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第四十八話 仇討 その十六 闘技場
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「お前には少しだけ不満がある。私だけを見ていないことだ。確かに今お前の心の中には、この先の者まで見えている様だが、何か納得できん」
そう言うとノイは公一の頭を軽く小突いた。
「そうは仰っても、不意打ちされるのは嫌ですからね」
「お前、口答えするのか」
笑いながら公一の頭をまた小突いた。
その時、下から大音声が響いたのだった。
「随分と騒がしい奴らだ。お前らもたもたせずに、さっさと降りてこい!」
「これだけ騒げは下にいる奴も気付きますね」
「ああ、馬鹿じゃなければな。どんな面か見てやるか」
ノイは公一の背中に体を押し付けた。
「降りないんですか?」
「槍は私が持っていてやるから心配するな」
ノイは公一の背中から降りる素振りすら見せない。
「べつに今は困らんだろう。下の奴が待っているぞ。早く行け」
そうするのが当然とばかりに付け加えた。
公一は返事の代わりにため息をつくと歩き出した。
声の主は苛立っていた。本来なら苛立つはずのない心が苛立っていた。
上から聞こえてくるふざけた調子の声に苛立ちを感じずにはいられなかった。
「ふさわしくない。この神聖な場所にふさわしくない」
声の主は閉じていた目を薄く開け忌々し気に舌打ちをした。
今までに、この階段を降りてくる者は皆、命を失う覚悟であるというのに。
それを思うと怒鳴り声を上げるのも無理からぬ事と自らを納得させた。
この伝説の大龍の死骸の番人として、死して骨のみとなった龍の頭に座す栄誉を与えられている。
だが、今そこまで来ている奴らの緊張感の全く無い声を耳にすると、自分や今までここに戦いに来たものに対して、最大の侮辱にしか感じられなかった。
「どうした、わしに用があるのだろう。さっさと降りて来い。龍の骨を盗みに来たのか、わしと戦いに来たのか!?」
上に向かって、もう一度怒鳴った。
正直どちらにしても切り捨てる。ここにいる意味はそれしかなかった。
勝利の証の番人。我が主最強の男にふさわしい呼び名ではないか。そう呼ばれるためにも、どんな形でさえ自分に挑む者は切り捨てねばならなかった。
「なかなか降りてこないところを見ると盗人の類か。鱗のカケラ一つやらんぞ」
主からなら必ず使者が来るはず。何者であるか油断なく闘技場の入り口を見張る目に入って来た者達は、自分の思っていたものとはかけ離れていた。
落胆、この一言につきた。
どう見ても戦士や魔法を操る者には決して見えなかった。
装備以前の問題でみすぼらしさが先にたっていたからだった。
たぶん人間だろう、女を背負った男がポカンと口を開けてこちらをみあげている
こんな奴らがここに来れるなど思ってもみなかった。
「あいつはどうした。また主の使い走りでもしているのか? 主から剣を賜りながら、見張りもまともに出来ないとは情けない奴だ」
二人を見据えて叫んだ。
「切るのもバカらしい。来た道をとっとと戻れ。今だけは見逃してやる」
恫喝の声は闘技場を震わせ辺りに細かい塵を舞い立たせた。
「上に入る奴、何か言っている様だぞ。公一お前バカにされているみたいだな」
「仕方ないですよ。この格好ですよ。それよりノイ様、降り頂けますか?」
「そうだな。私の友の亡骸の上で偉そうな口をきかせる訳にはいかないからな」
ノイは公一の背から滑り降りた。
「槍は持っておけ」
「それにしても、でっかい龍ですね」
「当たり前だろう。『インテンジィバ・ストム空翔る時、太陽さえ隠す』と歌われたくらいだからな」
公一は改めて大龍を見上げた。
大龍は頭だけでも10階近くある建物の高さがあり、そこに先ほどから公一達に怒鳴り声を浴びせている人の形をした何者かがいる。
「帰れとか言ってるますよ」
「なに、消えてもらうのは向こうのほうだ気にするな。こちらは好きにやらせてもらうさ」
ノイは戦いを前にして上機嫌で答えた。
「ノイ様が戦われるんでしょう?」
「当たり前の事を言うな」
「じゃあ、前口上は私に任せてください」
公一は口に手を添えて相手に自分の声が出来るだけ届くようにして大声で叫んだ。
「ここの番人である戦士にお尋ねする。この龍の頭に座るのを許した方の名前を教えて頂きたい」
「あと、神であるズンダ様は今いずこに、おられるか御回答願いたい」
「公一、インテンジィバ・ストムの顎のところまで走るぞ」
ノイは公一の口上が終わるや否や走り出した。
二人の頭に上には罵る声が投げつけらた。
ノイと公一が大龍の顎を背に立った瞬間、目の前に猛烈な砂埃が舞い上がった。
「やっぱり降りてきたな。堪え性のない奴め。後は私に任せてもらう。良いな」
もうもうと立ち込めた塵が収まりきる前に飛び降りて来た者は獰猛な叫び声をあげた。
「死ぬ前に教えてやる。我が主に許されたことだ。あと神ズンダなどはノイと共にとうの昔に消えた奴らだ」
言うや否や大龍の牙の剣を振りかぶった。
そう言うとノイは公一の頭を軽く小突いた。
「そうは仰っても、不意打ちされるのは嫌ですからね」
「お前、口答えするのか」
笑いながら公一の頭をまた小突いた。
その時、下から大音声が響いたのだった。
「随分と騒がしい奴らだ。お前らもたもたせずに、さっさと降りてこい!」
「これだけ騒げは下にいる奴も気付きますね」
「ああ、馬鹿じゃなければな。どんな面か見てやるか」
ノイは公一の背中に体を押し付けた。
「降りないんですか?」
「槍は私が持っていてやるから心配するな」
ノイは公一の背中から降りる素振りすら見せない。
「べつに今は困らんだろう。下の奴が待っているぞ。早く行け」
そうするのが当然とばかりに付け加えた。
公一は返事の代わりにため息をつくと歩き出した。
声の主は苛立っていた。本来なら苛立つはずのない心が苛立っていた。
上から聞こえてくるふざけた調子の声に苛立ちを感じずにはいられなかった。
「ふさわしくない。この神聖な場所にふさわしくない」
声の主は閉じていた目を薄く開け忌々し気に舌打ちをした。
今までに、この階段を降りてくる者は皆、命を失う覚悟であるというのに。
それを思うと怒鳴り声を上げるのも無理からぬ事と自らを納得させた。
この伝説の大龍の死骸の番人として、死して骨のみとなった龍の頭に座す栄誉を与えられている。
だが、今そこまで来ている奴らの緊張感の全く無い声を耳にすると、自分や今までここに戦いに来たものに対して、最大の侮辱にしか感じられなかった。
「どうした、わしに用があるのだろう。さっさと降りて来い。龍の骨を盗みに来たのか、わしと戦いに来たのか!?」
上に向かって、もう一度怒鳴った。
正直どちらにしても切り捨てる。ここにいる意味はそれしかなかった。
勝利の証の番人。我が主最強の男にふさわしい呼び名ではないか。そう呼ばれるためにも、どんな形でさえ自分に挑む者は切り捨てねばならなかった。
「なかなか降りてこないところを見ると盗人の類か。鱗のカケラ一つやらんぞ」
主からなら必ず使者が来るはず。何者であるか油断なく闘技場の入り口を見張る目に入って来た者達は、自分の思っていたものとはかけ離れていた。
落胆、この一言につきた。
どう見ても戦士や魔法を操る者には決して見えなかった。
装備以前の問題でみすぼらしさが先にたっていたからだった。
たぶん人間だろう、女を背負った男がポカンと口を開けてこちらをみあげている
こんな奴らがここに来れるなど思ってもみなかった。
「あいつはどうした。また主の使い走りでもしているのか? 主から剣を賜りながら、見張りもまともに出来ないとは情けない奴だ」
二人を見据えて叫んだ。
「切るのもバカらしい。来た道をとっとと戻れ。今だけは見逃してやる」
恫喝の声は闘技場を震わせ辺りに細かい塵を舞い立たせた。
「上に入る奴、何か言っている様だぞ。公一お前バカにされているみたいだな」
「仕方ないですよ。この格好ですよ。それよりノイ様、降り頂けますか?」
「そうだな。私の友の亡骸の上で偉そうな口をきかせる訳にはいかないからな」
ノイは公一の背から滑り降りた。
「槍は持っておけ」
「それにしても、でっかい龍ですね」
「当たり前だろう。『インテンジィバ・ストム空翔る時、太陽さえ隠す』と歌われたくらいだからな」
公一は改めて大龍を見上げた。
大龍は頭だけでも10階近くある建物の高さがあり、そこに先ほどから公一達に怒鳴り声を浴びせている人の形をした何者かがいる。
「帰れとか言ってるますよ」
「なに、消えてもらうのは向こうのほうだ気にするな。こちらは好きにやらせてもらうさ」
ノイは戦いを前にして上機嫌で答えた。
「ノイ様が戦われるんでしょう?」
「当たり前の事を言うな」
「じゃあ、前口上は私に任せてください」
公一は口に手を添えて相手に自分の声が出来るだけ届くようにして大声で叫んだ。
「ここの番人である戦士にお尋ねする。この龍の頭に座るのを許した方の名前を教えて頂きたい」
「あと、神であるズンダ様は今いずこに、おられるか御回答願いたい」
「公一、インテンジィバ・ストムの顎のところまで走るぞ」
ノイは公一の口上が終わるや否や走り出した。
二人の頭に上には罵る声が投げつけらた。
ノイと公一が大龍の顎を背に立った瞬間、目の前に猛烈な砂埃が舞い上がった。
「やっぱり降りてきたな。堪え性のない奴め。後は私に任せてもらう。良いな」
もうもうと立ち込めた塵が収まりきる前に飛び降りて来た者は獰猛な叫び声をあげた。
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