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第十五話 ムラサキ 陽 その三
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「失敬、出口の話が途中だったな。こちらとしては、どうしても教えて貰いたい事があるんだよ。君達には全く関係のない話かもしれないが君達は誰の手下だい? もし伝言でも有れば聞いておくが」
その問いかけを聞いたノイは憤然として公一の陰から飛び出してきた。
「この馬鹿者め。私は私であって誰の手下でもない。私はノ……、こら、お前何を」
公一は興奮しているノイから羽交い絞めにしてこれ以上、余計な事を喋らないように左手で口に蓋をした。嫌がるノイを軽く持ち上げて耳元で素早く囁いた。
「相手が仕掛けるまで…」
「また話しの腰を折ってすまない。何しろ子供のやる事だから。!…いてて。こら噛みつくな」
ノイは子供あつかいされたことを不満に思ったらしく公一の手も平にかみついてきた。単なる抗議だったようで公一の手はちぎれることは無かった。
「あははは、中々のはねっ返り屋さんだねえ。色々と判って来た。少なくとも君たちは誰の仲間でもないって事だ。それは私にとって上々な話だよ」
ムラサキは続ける。
「君たちの賢さに驚いたんだ。この私の誘いを何事も無いように話しが続けられるんだから。普通の人間なら此処に入って、とうの昔に赤い水と一緒なって浴びる事が出来たのに」
「こっちが言うこと聞かないから用心深くなっていたのか」
「ああ、そうだとも君達が誰かの指図で私を殺しに来かと思っていたんだ。君達も私の事を疑ったろう。まあ当然だな」
公一はムラサキの話を聞きながら、ノイを羽交い絞めにした時に無造作に置いた槍を足の裏で転がしていた。
公一の足の動きを見ながらムラサキは話しを続ける。
「ここで一つ取引と行こうじゃないか。私は出口を教える。その代りにお前が今抱いている女の子を一舐めだけさせてほしい。なに一度だけだ」
思わず公一は苦笑し、ノイは鼻を鳴らした。
「なに、ほんの一舐め、一舐めだけで良いんだ。その柔らかそうな頬っぺたを、なんだったら爪先だけでも。頼むよ。なあ……」
ムラサキは欲望を満たしたいがためか身体をよじらせ懇願してきた。
「ふん、舐めれるものなら試すが良かろう。どうせ一舐めで全部喰うつもりでいるだろうがな」
ノイは口元をゆがめた。
突然ムラサキはくねらしていた体の動きを止めかん高い声を上げた。
「おい人間の男よ、話がきいてないのか?」
「聞こえてるし、ちゃんと聞いているぞ」
「公一、とぼけた返事をするなよ。こいつの言いたい事は自分の術が聞こえているのか確かめたいのさ。おい、お前。お前の言葉の術は自分より下の者しか効き目は無いぞ」
「はあ? これで頑張って術を掛けようとしてたんですか? あの程度じゃあ耳障りなだけですよ。あんなものに引っかかるのは、よっぽど頭がぼんやりとした奴じゃないと無理ですよ」
公一はムラサキに向かって、
「この子には指一本触れはさせない。俺たちが何処へ行こうと俺たちの勝手だ。ただな、人食いのお前はここに捨て置いて行く訳にはいかん」
「と言う訳でお前が出来る事はここで戦って死ぬか、逃げ帰って主人に殺されるか、二つに一つだ。好きな方を選ばせてやる」
「おい公一、さっき拾った矢をよこせ」
ノイは公一の腕から抜け出すと公一が腰にさげていた小鬼の矢筒が素早く矢を抜き思いきりムラサキに投げつけた。
矢は風を切る音を残して猛烈な勢いでムラサキに突き刺さった。
見事矢は額のど真ん中に命中したが、ムラサキは痛みを感じる様子も無く笑うように目を細めて、矢が突き刺さった箇所を中心にしてドロリと溶けると壁と身体を縫い付けていた矢から難なく逃れた。
「ワザと当たってあげたけど、まさか壁にまで貫通するとは思わなかったよ。でも思い通りに行かなくて残念だったね」
「ふっ、試したまでだ。公一よ見ての通り、こいつには打撃は効かん注意しろよ。昔、腕利きの剣士が不用意な攻めをして返り討ちにされていたからな」
ムラサキは怪訝な顔をした。
「お前、私を知っているのか?」
「お前が忘れているだけさ
「知っているなら魔法も通用しない事も承知しているよな。どちらが分が悪かったか私にしゃぶられながら考えるが良いさ」
「一筋縄ではいかないと…… さて、あんた俺達を喰らう準備は出来たのか?」
「呑気にしていると久し振りのお楽しみが逃げうせてしまうぞ」
「じゃあ、せいぜい逃げ回って私を楽しませてみろ。オフザケもここまでだ」
ムラサキが叫んだ途端、公一達が立っている床の石の継ぎ目からから赤い液体が勢いよく吹き出した。粘りの有る液体はノイと公一を押し包もうと粘着性のあるいやらしい音を立てて襲い掛かった。
刹那、公一は足の裏で転がしていた槍を爪先の上に乗せ上に向かって蹴り上げた。
槍は真直ぐに立ち上がり穂先は石畳の隙間に突き刺さった。
公一は床に突き刺さした槍の石突きの上にノイを脇に抱えで飛び乗り、短い気合の後もう一段高く飛んだ。ノイも公一の動きに合わせて腕から抜け出し、公一を踏み台にして軽やかな跳躍を見せた。
赤い液体は公一の動きについて行けず無駄に空を切る。
公一は床に突き刺した槍の石突きの先端に降り立ち身じろぎひとつせず仁王立ちになってムラサキを見下ろした。
公一が飛び上がった瞬間に腕から抜け出していたノイは公一の頭の上にひらりと舞い降りた。
公一の頭の上に腕組みをして立ち、同じようにムラサキを見下ろしていた。何故か半透明の者も頭の上に乗っている。
「上手い、上手い。良く避けたね。そんな槍の使い方は初めて見たよ。それに二人とも息が合った動きじゃないか」
ムラサキは公一をワザとらしく褒めた。
「ノイ様、驚かしてしまったら申し訳ありません」
「いや、大丈夫だ。楽しめたぞ」
「上手く逃げたつもりだろうが、何もできないぞ。それとも、これから踊りでも見せてくれるのかい」
ムラサキは嘲笑い大げさに攻撃する振りをした。
動揺を誘う為か赤い液体の中で何かが槍に絡み付き揺すぶろうとした。
槍は大木が根を生やしたようにびくともせず、公一達が動ずる事は無かった。
それどころか公一は赤い水の中に蠢く何かを目ではなく心眼で正確に追っていた。
ムラサキも公一の守りの固さに気付いているようで水面からの攻撃はしてこない。
「じぁあ、頭からこれをかぶると、どうなるか試してみようかぁ」
赤い液体が天井から滴り落ち始めた。
しかし、ノイの頭の上にいた半透明の者が傘のように開き液体は二人には届かない。
赤い液体は腐った物も交じっている様で透明な者は難なく消化してしまっている。
「どうだ、こいつを連れて来たのは正しかったろう。後で酒貰おうな」
「助かりました。でも、まだ飲む暇は貰えそうにもないですよ」
「ああ、踊りって言ってたな。何か足らんと思った。これをやらなきゃ」
公一はノイを頭に乗せたまま、出初め式の梯子登り宜しく軽業を行い最後に見得まで切って見せた。
「どうだ? ここに居る公一は見た目は貧弱でもやるだろう?」
ノイは出来るだけ憎たらしく見えるように舌をムラサキに向かって出した。
「ばーか。小鬼のさきっぽ。食べれるものなら食べてみろ」
その問いかけを聞いたノイは憤然として公一の陰から飛び出してきた。
「この馬鹿者め。私は私であって誰の手下でもない。私はノ……、こら、お前何を」
公一は興奮しているノイから羽交い絞めにしてこれ以上、余計な事を喋らないように左手で口に蓋をした。嫌がるノイを軽く持ち上げて耳元で素早く囁いた。
「相手が仕掛けるまで…」
「また話しの腰を折ってすまない。何しろ子供のやる事だから。!…いてて。こら噛みつくな」
ノイは子供あつかいされたことを不満に思ったらしく公一の手も平にかみついてきた。単なる抗議だったようで公一の手はちぎれることは無かった。
「あははは、中々のはねっ返り屋さんだねえ。色々と判って来た。少なくとも君たちは誰の仲間でもないって事だ。それは私にとって上々な話だよ」
ムラサキは続ける。
「君たちの賢さに驚いたんだ。この私の誘いを何事も無いように話しが続けられるんだから。普通の人間なら此処に入って、とうの昔に赤い水と一緒なって浴びる事が出来たのに」
「こっちが言うこと聞かないから用心深くなっていたのか」
「ああ、そうだとも君達が誰かの指図で私を殺しに来かと思っていたんだ。君達も私の事を疑ったろう。まあ当然だな」
公一はムラサキの話を聞きながら、ノイを羽交い絞めにした時に無造作に置いた槍を足の裏で転がしていた。
公一の足の動きを見ながらムラサキは話しを続ける。
「ここで一つ取引と行こうじゃないか。私は出口を教える。その代りにお前が今抱いている女の子を一舐めだけさせてほしい。なに一度だけだ」
思わず公一は苦笑し、ノイは鼻を鳴らした。
「なに、ほんの一舐め、一舐めだけで良いんだ。その柔らかそうな頬っぺたを、なんだったら爪先だけでも。頼むよ。なあ……」
ムラサキは欲望を満たしたいがためか身体をよじらせ懇願してきた。
「ふん、舐めれるものなら試すが良かろう。どうせ一舐めで全部喰うつもりでいるだろうがな」
ノイは口元をゆがめた。
突然ムラサキはくねらしていた体の動きを止めかん高い声を上げた。
「おい人間の男よ、話がきいてないのか?」
「聞こえてるし、ちゃんと聞いているぞ」
「公一、とぼけた返事をするなよ。こいつの言いたい事は自分の術が聞こえているのか確かめたいのさ。おい、お前。お前の言葉の術は自分より下の者しか効き目は無いぞ」
「はあ? これで頑張って術を掛けようとしてたんですか? あの程度じゃあ耳障りなだけですよ。あんなものに引っかかるのは、よっぽど頭がぼんやりとした奴じゃないと無理ですよ」
公一はムラサキに向かって、
「この子には指一本触れはさせない。俺たちが何処へ行こうと俺たちの勝手だ。ただな、人食いのお前はここに捨て置いて行く訳にはいかん」
「と言う訳でお前が出来る事はここで戦って死ぬか、逃げ帰って主人に殺されるか、二つに一つだ。好きな方を選ばせてやる」
「おい公一、さっき拾った矢をよこせ」
ノイは公一の腕から抜け出すと公一が腰にさげていた小鬼の矢筒が素早く矢を抜き思いきりムラサキに投げつけた。
矢は風を切る音を残して猛烈な勢いでムラサキに突き刺さった。
見事矢は額のど真ん中に命中したが、ムラサキは痛みを感じる様子も無く笑うように目を細めて、矢が突き刺さった箇所を中心にしてドロリと溶けると壁と身体を縫い付けていた矢から難なく逃れた。
「ワザと当たってあげたけど、まさか壁にまで貫通するとは思わなかったよ。でも思い通りに行かなくて残念だったね」
「ふっ、試したまでだ。公一よ見ての通り、こいつには打撃は効かん注意しろよ。昔、腕利きの剣士が不用意な攻めをして返り討ちにされていたからな」
ムラサキは怪訝な顔をした。
「お前、私を知っているのか?」
「お前が忘れているだけさ
「知っているなら魔法も通用しない事も承知しているよな。どちらが分が悪かったか私にしゃぶられながら考えるが良いさ」
「一筋縄ではいかないと…… さて、あんた俺達を喰らう準備は出来たのか?」
「呑気にしていると久し振りのお楽しみが逃げうせてしまうぞ」
「じゃあ、せいぜい逃げ回って私を楽しませてみろ。オフザケもここまでだ」
ムラサキが叫んだ途端、公一達が立っている床の石の継ぎ目からから赤い液体が勢いよく吹き出した。粘りの有る液体はノイと公一を押し包もうと粘着性のあるいやらしい音を立てて襲い掛かった。
刹那、公一は足の裏で転がしていた槍を爪先の上に乗せ上に向かって蹴り上げた。
槍は真直ぐに立ち上がり穂先は石畳の隙間に突き刺さった。
公一は床に突き刺さした槍の石突きの上にノイを脇に抱えで飛び乗り、短い気合の後もう一段高く飛んだ。ノイも公一の動きに合わせて腕から抜け出し、公一を踏み台にして軽やかな跳躍を見せた。
赤い液体は公一の動きについて行けず無駄に空を切る。
公一は床に突き刺した槍の石突きの先端に降り立ち身じろぎひとつせず仁王立ちになってムラサキを見下ろした。
公一が飛び上がった瞬間に腕から抜け出していたノイは公一の頭の上にひらりと舞い降りた。
公一の頭の上に腕組みをして立ち、同じようにムラサキを見下ろしていた。何故か半透明の者も頭の上に乗っている。
「上手い、上手い。良く避けたね。そんな槍の使い方は初めて見たよ。それに二人とも息が合った動きじゃないか」
ムラサキは公一をワザとらしく褒めた。
「ノイ様、驚かしてしまったら申し訳ありません」
「いや、大丈夫だ。楽しめたぞ」
「上手く逃げたつもりだろうが、何もできないぞ。それとも、これから踊りでも見せてくれるのかい」
ムラサキは嘲笑い大げさに攻撃する振りをした。
動揺を誘う為か赤い液体の中で何かが槍に絡み付き揺すぶろうとした。
槍は大木が根を生やしたようにびくともせず、公一達が動ずる事は無かった。
それどころか公一は赤い水の中に蠢く何かを目ではなく心眼で正確に追っていた。
ムラサキも公一の守りの固さに気付いているようで水面からの攻撃はしてこない。
「じぁあ、頭からこれをかぶると、どうなるか試してみようかぁ」
赤い液体が天井から滴り落ち始めた。
しかし、ノイの頭の上にいた半透明の者が傘のように開き液体は二人には届かない。
赤い液体は腐った物も交じっている様で透明な者は難なく消化してしまっている。
「どうだ、こいつを連れて来たのは正しかったろう。後で酒貰おうな」
「助かりました。でも、まだ飲む暇は貰えそうにもないですよ」
「ああ、踊りって言ってたな。何か足らんと思った。これをやらなきゃ」
公一はノイを頭に乗せたまま、出初め式の梯子登り宜しく軽業を行い最後に見得まで切って見せた。
「どうだ? ここに居る公一は見た目は貧弱でもやるだろう?」
ノイは出来るだけ憎たらしく見えるように舌をムラサキに向かって出した。
「ばーか。小鬼のさきっぽ。食べれるものなら食べてみろ」
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