羽を広げちゅうを浮く。

黒がとても似合う人だなぁと吸血鬼ヴァンパイアを見つめる。

吸血鬼ヴァンパイアごときが罪人の手助けをするとは!今すぐ、あの2人を殺してしまえ!」とヴィルガーの怒鳴り声が響く。

リリアナはその声によりようやく現実に戻って来た。

「愚かだな…、その女の術も解けん人間ごときが俺に敵うはずもないだろう。」と馬鹿にしたように吸血鬼ヴァンパイア  は笑う。

ジュツ…?

「…吸血鬼ヴァンパイア様、術とはどう言うことですか?術という事は解けば、みんなが元に戻るのですか?」と詰め寄れば、めんどくさそうに眉間にしわを寄せる。
「…どう言う状況かわかっていないようだな。少し黙って見ていろ。」とリリアナの首に手を当てる。すると、いくら話そうとしても声がでないのだ。

「…ヴィルガー様!早くあの吸血鬼ヴァンパイアを殺してくださいませ!」とヴィルガーの腕を掴みリズはガタガタ震えている。
ヴィルガーは「あぁ。」とリズの頭を撫でる。

それをみて、リリアナは胸がチクリと痛みおさえる。
それを見た、吸血鬼ヴァンパイア  は気に入らないと言いたげに眉をより一層寄せる。

「あの化け物を殺せ!」

ヴィルガーが合図した瞬間騎士達は吸血鬼ヴァンパイアに襲いかかる。

やめてください!

「ん~~~~!」

声が出ず、リリアナは吸血鬼ヴァンパイアを庇いように抱きしめ、とっさに目を瞑り衝撃を待ったが一向に衝撃は来ない。ゆっくりと目を開ければ、そこは、地獄絵図とかしていた。騎士達は首、足、手をはねられ血の海とかしていた。
リリアナはその光景に顔を真っ青にする。

なんてことを…。

ガタガタ震える体を抑える。
しかし、体の震えは一向に止まる気配がない。

「何をそんなに怯える。お前を殺すとしたものが死んだだけだろう。」

その瞳は本当に訳がわからないと言いたげだった。

「んんーーー、!!」

「あぁ、そうだったな。」と吸血鬼ヴァンパイアはリリアナの首にまた手を当てる。

「んーー、あっ!」

声が!

「…吸血鬼ヴァンパイア様、どうして殺める必要があるのですか?!」と頬を流れる涙も気にならないほど取り乱す。
「…うるさい。」と睨みつけ、今度はヴィルガー達に手を掲げる。

吸血鬼ヴァンパイア様!お願いします。殺さないでください!」

吸血鬼ヴァンパイア  はリリアナを睨むように見つめるが、リリアナは臆することなく吸血鬼ヴァンパイア  を見つめる。
「はぁー。」とため息をつくと何か小さな声で唱え始めた。
すると、リズの足元に青白く光る陣が現れた。
「…あの女から魔力をなくすだけだ。」とリリアナが止める前に説明する。

「ゔぁぁっぁ!」

リズは苦しむように頭を抑える。
リリアナは不安になり吸血鬼ヴァンパイアをみるがその目は殺そうとしている目ではなく。ただただつまらないと言いたげだ。
数分後、リズがゼェゼェと肩で息をし、こちらを睨みつける。

「私に何をしたの!!」

「…魔力をとっただけだ。さほど魔力がなかったにしろ、人間を騙すには十分だからな。」

リズはその言葉を聞き恐る恐る、辺りを見渡す。

皆が頭を抑え座り込んでいる。

リズは「ヴィルガー様…。」と手を伸ばすが「…けがわらしい手で触るな!」とリズの手をはねのけ睨む。
「…そんな。……いや、いやいやいやいや。」とリズは崩れ落ちる。

「取り押せよ。」というヴィルガーの合図でリズが騎士に押さえつけられる。

「…よかった。みんな、元に戻ったのですね。」

「リー!すまない!俺は悪い夢を…。本当にすまない。」とヴィルガーが悔しさと絶望の混じった瞳でリリアナを見つめ、頭を下げる。

「いいのです。ヴィルガー様、リズをよろしくお願いしますね。リズは罪深いことをしました。しかし、それでも主は見捨てたりしません。ヴィルガー様、支えてあげてくださいね。」とリリアナは微笑む。

「リー!どこにもいかないでくれ!」

「ヴィー様、お父様、義母様、リズ、皆さん。お元気で、さようなら。」

吸血鬼ヴァンパイアは指をパチンと鳴らすするとリリアナは吸血鬼ヴァンパイアと消えてしまた。

「…ダメだ!リリアナ!リー!」

ヴィルガーの声はリリアナに届く事はなかった。
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