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第五章
Ⅴ
しおりを挟む彼女は何も言わない。
沈黙が辛すぎる。
「………おい、」
「あっ、はい!」
彼女は慌てた様子で返事をして
「あっ、だ、大丈夫です。」
携帯を取り出した。
お互いメッセージアプリを開く。
「翠」の名前と彼女の後ろ姿のアイコンが追加された。
「…また、連絡する。」
「はい…」
「呼び止めて悪かった。」
「いえ…えっと、おやすみなさい…」
「…あぁ。」
彼女が今度こそ家に戻っていく。
でもまた会える。
部屋に入るその瞬間、振り返った彼女と目があった。
「おかえり~たっくん、遅かったねぇ。」
家にいるのは琥珀だけのようだった。
「ただいま。…あぁ、」
なんとも言えない気持ちが渦巻いている。
頭がふわふわする。
「…なんかいいことあった?」
え、
「なんか目がキラキラしてますけどー」
琥珀がニヤニヤしながらこちらを見ている。
「…」
「言ってごらんよ~この恋愛マスター琥珀様に!」
「いつの間にそんな肩書きを手に入れたんだお前は…」
「あ、恋愛じゃないとか言わないんだ。
翠さんと何かあったんだ。」
しまった。
「お前…」
「話できたの?」
「…まぁ、」
「ストーカーってバレた?」
「ストーカーじゃない」
「ただいま~」
琥珀がケラケラ笑っていると、兄さんが帰ってきた。
「ご機嫌だね、琥珀。」
「獅音兄さんおかえり~
あのね、たっくん、翠さんとなんかあったみたい。」
「おお?ストーカーってバレちゃった?
ダメじゃないか龍海、迷惑をかけちゃ」
「ストーカーじゃない…!」
笑い声が二人分に増えた。
「まさか、今日一日で連絡先を聞くところまで…」
「今までのお迎えで聞けるタイミング絶対あったけどねぇ」
「たっくん、やる時はやる男だね!」
「追い詰められたら考えずに行動に移すんだね。」
この二人に好き勝手言われることにもなれてきた。
嵐が過ぎ去るのを待つのみ。
「何て言って連絡先聞いたの?」
「…兄さんが、」
「え、僕?」
「兄さんが、元気にしているかと気にかけていたから、良かったら兄さんにもまた会ってやって欲しい、と…」
二人の目が少し冷ややかなものになっている気がする。
「兄さんの予定を伝えるから、連絡先を教えて欲しい…と…」
「獅音兄さんをダシに使ったんだ」
うっ…
「相変わらずヘタレだなぁ」
「で、また獅音兄さんに嫉妬して、自分の首絞めて…ドMなの?」
「ドMじゃない…」
でも図星だ。
ぐうの音もでない。
「だから、その、兄さん…」
「はいはい、今週末とかどう?
さっさと連絡しちゃいな」
「…すまない、ありがとう。」
なんだかんだ連絡できたのは三日後。
俺の淡白なメッセージに負けないくらい淡白な了承のメッセージが返ってきた。
応援ありがとうございます!
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