最深部からのダンジョン攻略 此処の宝ものは、お転婆過ぎる

aradoar234v30

文字の大きさ
12 / 51

第十二話 呪いと門出の歌 2/2 (十一話 分割しました)

しおりを挟む
「この忌まわしい支配を止める時は今しか有りません」

「今すぐにか」
「はい」

「よしわかった。一暴れしてやる」
 ノイは素早く身体を起こし、離れ際に手を伸ばして公一を確認した。
「良いぞ、縮こまっては無いな。一気に行くぞ」

「今はそこは確認するとこじゃ無いでしょうに」
 公一もノイに文句を言いながら跳ね起きた。

 再び二人は慎重に中の様子を窺う。まだ虫に憑り付かれた入道は暴れ続けており、収まる気配は一向に無かった。

「あれは腹いっぱいになると自然に離れますか?」

「熟した果実が落ちる様に外れる。あ、奴ら代わりを持って来たぞ」
 ノイは小鬼達の集団を指さした。
 四匹の小鬼がそれぞれに担ぎ棒を持ち輿を運んで来るところだった。

 輿は人が乗るには、いささか小さい物で、人の代わりに運ばれているのは平たい身体に無数の足を持った吸血の虫だった。腹を上にした虫は憑りつき先を探すように鋭いカギ爪がついた足をせわしなく動かしている。

「さあ、こっからが勝負ですよ。あいつらにとって宝物はどれだってことです」

「そんなの決まったことだ。今切り込めば絶対に血を吸ったやつを持って逃げるさ」

 公一はノイの返事を聞いてニヤリとした。
「持っていた先には一番の悪がいるってことですね」

「お前は結構、悪い顔で笑うんだな。まあ、目が細いから仕方ないか」
 公一は左手で自分の顔を撫ぜた。

「簡単に作戦立てましょう」

「作戦? 判っている。先に血を吸っていない奴を先につぶす」
「それからは? 考えてないでしょう」
「うーん。暴れている奴を止めるか」

「それも一つの手ですが、そこは入道達一族の問題になります。私達のやる事は血を吸った虫を運ぶ連中を追い立てることです。良い道案内になりますよ」

「虫が外れたら一気に飛び込みます。ノイ様少し失礼を」
 公一はノイを横抱きに抱えた。
「出来れば軽くなってほしいのですが。あと虫が外れる時の合図を出してください」
「言わずとも判っている」
 ノイは公一の腕の中で鴻毛の重さになり、公一に合図を出す為に暴れている入道をじっと見つめた。
 
「よし、外れる。行け、走れ」
 公一はノイの合図で脱兎のごとく部屋に飛び込んでいった。


 腹ペコの虫を運び込んだ小鬼達は、今度は腹いっぱいに血を溜めこんだ虫を輿に乗せ部屋から運び出そうとしているところだった。

 一方の虫は腹を上にして数匹の小鬼に担がれるように運ばれていた。虫は血の気配を感じてか、先程よりせわしなく茶色く足を動かしていた。

 縮地、神歩、箭疾歩。敵との間合いを詰める歩法は数あるが、ノイの力を借りて走る速さは電撃が地を這うごとく一気に間を詰めていた。


 虫を運んでいる一匹の小鬼が偶然振り返ると、床を這うように近づいて来る大きな陰に気付き、驚きで顔が歪む。

 小鬼が仲間に異常を知らせるようと口を開く。が、その口を塞ぐように公一が繰り出した槍の穂が突き刺さった。

 一匹がうずくまる様に倒れこんだせいで、他の小鬼達はバランスを失い虫を投げ出す様に落としてしまった。

 自由を取り戻した虫は、転んでしまった哀れな小鬼に憑りこうとして頭の先端にある鋭利な三角錐の嘴を小鬼の首筋にゆっくりと突き刺し始めた。
 嘴を刺された小鬼はだらしなく口を半開きにして涎を垂らし始め、あっという間に干からびてしまった。

 虫は次の獲物に憑りつこうと小鬼達を追い回し始めた。

「お前達、命が欲しいなら邪魔だけはするな」
 公一は小鬼達を怒鳴りつけながら虫に槍を突き立てる。槍の穂は虫を貫き虫を床に縫いつけたが虫は足を激しく動かし抵抗した。

「やっぱ、ダニ系統はしぶといな。ちょっと我慢するか。ノイ様、私に雷を落して下さい」
 公一は虫の頭を足で押さえつけながらノイに叫ぶように声を掛ける。
 ノイは公一の腕の間からするりと抜けだして公一から離れた。

「わかった耐えて見せろよ。我が僕、雷の精霊王シエムツキ、力を顕せ」
「王ってなんだよ。そんなデカい呪……」

 間髪をいれず耳をつんざく破裂音と共に電光が公一を中心に踊り狂う。
  
 一瞬にして虫は勿論の事、周りにいた小鬼達も雷撃の巻き添えを喰い、両手両足を天井に伸ばす様に硬直したまま絶命していた。公一は身体から煙を立て、よろめきながら立ち上がった。
 公一は念の為とばかりに虫の頭を踏みつけ、すりつぶす様に潰した。

「おっ、旨く行ったな。お前の狙い通りじゃないか」

「ああ? 何ですか? 耳が痛くて全然聞こえませんよ」
 公一は怒鳴り声を上げた。

「やりすぎですよ。辺りをご覧なさい。そりゃ虫は死にますが、他の奴らまで痺れているじゃないですか」

「問題無い生きてるからな。それよりもこいつらだ」


 電撃が部屋中を駆け回ったらしく、ほとんどの入道達も横になって、うめき声を上げている。

 だだ二人の入道を除いて。

 ノイは睨み合う二人の入道が聞こえるだけでなく、部屋全体に響き渡るよく通る声で叫んだ。
「ここからは、お前ら一族が仕事と心得よ」

 痺れて動くことが出来ない者たちにもの耳にも届くであろう声で続けた。

「おい、そっちのでかい奴。今、正気ならしっかり聞け。お前はじきに死ぬ。このままなら、この干からびた小鬼のように惨めな死だ。だがな、今ならば族長らしく雄々しく戦い、勲を残して死ぬことは出来るぞ」

「今度は若い方だ、聞け。辛い戦いになるだろうが、力が有る物が一族を率いる。それが定めだ。お前の決められた道だ。だから頼む、でかい方が逝く花道を作ってやってくれ。そして小鬼を二度と近づけるな」
 細い華奢な身体から出るとは思えない大音声は部屋に響き渡った。

「我らは先ほど、ここより逃げ去った小鬼どもを追う。お前たちに長年の苦しみを与えてきた根源を必ずや滅する。後は任せろ」

 ノイは槍を伏せ斜め後ろに跪いて控えた公一に向かって顎をしゃくった。

「公一、いくぞ」

 ノイの言葉を合図にして、二人の入道は壮絶な殴り合いを始めた。
 双方が振るう拳は重く一打当たるごとに、不気味な音を立て顔はひしゃげ、血が飛散った。かっての偉大な族長、若き戦士は互いに譲ることなく殴り合いを続ける。

 ノイは殴り合いを横目で見ながら公一の横に立った。
「おい、何をボンヤリとしている? まったくお前は気の利かない奴だ。さっきみたいに抱きかかえろ」

 ノイは催促する様に公一の脇に体を滑り込ませた。
「早く行け。見失うぞ」

 公一は返事をする代わりに胸いっぱいに息を吸い込み足を一歩踏み出した。

 殴り合う音を背にしながら一気に部屋を駆け抜け、虫を持って逃げた小鬼達を追った。

「公一ちょっと待て。一度、降ろせ」
 部屋から暫く走ると急にノイは足をバタつかせた。

 公一はたたらを踏んで止まり、ノイをそっと床に降ろした。
「ああ、何か聞こえてきますね。歌ですかね……」

 耳を澄ますと微かに低い歌の調べが元いた部屋の方向から聞こえてくる。

「間違いない。奴らが歌を唄っているのさ。勝利の歌だ」

「幸先は良いみたいですね。歌に送られるとは」

「よし、公一急げよ」
「はい、はい」
 公一はノイを抱え直すと通路の暗がりに飛び込んで行った。

 二人の消えた通路には、力強い歌声が響いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界からの召喚者《完結》

アーエル
恋愛
中央神殿の敷地にある聖なる森に一筋の光が差し込んだ。 それは【異世界の扉】と呼ばれるもので、この世界の神に選ばれた使者が降臨されるという。 今回、招かれたのは若い女性だった。 ☆他社でも公開

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

処理中です...