最深部からのダンジョン攻略 此処の宝ものは、お転婆過ぎる

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第四十四話 仇討 その十二 分岐の先

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 公一は目を閉じ深く息を吸いこんだ。
 自分の自分の考えを判りやすく説明するのに整理の時間が必要だったからだ。

「こちらは、風が動ていません。この通路からは風が入って来て、こちらの通路に降りて行きます」
 公一は各々の通路の空気の流れを身振り手振りを交えて説明した。

「最後まで言わなくてもいい。風が流れ来る方が空に近いと言う訳だ」

「はい、おしゃる通りです。そして自分たちが通った方向にも風は抜けていっています」

「生き物がいると言いたいんだな。それで、どちらを選ぶか迷っているのか?」

「はい……」

 ノイは公一の横に立ち流れてくる風を、ゆっくりと吸いこんでは吐き出した。
 目を閉じて大切な何かを思い出すために何度も繰り返した。

「嗅ぎたくもない匂いも混じっているが、久しぶりだな空の匂いを感じるのは」

「ここはな、闘技場に続く通路さ。風が吹き込んでくる方を行けば最上階、もう一つは闘技場の大舞台、最後の道は命を懸けなければならない奴らを閉じ込める場所に繋がっているよ」

来たことがあるんですね」

「思い出してきた。風の匂いが思い出させてくれたと言った方が良いか」

「じゃあ道もわかるんですね」

「ああ、昔と変わらなければな」

 ノイは下へ向かう通路を見つめた。
「下の闘技場でズンダと雌雄を懸けた戦いをしたんだよ」

 ノイは公一と上に向かう通路を見比べながら
「さてと何もなければ、お前と手を取り合って、この道を上って外に出でれば、お話はめでたし、めでたしで終わるんだがな」

「そうはいきませんよね」

「うん、大事な仕事を残す訳にはいかないな」

「それはそうですが……」

 少し口の重くなった公一を尻目にノイは続けた。
「公一よ、余り深くは考えるな。生きていくには行きたい方向と進むべき道が違うことは良くあることさ」

 ノイは笑いながら付け加えた。
「一度に全部やろうとは思わないよ。そこまでは欲張りではないからな」

「もといた場所では、急がば回れって言います」

「なんだそりゃ。こういうことか?」
 ノイは両手を広げその場でくるりと一回転してみせた。

「あははは。お前のいた場所の人間は変なことを考えたもんだなあ」
 ノイは明るく笑うと、もう一度、回転してみせ、その勢いで公一に抱きついた。

「なあ公一、私がこれから見るものに対して辛いと思うことを心配しているのか?」

「……」

「だったら心配するな。どの生き物でも栄枯盛衰はあるものだ。命は自然にあるとこに還るのだから」

「例え、お前が死んでも私は泣かないからな」

 公一はノイを抱きしめてぼやいた。
「意地でも死ねなくなりましたよ」

「そうだ、絶対に死ぬなよ」
 ノイは公一の胸に顔をうずめた。

「ノイ様、下に向かう通路を取りますか」

「そのつもりだ。インテンジィバ・ストムが本気で暴れたなら、あの闘技場しかないからな」

「決まりですね。この風の流れを追って闘技場に行きましょう」
ノイは公一から離れ、これから進む通路を見据えた。

「よし行くぞ。公一何が手で来ても驚くんじゃないぞ」
 公一に向かって顎でしゃくった。

 これを合図に、二人は無言で闘技場に向かう通路に足を踏み入れた。

 二人は道筋についての会話以外は口を開かず重苦しい空気が二人を包む。
 普段なら軽口を叩きあいながらの歩みとなる所だが今回ばかりは訳が違った。

公一は地図を読むこと専念し、ノイは何か物思いにふけっている様子だった。

 地図には今までにない不思議な模様が描いてあり公一を戸惑わせた。

「ノイ様、この先に今までにない印が描いてあります。何か覚えていますか?」

「どれ? 印の意味は分からないが、この先からは坂になっていたはずだ。そしてその先に闘技場がある。まあ行けばわかる」

「確かに印の先からは何も描かれてはいません。慌てていたようで途中の描き方に比べると雑です」

「そうか……」

「そもそも、此処は昔どんな場所だったんですか?」

「此処か? 昔は人間の王が住まう場所だった。美しい所ではあったが、攻め込まれてこの有り様、邪なるものが住みついた穢れた場所になってしまった。私が負けたせいでもある」

 ノイは自嘲気味に話した

「確かに、彫像や柱の細工などは人間好みに作られています。此処に住んでいた人間はどうなったんでしょう」

「もしもの時はインテンジィバ・ストムが、しんがりになってここに住むもの達を逃がす手筈になっていたよ。逃げた奴らはどうしているか……」

 公一は恐る恐る尋ねた。
「どうして負けたんですか」

 ノイは忌々し気に答えた。
「人間に裏切られたからさ」
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