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第三十五話 仇討 その三
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「こいつのお目覚めの時間らしいぞ。それとも、死んだふりで、やり過ごす魂胆だったかな。なあお前?」
息を凝らしていたハイエナは目玉を開いた瞬間ノイの足元から大きく飛びのくと、
転がっている剣を引っ掴むと大きく息を吐いた。
「お前何者だ。なんて馬鹿力だ! 危うく骨が砕けると思ったぞ」
「私か? 私は公一の可愛いノイ様だよ。なあ、公一」
「……! はい、そうです」
「そう言った返事はすぐしてほしいものだ。それと遠慮なんかするなよ。メスは他の奴の前で褒められてこそだ。功名を求めるオスもそうだぞ」
「お前ら、黙っていれば調子に乗りおって、許さんぞ」
ハイエナは焦れたらしく荒々しく叫んだ。
「おお、すまなかった。忘れてた。えーと、お前のやりたいことは、この可愛らしいこの私を無残にも辱めるってことで良いな?」
「おお、そうだとも。この何者をも砕く剣に血を吸わせてやる。言っておくが容赦はしない」
「ああ、判っているよ。遠慮は要らない。避けはしないから私のここを――」
ノイは自分の頭のてっぺんを軽く叩いて見せた。
「そう、ここに、その馬鹿でかい牙でできた剣を振り下ろしてみろ。お前が余程の下手でない限り、当たると思うぞ」
ハイエナはだらしなく片手で持っていた剣を無言で振り上げ、
咆哮を上げながらノイの脳天めがけて剣を振り下ろした。
ノイの脳天に剣は直撃した。
ノイは言った通り全く避けるそぶりを見せず脳天で剣をまともに受け止めた。
剣はノイが微動だにもしないにもかかわらず、金属的な高い音を響かせて大きく跳ね上がった。
牙で出来た剣は、まるで音叉が振動するような音を部屋中に響かせた。
「剣が泣いている……」
公一は思わずつぶやいた。
「なんだ、手を滑らせたのか? 今のは力が下に落ちきれていなかったようだな」
「……」
「それともお前には、その剣を使うのに荷が重いのか? ならば、この剣をお前に授けた者はとんだ見込み違いだったな」
「バカを言うな ゴーダ様を侮辱することは、絶対には許さん! 我が主には間違いは無いのだ!」
「……ほほおう。じゃあ、たまたま、手でも滑らせたのか? それとも剣が出来損ないか、だなあ」
ハイエナは苛立ちを隠さなかった。
「うるさい! これは古の大龍の牙だぞ、出来損ないなどあるわけ無い」
「……ふふん、じゃあ手元が狂ったか。しょうのない奴だな。今度こそ、一番の剣の使い手が使う最高の剣の威力を見せてみろ」
「言われるまでもない」
今度こそと振り降ろした剣先は、ノイの脳天に寸分の狂いもなく命中した。
ハイエナは指先にまで神経を配った、全霊を込めた一撃だった。
「取った――」ハイエナは手応えを感じて確信した。
しかし剣は相手を真っ二つにすることも、押しつぶすことも無くピタリと動かなくなった。
ハイエナが全力で打ち込んだ力がの全てが自分に跳ね返ってしまい、腕だけでなく身体全体の筋骨が痺れてしまっていた。
「仕損じた」
己が身体に跳ね返った衝撃だけでなく、自分が切る事が出来ない者がいた。
この事実がハイエナの心を強く揺さぶっていた。
ノイが分厚い刃先の陰から顔を出してニヤリと笑った。
「また、しくじったのか?」
ハイエナはギクリとしてノイに目が釘つけになってしまった。
この得体の知れない者が次、何をしでかすか空恐ろしくなったからだった。
ハイエナの本能が身の危険を訴えていた。
「お、なんだ震えているのか?」
知らず知らずの内に膝が震えていたのだった。
「お前が硬すぎるのだ。卑怯だぞ! いつ魔法を使ったんだ、油断のならない奴め」
「だから魔法は使わないっていってるだろう」
ノイはやれやれとかたをすくめた。
「それよりこの可愛らしい私を切れぬ剣、本当に龍の牙なのか? ここには龍の墓でもあるのか? そあたりに落ちてるものでもなかろう」
痺れて自由がきかない身体を回復の時間稼ぎにはなる――
ハイエナは一計を案じた。
一太刀浴びせ、逃げる、いや、ゴーダ様に御注進せねば。
この得体の知れない連中のことを知らせるだけでも手柄になるだろう。
そう思うと、つい余分な事を話してしまうのが欲の深い者達の性だった。
「一度逃げていた古の大龍が、何をとち狂ったのか人間を一人だけ乗せ、ここに攻め攻め込んで来たのだ。そのとき討ち取られた奴だ。間違いはない」
ハイエナは自分の言葉に昂揚して続けた。
「いいか、この牙の剣は持ち主は代われど、二本の剣はその時代の最強の戦士達が持つのだ。その栄誉を与えられたのが我なのだ」
「……二本か、判った。お前と同じように強い奴がまだいるのだな」
ノイの目がすわる。
「そうか……、分った。間違えなく龍は死んでしまったのだな」
「良く分った……」
最後は呟きになっていった。
「そうだ。この剣を欲しがる奴は山ほどいる」
ノイの口調はついさっきと打って変って明るいものになった。
「よし、もう一度試すがいいぞ。ただ私も叩かれるのは少し飽きた。今度はどちらが早く当てるかの勝負としよう」
「魔法か魔力で誤魔化す気か?」
ハイエナは疑わしいそうに眼を細めた。
「魔法? 使えても使うつもりはないよ。私の使うのは――」
ノイは右の腕をつきだして見せた。
「お前は、このか細い腕が怖いのか? これ位、怖いことないだろう。
この愛らしい腕さえ切れなければ、お前は相当なほら吹きだな」
ノイの口調は笑いさえ含んでいた。
「男、邪魔するなよ!」
ハイエナは公一の返事も待たず横殴りの一撃をノイに浴びせた。
息を凝らしていたハイエナは目玉を開いた瞬間ノイの足元から大きく飛びのくと、
転がっている剣を引っ掴むと大きく息を吐いた。
「お前何者だ。なんて馬鹿力だ! 危うく骨が砕けると思ったぞ」
「私か? 私は公一の可愛いノイ様だよ。なあ、公一」
「……! はい、そうです」
「そう言った返事はすぐしてほしいものだ。それと遠慮なんかするなよ。メスは他の奴の前で褒められてこそだ。功名を求めるオスもそうだぞ」
「お前ら、黙っていれば調子に乗りおって、許さんぞ」
ハイエナは焦れたらしく荒々しく叫んだ。
「おお、すまなかった。忘れてた。えーと、お前のやりたいことは、この可愛らしいこの私を無残にも辱めるってことで良いな?」
「おお、そうだとも。この何者をも砕く剣に血を吸わせてやる。言っておくが容赦はしない」
「ああ、判っているよ。遠慮は要らない。避けはしないから私のここを――」
ノイは自分の頭のてっぺんを軽く叩いて見せた。
「そう、ここに、その馬鹿でかい牙でできた剣を振り下ろしてみろ。お前が余程の下手でない限り、当たると思うぞ」
ハイエナはだらしなく片手で持っていた剣を無言で振り上げ、
咆哮を上げながらノイの脳天めがけて剣を振り下ろした。
ノイの脳天に剣は直撃した。
ノイは言った通り全く避けるそぶりを見せず脳天で剣をまともに受け止めた。
剣はノイが微動だにもしないにもかかわらず、金属的な高い音を響かせて大きく跳ね上がった。
牙で出来た剣は、まるで音叉が振動するような音を部屋中に響かせた。
「剣が泣いている……」
公一は思わずつぶやいた。
「なんだ、手を滑らせたのか? 今のは力が下に落ちきれていなかったようだな」
「……」
「それともお前には、その剣を使うのに荷が重いのか? ならば、この剣をお前に授けた者はとんだ見込み違いだったな」
「バカを言うな ゴーダ様を侮辱することは、絶対には許さん! 我が主には間違いは無いのだ!」
「……ほほおう。じゃあ、たまたま、手でも滑らせたのか? それとも剣が出来損ないか、だなあ」
ハイエナは苛立ちを隠さなかった。
「うるさい! これは古の大龍の牙だぞ、出来損ないなどあるわけ無い」
「……ふふん、じゃあ手元が狂ったか。しょうのない奴だな。今度こそ、一番の剣の使い手が使う最高の剣の威力を見せてみろ」
「言われるまでもない」
今度こそと振り降ろした剣先は、ノイの脳天に寸分の狂いもなく命中した。
ハイエナは指先にまで神経を配った、全霊を込めた一撃だった。
「取った――」ハイエナは手応えを感じて確信した。
しかし剣は相手を真っ二つにすることも、押しつぶすことも無くピタリと動かなくなった。
ハイエナが全力で打ち込んだ力がの全てが自分に跳ね返ってしまい、腕だけでなく身体全体の筋骨が痺れてしまっていた。
「仕損じた」
己が身体に跳ね返った衝撃だけでなく、自分が切る事が出来ない者がいた。
この事実がハイエナの心を強く揺さぶっていた。
ノイが分厚い刃先の陰から顔を出してニヤリと笑った。
「また、しくじったのか?」
ハイエナはギクリとしてノイに目が釘つけになってしまった。
この得体の知れない者が次、何をしでかすか空恐ろしくなったからだった。
ハイエナの本能が身の危険を訴えていた。
「お、なんだ震えているのか?」
知らず知らずの内に膝が震えていたのだった。
「お前が硬すぎるのだ。卑怯だぞ! いつ魔法を使ったんだ、油断のならない奴め」
「だから魔法は使わないっていってるだろう」
ノイはやれやれとかたをすくめた。
「それよりこの可愛らしい私を切れぬ剣、本当に龍の牙なのか? ここには龍の墓でもあるのか? そあたりに落ちてるものでもなかろう」
痺れて自由がきかない身体を回復の時間稼ぎにはなる――
ハイエナは一計を案じた。
一太刀浴びせ、逃げる、いや、ゴーダ様に御注進せねば。
この得体の知れない連中のことを知らせるだけでも手柄になるだろう。
そう思うと、つい余分な事を話してしまうのが欲の深い者達の性だった。
「一度逃げていた古の大龍が、何をとち狂ったのか人間を一人だけ乗せ、ここに攻め攻め込んで来たのだ。そのとき討ち取られた奴だ。間違いはない」
ハイエナは自分の言葉に昂揚して続けた。
「いいか、この牙の剣は持ち主は代われど、二本の剣はその時代の最強の戦士達が持つのだ。その栄誉を与えられたのが我なのだ」
「……二本か、判った。お前と同じように強い奴がまだいるのだな」
ノイの目がすわる。
「そうか……、分った。間違えなく龍は死んでしまったのだな」
「良く分った……」
最後は呟きになっていった。
「そうだ。この剣を欲しがる奴は山ほどいる」
ノイの口調はついさっきと打って変って明るいものになった。
「よし、もう一度試すがいいぞ。ただ私も叩かれるのは少し飽きた。今度はどちらが早く当てるかの勝負としよう」
「魔法か魔力で誤魔化す気か?」
ハイエナは疑わしいそうに眼を細めた。
「魔法? 使えても使うつもりはないよ。私の使うのは――」
ノイは右の腕をつきだして見せた。
「お前は、このか細い腕が怖いのか? これ位、怖いことないだろう。
この愛らしい腕さえ切れなければ、お前は相当なほら吹きだな」
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