最深部からのダンジョン攻略 此処の宝ものは、お転婆過ぎる

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第九話 苦役

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「先手、必勝って言葉も有ります。次の奴だって不意打ち食らわしたいですよ」
 公一は手首の数珠を触りながら口答えをした。

「私が手本を見せてやるつもりだったが、まあ、次も任せる。さあ、行ってこい」
 小鬼のやって来た方向からは重く響く足音が近づいて来ている。

「また適当な事をいって。一度、戦い方を話す時間が必要ですかね」
 公一は少し声高に返事をしながら、マントの裾で小鬼の血を槍から拭い、刃を指先で何度もなぞった。
「さあ、何時でも来い」

 ノイは高みの見物を洒落込むために、瓦礫の山から覗かせている平らな石板に腰掛け顎に手を当てる。
「さあ、入って来たぞ。お手並み拝見と行こうじゃないか」

 黒い大きな影は足元に有る物を全く気に欠ける様子も無く道を進み、死んでいる小鬼を邪魔だとばかりに蹴り飛ばす。哀れ小鬼達の死体はノイの頭を高く飛び越え瓦礫の向こうに消えていった。
「おお、随分と高く飛んだな」
 ノイは公一の緊張をよそに呑気な声を上げる。

 公一は前を見据えて、相手に立ち向かうべく小鬼の槍を構えて道を塞いだ。
 
 槍は穂先を含めても公一の頭までの長さで、外見はとても貧弱な物に見える。だが、公一に研がれた穂先は真冬の月が放つ冷たい光を煌めかせた。

 現れた黒い影は公一より大分離れた場所で一度足を止め、大きく黒い瞳で槍の穂先を見つめた。筋骨たくましい剛毛に覆われた丸太の様な腕を振り回すと、自分の全く毛のない頭を大きな手で何度か叩いた。
 戦う前の脅しの割にしてはなんとも言えない間の抜けた音が公一の耳に届いた。

 禿げ頭の怪物はのっそりとした動きで、壊れた胸像をつかみ公一の方に向かって投げてよこした。床に落ちた像は粉々になったがホコリすら公一には届かない。

 怪物は、公一に向かって犬か猫でも追い払う仕草をする。

 公一は槍の穂先を下げ、体を前ががみして相手をの様子を窺った。怪物の方も同じ格好になり、公一に向かって手を左右に動かした。

「道を開けてくれって事?」
 ノイに声を掛けようと振り返るとノイは笑って手を振っている。

 公一はノイに向かって頷き、道から一歩下がり構えていた槍を伏せ置き、戦意が無い事を相手に伝えた。

 怪物はいかにも胡散臭い者を見る様にして、公一の反対側に少しだけ体を傾けて横を通り過ぎていった。そうこうしている内に怪物が現れた方向から、再び重い足音が響いてくる。

 ノイは腰かけていた石板から立ち上がると、ふわりと舞い公一の横に降り立った。
「今度は何匹来るかな」

 公一は舌打ちをした。
「また人を試す。あの蛸入道の性格は、ご存知だったんですか?」

「お前だって判ってただろう? あいつらは、此処を作るのに力を貸してくれた巨人族の馴れの果てだろうな。もっと賢かったんだが。言葉も喋れないようだし、見てくれも変わったなあ」

 巨人の末裔と呼ばれた怪物たちは、公一たちには目もくれずに大きな足音を響かせながら奥へと進んでいった。

「さっきの奴と比べて今の奴らは牙も髭も短いですね。それにしてもデカいな。階段の両側にあった戦士像の半分近いか」
「昔は、あんなのだったがな。いまじゃあ、あれだ」
 公一は時間の無常さに絶句するしかなかった。

 二人は早足で通り過ぎていく牙を生やした入道達を見送った。

「五匹も行ったぞ、全部で六匹か? 何をするか確かめに行く」
 ノイは公一の返事も待たずに、入道達を追って駆け出した。 

 ノイの言い出したら聞かない性格が判り始めた公一は、若干の不安を抱えながら従うしかなかった。

 結局二人は、さっき昇って来た階段近くまで戻る事になった。牙を生やした蛸入道達は、三人一組になって何かの作業を始めようとしているところだった。

「ああ、あれか、あのデカい輪を引くつもりなんだ」
 公一の所からは壁には錆びた鉄の輪が取り付けられているのか見えた。鉄の輪は入道達の背丈より高い位置に取り付けられており、入道達は手を伸ばして掴もうとしている。

 入道達の動きを目で追っていたノイは、ふっと思い出したように公一に尋ねた。
「なあ公一、さっきのタコヌードーってなんなんだ?」

 どう説明しようか悩む公一は頭を掻いたり、口元を押さえたりして考えてみるも判りやすい表現が思い付か無い。
「上手く説明出来ませんよ。それより、ほら、あれ見てください。鉄の輪を引っ張るつもり見たいですよ」
 入道達を指さしてノイの注意を引こうとした。

「返事しろよ、タコヌードーを教えろ」

「だから、タコ何とかって何だって聞いてるだろう」
 公一はノイの余りのしつこさに閉口して、子供にでも見せるように出来るだけ滑稽な蛸の真似をして見せた。
 
「海に、こういった感じの生き物は住んで居ませんでしたか?」
 公一はノイの目の前に思いきり顔を突きだし目を丸く見開き口を尖らせ、両手の顎の下で触手代わりにウネウネと動かして蛸の真似をして見せる。しかし、ノイの表情を見て瞬時に後悔をした。

「うわ、物凄く馬鹿な事をしたかもしれん。今のは無し、無しにして下さい」
 右の手を全然違うと言わんばかりに激しく左右に動かす。
 
 ノイはどう返答をしたら判らない様子で、口をぽかんと開けて公一の顔をまじまじと見詰めていた。
 と、いきなり吹き出し、大きく体を反らせ大爆笑を始めた。
「いた、確かにいた。知ってて聞いてみた。お前にそんな顔芸が出来ると思わなかった」
 今度は膝をついて四つん這いになって可笑しさのあまり腹を押さえて苦しみだした。ノイの明るく大きな笑い声に、入道達も何事が起こったかと戻って来る始末だった。

「あ、あんまり大きな声で笑うから、こっちに来ちゃったじゃないですか」

 ノイは腹を身体を腹を押さえながら九の字に曲げ転げまわった。
「腹が痛い、こんな馬鹿らしい攻撃は初めて。苦しい。息が出来ん」

 ノイは喘ぎながら近寄って来た入道達を指さして
「今の馬鹿みたいな奴を、こいつらにも見せてやってくれ」
「ええ、そんな無茶な」
「だって笑わせたお前が悪い。それに、こいつらだって気になって仕事が手につかないみたいだぞ」
「それこそ馬鹿な事をして怒らせる事に成りかねませんよ」

 六人の入道達は何かを期待しているのか、腰をかがめた姿勢でじっと公一を見つめている。公一は無視を決め込もうにも、視線が気になりつい目を合わせてしまった。そのつぶらな瞳から、送られてくる視線に耐えかねて大きなため息をついた。

「どうなっても知りませんよ。この人たちが暴れたら止めるの手伝ってくださいよ」
「わかった何とかしてやるから、早く。ああ苦しい」
 まだ笑が止まらないノイは苦しそうに返事をした。

 公一は、ええい、ままよとばかりに口を尖らせ、両手を伸ばしクネクネと動かして全力懸命の躍りを披露した。

 ノイは辺りにお構い無くの大笑いを続け、入道達には全く目もくれていない。

 入道達は天を仰ぎ自分の頭を掌で幾度となく叩いた。
 公一は踊りを止め入道達の感情の発露とも取れる動きを見守る番となった。
「これは喜んでるのか、怒っているのか判断がつかん」

 そんな公一の目の前に、体が一番大きく上顎から真下に延びる牙も立派な入道が近いて膝立ちになる。あっけにとられている公一を両の手で優しく掴み上げた。
「怒ってないよね? 力だけは入れてくれるなよ」

 入道は子供が、大好きなヌイグルミに愛情を注ぐように、公一に何度も頬ずりを繰り返した。
 ひとしきりの愛情表現をした後、入道達は公一を床に下ろして壁の鎖に向かっていた。

 ざらついた髭の不快な感触を黙って耐えていた公一は、自分の顔を両手で拭く仕草をした。
「あー髭の感触がまだ残ってる。ノイ様、傍から見れば面白いかもしれませんが、こっちは大変なんですよ」

 今まで散々笑い転げていたノイは目尻にたまった涙を拭いた。
「踊り中々のものだったぞ。嫌われるどころか好かれたのだから。あー苦しかった。お、始めた様だぞ」

 鉄の輪に取りついて必死に引っ張り始める。鉄の輪の先に取り付けられている巨大な鉄の鎖がゆっくりと壁から姿を現し始めた。
 入道達は全身の筋肉を盛り上げながら、爪を床に食い込ませて一歩また一歩と鎖を引き始めた。

 入道達の動きをじっと見守っていたノイは手を払う様に叩き公一に話しかけた。
「さてと、今度は私の出番だな。お前の芸と違う所を見せてやらないとな」
 ノイは公一に向かって悪戯っぽく笑って見せた。 
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