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第二十六話 猿の山と血
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公一は疼きだした右手の数珠に目を落とし、すくざま槍を構え直した。
「近くなってきたな。どうも変な音が聞こえるけど嫌な予感しかしないな」
耳をすまして音がする方向の様子を窺う。
「ここからが本番」
乾いた唇を舌で舐めて苦笑いをした。
「ビビるな俺」
自らを励ましつつ足を前に進める。
猛烈な腐臭と透明な者どもが発する光が目的地が近い事を公一に知らせていた。
「透明の奴らが始末できないくらいの量が有るのか…… もっと近くによって調べないと。どうせろくでもない奴がろくでもない事をやってるだろうけど」
公一は物陰から物蔭へ素早く動き透明の者どもが放つ光の方に向かった。
「随分と明るくなってきたな。それだけ集まっているのか。いろいろとな……」
今までとは違う明るさは、その場所に透明な者共が処理しなくてはならない仕事が多量にあるという事だった。
その時、右手の数珠の僅かな疼きが公一に危険を知らせた。
「なにか、出てくるな……」
公一か物蔭から様子を窺っていると、透明な者が放つ光を背に受けて一匹の小鬼がおぼつかない足取りで公一のほうに近寄ってくる。
小鬼はうつろな目を真正面に向け、公一には気が付かず足を引きずりながら遠ざかっていた。
「皮が剥されている。酷い事をやられたな。しかも何かの呪いをかけられている」
小鬼は皮を剥がされていたにもかかわらず出血をしていなかった。痛みを口にするでもなくただ真正面を向いて歩いているだけだった。
「他の奴はどうかな。もう少し近づくか」
公一はまさに赤鬼と言っていい小鬼をやり過ごし、赤い小鬼が来た瓦礫の家をぬうように出来た道を進んだ。
道は平たんであったが辺りは流れ出た血液や小鬼達が踏み荒らしたせいで酷い有様だった。
「くそ、小鬼が無暗に歩き回ったせいで、肝心な奴の手掛かりが見つけれない」
いきなりの遭遇戦の覚悟を決めた公一の表情は厳しいものになった。
「不意打ちをされるヘマはしないけどな……」
公一は小鬼達が踏み荒らしていない瓦礫の山すそ選び、自分の痕跡を残さないよう素早く歩き先を急いだ。
「さてと、この山なら崩れることはないな。ここを上って偵察といきますか」
公一は自分の背丈以上ある石が積みあがって出来た瓦礫の山を軽々と登り始めた。
常人ならばよじ登れないような個所でも指先さえかかれば難なく身体を持ち上げる事が出来た。
「ノイ様のお蔭と修行の賜物だな。師匠にも感謝しないといかんな」
公一が一番気にかけたのは巨石の上にある浮石を不注意で落としてしまわない事だった。
「ここから全体を見渡せれるぞ」
自分の背後を気にかけながら下の様子を窺った公一は思わず呪詛の言葉を吐いてしまった。
「馬鹿野郎どもが、この世に地獄を作ってどうするつもりだ」
公一の視界に飛び込んできたものは積み上げられた猿の死体と、何者かに操られた赤い小鬼達がその死体の皮を剥いでいるところだった。
普通の人間なら目の前のおぞましい風景と鼻をつく異臭で卒倒するところだろう。
ただ今の公一は怒りで血が沸騰したようになってしまい、身体に帯た熱がどうにもならなかった。
普段なら頭を冷やす為に身を隠して深呼吸でもするのだが、ノイの影響か収まりがつかない。
公一は瓦礫の上に憤然と立ち上がると赤い小鬼達や、ここに居るはずの使役者に向かって大音声を上げた。
「やめんか! お前ら何をしているか!」
言うや否や瓦礫の頂上から飛び降り、猿の皮を剥いでいる赤い小鬼に駆け寄った。
小鬼は先ほどやり過ごした者と同じで皮を剥がされた姿だった。
小鬼は公一には目もくれず手に持った短剣を使い強引に猿の体から皮をはぎ取ろうとしていた。
公一は試しに槍の柄で赤い小鬼の足を払った。小鬼は勢いよく転んでしまい床を打つ音が大きく響いた。
床に転がった小鬼はうつろな表情で天井を見上げたあとノソノソと起き上がり公一に目をくれる事もなく自分が処理していた猿の所に戻り作業の続きを始めた。
「やっぱり、ここに居る奴らは木偶人形だ。命令された事しか出来ない」
公一の耳に何かを引きずる音が入ってきた。音のする方を見ると数匹の小鬼が忌まわしい音を立てて皮を剥ぎ終えた猿を引きずっている。
「こいつらを盾にしていくか」
案の定、小鬼達が向かう先は、公一の目星をつけた方向と道が同じだった。
公一は透明の者が放つ光を浴びて長く伸びる小鬼達の影の中に隠れるよう足を運んだ。
「この小細工で相手の力量もわかる。こっからは探り合いだ」
もちろん血で汚された床を踏まない事も忘れていない。
光に照らさた鬼達の影は短く濃くなっていき、公一の行く道をハッキリと浮かび上がらせた。
その道の先には今までの瓦礫山とは明らかに違う二つの小高い丘が現れた。丘は反対側にいる透明な者達のが放つ光を背にして公一の前に立ち塞がるように赤黒い斜面を見せ横たわっていた。
二つの丘は片方は猿の死骸が積み上げられたもので、もう片方は猿からはぎ取った革がうず高く積み上げられた者だった。
公一はジワジワと血が滲みだしている丘のふもとに近づき再び声を上げた。
「中に居るのは判っている。知らぬふりをせず、その面を出せ」
公一の声には何者も許さない厳しい響きがあった。
「近くなってきたな。どうも変な音が聞こえるけど嫌な予感しかしないな」
耳をすまして音がする方向の様子を窺う。
「ここからが本番」
乾いた唇を舌で舐めて苦笑いをした。
「ビビるな俺」
自らを励ましつつ足を前に進める。
猛烈な腐臭と透明な者どもが発する光が目的地が近い事を公一に知らせていた。
「透明の奴らが始末できないくらいの量が有るのか…… もっと近くによって調べないと。どうせろくでもない奴がろくでもない事をやってるだろうけど」
公一は物陰から物蔭へ素早く動き透明の者どもが放つ光の方に向かった。
「随分と明るくなってきたな。それだけ集まっているのか。いろいろとな……」
今までとは違う明るさは、その場所に透明な者共が処理しなくてはならない仕事が多量にあるという事だった。
その時、右手の数珠の僅かな疼きが公一に危険を知らせた。
「なにか、出てくるな……」
公一か物蔭から様子を窺っていると、透明な者が放つ光を背に受けて一匹の小鬼がおぼつかない足取りで公一のほうに近寄ってくる。
小鬼はうつろな目を真正面に向け、公一には気が付かず足を引きずりながら遠ざかっていた。
「皮が剥されている。酷い事をやられたな。しかも何かの呪いをかけられている」
小鬼は皮を剥がされていたにもかかわらず出血をしていなかった。痛みを口にするでもなくただ真正面を向いて歩いているだけだった。
「他の奴はどうかな。もう少し近づくか」
公一はまさに赤鬼と言っていい小鬼をやり過ごし、赤い小鬼が来た瓦礫の家をぬうように出来た道を進んだ。
道は平たんであったが辺りは流れ出た血液や小鬼達が踏み荒らしたせいで酷い有様だった。
「くそ、小鬼が無暗に歩き回ったせいで、肝心な奴の手掛かりが見つけれない」
いきなりの遭遇戦の覚悟を決めた公一の表情は厳しいものになった。
「不意打ちをされるヘマはしないけどな……」
公一は小鬼達が踏み荒らしていない瓦礫の山すそ選び、自分の痕跡を残さないよう素早く歩き先を急いだ。
「さてと、この山なら崩れることはないな。ここを上って偵察といきますか」
公一は自分の背丈以上ある石が積みあがって出来た瓦礫の山を軽々と登り始めた。
常人ならばよじ登れないような個所でも指先さえかかれば難なく身体を持ち上げる事が出来た。
「ノイ様のお蔭と修行の賜物だな。師匠にも感謝しないといかんな」
公一が一番気にかけたのは巨石の上にある浮石を不注意で落としてしまわない事だった。
「ここから全体を見渡せれるぞ」
自分の背後を気にかけながら下の様子を窺った公一は思わず呪詛の言葉を吐いてしまった。
「馬鹿野郎どもが、この世に地獄を作ってどうするつもりだ」
公一の視界に飛び込んできたものは積み上げられた猿の死体と、何者かに操られた赤い小鬼達がその死体の皮を剥いでいるところだった。
普通の人間なら目の前のおぞましい風景と鼻をつく異臭で卒倒するところだろう。
ただ今の公一は怒りで血が沸騰したようになってしまい、身体に帯た熱がどうにもならなかった。
普段なら頭を冷やす為に身を隠して深呼吸でもするのだが、ノイの影響か収まりがつかない。
公一は瓦礫の上に憤然と立ち上がると赤い小鬼達や、ここに居るはずの使役者に向かって大音声を上げた。
「やめんか! お前ら何をしているか!」
言うや否や瓦礫の頂上から飛び降り、猿の皮を剥いでいる赤い小鬼に駆け寄った。
小鬼は先ほどやり過ごした者と同じで皮を剥がされた姿だった。
小鬼は公一には目もくれず手に持った短剣を使い強引に猿の体から皮をはぎ取ろうとしていた。
公一は試しに槍の柄で赤い小鬼の足を払った。小鬼は勢いよく転んでしまい床を打つ音が大きく響いた。
床に転がった小鬼はうつろな表情で天井を見上げたあとノソノソと起き上がり公一に目をくれる事もなく自分が処理していた猿の所に戻り作業の続きを始めた。
「やっぱり、ここに居る奴らは木偶人形だ。命令された事しか出来ない」
公一の耳に何かを引きずる音が入ってきた。音のする方を見ると数匹の小鬼が忌まわしい音を立てて皮を剥ぎ終えた猿を引きずっている。
「こいつらを盾にしていくか」
案の定、小鬼達が向かう先は、公一の目星をつけた方向と道が同じだった。
公一は透明の者が放つ光を浴びて長く伸びる小鬼達の影の中に隠れるよう足を運んだ。
「この小細工で相手の力量もわかる。こっからは探り合いだ」
もちろん血で汚された床を踏まない事も忘れていない。
光に照らさた鬼達の影は短く濃くなっていき、公一の行く道をハッキリと浮かび上がらせた。
その道の先には今までの瓦礫山とは明らかに違う二つの小高い丘が現れた。丘は反対側にいる透明な者達のが放つ光を背にして公一の前に立ち塞がるように赤黒い斜面を見せ横たわっていた。
二つの丘は片方は猿の死骸が積み上げられたもので、もう片方は猿からはぎ取った革がうず高く積み上げられた者だった。
公一はジワジワと血が滲みだしている丘のふもとに近づき再び声を上げた。
「中に居るのは判っている。知らぬふりをせず、その面を出せ」
公一の声には何者も許さない厳しい響きがあった。
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