最深部からのダンジョン攻略 此処の宝ものは、お転婆過ぎる

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第三十七話 仇討 その五

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「違う、違うこれをお前が飲み込むんだ」

「ええっ! 無理ですよ!」

 公一は思わずは口走った。
 公一が反射的に否定するのも無理からぬ話で、ハイエナが剣として使っていた龍の牙は普通の人間が一言で表現するなら――

「巨大な柱」

 としか言えないものだったからだ。


 たしかに故事には知識を得るために長剣を飲んだ賢者もいる。
 まさか今ここで、自分が飲むとは思ってもいなかった。


「無理は承知の上でいっているのだ。お前には力の源である、この牙を何としても飲み込んでもらわねばならないのだ」

 ノイは続ける。
「私がこの力を取り込むのは容易い。しかし力が強くなると、またあの深い場所に引き戻される。だからこそ、お前に強くなってもらいたいのだ」

 公一は汚れた地下で取り交わしたノイとの誓いを思い出していた。
 自らが剣となり盾になることをだ。

「誓いは覚えています。忘れるわけないでしょう」

「じゃあ文句はないな、口を開けろ。できるだけ大きくだ」

ノイは巨大な龍の牙を水鳥の羽毛でも触るように持ち上げ公一に突き付けた。


「ノイ様、少しだけ時間を頂きたいのですが」

「なんだ怖気づいたか? 心の準備が足らんとか言うなよ」

「いえ。剣を飲むなら助成を求めなければならないのです」

「ここには私以外、誰もおらんぞ」
 ノイは目をスッと細めた。

「いえ、剣を飲むのならば、他にも飲まなくてはならない剣があるのです」

「お前、何を言っているのだ? ここには、この牙しかないんだぞ。他にあるとすれば、こいつの残りの牙を探して持ってくるつもりか?」

「それとも、この下あごの牙では物足りないのか?」

「えっ? これ下顎ってことは、まだでかいのがあるのですか?」

「ああ、お前は見たことがないし、聞いたこともなかったもんな。これなんか上顎の牙に比べたら随分と可愛もんだぞ」

「そうですか……」
 公一はうつむき額を押さえた。


「なあ公一。この牙を飲み込むことが、お前の使える神に対して不義理となるのか?」
 公一は難しい表情を崩さず何かを考えている。

「全部で六本飲むのか… それが許されるのか… それが許されるとしても出来るのか?」

 ノイは公一に突き付けていた牙を床におろした。

「公一、飲む飲まぬはお前次第だ。考えがあるなら先に言ってくれ」


 公一は決心がついたらしくノイを厳しい顔で見つめた。

「ノイ様、私は自分の御仕えする神にお願いをしようと思います」

「どうも、そのきな臭い顔では難しいことを頼むつもりだな。私も一緒に頼んでやる。心配するな」


「助かります。今から術式を組んで、祈願の準備を始めます」



 公一は今だ奇跡的に肩から下げていたカバンから火打石とランタンを取り出して火を灯した。

「おお、お前の仕えている者を呼ぶのか。私が話した者だな」

「すぐに来てくれると助かるのですが」
 公一は一心に招来の呪文を唱え始めた。ほどなく目の前のランタンの火が揺らいだと思った瞬間、爆発的に燃え上がった。


 燃え上がった炎は円を描くようにノイの周りを飛び回り始めた。

「うん、よろしく頼む」

 ノイの返事を聞いた炎はノイの肩口に鳥のようにとまり一段と大きく燃え上がった。


「公一これがお前の言っていたことか。一つ聞きたいことがあるそうだ。剣だ、剣のことを聞いてきている」

 ノイは目をうっらと閉じてつぶやき始めた。 

「言うには、大小どちらの剣を飲むか聞いている」

 公一は迷わず言った。

「一度に両方を飲みます」

「公一ちょっと待て、お前は私が持つこの牙と、お前が仕える神の剣、一度に三振り飲むつもりでいるのか?」

「ええ、三振りともです。過去に、この方の長剣を飲んだ方は一人だけ。どんなに優れていても普通の人です。しかし今の私にはノイ様のご加護があります。出来ぬ訳はないかと」

「随分と大胆なものの言い方だな。このノイを試すつもりか?」

 そう言ってノイは明るく声を立てて笑った。

「いいだろう。私とお前の仕える神が力を合わせれば何とかなる。相手側も承知してくれた」

「ただな、死ぬ以上の苦しみは覚悟しておけよ……」


 公一はノイの真剣な眼差しを受け、強くうなずき、羽織っていたマントをカバンに向かって放り投げた。

 ノイは目を閉じて語りかけた。
「異世界の神よ。聞いた通りだ。公一の覚悟は間違いなくゆるぎないものだ。助勢を頼む」

「よし、公一口を開けろ。体と心も乱すなよ」

 ノイは牙を持ち上げ公一の口に当てがった。


 もし、ここに普通の人間がいたら何と思っただろうか。

 一人の人間が口から串刺しにされようとしている姿を見れば、
 哀れな生贄が捧げられている儀式と思うに違いなかった。


 ノイが力を込め牙を公一の喉に突きいれた瞬間、牙は電光を放ちながら、まばゆく輝き始めた。

 ノイは公一の焦げたした口元を気にかけず、そのまま一気に喉を貫き始めた。

 公一は耐え切れず口から二つに裂け始め、
 その容赦ない牙の熱は公一を蝋細工のよう溶かし、炎は全身をこがした。


 ノイは力を緩めこともなく、牙は公一を貫き二つに引き裂いて床に突き刺さった。

 公一は悲鳴を上げる暇もなく溶けてしまい牙の窪みに僅かに、その痕跡を残すだけになってしまった。



「ここまでは我らが仕事だ。ここからが公一、お前の力の見せたどころだぞ」


 輝く牙の光を受けてか、ノイの顔色は青黒いく、強い決意を持った鋭い眼差しで、
 公一の燃え残りを見つめた。



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