毒薔薇姫は運命を変える?!

刹那

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二章

~不安と幸せな誕生日~

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「ひま……。」

ひま、すごく暇である。
令嬢としての教育も、勉強も全部終わらせカトレアは図書室で暇を潰していたのだが本も読み終わりする事もなくなってしまった。
カトレアはブラブラと屋敷の中を歩き回る。
おかしい……。
どれだけ歩いても誰にも合わないのだ。
屋敷に誰もいないってことはないでしょう?!
ないよね?!
あ!!

「サラ!もー、誰もいないから心配したわ!サラ一緒に遊びましょうよ。」

「申し訳ありません!今はちょっと忙しいのでガイと遊んで下さい。」

そう言うと、サラはさっさと消えてしまい、カトレア1人がそこに残された。
まさかの返事だ。サラなら絶対遊んでくれると思ってたのに。

「…………ガイのとこ行こ。」

いたいた。
カトレアはガイを見つけ走っていく。
その時、段差なんてなかったはずの場所で躓いてしまった。
嘘でしょ!何も無いとこで、転けるなんて。
カトレアぎゅっと衝撃に耐えるように目を瞑るが、思ったより痛く無い。むしろ柔らかい?
恐る恐る目を開けるとそこには超絶イケメンの呆れ顔だった。

「まったく、なんで何も無いとこでこけそうになるんですか。」

「あはは。ごめんなさい。」

「笑い事ではありませんよ。」と溜息を吐きながら、カトレアをゆっくりと立たせる。

「そんな事より、ガイ遊ぼ!」

「…申し訳ありません。忙しいので。」

そう言うとガイも何処かへ行ってしまった。
もう意地だ!絶対誰かと遊ぶ!

「アキちゃん!遊ぼ!」

「ごめんなさい。今忙しくって。」

「ハルさん、遊ぼ!」

「すいまへん。今忙しゅうて!ほんま堪忍でっせ。」

「………………。」

忙しい忙しい…って

「なんでみんな忙しいのよー!」

よーよーよー(エコー)

「お嬢様。どうなされたんじゃ?」

「トム爺ィィ!」

カトレアはトム爺に抱きつく。
もう、七十後半だと言うのに見た目よりも随分若く見えるダンディーなおじ様だ。
庭仕事をしているからかしっかり筋肉もついている。

「聞いて!みんな忙しいとか言って遊んでくれないの!」

「そうかそうか、みんな今忙しいからの。お嬢様、薬草を見に行かんかの?」

トム爺はカトレアの薬草作りでの先生だ。分からないことがあるとトム爺と一緒に考えたりする。前もトム爺と一緒に新作の薬草で薬ができた。
トム爺ィィィ。
めっちゃいい人や!

「うんっ!」

薬草いじりをしていたらすっかり夕方になってしまった。

「お嬢様、そろそろ屋敷に戻った方がよかろう。」

「いや……。」

「お嬢様。」

トム爺が困ってるってわかってる。
聞き分けのない子供じみたわがままだってわかってる。
でも…それでも。

「お嬢様、きっとみんな待っていますぞ。」

カトレアは子供のように嫌だと首を振る。

「みんな、私のこと嫌いになっちゃたんだ。」

それがただただ……怖いのだ。

「お嬢様を嫌いになるなどあり得ますまい。お嬢様は人を好きにさせる天才じゃからな。」

「ほら、みんな来ましたぞ。」とトム爺がカトレアの後ろを指差す。
後ろを振り返るとそこには心配そうな顔をした皆んながいた。

「寂しい思いをさせてしまい申し訳ありません。」
「カトレア様、探しましたよ。」
「お嬢様ぁー!」
「お嬢。」

皆んな…。

「寂しかったぁぁぁー。」

カトレアは走りみんなに抱きつく。

「お嬢様、時間がありません!急ぎますね。失礼いたします。」

サラはそう言うとカトレアを抱き上げカトレアの部屋へ走る。
そして、何が起きてるのか分からないままカトレアは体を洗われ髪を結われ綺麗なドレスに着替えさせられた。
あっという間に終わった。
真っ白なドレスに身を包んだカトレアはまるで月の妖精のようだ。

「綺麗です。お嬢様。」

「サラの腕がいいからね。ありがとう。」

そんなことありませんとサラは謙遜するが、サラは本当に優秀だと思う。

「カトレア様、お迎えにあがりました。」

カトレアはドアの方へ振り返るとそこには目を見開いたガイが立っていた。

「………ガイ、へん?」

あまりにも見られるものだからカトレアは不安になり直接ガイに聞いてみる。

「……、いいえ。綺麗です。」

自分がイケメンだと分かって言っているのだろうか。
照れるではないか。

「ありがとう。」

カトレアはガイに屋敷で一番大きいホールにエスコートされた。

「ガイ、ここに何かあるの?」

「…入ってみてのお楽しみです。」

カトレアは気になったが教えてくれそうにない。
ガイが開けてくれ扉の向こうから光が差しカトレアは目を細める。

「「「カトレア(カトレア様、お嬢様)お誕生日おめとう(ございます)。」」」

えっ?!
何?どういうこと?!

「そっか、私、誕生日。」

すっかり忘れてた。

「カトレア、お誕生日おめでとう。大きくなったな。」

「いつも、寂しい思いさせてごめんなさいね。おめでとうカトレア。」

お父様…お母様…。

「ど、どうして、お仕事は大丈夫なんですか?お母様、お身体は?」

「いつも、仕事ばかりですまないな。今日は早く終わらせたから遠慮せず甘えてくれ。」

お父様は優しくカトレアの頭を撫でる。

「最近、体調がいいのよ?今日はカトレアの誕生日だからかしら凄くいいの。」

お母様は優しく微笑みカトレアの手を握りしめる。

「…お父様、お母様、ありがとうございます。」

「皆んなも、お前と話したそうだ。行って来なさい。」

「はい。」

「お嬢様、お誕生日おめでとうございます。」

「サラ、ありがとう。」

サラはポケットから小さな箱を取り出す。

「これは?」

「開けてみてください。」

カトレアはリボンをほどき中身を出す。

「これ…どうやって。」

「取りに行っただけですよ。」

サラがくれたのは光の石と呼ばれる高級な石だ。
この石を一つ取るために10人は死人が出るほどだ。
王族ですら、手にすることが難しいその石を取りに行ったとサラはあっさり言ってのけたのだ。
サラちゃんどうやってとったんですか。
怖すぎて聞けない。

「そ、そうなのね。こんな高価なもの大変だっだてしょありがとう。嬉しいわ。」

「いえ。」

サラは嬉しそうにはにかむ。
この笑顔が見れるならなんだっていいか。

「お嬢様!おめでとうございます!私からはこれです。」

アキは大きなケーキをジャァーンと見せてくれた。
アキは料理長であるハルさんの娘で公爵家のパティシエだ。

「ありがとう!すごく美味しそう!」

「はい。一番最初に食べるのはお嬢様です!」

アキはケーキを食べやすいように切りカトレアに差し出す。
カトレアはそれをひとくち口に入れ溜息をつく。

「美味しい。」

ほっぺたが落っこちそうだ。

「良かったです!お嬢様の大好きなものをいっぱい入れたんです。」

「貴女は自慢のパティシエだわ。」

「お嬢様、俺からはこれです。」

「初心者でもできる料理?」

「お嬢様は料理の見た目が壊滅的ですからなぁ。味わ美味しいんですが。」

ハルさん、失礼じゃないですかね。否定はできないけども!

「ありがとう!できたらハルさんが一番に食べてね。」

ハルは苦笑いをしながら頭をかく。
なんで喜ばないの!失礼ね!
でも、本当にありがとうハルさん。

「お嬢様、儂からはこれじゃ。」

トム爺が差し出したのは球根だった。
しかし、普通の球根とは違い黄色く丸い形をしていた。

「これは、月の光で咲く花じゃよ。五年に一度咲くと言われておるのじゃ。」

「ありがとう!トム爺。」

きっと咲かせるね。

「おめでとう。」

クラウドはぶっきらぼうに箱をカトレアへつき渡す。
カトレアはそれを受け取り箱を開ける。

「な、何がいい分からなかったからな。前、これが欲しいと言っていただろう。」

何も言わないカトレアに不安を覚えクラウドは早口に説明する。

「ありがとう。これで、新しい薬ができますわ。」

中には宝石の原石が入っていた。
これは、アクセサリーにもなるが粉にすれば薬になる。

「カトレア様、おめでとうございます。今日は一段とお美しいですね。未来の王妃に相応しい。」

「貴方も相変わらずね。ジェン。」

何度嫌だと言っても絶対王妃と言うワードを入れてくるのはジェンとカトレアの会話の中で当たり前になって来ている。

「お花ありがとうございます。」

「貴女の美しさには敵いませんよ。流石おう…。」

「ありがとう。ジェン!」

カトレアは言われる前に言葉を被せ阻止する。
カトレアはある人がいないことに気がつき、辺りを見渡すがやっぱり見つからない。

「カトレア様、今日は特別にいいことをお教えしましょう。ガイ君嫌がる顔が見たいのが一番ですが…。」

ジェン、私は聞かなかったことにするよ。

「そんな顔しないでくださいよ。ここだけの話………。」

カトレアはその話を聞いて走り出す。

ガイ、どこにいるの?
カトレアはガイの行きそうな場所を考える。
そして、ふとある場所が思い浮かびそこに向かう。

「ガイっ!」

カトレアはガイに抱きつく。
月にてらされたガイがあまりに綺麗で悲しそうで捕まえていないと消えそうで怖かった。

「カトレア様?どうなされましたか。走って来たにですか。髪が乱れて…。」

ガイが髪に触れようと伸ばした手をカトレアが握りしめる。

「カトレア様?!」

「ありがとう。今日、お父様とお母様を連れて来てくれて。」

『知ってましたか?今日の計画立てたのガイ君なんですよ。公爵様と公爵夫人をこのパーティに出られるようにしたのもガイ君なんです。愛されてますね。』

「ジェンさんですね?全くあの人は。」

ガイは顔を歪める。

「本当にありがとう。」

「いえ、カトレア様が喜んでくださるならそれが一番ですから。貴女には笑っていて欲しいので。」

私にお兄ちゃんがいたらこんなこんな感じなんだろうか。
ガイお兄ちゃんなら幸せなんだろうな。
そんな想像をして、カトレアは可笑しくなり少し笑う。

「カトレア様、どうして悲し顔をなさるのですか?」

カトレアはこれ以上顔を見られないとガイの胸に顔を押し付ける。

「……ガイもいなくなってしまう?」

聞こえるか聞こえないかそんな小さな声だったのにガイは聞こえたらしくカトレアを支える手に力を込める。

「行きません。どこにも、貴女のそばにいます。」

怖い。幸せすぎて怖いのだ。
この幸せが音を立てて消えてしまいそうで、不安で押しつぶされそうだ。

カトレアは声を押し殺して静かに涙を流す。
カトレアは疲れたのかそのまま眠りについてしまった。

「貴女は何をそんなに恐れているんですか?俺には貴女のその恐怖を取り除くことはできないのですか?」

ガイは胸ポケットから紫と赤の宝石をつかった首飾りを出しカトレアの首につける。

「貴女のことは俺が守ります。だから、安心して眠ってください。」

2人を月が光が優しく照らす。

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