46 / 51
第四十六話 仇討 その十四 傷の中の愛
しおりを挟む
「公一、許せ。お前の心の中を覗かせてもらうぞ」
ノイは公一の頭に手を添え目を閉じた。
心の中にと飛び込んできた風景は靴を履いた小さい足と手を引く男の逞しい手だった。
「まだ小さいときだな」
後ろを振り返り見えた風景は女が泣きながらこちらを見ている姿だった。
聞こえるのは風の音に混じり女の涙に濡れた悲痛な声。
「御免なさい、すてたわけじゃない…… 御免なさい。その子を宜しく……」
「この子の役目は承知している。この子は俺たちが大切に育てるから心配するな」
男の野太い声が頭の上で響いている。
女の声を背に受けて、声を立てずに涙を流し自分のつま先だけを見て歩く。
「こいつ自分の母親に心配かけまいと…… お前も一人で苦労をしたんだな」
ノイの目の前の風景がいきなり代わり、口から血を吐き出しながら隙間からはい出そうとしている感覚だった。
「胸の傷はこのときか。何と戦ったんだ?」
そしてまた繰り返される別れの声。
「うん、大体わかった。公一よ、今は涙を流せ、枯れるまで流せばいい」
膝の上で涙を流す公一の頭や背中を優しくなぜ続けた。
「大丈夫だ。お前は捨てられたのではないぞ。小さい時に仕事に出かけたのだ。そして、この私と出会ったのだ」
蔽い被さり、守るように公一を背中から抱きしめ頬ずりをした。
ノイは目を閉じ長いまつげを震わせた。涙を流す事とはなく口元には優しい笑みをたたえていた。
満足だった。
自分の最初の意図とは全く違う格好になってしまったが……
少し違うだろうが、ノイ自身の悲しみに、公一が自分の心の奥底の辛い傷を重ねてくれたことが嬉しかったから。
「だからな、もう泣くな。いい子だから」
くぐもった声で「はい」の返事が聞こえた。
「さあ、しっかりしろ。私の剣と盾にいつまでも泣かれるのは困るんだがな」
「はい」
顔を上げ答えものの直ぐに涙目になってしまった。
ノイは公一がまた泣き出しそうな様子を見て慌てて言い聞かせた。
「待て待て公一、話には続きがあるんだ。人間が裏切った訳じゃない。裏切った奴が居たんだ。泣くのは良く話を聞いてからにしろ」
公一が落ち着いた後、事のあらましを話し始めた。
漸く落ち着いた公一は泣きはらした赤い目でノイを見つめた。
「すいません、みっともない所をお見せして……」
「いや、私こそ物の言い方がきつかった。許せよ」
公一は安堵の表情を浮かべて
「少し落ち着きました。ここに住んでいた人間すべてが裏切り、ノイ様を見捨てたかと思いました」
「私が閉じ込められていた場所はズンダを止め置くはずだったんだ」
「え、裏切られて逆に、ご自身が……」
「そんなところだな。小癪なことに私を騙したのさ。ズンタのみならず、最初に居たムラサキの番人。あれだ覚えているよな? ズンダの子分たちと戦っていたのさ」
「御一人でですか?」
「ああ、ズンダ以外は、私を傷つけることが出来る奴はいなかったから、別に気にはしなかった」
「ズンダはノイ様の同格ですよね? ノイ様もズンダを倒すことが出来たのですか?」
「殺すの意味で言ったら出来ない。私たちを滅するのは御一人しかいない」
「上位の御方ですね」
「そう、私たちは執行者に過ぎない。天と地の差どころではないな」
「すいません話がそれてしまって。その裏切り者はノイ様に何をしたのですか?」
「ああ、私が閉じ込められていた部屋の壁一面に魔法陣が描いてあったろう。あれに私の名を書き込んであったのさ」
「え、他にも人間がいたら止めたはずですよ」
「ああ、そのことか。人払いをして部屋には誰も入れなかったそうだ。私が閉じ込められたときに、ご丁寧に説明してくれたよ。ああ、思い出すだけでも腹の立つ!」
ノイの表情は歯ぎしりせんばかりだった。
「それで闘技場にも細工がしてあってな。魔法であそこまで飛ばされたんだ。奴の言うことには一回切りの魔法だったそうだ」
「仕掛けの事を全部、喋ったんですか? 上手くいったのが余程嬉しかったみたいですね」
「ああ、馬鹿な奴だよ。まさか私が舞い戻るとは夢にも思わなかったんだろう。ざまあみろだ」
「そいつは王族だったんですか? それとも悪い魔法使いですか?」
「分からん。が、魔法は使えた。人間の順位は王以外は気にもしなかったからな」
「それでズンダと組んだ後はどうなったんですかね」
「判らん。裏切り者がズンダの僕になったとしても、ズンダが戦いの後に大人しくするとは思えないなあ」
「そもそも人間の言うことを聞きますかね?」
ノイは公一の頭に手を添え目を閉じた。
心の中にと飛び込んできた風景は靴を履いた小さい足と手を引く男の逞しい手だった。
「まだ小さいときだな」
後ろを振り返り見えた風景は女が泣きながらこちらを見ている姿だった。
聞こえるのは風の音に混じり女の涙に濡れた悲痛な声。
「御免なさい、すてたわけじゃない…… 御免なさい。その子を宜しく……」
「この子の役目は承知している。この子は俺たちが大切に育てるから心配するな」
男の野太い声が頭の上で響いている。
女の声を背に受けて、声を立てずに涙を流し自分のつま先だけを見て歩く。
「こいつ自分の母親に心配かけまいと…… お前も一人で苦労をしたんだな」
ノイの目の前の風景がいきなり代わり、口から血を吐き出しながら隙間からはい出そうとしている感覚だった。
「胸の傷はこのときか。何と戦ったんだ?」
そしてまた繰り返される別れの声。
「うん、大体わかった。公一よ、今は涙を流せ、枯れるまで流せばいい」
膝の上で涙を流す公一の頭や背中を優しくなぜ続けた。
「大丈夫だ。お前は捨てられたのではないぞ。小さい時に仕事に出かけたのだ。そして、この私と出会ったのだ」
蔽い被さり、守るように公一を背中から抱きしめ頬ずりをした。
ノイは目を閉じ長いまつげを震わせた。涙を流す事とはなく口元には優しい笑みをたたえていた。
満足だった。
自分の最初の意図とは全く違う格好になってしまったが……
少し違うだろうが、ノイ自身の悲しみに、公一が自分の心の奥底の辛い傷を重ねてくれたことが嬉しかったから。
「だからな、もう泣くな。いい子だから」
くぐもった声で「はい」の返事が聞こえた。
「さあ、しっかりしろ。私の剣と盾にいつまでも泣かれるのは困るんだがな」
「はい」
顔を上げ答えものの直ぐに涙目になってしまった。
ノイは公一がまた泣き出しそうな様子を見て慌てて言い聞かせた。
「待て待て公一、話には続きがあるんだ。人間が裏切った訳じゃない。裏切った奴が居たんだ。泣くのは良く話を聞いてからにしろ」
公一が落ち着いた後、事のあらましを話し始めた。
漸く落ち着いた公一は泣きはらした赤い目でノイを見つめた。
「すいません、みっともない所をお見せして……」
「いや、私こそ物の言い方がきつかった。許せよ」
公一は安堵の表情を浮かべて
「少し落ち着きました。ここに住んでいた人間すべてが裏切り、ノイ様を見捨てたかと思いました」
「私が閉じ込められていた場所はズンダを止め置くはずだったんだ」
「え、裏切られて逆に、ご自身が……」
「そんなところだな。小癪なことに私を騙したのさ。ズンタのみならず、最初に居たムラサキの番人。あれだ覚えているよな? ズンダの子分たちと戦っていたのさ」
「御一人でですか?」
「ああ、ズンダ以外は、私を傷つけることが出来る奴はいなかったから、別に気にはしなかった」
「ズンダはノイ様の同格ですよね? ノイ様もズンダを倒すことが出来たのですか?」
「殺すの意味で言ったら出来ない。私たちを滅するのは御一人しかいない」
「上位の御方ですね」
「そう、私たちは執行者に過ぎない。天と地の差どころではないな」
「すいません話がそれてしまって。その裏切り者はノイ様に何をしたのですか?」
「ああ、私が閉じ込められていた部屋の壁一面に魔法陣が描いてあったろう。あれに私の名を書き込んであったのさ」
「え、他にも人間がいたら止めたはずですよ」
「ああ、そのことか。人払いをして部屋には誰も入れなかったそうだ。私が閉じ込められたときに、ご丁寧に説明してくれたよ。ああ、思い出すだけでも腹の立つ!」
ノイの表情は歯ぎしりせんばかりだった。
「それで闘技場にも細工がしてあってな。魔法であそこまで飛ばされたんだ。奴の言うことには一回切りの魔法だったそうだ」
「仕掛けの事を全部、喋ったんですか? 上手くいったのが余程嬉しかったみたいですね」
「ああ、馬鹿な奴だよ。まさか私が舞い戻るとは夢にも思わなかったんだろう。ざまあみろだ」
「そいつは王族だったんですか? それとも悪い魔法使いですか?」
「分からん。が、魔法は使えた。人間の順位は王以外は気にもしなかったからな」
「それでズンダと組んだ後はどうなったんですかね」
「判らん。裏切り者がズンダの僕になったとしても、ズンダが戦いの後に大人しくするとは思えないなあ」
「そもそも人間の言うことを聞きますかね?」
0
あなたにおすすめの小説
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
神は激怒した
まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。
めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。
ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m
世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界からの召喚者《完結》
アーエル
恋愛
中央神殿の敷地にある聖なる森に一筋の光が差し込んだ。
それは【異世界の扉】と呼ばれるもので、この世界の神に選ばれた使者が降臨されるという。
今回、招かれたのは若い女性だった。
☆他社でも公開
クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる
あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。
でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。
でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。
その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。
そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
ファンタジー
気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる