最深部からのダンジョン攻略 此処の宝ものは、お転婆過ぎる

aradoar234v30

文字の大きさ
28 / 51

第二十八話 招来

しおりを挟む
「我の身をよくも台無したな。あの老いぼれを殺る前にお前を始末してくれる」
 潜む者は丘から這い出して身体全体を公一の目に晒し、低く響く叫び声を上げて公一に向かって吼えた。
 身体を引きずる音の響きが体の醜さを一層際立たせた。

「仲間といっても自分の身可愛さで見殺しかい? 利用する事しか考えてなかったな」

 未だに燃え盛っている破邪の炎を背にして潜む者は人間の消化器官の様に伸びた体をくねらせた。
 長い胴体には潜む者の犠牲となった猿達の手足が不恰好に生え、中には寸足で空中を蹴るだけの足もあった。

「長い胴体にたくさんの足かい? まるでムカデだな。だがな俺の国のムカデの方が美しく可愛いもんだぞ」

「減らず口を叩くな! 我を貶めることは我が主を愚弄するのと同じと思え」

「俺が言っても判らいだろうな。いますぐに違いを見せてやるよ」
 公一は間髪を入れず招来の呪文を高らかに叫んだ。
「来たれ」

 潜む者はこれから顕れる何者かを警戒して油断なく身構えた。

 公一の胸の中に一抹の不安がよぎった。自分の元いた所と全く違う世界で彼が呼んだ「お使い」が招来に応じてはくれるのだろうかと。
 その時、公一の心の中にノイのいたずらっぽい、そして何処かはにかんだような顔が浮かんだ。
 心の中のノイ姿は公一から心中の不安を消し去り、自分の招来の呪文に対しての強い自信を生んでくれた。

 しかし自信が出来たとはいえ、公一にもこれから起こる事が予想できず息を殺して待つしかなかった。

 辺りには破邪の炎が汚された死骸を焼く微かな音が響くだけで、空気の揺らぎや何かが近づいて来る気配など五感に感じる事は何もおこらなかった。
 
 潜む者の哄笑が緊張を破った。
「ひ、ひひひ… 何も来ないではないか。お前の呪文も全く役には立たないな。そもそも、お前が呪文をつかえたかも怪しいものだ」

 公一は潜む者の嘲笑う声を全身で受けながら槍を体に預け合掌をしていた。

「なめた奴め、何もおこせないばかりか素知らぬふりか。その度胸だけは認めてやる。が、我と主を愚弄したことは命をもって償ってもらうぞ」

 公一は一礼をして潜む者に改めて潜む者に目を向けた。 
 その哀れみをたたえた表情を見た潜む者は、大きく見開いていた目を細め
いぶしげに見返し腹の底から響く声で脅した。
「何をたくらんでいる。小細工は効かぬぞ。今更ながらの命乞いもだ」

「小細工はしない。俺が心配なのはお前を生きて連れて行けるかだ」

「この期に及んでまだ減らず口を叩くか。ならば試すがよかろう」
 潜む者は公一の前に消化器官に似た全身を伸ばしそびえ立った。赤黒い体の色はぬめりを帯びた体は背後の破邪の炎の光を浴びて一層不気味さと不吉さを漂わせた。
 不揃いに生えていた猿たちの腕を、辺りに不快な音を響かせながらゆっくりと体の中に引き込んだ。

「そのままじっとしていろ。それとも恐ろしくて動くことが出来ぬか?」
 潜む者は思った以上の速さで、何時でも締め上げることが出来るように公一をを中心にとぐろを巻いた。

「なんだ一気に締め上げないのか? こんなに間合いが空いていれば、すぐにでも逃げられるぞ。それともこの槍が恐ろしいか?」
 公一は槍の調子を取るように石突きで床を突いた。

「強がりは、この刃の全てを躱すことが出来てから言え!」
 潜む者が歯を食いしばり全身を震わすと、身体の中に引き込んでいた猿たちの腕が蛇が鎌首をもたげるように一斉に姿をあらわした。
 猿たちの手には各々、剣や槍が握られており、その刃は全て公一に向けられていた。
「ああ、まさに奥の手だな。まだ隠しているだろう? あと矢だよ矢。お前が死んだ猿たちから取り上げてたやつだ」

「知っていたも避けられるとは限るまい。後悔して死ね。ゆっくりと切り刻んでやる」
「俺は逃げないし何もしない。俺を切り刻む前に少しだけ後ろを気にしたらどうだ?」

「何を言いたい。お前を助ける者など来なかったではないか」
潜む者の目に映ったものは死骸の丘に火が残った墨が赤い光を放っているだけだった。
「また悪あがきか、いい加減……」
 潜む者はそこまで言いかけ口をつぐみ注意深く丘全体に目をくばった。
 そして悪意に満ちた表情はそのまま固まったように動かなくなった。ようやく気がついたからだ。自分とは異質な物の存在に。

 潜む者が丘の燃え残りの炎だと思っていた火の揺らぎは模様だったからだ。
 模様の持ち主は死骸の丘全体に巻き付くようにしてとぐろを巻き、長く伸び触覚を細かく震わせていた。赤く燃える目で公一と潜む者を静に見つめ、顎は獲物をいつでも食いちぎる準備でもしているかのように乾いた音を出し始めた。

 公一が呼んだ「お使い」が現れていたのだった。

 炎をまとったムカデ恰好をした「お使い」は頭を上げ触覚を伸ばし震わせた。
 それに答える様に丘の頂上の空気が揺らいたと思うと空中から動物の前足が突き出された。
 逞しい前足は鋭い爪と黄色と黒の縞模様があり、死骸の丘に爪を突き立てると空中からのっそりと全身を表した。
 別の「お使い」も現れたのだった。

「虎も送ってくれたのか……」
 公一は感謝の気持ちをこめ感謝の呪文を呟いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう

お餅ミトコンドリア
ファンタジー
 パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。  だが、全くの無名。  彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。  若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。  弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。  独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。  が、ある日。 「お久しぶりです、師匠!」  絶世の美少女が家を訪れた。  彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。 「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」  精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。 「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」  これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。 (※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。 もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです! 何卒宜しくお願いいたします!)

最遅で最強のレベルアップ~経験値1000分の1の大器晩成型探索者は勤続10年目10度目のレベルアップで覚醒しました!~

ある中管理職
ファンタジー
 勤続10年目10度目のレベルアップ。  人よりも貰える経験値が極端に少なく、年に1回程度しかレベルアップしない32歳の主人公宮下要は10年掛かりようやくレベル10に到達した。  すると、ハズレスキル【大器晩成】が覚醒。  なんと1回のレベルアップのステータス上昇が通常の1000倍に。  チートスキル【ステータス上昇1000】を得た宮下はこれをきっかけに、今まで出会う事すら想像してこなかったモンスターを討伐。  探索者としての知名度や地位を一気に上げ、勤めていた店は討伐したレアモンスターの肉と素材の販売で大繁盛。  万年Fランクの【永遠の新米おじさん】と言われた宮下の成り上がり劇が今幕を開ける。

オッサン齢50過ぎにしてダンジョンデビューする【なろう100万PV、カクヨム20万PV突破】

山親爺大将
ファンタジー
剣崎鉄也、4年前にダンジョンが現れた現代日本で暮らす53歳のおっさんだ。 失われた20年世代で職を転々とし今は介護職に就いている。 そんな彼が交通事故にあった。 ファンタジーの世界ならここで転生出来るのだろうが、現実はそんなに甘く無い。 「どうしたものかな」 入院先の個室のベッドの上で、俺は途方に暮れていた。 今回の事故で腕に怪我をしてしまい、元の仕事には戻れなかった。 たまたま保険で個室代も出るというので個室にしてもらったけど、たいして蓄えもなく、退院したらすぐにでも働かないとならない。 そんな俺は交通事故で死を覚悟した時にひとつ強烈に後悔をした事があった。 『こんな事ならダンジョンに潜っておけばよかった』 である。 50過ぎのオッサンが何を言ってると思うかもしれないが、その年代はちょうど中学生くらいにファンタジーが流行り、高校生くらいにRPGやライトノベルが流行った世代である。 ファンタジー系ヲタクの先駆者のような年代だ。 俺もそちら側の人間だった。 年齢で完全に諦めていたが、今回のことで自分がどれくらい未練があったか理解した。 「冒険者、いや、探索者っていうんだっけ、やってみるか」 これは体力も衰え、知力も怪しくなってきて、ついでに運にも見放されたオッサンが無い知恵絞ってなんとか探索者としてやっていく物語である。 注意事項 50過ぎのオッサンが子供ほどに歳の離れた女の子に惚れたり、悶々としたりするシーンが出てきます。 あらかじめご了承の上読み進めてください。 注意事項2 作者はメンタル豆腐なので、耐えられないと思った感想の場合はブロック、削除等をして見ないという行動を起こします。お気を悪くする方もおるかと思います。予め謝罪しておきます。 注意事項3 お話と表紙はなんの関係もありません。

【完結】うさぎ転生 〜女子高生の私、交通事故で死んだと思ったら、気づけば現代ダンジョンの最弱モンスターに!?最強目指して生き延びる〜

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
 女子高生の篠崎カレンは、交通事故に遭って命を落とした……はずが、目覚めるとそこはモンスターあふれる現代ダンジョン。しかも身体はウサギになっていた!  HPはわずか5、攻撃力もゼロに等しい「最弱モンスター」扱いの白うさぎ。それでもスライムやコボルトにおびえながら、なんとか生き延びる日々。唯一の救いは、ダンジョン特有の“スキル”を磨けば強くなれるということ。  跳躍蹴りでスライムを倒し、小動物の悲鳴でコボルトを怯ませ、少しずつ経験値を積んでいくうちに、カレンは手応えを感じ始める。 「このままじゃ終わらない。私、もっと強くなっていつか……」  最弱からの“首刈りウサギ”進化を目指して、ウサギの身体で奮闘するカレン。彼女はこの危険だらけのダンジョンで、生き延びるだけでなく“人間へ戻る術(すべ)”を探し当てられるのか? それとも新たなモンスターとしての道を歩むのか?最弱うさぎの成り上がりサバイバルが、いま幕を開ける!

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】スーパーの店長・結城偉介 〜異世界でスーパーの売れ残りを在庫処分〜

かの
ファンタジー
 世界一周旅行を夢見てコツコツ貯金してきたスーパーの店長、結城偉介32歳。  スーパーのバックヤードで、うたた寝をしていた偉介は、何故か異世界に転移してしまう。  偉介が転移したのは、スーパーでバイトするハル君こと、青柳ハル26歳が書いたファンタジー小説の世界の中。  スーパーの過剰商品(売れ残り)を捌きながら、微妙にズレた世界線で、偉介の異世界一周旅行が始まる!  冒険者じゃない! 勇者じゃない! 俺は商人だーーー! だからハル君、お願い! 俺を戦わせないでください!

生まれ変わったら飛べない鳥でした。~ドラゴンのはずなのに~

イチイ アキラ
ファンタジー
生まれ変わったら飛べない鳥――ペンギンでした。 ドラゴンとして生まれ変わったらしいのにどうみてもペンギンな、ドラゴン名ジュヌヴィエーヴ。 兄姉たちが巣立っても、自分はまだ巣に残っていた。 (だって飛べないから) そんなある日、気がつけば巣の外にいた。 …人間に攫われました(?)

処理中です...