最深部からのダンジョン攻略 此処の宝ものは、お転婆過ぎる

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第十三話 ムラサキ その一

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  小鬼達は吸血の虫を乗せた輿を担いで逃げる。公一達を振り向きもせず全力での逃走だろう。何とか振り払おうとしているが虫と輿の重さで最初に比べると逃げる速度も徐々に落ち始めていた。

「公一、あと一息で追いつくが、あいつらどうする」
「見失わない程度の距離でついて行きます」

「親玉の所に案内してもらう訳か。良い道案内が出来て、お前も楽が出来るな」
 公一はノイの言い方に苦笑いしか出来なかった。

 確かに罠の無い所を走ってくれるが敵が全く居ない訳では無い。油断は出来なかった。もちろん公一は自分の修業の結果と腕に付けている数珠の力を疑う事は無かった。

 騒々しい音とを立てながら走る小鬼達は、疲れに耐え切れず自分たちの持つ武器や盾を投げ捨て始めた。

 公一は素早くてを伸ばし矢の入った矢筒と弓を拾いあげた。
「お、射かけるのか?」

「弓の張をちゃんと見ないと撃っても的には届きませんよ」
「道具に頼りすぎた」

「しょうがないでしょう人間なんですから。あ、角を曲がりましたね。振り切られないようにしないと」

「ただ追いかけるのもつまらんなあ」
 ノイの目には単なる獲物としか映っていないのだろう。

「血の気が多すぎてすよ。ところで、こいつらの親玉に覚えは有りませんか?」
 ずり落ちるカバンの紐を元に戻しながら走り続けた。

 公一の右の手首に猛烈な痛みが走った。余りの痛みに槍を取り落してしまい左手で手首を押さえた。
「いてて。申し訳ない。槍を落してしまいました」
 
 もしここに師匠が居れば落とした槍で小突れる事を思い出し反射的に謝ってしまった。

 そんなことは露にも思っていないノイは通路に響く大声を出した。
「敵か罠かどっちだ!」

「声がデカすぎますよ。静にして…。いや、ノイ様の声を恐れて敵が逃げてしまうのでお静かにお願いします」

「おお、すまなかった。逃がす訳にはいかんからな」
 ノイは舌なめずりをした。
 うずくまる公一を置いて一気に通路を右に曲がった。

「ちょっ……」
 公一も慌てて立ち上がりノイを追いかけたが、ずくにノイの背中にぶつかりそうになった。
 ノイの背中越しから通路を覘くと、先程まで逃げていた小鬼達は忽然と消えていた。

 ただ通路の奥からは何かを引きずる音と小鬼の悲鳴が微かに響いていた。

 公一はノイの前に立ち通路の先を窺った。勿論、ノイを守る場所の確保とと突進するを防ぐ為でもあった。

 しゃがみ込んて調べると床には血の跡と爪でひっかいた後が残っている。
 ひっかき傷は小鬼が残した物だろう。

「公一、上を見てみろ。ほら、あれだ」

 ノイの指さした場所には血とは違う黒い筋が残されている。壁にも汚れや血痕とは異なる赤黒い筋が残っていた。

「誰か待ち伏せしてたんでしょうか」

「……ん、何か言ったか?」

「何かご存知なんですか?」

「ああ、同じ奴とは限らないが戦ったことは有る。中々しぶとい奴で、ぶん殴ると細かく分かれて逃げ回ってな。あいつが通路の番人だと面倒だ」
 
「見た目はどんな奴でした?」

「人の形のなりそこないだったよ。喋るには喋ったが小鬼よりまし程度だった」

「なにか別の力とか使いましたか?」

「いや、使えなかった。もし血を吸う虫があいつの手下なら随分と悪賢くなっているだろうな。さっきの奴らから知恵と何かしら力を吸い取っていたと考えておいた方が良かろうよ」

「はあ、前と別物ですか、しかも一層ずる賢くなっていると。またやっかいですね」

「情けない事を言うな。前戦った時は死んだか確かめる暇も無かったが、今度こそあの虫と一緒に滅ぼしてくれる」

 二人が押し黙ると通路は静まり返った。

「これだけ喋って襲ってこないのは余程の自信が有るみたいですね」

「さて、行けば解るさ。何が出てもぶん殴らなければ、ここからは出られないからな」

 生温かく湿った空気が通路の先から流れてきている。おまけに、ほのかに甘い匂いが混じっていた。
 死臭や腐敗臭の様に強烈な匂いではないが不吉な予感をさせる匂いだった。

 二人は忌まわしい道をたどり始めた。
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