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第四十六話 仇討 その十四 傷の中の愛
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「公一、許せ。お前の心の中を覗かせてもらうぞ」
ノイは公一の頭に手を添え目を閉じた。
心の中にと飛び込んできた風景は靴を履いた小さい足と手を引く男の逞しい手だった。
「まだ小さいときだな」
後ろを振り返り見えた風景は女が泣きながらこちらを見ている姿だった。
聞こえるのは風の音に混じり女の涙に濡れた悲痛な声。
「御免なさい、すてたわけじゃない…… 御免なさい。その子を宜しく……」
「この子の役目は承知している。この子は俺たちが大切に育てるから心配するな」
男の野太い声が頭の上で響いている。
女の声を背に受けて、声を立てずに涙を流し自分のつま先だけを見て歩く。
「こいつ自分の母親に心配かけまいと…… お前も一人で苦労をしたんだな」
ノイの目の前の風景がいきなり代わり、口から血を吐き出しながら隙間からはい出そうとしている感覚だった。
「胸の傷はこのときか。何と戦ったんだ?」
そしてまた繰り返される別れの声。
「うん、大体わかった。公一よ、今は涙を流せ、枯れるまで流せばいい」
膝の上で涙を流す公一の頭や背中を優しくなぜ続けた。
「大丈夫だ。お前は捨てられたのではないぞ。小さい時に仕事に出かけたのだ。そして、この私と出会ったのだ」
蔽い被さり、守るように公一を背中から抱きしめ頬ずりをした。
ノイは目を閉じ長いまつげを震わせた。涙を流す事とはなく口元には優しい笑みをたたえていた。
満足だった。
自分の最初の意図とは全く違う格好になってしまったが……
少し違うだろうが、ノイ自身の悲しみに、公一が自分の心の奥底の辛い傷を重ねてくれたことが嬉しかったから。
「だからな、もう泣くな。いい子だから」
くぐもった声で「はい」の返事が聞こえた。
「さあ、しっかりしろ。私の剣と盾にいつまでも泣かれるのは困るんだがな」
「はい」
顔を上げ答えものの直ぐに涙目になってしまった。
ノイは公一がまた泣き出しそうな様子を見て慌てて言い聞かせた。
「待て待て公一、話には続きがあるんだ。人間が裏切った訳じゃない。裏切った奴が居たんだ。泣くのは良く話を聞いてからにしろ」
公一が落ち着いた後、事のあらましを話し始めた。
漸く落ち着いた公一は泣きはらした赤い目でノイを見つめた。
「すいません、みっともない所をお見せして……」
「いや、私こそ物の言い方がきつかった。許せよ」
公一は安堵の表情を浮かべて
「少し落ち着きました。ここに住んでいた人間すべてが裏切り、ノイ様を見捨てたかと思いました」
「私が閉じ込められていた場所はズンダを止め置くはずだったんだ」
「え、裏切られて逆に、ご自身が……」
「そんなところだな。小癪なことに私を騙したのさ。ズンタのみならず、最初に居たムラサキの番人。あれだ覚えているよな? ズンダの子分たちと戦っていたのさ」
「御一人でですか?」
「ああ、ズンダ以外は、私を傷つけることが出来る奴はいなかったから、別に気にはしなかった」
「ズンダはノイ様の同格ですよね? ノイ様もズンダを倒すことが出来たのですか?」
「殺すの意味で言ったら出来ない。私たちを滅するのは御一人しかいない」
「上位の御方ですね」
「そう、私たちは執行者に過ぎない。天と地の差どころではないな」
「すいません話がそれてしまって。その裏切り者はノイ様に何をしたのですか?」
「ああ、私が閉じ込められていた部屋の壁一面に魔法陣が描いてあったろう。あれに私の名を書き込んであったのさ」
「え、他にも人間がいたら止めたはずですよ」
「ああ、そのことか。人払いをして部屋には誰も入れなかったそうだ。私が閉じ込められたときに、ご丁寧に説明してくれたよ。ああ、思い出すだけでも腹の立つ!」
ノイの表情は歯ぎしりせんばかりだった。
「それで闘技場にも細工がしてあってな。魔法であそこまで飛ばされたんだ。奴の言うことには一回切りの魔法だったそうだ」
「仕掛けの事を全部、喋ったんですか? 上手くいったのが余程嬉しかったみたいですね」
「ああ、馬鹿な奴だよ。まさか私が舞い戻るとは夢にも思わなかったんだろう。ざまあみろだ」
「そいつは王族だったんですか? それとも悪い魔法使いですか?」
「分からん。が、魔法は使えた。人間の順位は王以外は気にもしなかったからな」
「それでズンダと組んだ後はどうなったんですかね」
「判らん。裏切り者がズンダの僕になったとしても、ズンダが戦いの後に大人しくするとは思えないなあ」
「そもそも人間の言うことを聞きますかね?」
ノイは公一の頭に手を添え目を閉じた。
心の中にと飛び込んできた風景は靴を履いた小さい足と手を引く男の逞しい手だった。
「まだ小さいときだな」
後ろを振り返り見えた風景は女が泣きながらこちらを見ている姿だった。
聞こえるのは風の音に混じり女の涙に濡れた悲痛な声。
「御免なさい、すてたわけじゃない…… 御免なさい。その子を宜しく……」
「この子の役目は承知している。この子は俺たちが大切に育てるから心配するな」
男の野太い声が頭の上で響いている。
女の声を背に受けて、声を立てずに涙を流し自分のつま先だけを見て歩く。
「こいつ自分の母親に心配かけまいと…… お前も一人で苦労をしたんだな」
ノイの目の前の風景がいきなり代わり、口から血を吐き出しながら隙間からはい出そうとしている感覚だった。
「胸の傷はこのときか。何と戦ったんだ?」
そしてまた繰り返される別れの声。
「うん、大体わかった。公一よ、今は涙を流せ、枯れるまで流せばいい」
膝の上で涙を流す公一の頭や背中を優しくなぜ続けた。
「大丈夫だ。お前は捨てられたのではないぞ。小さい時に仕事に出かけたのだ。そして、この私と出会ったのだ」
蔽い被さり、守るように公一を背中から抱きしめ頬ずりをした。
ノイは目を閉じ長いまつげを震わせた。涙を流す事とはなく口元には優しい笑みをたたえていた。
満足だった。
自分の最初の意図とは全く違う格好になってしまったが……
少し違うだろうが、ノイ自身の悲しみに、公一が自分の心の奥底の辛い傷を重ねてくれたことが嬉しかったから。
「だからな、もう泣くな。いい子だから」
くぐもった声で「はい」の返事が聞こえた。
「さあ、しっかりしろ。私の剣と盾にいつまでも泣かれるのは困るんだがな」
「はい」
顔を上げ答えものの直ぐに涙目になってしまった。
ノイは公一がまた泣き出しそうな様子を見て慌てて言い聞かせた。
「待て待て公一、話には続きがあるんだ。人間が裏切った訳じゃない。裏切った奴が居たんだ。泣くのは良く話を聞いてからにしろ」
公一が落ち着いた後、事のあらましを話し始めた。
漸く落ち着いた公一は泣きはらした赤い目でノイを見つめた。
「すいません、みっともない所をお見せして……」
「いや、私こそ物の言い方がきつかった。許せよ」
公一は安堵の表情を浮かべて
「少し落ち着きました。ここに住んでいた人間すべてが裏切り、ノイ様を見捨てたかと思いました」
「私が閉じ込められていた場所はズンダを止め置くはずだったんだ」
「え、裏切られて逆に、ご自身が……」
「そんなところだな。小癪なことに私を騙したのさ。ズンタのみならず、最初に居たムラサキの番人。あれだ覚えているよな? ズンダの子分たちと戦っていたのさ」
「御一人でですか?」
「ああ、ズンダ以外は、私を傷つけることが出来る奴はいなかったから、別に気にはしなかった」
「ズンダはノイ様の同格ですよね? ノイ様もズンダを倒すことが出来たのですか?」
「殺すの意味で言ったら出来ない。私たちを滅するのは御一人しかいない」
「上位の御方ですね」
「そう、私たちは執行者に過ぎない。天と地の差どころではないな」
「すいません話がそれてしまって。その裏切り者はノイ様に何をしたのですか?」
「ああ、私が閉じ込められていた部屋の壁一面に魔法陣が描いてあったろう。あれに私の名を書き込んであったのさ」
「え、他にも人間がいたら止めたはずですよ」
「ああ、そのことか。人払いをして部屋には誰も入れなかったそうだ。私が閉じ込められたときに、ご丁寧に説明してくれたよ。ああ、思い出すだけでも腹の立つ!」
ノイの表情は歯ぎしりせんばかりだった。
「それで闘技場にも細工がしてあってな。魔法であそこまで飛ばされたんだ。奴の言うことには一回切りの魔法だったそうだ」
「仕掛けの事を全部、喋ったんですか? 上手くいったのが余程嬉しかったみたいですね」
「ああ、馬鹿な奴だよ。まさか私が舞い戻るとは夢にも思わなかったんだろう。ざまあみろだ」
「そいつは王族だったんですか? それとも悪い魔法使いですか?」
「分からん。が、魔法は使えた。人間の順位は王以外は気にもしなかったからな」
「それでズンダと組んだ後はどうなったんですかね」
「判らん。裏切り者がズンダの僕になったとしても、ズンダが戦いの後に大人しくするとは思えないなあ」
「そもそも人間の言うことを聞きますかね?」
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