最深部からのダンジョン攻略 此処の宝ものは、お転婆過ぎる

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第八話 初戦闘

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二人は中央がすり減った一直線に上に延びる階段を慎重に上がった。例え罠が有ったとしても心配する必要は無い二人ではあったが敵に悟られぬ為の用心だった。もちろん敵について考えているのは公一だけではあったが。

「公一よ心配はいらん、大概な物なら私がぶっ壊してみせる。お前は呪いの罠や敵の方をたのむ。気配は判るよな」
 ノイは公一が右手首に付けている数珠を顎で指した。

 二人が黙々と上がっている急な階段も終わろうとしていた。上の方から漏れてくる光の色や空気の流れが底とは明らかに違ってきている。

 公一が変化を感じた瞬間、目の前が急に開け外側に向かって開け放たれたままの扉が現れた。

「ここが次の部屋だ」
ノイは公一を置いてきぼりにして最後の数段を駆けあがろうとした。

「待てってば」
 公一のノイを止めようとした手はズボンにかかり膝までずり下げてしまう。膝まで落ちたズボンの裾は足に絡まってしまい、ノイは派手な音をたて階段に手をついてしまった。

「離せ、この馬鹿者が邪魔するな。こっからが大事なんだよ」
 ズボンを公一の手に残し、階段を飛ぶ様に駆け上がって大音声で名乗りを上げた。
「我が名はノイ・モーント・ドラッヘ。私と戦おうと思う剛の者は……」
 しかし、その大音声は途中でぽつりぽつりと呟く声に変わっていた。

 一足遅れて次の間に足を踏み入れた公一は、振り返ったノイと目が合う。
ノイは何も言わずに部屋の方に顔を向け指さした。

 目の前には巨大な彫像の頭がこちらを見る格好で転がっていた。
「公一、両側を見てみろ」

 ノイが言った出入り口の左右を支える大理石の台座は、巨大なサンダルをはいた人の足の形をしていた。

 それの足は宝物庫の守護としてここに立ち、階段を出入りする者を厳しい目で見張っていた二体の巨大な戦士像の物だった。今では二体とも無惨に足だけを残し引き倒されていたる。もう一体の切り落された頭は天井を向き虚しく空中をにらんでいた。

「ここは宝の鑑定の間だったよ。沢山の彫刻が並び色とりどりの宝石が魔法の明かりを灯してな。冬の澄み切った夜空を風に流されて漂っている気持になったものだ」

 ノイは溜息をついて散乱している彫像の小さな欠片を拾い暗闇の中に放り投げた。
 欠片の落ちた音は二人のほか誰もいない広間に寂しく響いた。

「ノイ様、ズボンを穿いて下さい」
 ノイは公一を無視して部屋を見ている。
「いつまでも足を出している訳にはいけないでしょう」

「お前が取ったんだ、お前が穿かせろ」
 公一はため息をついてノイの足元にしゃがみ込み優しく右足を叩いた。
「はい、足を上げて今度は反対、これで良しと」
 公一は立ち上がりながらズボンを腰まで上げ、今度はずり落ちない様に紐できつく縛った。

 公一はノイのズボンを履かせながら回りの様子をうかがっていて、床のへこみを見つけていた。
「小鬼のやつら、ここを使って通っていたのか。まるで獣道だ」

 作業台や石板が雑然と積み上げられている瓦礫の間には、何者かが歩いて出来た長く続く溝だった。

「これを辿れば何かいると思います」
「そうだな、ここで考えていても何も変わらないからな」

 二人は床に出来た長くうねった溝を道代わりにして進む。歩き出してすぐに、ひざ丈程度の堀に行き当たった。
「堀や水路にしては水気は無いしなんだろうな、このまま細い方を行きましょう」

 時折、人や動物、神話上の生き物をかたどった彫像に出くわすことも有ったが二人を脅かす事は無かった。どんなに細かい装飾を施されていても、何の意志も持たない彼らは、ガレ場の岩と何も変わらない物だった。

「お待ちを」
 公一はノイに声を掛けた。
「ああ、何か来たか。久しぶりに体でも動かしてみるかな。もう少し広い所がいいな。ついてこい」
 駆け出そうとするノイは一旦足を止めて釘をさした。
「足を引っ張るんじゃないぞ」

 公一は返事の代わりに両手を広げて苦笑をした。右手に流星鎚がわりのハンマーの柄を握り、左手にはハンマー先から延びた革ひもを巻つけている。

 ノイは胸張り堂々と道のど真ん中を進む。それに比べノイの前を歩く公一は膝を曲げ腰を落とした格好だった。
「みっともない。そんな歩き方だと奴らの様になるぞ」

「もう少し、警戒心を持ってくださいよ。相手次第で戦い方を考えないと。今だったら必ず先手は取れるんですから」

 ノイは公一の忠告に聞きく耳を貸すつもりは一切なく足を運ぶ。
「一人前の口の利き方だな。不意打ちや駆け引きなんぞ、弱い奴がやるもんだ」

「ここから、広くなってますね。ここで待ちますか? 相手が多ければ退きながら戦う事も出来ますし」

 ノイは公一に向かって頷いて鼻息も荒く答えた。
「よし、まだ向こうまで遠いな。真ん中まで行くぞ」

「あんた、人の話し全然聞いて無いじゃん」
 思わすノイを、あんた呼ばわりした後、首を竦めた。

 そんな公一をにやりと笑い、これから闘技場と化す開けた場所の真ん中に立つ。
「よし、ここで待つとするか」
 ノイは目を閉じて頭を振り、肩まである髪をなびかせた。耳の後ろの髪に指を入れ手櫛で後ろに流し乱れた髪を整える。

「来ました。下に降りてきた連中と同じみたいですね」

「貸せ」 
 ノイは中腰で構える公一の目の前に右手を突きだし、軽く上下に動かした。

「ノイ様がいきなり戦うんですか?」
 道の反対側から聞こえてくる騒々しい足音や怒鳴り声は次第に大きくなっていく。公一は慌てて左手の紐を緩めて右手のハンマーを手渡そうとした。

 ノイは小鬼たちを見るや怒鳴りつけた。
「やっと来たか。お前ら手柄が欲しくば、この首取ってみろ」

 小鬼達はいきなり現れたノイの挑発に驚いて足を止めたが相手が二人だけしかいない事に気付くと猛然と武器と盾を鳴らしながら近づいて来る。

「公一、ちょっとだけ目をつぶれ」
 ノイは公一の右手首を持ちながら微笑みかける。

「え? 血を見ることぐらいは平気……」
「違う、よっと」
 公一の言葉を遮り、ノイは掴んだ腕を持ちいきなり振り回して、迫ってくる小鬼たちに向かって思いきり投げつけた。

「な、なにおおおおおおおおおお」

 公一はマントをなびかせ、間の抜けた悲鳴を上げながら小鬼達に激突した。

 公一にとって幸運だったのは音速を超えなかった事と、相手の構えた盾の上に着地する形でぶつかり相手がよろけてくれた事だった。

 公一は床に足を付けるや否や、よろけた敵の盾に手を掛け引き寄せ、相手の顔面をめがけてハンマーを払い上げた。

 払ったハンマーは、公一より頭一つ分小さい小鬼の左のほほに当たり、小鬼は音とを立てて仰向けになって倒れる。

「後、何匹だ?」
 正面に二匹、公一の着地した後ろに一匹。

「盾持ってるかっらって構えりゃ良いってもんじゃないぞ」
 公一はマントを大きく翻して左側の相手のすぐ横に飛び込む、小鬼は盾を構え直そうにも、公一の体が邪魔になり敵である公一に身体を向ける事さえ出来ない。
 もたつく敵の後頭部めがけてハンマーを振り下ろす。生卵でも握り潰した様な感覚を手に残し小鬼は前のめりに突っ伏して倒れた。

「甘い」
 右手の小鬼は長さは無いが刃が太いだけの剣で打ちかかってくる。翻ったマントのせいで距離感を狂わされた小鬼の攻撃は身体が流れてしまい、その剣は虚しく空を切った。

 公一のハンマーは相手の剣の峰をつたい、持ち手を一瞬で砕く。ハンマーの勢いは止まらず小鬼の低い鼻を襲い顔面を血に染めた。

 公一の後ろに居た小鬼は恐れをなし持っていた槍を捨て振り返らずに逃げようとしていた。
「帰すつもりはない」
 公一の下手から投げたハンマーは、小鬼のぼんの窪に当たり膝から崩れるように倒れる。

 公一は小鬼の持っていた槍を使い小鬼たちに止めを刺して回った。

 ノイはあきれたような声を出した。
「相手の攻撃を受けずに片づけたか」

「ええ、この程度なら何とか。盾の他には何も有りませんでしたし。それよりいきなり投げつけることは無いでしょう」

「いやなあお前、このくらいの相手なら一度は攻撃ぐらい受けてやれよ」ノイの返事を聞いたは公一はがっくりと肩を落とした。
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