最深部からのダンジョン攻略 此処の宝ものは、お転婆過ぎる

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第十七話 横穴と残敵

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 岩塩の球体となったムラサキを置いて部屋の出口に向かおうとする二人だったが
公一は疲れのせいか膝をつき、その場にへたり込んでしまった。

「なんだ、だらしない疲れたのか。しょうがない奴だ」
「さっきの力は自分の力だけではないのです。来てくれた力が強すぎたようで、足が萎えてしまいました」

「少し休むか?」
「いえ、誰かがこっちを隠れて窺っています」
 槍を杖代わりに立ち上がり、身体に付いた塩を払いながら何気なく出口を観察した。
「今は弱みは見せられません。あと虫の親がいるはずです」

 ノイは公一の数珠に目をやった。
「どうだ?」
「さっき奴と比べれば悪くは有りません。ですが腕は立ちそうです」

 公一は暗がりの中にじっと潜み、こちらを観察している僅かな気配を感じた。

「今は捨て置こう。虫の親を探す」
「そうですね、もし隠れている奴が本気なら、すぐにでも仕掛けてくるはずです。それに一人だけのようです」
「一人か大胆な奴だ。油断はしないほうが良いな」

 二人は慎重に足を進めた。広間はノイが呼びたした塩の結晶が体積していて遠目から見れば雪の上を歩いている様に見えるだろう。

「ノイ様、この塩のおかけで余分な奴は、ここから奥には行けなくなりましたよ」
「さっき言っていたが、塩はお前の国では清めに使うのか? もっと呼べばよかったかな」
 公一は首を振った。
「出れなくなりますよ。あと怪しいところはどこかな」

 その時、広間の出入り口の暗がりから石が投げ込まれた。石は二人の頭上を飛び越えて壁に当たった。

「当てる気ないみたいだな。隠れてるやつは何考えてるんだ」
 ノイは石を投げた者を見つけ出そうと背伸びをした。

 また一つ石が投げ込まれ壁に当たって跳ね返り塩の上に落ちた。
「お、ノイ様は入口を見張って下さい。石の当たった辺りに何か有りそうです」

 公一は塩に埋まりかかった彫像を横目に見ながら、石の当たった壁に走り寄った。

「ああ、ここから入れますね。今は埋まってますが、何とかなりそうです」
公一はかがみこんで塩のと壁の隙間にてを突っ込んだ。かき混ぜる様に腕を回すと塩は壁の内側にさらさらと音を立て流れていった。

「穴が開きました。奥に続いていますね。なんか嫌な音が聞こえてきますよ」
 穴の奥からは微かではあるが何かをひっかく乾いた音が響いて来る。

 ノイは出入り口を警戒しながら聞いてきた。
「何かいたか?」

「カサカサ音がします。さっきの虫がうじゃうじゃ中にいるみたいです」
 ノイは出入り口の見張りを止めて公一のそばにやってきた。
「この中だな。離れていろ」
 ノイは公一の拡げた穴に手をつこんだ。とたんに爆発が起こり爆風が公一とノイの髪を後ろになびかせた。

「公一、ちょっと来い。中がどうなってるか覗いて見てくれ」
ノイは穴を指をさした。

 穴は拡がったとはいえ公一の頭が通る程度の大きさしかない。
「ここに頭を突っ込むんですか」
「あれ? 嫌なのか。お前は私の盾になるって誓ったはずだと思ったがなあ。あれは私の聞き違……」

 公一はノイの言葉を遮った。
「ハイ、ハイ。確かに申し上げました。決して嘘ではありません。やればいいんでしょ!」

  公一は半分自棄になりながら穴に頭を突っ込んだ。肩の辺りまではすんなり入ったが、そこからがいけなかった。

「あ、これもしかしたらヤバいかもしれない。ひっかかった」
 身体がはまり込んで前にも戻る事も出来なくなってしまった。

 公一の焦りをよそにノイは呑気に公一の尻を足で突いた。
「お、引っ掛かったのか。まあいいや、そっから何が見える?」

 ノイの起こした爆発のせいで部屋は煙で視界が悪く、公一の見える範囲では動くものは見当たらなっかった。
「見えるのはバラバラになってる奴らだけ……」
 と全部を言い終わる前に公一の頭の上で軋む音が近づいて来た。
「うあ! ちょっ、いた。頭の上にいた。ノイ様引っ張って」

「おお、まだ生きていた奴がいたか。ちょっと辛抱しろよ」
 ノイは公一のズボンのすそを持ってゆっくりと引っ張った。
 公一の身体は穴から抜けず、ズボンだけが少しだけ脱がされた格好になってしまった。
「ノイ様、遊ばないで! こっちは頭の上に虫が乗っかりそうなんです」

「おお、尻が顔を出したぞ。可愛いじゃないか」
ノイは公一の騒ぎをよそに尻の観察を続けていた。

 強い視線を感じた公一はたまらず叫んだ。
「人の尻を解剖するな」
「ほほう、こうするとこうなると。ふむ、これを解剖と言うと……」

「コラー変態なことばかり覚ようとするな。こっちは大変なんだよ」
「なるほど変態と……」

「だから変な言葉を覚える前に足を引っ張れって言ってるでしょう」
「公一、言葉と言うものはだな身近な奴があれだと下品になるというぞ」
「真面目くさって言わんでも良いです! 足を引っ張って」

 虫は公一の頭に憑りつき、軋むような鳴き声を出しながら嘴を後頭部に突き刺そうとした。

「あ、もうダメかもしれない」
 公一は穴の出ていた腕を強引に戻して、身体がはまっている穴の中で腕立て伏せをする格好をする。
 公一は息を吸い込こみ短い気合を発した。

  虫は公一の気合に当たったようで全身を硬直させて頭から転がり落ちていった。
 塩の穴は公一の手のひらを中心にして細かなヒビが入り崩れ落ち始めた。

 公一は崩れ落ちていく塩の塊と一緒になって床に落ちてしまった。
「いてて、何とか刺されずに済んだ。助かった」

 公一は大きくなった穴から顔を覗かせているノイと目が合った。
「あー、ニヤニヤして、まったくワザとやってたんですか!」
「おい、私を怒っている暇はないぞ。周りを見てみろ」

 公一と一緒に落ちた虫の他に生き残り何匹かいたようで、エサの気配を感じてかワサワサと公一をめがけて迫って来た。
「ノイ様、槍、槍を下さい」

 公一は虫の動きを目で追いながら上から覗いているノイに向かって手を伸ばした。
「うん、これを渡さんとな。忘れていたぞ」

 いつ飛びかかってくるか判らない虫の動きを追っていた公一の頭の上に何かが投げつけられた。

 ズボンだった。

「そんな恰好じゃしょうがないよな。まず穿いたらどうだ」

「槍が先でしょうが」
 何か色々と大切な物を無くしてしまった感はあったが構っては居られなかった。
 口調にも哀願が混じっていた。

 ノイは公一の慌てぶりを堪能したのか槍を投げてよこした。

 公一は受け取った槍を振るい虫たちを突き刺し何とか撃退した。虫たちはノイの起こした爆発のせいで弱っていたせいと、何か違った感情が槍にこもっていたらしく虫たちを難なく退治した。
「なんとか全部、仕留めましたよ」

「ご苦労。面白かったぞ」
 ノイは崩れて斜めになったザラザラの塩の上を歓声を上げて滑り下りてきた。
「わー! わっはは」
  
 公一は帰す言葉もなく溜息をついた。

「さてと、こいつらを生んだ親も退治しておこうか」
 ノイは公一を気にも留めず小部屋の奥に進み始めた。部屋といってもアーチ状天井をした通路に近く奥まで続いていた。

「連戦は辛い物が有りますねえ。あのムラサキ色したみたいな奴が出ると不味いですね」

「怖いのなら私の陰にでも隠れていてもいいぞ」
「いいえ、そんなことはしませんよ」
 公一は先頭に立ち先に進んだ。
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