最深部からのダンジョン攻略 此処の宝ものは、お転婆過ぎる

aradoar234v30

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第二十五話 痕跡を探す

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「そうだな、きっかけさえあればな。きっかけがな」
 ノイは公一の顔を下から舐めるように覗き込んだ。
「何か嫌な予感しかしなんですが」
 公一はノイの顔を覗き込んでくる仕草に耐えかね老猿の方に視線を移した。老猿は相変わらず茫然として立ち尽くしている。

 ノイは、とぼけようとする公一の裾を引っ張った。
「なあ公一、サルは腑抜けてどうしようもないんだ。今、敵に向かい合ったりしたら殺されてしまうぞ。お前は奴を見殺しにしたりはしないよな? そんな薄情な奴じゃないよな?」
 公一はノイのマジマジト見つめてくる瞳の光に負けて切り出した。
「敵わないなあ。俺が囮になって敵を引っ張ってくれば良いんでしょ?」
 
「そう! やっぱり私の公一だ」
 ノイは公一の首に勢いよく飛びついて頬を擦り付けた。
 公一は自分の首筋が真っ赤になっているのを悟られない様に、首にまとわりつくノイの細い腕をそっと外した。

「もう、ノイ様は調子がいいなあ。でもあの人がいま敵と戦っても普段どおりに動けるとは思えませんよ」
「そこは任せろ、私がついているんだぞ。なんとかしてみせる」
 公一は思わずノイの最初の儀式で見せた、美しい裸体の陰影を心に浮かべてしまい首を振った。

「公一何か不満でも有るのか? 様子がおかしいぞ」
 公一はノイに本心を悟られまいと少しだけ後ずさった。
「お前、何か私に隠し事してるだろう」
 ノイはそう断言すると、隠している何かを突き止めようと公一まわりをゆっくりと回りだした。 
 公一をからかうつもりでいるのか鼻をこすり付けるくらいに近づけ念入りに調べた。
「わかった! 公一お前の考えてる事」
「いや、あの、いえ…」
 ノイは公一の首を指さして言った。
「お前もしかして妬いてるのか。また私が舞うと思ってるな。そんなに他のオスに見せたくないのか?」

  公一はしどろもどろになって答えに窮してしまい一言だけしか返事が出来なかった。
「ハイ……」
 ノイは半分逃げ腰の公一にまたもや飛びかかるように抱き付き胸を押し付けた。
 公一は何とかノイを引き剥がそうとしたが、意地でも離れようとはしなかった。
「ノイ様ダメだったら、不謹慎過ぎますよ」
 ノイは公一の慌てぶりを意に介さず口を公一の耳元に寄せ、そっと囁いた。
「ふふっ… 二人っきりの時だけな…」
 
 今度はノイが照れたようで頬を染め公一を思いっきり突き飛ばした。

 もんどり打って倒れた公一は抗議の声を思わず上げた。
「いきなり突き飛ばすことないじゃないですか!」
「いつまでもくっついているなよ! 急いで探して引っ張って来い」
 厳しい口調にもかかわらずノイの表情は何処か緩んでいるように見える。

「あの… にやてけて……」
「うるさいな。しつこい奴は嫌われるぞ。ほら、行った行った」
 ノイは虫でも追い払う様に公一に向かって手を振った。
「私はサルに喝を入れてくるからな」

  一人、茫然と立ちすくむ公一を置いてノイは老猿の方に歩いて行ってしまった。
「しょうがないな。俺も行くとするか」
 公一は幾つかの塚の向こう側にいるはずの敵のことを考え闇を見据えた。

 公一が猿達の死骸を確かめて得た結論は、まだ一つしかない。もう少し時間と相手を知る手がかりが欲しかった。
「今のところ焼け死んだ奴や溶けて死んだ奴はいなかった。魔法は使わないのか使えないのかどちっだろうな」
 ノイが老猿を励ます声を聞きながら考えをまとめようとした。
「もう少し先に行ってみるか。特別な痕跡でも残していると有難いが…… 鬼ごっこか隠れんぼなのか微妙なところだな」
 公一は一人敵を求めて薄暗い道を進み始めた。
 
 公一にとって隠形はお手の物で一人で進むぶんには何の問題もない。師匠には逃げ隠れは免許皆伝と言われた程だった。
「師匠にも囮にされたっけな。頑張って子供の使いだけにはならないようにするか」
しばらく敵の痕跡を探るために公一は慎重に足を進めた。

「うん、見つけた。どうやら知恵が無い方だな。仕事が粗いな」
 公一の目の前には死んだ猿を引きずったと思われる跡が残されていた。
 猿の体毛や体から流れ出た血液がハッキリと床に残っている。
「全然、隠すつもりは無しと。しかも腐りかけの匂いだ酷いな。こっちしかないね」

 進むにつれ血の匂いは益々と酷い物となり公一は閉口するしかなかった。
「おっとと」
 床一面に広がっている血液を踏みそうになった公一は思わず声を上げ辺りを見回した。
「これだ血が流れているのに死体一つもないか…… こりゃ、ここで血抜きした跡かだな」
 公一は床に広がった血液を踏まない様に注意深く足を進めた。
 相手の力量を計るための痕跡を探し出すことも忘れてはいなかった。

 「相手が陣取っている場所見つけるのは簡単だよな。この跡を追えさえすれば良い。だけど雑すぎるぞこいつは」
 公一が悩むのは雑すぎる行動だった。
「大急ぎの仕事なのか自信過剰なのか馬鹿なのか、やっぱり見てみないと判らんな」
 流れ出でた血液に汚されていない場所めがけて床を蹴った。

「さてと、数珠が何か言いし始めたか」
 公一は槍を構え直し耳をすました。
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