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第三章 ‐ 戦争の影
150話 グリムファング王国の変化
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好戦的なグリムファング王国は周辺諸国への侵攻を繰り返し、次々と領土を手に入れて勢力を拡大していた。勝利に酔いしれた王国は、自らの軍事力に絶対の自信を持ち、さらに領土を広げようと無秩序の森へと手を伸ばした。しかし、そこは王国の予測を超えた危険地帯だった。
無秩序の森には凶暴な魔物がひしめいており、これまでの征服戦争とは異なる脅威が待ち受けていた。王国軍は強大な力を誇っていたが、未知の魔物の猛攻と森の混沌とした環境により、想定以上の被害を受け、甚大な損害を出した。この敗北は王国にとって大きな痛手となり、軍の弱体化は避けられないものとなった。
この失敗を隠すため、王国は情報統制を強化し、開拓の失敗や軍事的損害の詳細を他国に知られぬよう厳重に管理した。入国制限を一方的に敷き、外交的な接触も制限することで、王国の威信を保とうと必死になっていた。しかし、この強硬な情報封鎖が逆に王国の異常な動きを際立たせる結果となり、周辺諸国はその動向を警戒し始めていた。
王国は無秩序の森の開拓を断念し、撤退を決定していた。しかし、その決断が下された頃には、すでに多くの兵士が深刻な傷を負っており、撤退という名の敗走になりつつあった。
森から引き揚げてきた兵士たちの姿は痛々しいものだった。彼らの鎧は砕け、服は裂け、あちこちに血が滲んでいる。負傷した者が担架で運ばれ、重傷を負った兵士たちは仲間に支えられながら足を引きずって戻ってくる。中には意識も朦朧とし、呟くように「戻れたのか……」と漏らす者もいた。
王国の軍事拠点では治療所が悲鳴を上げるほど混雑し、治療にあたる医師や魔法使いは休む間もなく負傷者の手当てを行っていた。治療のために並べられた簡易ベッドの数は増え続け、重傷者のうめき声が途切れることはなかった。
この撤退は単なる戦略的な判断ではなく、王国の戦力が大きく損なわれたことを象徴するものだった。無秩序の森の魔物たちは、王国の誇る精鋭部隊を容赦なく蹂躙し、その力を思い知らせる結果となった。そして、この惨状を他国に知られるわけにはいかない。王国は情報封鎖を強化し、軍の弱体化を隠すために厳しい統制を敷く道を選んだ。
しかし、街の住人たちはすでにその異様な状況を感じ取っていた。負傷兵の搬送が続き、次々と新しい兵が送り込まれ救出に向かう様子は、まるで王国が他国と戦争をしているかのような緊迫感を漂わせていた。だが、敵は存在しない。王国が戦ったのは、征服できるはずだった『森』だった――。
――・♢・――・♢・――・♢・――・♢・――・♢・――
フィオナはいつも通り馬車に乗り、レイニーに会うための道を進んでいた。最も近道となるルートはグリムファング王国を通る道だった。しかし、国境へと到着すると、物々しく武装した警備兵たちが厳戒態勢を敷き、国境を封鎖しているのが目に入った。
何か異変がある――そう感じたフィオナは、護衛の兵士に問いかけた。「どうしてこんなに厳しい警備なの? 何かあったの?」しかし、護衛の兵士は状況を確認するために前線の警備兵に話を聞きに行った。
しばらくして護衛の兵士が戻り、険しい表情で報告した。「……『俺たち末端の兵士には詳しい情報は伝えられていません。ただ、命令に従い国境を封鎖しているだけです。』と言われました。」
フィオナはその返答に眉をひそめた。これほど厳重な封鎖が敷かれているというのに、兵士たち自身が理由を知らされていないとは――。何か重大な問題があるのは明らかだったが、その核心を知る手段がなかった。
他のルートも検討したが、どれも問題があった。グリムファング王国を避ける遠回りの道も、結局王国の領内を経由することになってしまう。さらに遠回りをしようとすると、険しい山道を通らねばならず、日数も数倍かかる上に危険も伴う。結果的に、レイニーに会うことは事実上不可能になってしまった。
フィオナの馬車には王国の紋章が描かれており、通常ならば入国を拒まれることなどあり得ない。しかし、今回ばかりは紋章があろうとも通過を許されなかった。兵士たちは規則に従い、王国の命令に背くことなく頑なに道を塞ぎ続けていた。
これ以上問い詰めても、状況が変わることはない。無理に食い下がれば問題を起こしかねないし、そもそもグリムファング王国は隣国とはいえ友好国ではない。もしフィオナが兵士たちと揉めれば、王国同士の関係が悪化する恐れもあった。
いくらワガママな王女のフィオナでも、頭の良い彼女はこの状況を理解できた。いつものように反発することはせず、静かに馬車の中で腕を組みながら考え込んでいた。苛立ちはあるものの、無理をしてはいけない――そう判断せざるを得なかった。
無秩序の森には凶暴な魔物がひしめいており、これまでの征服戦争とは異なる脅威が待ち受けていた。王国軍は強大な力を誇っていたが、未知の魔物の猛攻と森の混沌とした環境により、想定以上の被害を受け、甚大な損害を出した。この敗北は王国にとって大きな痛手となり、軍の弱体化は避けられないものとなった。
この失敗を隠すため、王国は情報統制を強化し、開拓の失敗や軍事的損害の詳細を他国に知られぬよう厳重に管理した。入国制限を一方的に敷き、外交的な接触も制限することで、王国の威信を保とうと必死になっていた。しかし、この強硬な情報封鎖が逆に王国の異常な動きを際立たせる結果となり、周辺諸国はその動向を警戒し始めていた。
王国は無秩序の森の開拓を断念し、撤退を決定していた。しかし、その決断が下された頃には、すでに多くの兵士が深刻な傷を負っており、撤退という名の敗走になりつつあった。
森から引き揚げてきた兵士たちの姿は痛々しいものだった。彼らの鎧は砕け、服は裂け、あちこちに血が滲んでいる。負傷した者が担架で運ばれ、重傷を負った兵士たちは仲間に支えられながら足を引きずって戻ってくる。中には意識も朦朧とし、呟くように「戻れたのか……」と漏らす者もいた。
王国の軍事拠点では治療所が悲鳴を上げるほど混雑し、治療にあたる医師や魔法使いは休む間もなく負傷者の手当てを行っていた。治療のために並べられた簡易ベッドの数は増え続け、重傷者のうめき声が途切れることはなかった。
この撤退は単なる戦略的な判断ではなく、王国の戦力が大きく損なわれたことを象徴するものだった。無秩序の森の魔物たちは、王国の誇る精鋭部隊を容赦なく蹂躙し、その力を思い知らせる結果となった。そして、この惨状を他国に知られるわけにはいかない。王国は情報封鎖を強化し、軍の弱体化を隠すために厳しい統制を敷く道を選んだ。
しかし、街の住人たちはすでにその異様な状況を感じ取っていた。負傷兵の搬送が続き、次々と新しい兵が送り込まれ救出に向かう様子は、まるで王国が他国と戦争をしているかのような緊迫感を漂わせていた。だが、敵は存在しない。王国が戦ったのは、征服できるはずだった『森』だった――。
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フィオナはいつも通り馬車に乗り、レイニーに会うための道を進んでいた。最も近道となるルートはグリムファング王国を通る道だった。しかし、国境へと到着すると、物々しく武装した警備兵たちが厳戒態勢を敷き、国境を封鎖しているのが目に入った。
何か異変がある――そう感じたフィオナは、護衛の兵士に問いかけた。「どうしてこんなに厳しい警備なの? 何かあったの?」しかし、護衛の兵士は状況を確認するために前線の警備兵に話を聞きに行った。
しばらくして護衛の兵士が戻り、険しい表情で報告した。「……『俺たち末端の兵士には詳しい情報は伝えられていません。ただ、命令に従い国境を封鎖しているだけです。』と言われました。」
フィオナはその返答に眉をひそめた。これほど厳重な封鎖が敷かれているというのに、兵士たち自身が理由を知らされていないとは――。何か重大な問題があるのは明らかだったが、その核心を知る手段がなかった。
他のルートも検討したが、どれも問題があった。グリムファング王国を避ける遠回りの道も、結局王国の領内を経由することになってしまう。さらに遠回りをしようとすると、険しい山道を通らねばならず、日数も数倍かかる上に危険も伴う。結果的に、レイニーに会うことは事実上不可能になってしまった。
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これ以上問い詰めても、状況が変わることはない。無理に食い下がれば問題を起こしかねないし、そもそもグリムファング王国は隣国とはいえ友好国ではない。もしフィオナが兵士たちと揉めれば、王国同士の関係が悪化する恐れもあった。
いくらワガママな王女のフィオナでも、頭の良い彼女はこの状況を理解できた。いつものように反発することはせず、静かに馬車の中で腕を組みながら考え込んでいた。苛立ちはあるものの、無理をしてはいけない――そう判断せざるを得なかった。
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