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91 最弱!スライムパンチ

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リキンの街のエヒス騎士爵に招かれ、領主邸に行った。

3階の部屋↓いきなり床ぱっか~ん↓落下↓石造りの牢屋に幽閉。

無警戒で、罠にはまった。

「油断しすぎた。オルシマの領主邸を簡単に切り抜けられたから、有力者を甘くみすぎてた」


反省はあとでする。まずは脱出だ。

床は10メートル四方で上は10メートル以上。

上は開いたまんまだけど、人の気配はしない。

だけど、ツルツルに磨かれた石の壁で登れそうにない。

ごつ、ごつ。目の前の石壁を叩いても反響はない。ここは恐らく地下だ。
床から3メートルのとこに食事と空気入れ用だろうか、縦10センチ、幅40センチほどの隙間がある。


「いひひ領主め、完全に閉じ込めたと思っただろう」

今は、新たな技がある。というか、1個しか引き出しはない。とりあえず裸になった。

そしてスライムを収納指輪から取り出した。

「そうです。「等価交換」でスライムボディーになって、空気穴から逃げるのです」

空気穴までの高さは3メートル。先にスライムボディーだと踏み込みに不安。

「よいしょっと」

ダチョウ3匹が足場。そこから跳んで、3メートル地点の穴に手をかけた。

「このまま、穴から逃げよう。「等価交換」スライム変換」

ぱちっ、ぽよ~ん。

久々の水の膜に包まれ、骨が浮かんだスケルトンボディーだ。

だが・・

ぷちっ、じゃばっ。

「ぶへっ」

あまりの耐久力のなさに、スライム腕の膜が破れてしまった。

「うおお、やべっ。『超回復』!」

逃亡手段がいきなり役に立たず、途方に暮れてしまった。

「参った。次の手を考えよう」

思案と言う名の現実逃避。エールを出したが、わずか2杯では考えがまとまる前に飲み終わった。

「これじゃ酔えねえ!エヒスの野郎、絶対に許さねえ」

久々にランドドラゴンのドラゴニュートに変身。渾身の右ストレートを石に向かって打った。

ガンツ!「閃いた・・」

石は傷付かなかったが、「火剣のアグニ」を倒したときのこと、思い出した。

スライムを再び出した。
「スライム変換」

ぱちっ、ぽよ~ん。


実験では、細い木の枝で私のスライムボディーは破れた。

だからこそ、私の最強の武器になる。

「撃てるのは、ハエさえ殺せない世界最弱のパンチ。しかし、これが最強に至る道。なんてね」

強固な石壁に向かい、腰だめにした右正拳の構え。

「砕けろ、スライムパンチ!」

ぺちゃああん。

石の壁を殴った。

私の指、手首、肘、肩、胸、右腰。石に吸い込まれるように砕けていく。

そして、あの作用が働く。

「超回復&破壊的絶対領域」

ゴッ! ゴゴゴゴ。

「成功した・・」

スライムパンチを撃った私。外から見れば身体の右半分が、石の中にのめり込んで見える。

本当は身体がのめり込んでない。

なのに、左半身に合わせるために『超回復』で石壁の中で右半身が構築された。

ご、ごご。パラパラ。

石があった空間は、私の柔肌によって押し退けられた。

身体を石にできた穴から抜くと、早くも周りが歪み出している。

「これは、思ってたよりヤバい・・」

ダチョウを「等価交換」し、荒業で90センチまで縮んだ体を戻しながら、「スライムパンチ」の効果を見ている。

これは怖い。

破壊的絶対領域で石の欠片が、牢の内側に少しだけ飛んでいる。だけど、大半の威力が、建物自体に破壊エネルギーとして向かっている。

「空気口も上に歪んでるよ」

しっかりした土台の中に、瞬時に子供半分ほどの膨らみができ、全てを押し退けたのだ。

だが、今の状態では脱出はできない。

スライムは残り124匹。

「大砲」の弾丸は山のようにある。同じ場所に「スライムパンチ&破壊的絶対領域」をぶちこんだ。

ゴツ、ゴッ、ゴッ、ゴッ。

4回目に地下牢が崩壊を始め、3階執務室の机に置かれていた書類やペンが落ちてきた。

建物自体が危ない。

代わりに私が壊した穴の上から光がみえた。今度は上向きにスライムパンチを使い、地下から1階への脱出口を作った。

1度は捨ててしまうかと思った最弱生物スライムだけど、「等価交換」で誤作動。その応用で私限定の「最強」に変わることが分かった。

これで大型ドラゴンも倒せる目処もついた。
ただ、ドラゴンを倒して私が得られる経験値はゼロなのだろう。

スライムパンチは燃費も悪い。わずか6回の使用で、3・2メートルダチョウをほぼ1匹使い切った。


服を着て外に出ると、騎士爵邸の1階は使用人がてんやわんやだった。地震と思ったようだ。土台の一部が歪められた邸宅がどうなるかは知らない。

エヒスに仕返ししたが、私には何の得もない。

イラつきながら厨房の前を通りかかったとき、ワインが見えた。

「うしっ、慰謝料ゲットだ」

厨房にいたコックを脅し、ワイン80本、ウイスキー14本に大量のチーズを強奪した。


厨房の人間に通用門の位置を聞いて外に出た。衛兵にユリナが館を破壊して帰ったと伝言だけしておいた。

この「戦力」を見て、再び襲って来るのだろうか。



領主に害されそうになったが、私はオルシマに帰っても何も言わない。

この街は必要だ。帰りにジン20本、ラム10本、ウイスキー30本、エール200杯を仕入れられた。

「食」の欲求が減り「飲」が大切な私は、危険であっても何度でも訪れる。

そう思いながら、盗んだチーズをつまみにワインを飲みつつ街を去った。


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