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第五章
Ⅰ
しおりを挟む「龍海、おかえり。」
帰宅すると、兄さんがコーヒーを飲んでいた。
「…あぁ」
「…」
「…すまない。もう休む。」
「うん、分かった。」
兄さんは何も聞かなかった。
そのまま自室のベッドに倒れこむ。
俺は、浮かれていた。
彼女の気持ちを考えているようで考えておらず、彼女を無意識のうちに傷つけた。
『妹さんが、彼女の生きる理由だったんだろうねってこと。』
彼女の家を訪ねた帰り道、兄さんが言っていたことを思い出す。
彼女の生きる理由を作れないまま、また彼女を一人にするのか。
寝返りを打ち、目を閉じる。
最後の、彼女の微笑みが、瞼の裏に焼き付いている。
「あ…おはよう、たっくん。」
少し休むつもりが、あのまま朝まで寝てしまった。
リビングへ向かうと、琥珀と兄さんがいた。
「…おはよう。琥珀、兄さん。」
「おはよう、龍海。」
琥珀の隣の椅子に座る。
向かいに座る兄さんが口を開いた。
「それで、どうするの。」
あれから、俺も兄さんも彼女を迎えに行かなくなった。
ただ、俺は仕事がない限り、彼女の家の近くだったり、薬局の付近に行って、彼女の生活が続いているか見に行っている。
彼女と最後に話した、次の日。
兄さんに、これからどうするのか聞かれた日。
俺が出した答えだった。
「彼女の側に居れなくてもいい。
でも、彼女を見守り続ける。
一人にはしない。」
「そう。
一番近くじゃなくていいの?」
「彼女が幸せなら、何でもいい。」
「…そう。」
琥珀と兄さんは少し複雑そうな顔をしていた。
「具体的にどうするの?」
「あぁ、基本的に今までと変わらない。
家に帰るまで見届けて…あとは彼女の仕事がない日もたまに様子は見に行く。
もちろん気づかれないように。」
「えっ、たっくん…」
琥珀が怪訝そうな顔をする。
「なんだ。」
「…ストーカー、じゃん…」
「え、」
「ふはっ、言ってやらないでよ、琥珀。」
兄さんが吹き出した。
「龍海は、気づかれないようなヘマはしないよね。
それにお前が勝手にやることだ。
翠ちゃんに迷惑かけるようなことにならないようにね。」
「…もちろんだ。」
秋が終わろうとしている。
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