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第十六話 ムラサキ 陽 その四
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「ばーか。小鬼のさきっぽ。食べれるものなら食べてみろ」
ムラサキは激怒したらしく色を濃くして叫んだ。
「小娘、これをみて驚くなよ。嫌でも赤い水に入りたくなるぞ」
ムラサキの体に走る黄色斑模様が生木を裂く音に似たを立てて開いた。
殿様ガエルの卵みたいだな
全身に赤い目玉が現れおのおの目玉は動きを確かめる様にてんでばらばら動いていたがいつせいに二人を見つめた。
「これでどうだ。良く見ろ。じっと見ろ。そこから飛び降りろ」
暫く赤目玉の黒い瞳を覘きこんでた公一だったが、手を振ってみて黒い瞳の動きを観察した。
「きもちわるっ。何か動く。俺この手の物は大嫌いですよ」
「私は何とも思わんがな」
ムラサキの予想に反して二人の反応は薄いものだった。
ムラサキは焦っていた。そのせいか先程までの饒舌ぶりはすっかりひそめ、むっりと押し黙った。
自分の眼力は神格以外の生き物全て誘惑し、この血の池に引きずり込む事が出来るはずだった。
それが有ってはならない事に全く効果が無い人間が、一人ならず二人も現れたのだ。たかが人間と侮っていたムラサキには驚愕な出来事が発生したのだった。
後は自分の腕力と手数に頼り有無を言わせず始末をつけるしかない。しかし自分で動くことを厭い怠惰を決め込んでいたムラサキの攻撃は、公一の動きに遅れを取る事となった。
次の攻撃の為か床一面を覆っていた赤い水は、潮が引くよりも早く消え失せ辺りは忌まわしい静けさに包まれた。
公一も攻撃に備えるべく呪文を唱える。
「知恵の光、命の全てを生む光よ。この悪しき暗闇を、その光で照らしたまえ」
公一は呪文に応える様に淡い暖かな光を灯した短剣で、大きな真円を空中に描いた。公一を中心に描かれた真円は決して消える事のない美しい帯となった。
光は部屋におりのように積もった陰までも照らし出した。
そう、このムラサキの根源である形の無い憎悪、生への執着をも全てを。
「これで、お前はどこにも逃げれないぞ。自由になりたければ俺を倒せ」
「ぬかせ、それはお前らも同じだ。お前さえ倒せばよかろう。こっちには時間はいくらでも有る」
赤い水が四方八方から襲い掛かりる。その水流としぶきの隙間を縫う様に四本の触手が公一たちを切り刻むために鋭くはしった。
触手は公一達のを包む光の輪の中に入ると、一瞬にして枯葉のように燃えてしまい細かな灰となった。が、一本だけは公一の目前まで迫った。
ノイはチラリと視線を公一に向けたが直ぐにムラサキを睨める。
「はっははは、判ったぞ。君のその術にはムラがあるねえ。こっちは手数を増やして行けばいつかは君を捕まえるか、そこから突き落とすことが出来るな」
ムラサキは勝利を確信してか上機嫌になった。
「そうしたら、暫くは私のオモチャになってもらおうか。これが受け切れるかな」
無数の触手が水面から飛び出し公一覆い隠す様に襲った。
「そら、モタモタしていると串刺しなるぞ」
その内の数本は公一自ら短剣で切り払らなければ避ける事は出来なかったなかった。
公一に切り払われた触手は、平たい頭に有る口を大きく開いたまま、無数の鋭い牙をむき出しにして燃え尽きた。
「公一、手を貸そうか?」
「いえ、少しだけ時間を下さい」
ノイの力なら地の底から炎を呼び、辺り一面を溶岩の大河に変えることも出来るだろう。
間違いなく目の前の敵の肉体は滅ぶ。だが、また邪悪なものはいつの日か再び形をとり悪さをするはずだ。
例えあたりを蒸発させコイツが二度と出てこれないとしても、他の連中まで巻き込んでしまう。あの入道達も間違いなく滅ぶ。
それは優しいノイの望むところでは無い。絶対に無い。
公一はムラサキに向かって叫んだ。
「ところであんた。海って知っているか? 海の生き物って食ったことあるか」
「時間稼ぎか? そんな物知るか。食った事もない」
今度はノイは挑発する。
「残念奴だ海を知らないとはな。それでは物をもっと美味く食べる方法も知らないんだな?」
「私が海とやらを知らなくても、お前たちは私の腹の中に納まるのさ」
ノイと公一には十分すぎる答えだった。
「そうか、塩を知らないんだな。じゃあ今、私が見せてやる」
「ノイ様出来るだけ濃い海の水を呼んで下さい」
「承知しているよ」
ノイは右手を高く上げて叫んだ。
「海龍よ命じる。お前の溜息をここに顕せ」
広間は一気に磯香りと海風が吹き渡り、ノイの指さした先には大量の海水が渦を巻いた。
ノイが指先をムラサキに向けると、海水はしぶきになって広間を駆けムラサキを飲み込んだ。
ノイは再び指を掲げると海水は再びノイの頭上に集まりムラサキが顔を出した。
「これが海か? こんなもので私がどうとでもなると思ったのか? ただ身体かひりつくだけだぞ」
ノイの指先の海水は次第に水分を失い真っ白の雪になって宙を舞い踊った。
「そんな粉で何が出来る?」
塩の事を全く知らないムラサキは嘲笑った。
ムラサキが嘲笑うのはそこまでだった。
塩は礫になり突き刺さった。塩はムラサキの醜い肌から全ての水分を奪い始めた。
「痛い、イタイ、ナンダコレハ」
痛みに耐え兼ね身体を細切れにして逃げようとしたが、塩の鋭い結晶はそれを許さなかった。
「前は詰めが甘かったな。今度は絶対に逃がさんぞ」
「ノイ様、塩を固めてください」
「お前、私はそんなに甘くないぞ。見ていろ、こうするのさ」
塩は吹雪は荒れ狂い逃げ惑う赤い塵を痛め付けた。
「仕上げだ」
ノイが人差し指を軽く動かすと吹雪は竜巻になり広間中心で渦を巻いた。
「よし出来たぞ」
竜巻は消え去り巨大な球体が残された。
「塩の結晶ですか」
「いや石にしてやった。こいつは二度と出れない」
「溶けたり砕けたりしませんか?」
「お前は鈍い奴だな。この私が石にしたんだ。この世界が変わるまで、このままさ」
「それにお前の封じの呪いもかけてある。誰も近寄ることは出来ないよ」
公一は溜息しか出せなかった。
「それにしても良く思い付いたな」
「塩は浄めに使います。元いた世界で似た生き物を見たことがあるんです。血が好きな事と塩や強い酒、あと火も嫌いました」
「それでか。お前がいなかったらまた逃げられたよ。お手柄だった。誉めてやる」
ノイは満足そうに声を立てて笑った。笑い声は広間に響き、広間は清浄の空間となっていた。
ムラサキは激怒したらしく色を濃くして叫んだ。
「小娘、これをみて驚くなよ。嫌でも赤い水に入りたくなるぞ」
ムラサキの体に走る黄色斑模様が生木を裂く音に似たを立てて開いた。
殿様ガエルの卵みたいだな
全身に赤い目玉が現れおのおの目玉は動きを確かめる様にてんでばらばら動いていたがいつせいに二人を見つめた。
「これでどうだ。良く見ろ。じっと見ろ。そこから飛び降りろ」
暫く赤目玉の黒い瞳を覘きこんでた公一だったが、手を振ってみて黒い瞳の動きを観察した。
「きもちわるっ。何か動く。俺この手の物は大嫌いですよ」
「私は何とも思わんがな」
ムラサキの予想に反して二人の反応は薄いものだった。
ムラサキは焦っていた。そのせいか先程までの饒舌ぶりはすっかりひそめ、むっりと押し黙った。
自分の眼力は神格以外の生き物全て誘惑し、この血の池に引きずり込む事が出来るはずだった。
それが有ってはならない事に全く効果が無い人間が、一人ならず二人も現れたのだ。たかが人間と侮っていたムラサキには驚愕な出来事が発生したのだった。
後は自分の腕力と手数に頼り有無を言わせず始末をつけるしかない。しかし自分で動くことを厭い怠惰を決め込んでいたムラサキの攻撃は、公一の動きに遅れを取る事となった。
次の攻撃の為か床一面を覆っていた赤い水は、潮が引くよりも早く消え失せ辺りは忌まわしい静けさに包まれた。
公一も攻撃に備えるべく呪文を唱える。
「知恵の光、命の全てを生む光よ。この悪しき暗闇を、その光で照らしたまえ」
公一は呪文に応える様に淡い暖かな光を灯した短剣で、大きな真円を空中に描いた。公一を中心に描かれた真円は決して消える事のない美しい帯となった。
光は部屋におりのように積もった陰までも照らし出した。
そう、このムラサキの根源である形の無い憎悪、生への執着をも全てを。
「これで、お前はどこにも逃げれないぞ。自由になりたければ俺を倒せ」
「ぬかせ、それはお前らも同じだ。お前さえ倒せばよかろう。こっちには時間はいくらでも有る」
赤い水が四方八方から襲い掛かりる。その水流としぶきの隙間を縫う様に四本の触手が公一たちを切り刻むために鋭くはしった。
触手は公一達のを包む光の輪の中に入ると、一瞬にして枯葉のように燃えてしまい細かな灰となった。が、一本だけは公一の目前まで迫った。
ノイはチラリと視線を公一に向けたが直ぐにムラサキを睨める。
「はっははは、判ったぞ。君のその術にはムラがあるねえ。こっちは手数を増やして行けばいつかは君を捕まえるか、そこから突き落とすことが出来るな」
ムラサキは勝利を確信してか上機嫌になった。
「そうしたら、暫くは私のオモチャになってもらおうか。これが受け切れるかな」
無数の触手が水面から飛び出し公一覆い隠す様に襲った。
「そら、モタモタしていると串刺しなるぞ」
その内の数本は公一自ら短剣で切り払らなければ避ける事は出来なかったなかった。
公一に切り払われた触手は、平たい頭に有る口を大きく開いたまま、無数の鋭い牙をむき出しにして燃え尽きた。
「公一、手を貸そうか?」
「いえ、少しだけ時間を下さい」
ノイの力なら地の底から炎を呼び、辺り一面を溶岩の大河に変えることも出来るだろう。
間違いなく目の前の敵の肉体は滅ぶ。だが、また邪悪なものはいつの日か再び形をとり悪さをするはずだ。
例えあたりを蒸発させコイツが二度と出てこれないとしても、他の連中まで巻き込んでしまう。あの入道達も間違いなく滅ぶ。
それは優しいノイの望むところでは無い。絶対に無い。
公一はムラサキに向かって叫んだ。
「ところであんた。海って知っているか? 海の生き物って食ったことあるか」
「時間稼ぎか? そんな物知るか。食った事もない」
今度はノイは挑発する。
「残念奴だ海を知らないとはな。それでは物をもっと美味く食べる方法も知らないんだな?」
「私が海とやらを知らなくても、お前たちは私の腹の中に納まるのさ」
ノイと公一には十分すぎる答えだった。
「そうか、塩を知らないんだな。じゃあ今、私が見せてやる」
「ノイ様出来るだけ濃い海の水を呼んで下さい」
「承知しているよ」
ノイは右手を高く上げて叫んだ。
「海龍よ命じる。お前の溜息をここに顕せ」
広間は一気に磯香りと海風が吹き渡り、ノイの指さした先には大量の海水が渦を巻いた。
ノイが指先をムラサキに向けると、海水はしぶきになって広間を駆けムラサキを飲み込んだ。
ノイは再び指を掲げると海水は再びノイの頭上に集まりムラサキが顔を出した。
「これが海か? こんなもので私がどうとでもなると思ったのか? ただ身体かひりつくだけだぞ」
ノイの指先の海水は次第に水分を失い真っ白の雪になって宙を舞い踊った。
「そんな粉で何が出来る?」
塩の事を全く知らないムラサキは嘲笑った。
ムラサキが嘲笑うのはそこまでだった。
塩は礫になり突き刺さった。塩はムラサキの醜い肌から全ての水分を奪い始めた。
「痛い、イタイ、ナンダコレハ」
痛みに耐え兼ね身体を細切れにして逃げようとしたが、塩の鋭い結晶はそれを許さなかった。
「前は詰めが甘かったな。今度は絶対に逃がさんぞ」
「ノイ様、塩を固めてください」
「お前、私はそんなに甘くないぞ。見ていろ、こうするのさ」
塩は吹雪は荒れ狂い逃げ惑う赤い塵を痛め付けた。
「仕上げだ」
ノイが人差し指を軽く動かすと吹雪は竜巻になり広間中心で渦を巻いた。
「よし出来たぞ」
竜巻は消え去り巨大な球体が残された。
「塩の結晶ですか」
「いや石にしてやった。こいつは二度と出れない」
「溶けたり砕けたりしませんか?」
「お前は鈍い奴だな。この私が石にしたんだ。この世界が変わるまで、このままさ」
「それにお前の封じの呪いもかけてある。誰も近寄ることは出来ないよ」
公一は溜息しか出せなかった。
「それにしても良く思い付いたな」
「塩は浄めに使います。元いた世界で似た生き物を見たことがあるんです。血が好きな事と塩や強い酒、あと火も嫌いました」
「それでか。お前がいなかったらまた逃げられたよ。お手柄だった。誉めてやる」
ノイは満足そうに声を立てて笑った。笑い声は広間に響き、広間は清浄の空間となっていた。
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