最深部からのダンジョン攻略 此処の宝ものは、お転婆過ぎる

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第三十六話 仇討 その四

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「私が閉じ込められている間に、いろいろとあったようだな」

「ええ、あいつ焦っていたせいで随分と口が軽かったですね」

「うん……」
 ノイは牙の剣を何か確かめるように触っていて、何処か上の空で力のない返事だった。


「奴がどうなっているか確めて来ます」

 今は一人の方が良いな――。公一なりの気遣いだった。


「一人にしないでくれ。今は何か話をしていないと寂しくてたまらん」

「わかりました」

 公一は手招きに応じた。ノイは疲れているのか牙に寄りかかっている。


「公一そこに座れ。そうじゃないもっと男らしくだ」


 正座をしようとしたことを、たしなめられた公一は床に胡座をかいた。

 
ノイは胡座の公一の膝のなかに、強引に身を滑り込ませた。


「なぜ私がこの剣、いや、この牙にこだわるのか言わないといけないな……」
 ポツリポツリと話始めた。

「この牙の持ち主は私の大事な仲間の一人だったよ。一族の中では私の次だったんだ」

「……」

「こいつはな、悪ふざけが過ぎて私に噛みついたんだ。そうしたら歯が欠けてな、大騒ぎだったよ」

「まあ、こいつと組んで悪さばっかりしていた私が言える立場ではないんだが……」

「公一、牙の先が見えるか? 一番、尖ったところの少し下だ。あそこに少し欠けたところがあるだろう」

 ノイはまぶたを閉じて言った

「こいつ――、インテンジィバ・ストムは私を頭にのせて空を飛んだんだ」

「人間達が追いつめられた時など、二人で敵陣に切り込んで敵の大群に飛び込んで蹴散らしたことは何度も有った。あれは痛快だったよ」

「こいつと、生まれて間もない星々の間を飛んだ時の美しさは言いもいわぬものだった……」

「しかし、私がふがいないばかりに、こいつは命を落としてしまった」


「だから、あいつに三回も殴らせたんですか?」

 ノイは少し驚いたように公一を見つめ、公一の膝の上で小さく丸まった。

「自分への罰だよ。助けることができなかったことにさ。少しでも、生きていた感触も思い出したかったからな……」

 居心地が悪いのか身体をもぞもぞと動かした。

 そんなノイを公一は優しく後ろから抱きしめた。ノイの暖かさと鼓動が公一の腕の中に広がった。


「公一疲れた。すまないが起きるまで、このままでいてくれ」

「判りました。ちゃんと見張っていますから、お休み下さい」

 
 ノイは公一の返事を待たず寝息を立て始めた。

「あ、寝たか。疲れていたんだな……」


  悲しい夢なんか見てほしくない――

 公一の正直な気持ちだった。ノイがこれから直面する厳しい現実は、これだけでは終わらないだろう。

 いや、ノイの強さと明るさが全てを吹き飛ばしてくれるに違いない――
「俺には信じるしか出来ないもんな……」


 公一はノイを抱きしめたまま天井を見上げた。
 半透明の者たちの放つ明りをボンヤリと見上げながら、これから遭遇する敵のことを自然に考えている自分が馬鹿らしくなった。

「心配性だな俺は…… 少しだけでも休まなきゃな。あと腹減ったな」

 ノイの連れていた透明の者は気でもきかせてか、少し離れたところで動き回っていた。
 
「ノイ様がおきたら一緒に飲もうかなあ…… 酒でも飲めば気も楽になるか」

 これからの立ち振舞いが問われる。明るすぎても、暗すぎてもノイを傷つけたりはしないか。
 今度は敵のことを忘れて真剣に考えこんでしまった。


 ――自分のことを少しでも頼りにしてくれる少女が自分の腕のなかにいる。

「それにしても可愛いな」
 つい無意識に言葉にしてしまった。

 ぴくり――
 
 公一の腕の中で僅かながらノイが動いた。

 やっぱり女の子だな――
 夢うつつであっても褒められると嬉しいものかと公一は安心した。

「可愛いノイ様は俺が守りますよ」
 公一は起こさないように小さくつぶやいた。

 ノイの鼓動が高鳴りはじめ公一に伝わる。ふと見ると首筋から耳まで赤い。

「あ、小さくなってない……」
 ノイの鼓動に合わせ公一の心臓もたかなりはじめた。

 ノイは休む時は小さな子供に戻るはずだった。


 公一はこの温もりが腕の中から消えてなくなる寂しさが恐ろしくなり強く抱きしめた。
 ノイも嫌がることもなく公一を離すまいと抱きしめ返してくる。

 
 あともう少し、あともう少しだけと公一が思った瞬間。


「ダメだ眠れん。照れくさくて眠れん」

 ノイはそう言うと公一の腕から飛び出し背を向けた。

 
「それにしてもさっきの奴は口ほどでもなかったな! そう思うだろう!」

 いつもと違いどこかぎこちない。

「そ、そうですね。どうなっているか確めないといけませんね」

「本当に手応え無かった」


 ノイは手幾度か手を閉じたり開いたりして殴った感触を確めている。
 
 公一はノイとハイエナの一騎討ちを思いだしていた。


 ノイが拳をつきだした瞬間に公一の鼓膜は急激な気圧の変化を感じたことは忘れない。

 目には見えない力――
 
 気圧の変化を考えるとノイの拳には空気のが宿り、その塊ごとハイエナを殴りつけたに違いなかった。


 奇妙な音だけがを残してハイエナは二人の前から消え去ってしまった。
 そして、広間の壁に激突したらしく卵を床に落とした時に似た音が遠くから響いた。

「あの時、思いっきりぶん殴りましたか?」


「うーん、頭に来ていたが、ちゃんと加減はしたぞ。見てみろ牙だけは飛ばさなかったからな」


「流石に強くて可愛いノイ様だ」


「バカ、茶化すんじゃない」


「じゃあ、そろそろさっきのの奴が、どうなっているか見に行きましょうか」

 ノイは横を通り過ぎようとする公一を呼び止めた。
「ちょっと待て、大事なことがあるんだ。この牙を忘れてもらっては困るんだ」


「えっ? 俺が運ぶんですか?」


「違う、違うこれを飲み込むんだ」


「はあ? ノイ様がですか?」

「何を言っているんだ。お前に決まっているだろう」

「ええっ? 無理ですよ!」
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