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第九章
Ⅴ
しおりを挟む「本当に良いの?」
お会計を終わらせて弥鶴君と一緒にお店を出る。
瑠璃ちゃんはお手洗いへ。
店の出口から少し離れたところで瑠璃ちゃんを待つ。
「いーよ。
元々今日は俺と瑠璃で奢る予定だったの。」
「…ありがとう。ご馳走さまでした。」
「いえいえ~
今度、翠ちゃんの誕生日プレゼント買いに行こうって瑠璃をデートに誘う予定だったので。
ダシに使わせていただくお礼も兼ねて。」
「弥鶴君…遠慮なくなってきたね…」
「まぁな」
二人で笑う。
「はぁ~いい誕生日だった。」
「お、そうかぁ!
それは良かった良かった。」
「次は二人の記念日、祝わせてよね」
「はは、そうだな!」
「おい!!!」
急に怒鳴り声が聞こえた。
やだ、酔っぱらいのケンカ?
振り向こうとした時、凄い力で腕を引っ張られた。
「ちょっ、」
弥鶴君の焦った声が聞こえる。
引っ張られた先で固い何かにぶつかる。
人?誰、何。
引っ張った人の顔を見る。
…なんで。
「…たつみさん」
なんで、ここに。
龍海さんは無言でこちらを見下ろしている。
「ちょっと!なんですか急に」
弥鶴君が慌てて間に入る。
「…誰だこいつは。」
「…」
「翠ちゃん、知り合い?大丈夫?」
「こいつは君の恋人なのか。」
龍海さんは弥鶴君のことを無視して質問を続ける。
「それとも君はこいつのことが好きなのか」
「なにを、言って…」
「お前は翠の何なんだ。」
固まってしまって要領を得ない私の返事に痺れを切らしたのか、矛先が弥鶴君に向いた。
「っ、龍海さん、」
「お前、翠のことが好きなのか。」
「は…?」
「龍海さん、やめてください!」
「君はこいつを庇うのか!」
「ちがっ」
「ちょっと!!!」
お店の方を振り返る。
瑠璃ちゃんがお店から出てきていた。
「私の友達になんなの!」
「瑠璃!」
弥鶴君が瑠璃ちゃんに駆け寄る。
「危ないから来るな」
「だって翠ちゃんが、」
「お前に何かあったらどうすんだ!」
「弥鶴君!」
二人がこちらを振り向く。
私を掴む龍海さんの手にぐっと力が入った。
「…大丈夫だから。この人、知り合いだから。」
「翠ちゃん…」
「瑠璃ちゃん、びっくりさせてごめんね。
弥鶴君、瑠璃ちゃんのこと送ってあげて。」
「…本当に大丈夫か?」
「うん、また職場でね。」
「…わかった。行こう、瑠璃」
「翠ちゃん…」
「大丈夫だよ、今日はありがとう。」
「…うん…」
二人とも心配そうな顔をしながら、何度か振り返っては駅の方へ向かっていった。
「…」
「…」
「…離してください。」
「…嫌だ。」
「どうして」
「逃げるかもしれないだろう」
「逃げないです」
「…」
「逃げたってどうせ追い付かれるでしょう。」
「…君と、話をしたいだけだ。」
「…分かりました。」
「…」
そっと、龍海さんの手が離れた。
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