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106 貴族の勧誘は強気

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多少のアクシデントはあっても、奉仕作業は順調だった。

低級冒険者の知り合いも増えた。

彼らの私への印象は、休憩中にエールを人に勧める「噂のユリナ様」

「プラス、ゴブリンキングを倒した加点がありながら、Cランク試験に落ちた愚か者か・・」

弱そうな見た目に反して脳筋武闘派だと思われている。


奉仕作業も1ヶ月半が過ぎ、パンと焼きウズラで餌付けした子供達と仲良くなった。

子供達の引率がない日は、12ー14歳の子供達と初級ダンジョンに出向いている。

万が一があっても死なせないように1回に2人ずつ面倒を見ている。『超回復』でとっさに助けられて、抱えて走れる限界がそのあたりと思う。

ゴブリンをメインにウサギも狩っている。ウサギ、ゴブリンの討伐証明になる耳は子供行き。私は次のダンジョン攻略を見越して、「等価交換」の材料としてゴブリンの残骸をもらっている。

子供達に聞かれても「食料?」としか答えられない。

そうして子供達が安定してウサギ狩りができるレベルに上がると、次の子供と交代してもらう。ゴブリンは247匹も集まった。

奉仕作業の期間が終わったら、これを餌に上級ダンジョンでオークをつかまえに行く。


なぜ上級ダンジョンかと?

肉の量を増やすだけならペルセ中級ダンジョンのダチョウが一番。

だけどあそこには、色んなランクの冒険者がいる。

ランクがEに下がった以上、中途半端な情報で私のことを「弱い」と判別して馬鹿な行動を仕掛けてくる奴がいる。

だからあと11か月は、面倒事が起こる可能性が非常に高くなる場所なのだ。

逆に最低でもCランク冒険者の活動域にいれば、単独で動く私に「脅威」を感じてくれるらしい。

ノカヤ上級ダンジョン最下層で会ったオルットさん一行のように、実力がある上に仁義を切ってくれる人にも接してしまった。

上級ほどあんな素敵な人が多い。

『超回復』から派生した効果で、私は「目が肥えて」しまった。

「『超回復』使用をきっかけに、スマトラファミリーの5人、ミール、ギルマス、副ギルマス、魔法使いオルガさんとか、街の実力者と知り合った。一緒に酒も飲むという幸運だもんな」

ギルドまで子供達を送ったあとの夕暮れ時、私は5日連続で街の外に出る。

スマトラファミリーとミールでノカヤ上級ダンジョンにアタック中なのだ。

上級ダンジョンをクリアすればアルバ4兄弟が自動的にDからランクが上がり、ミールも昇格権利を得る。

実力Aランクが4人もいるので問題ないだろう。

しばらくは1人でのんびりやる。

「そういや、子供達と走ったあと『超回復』をかけて、体が縮んだままだった」

半分干からびたゴブリンを1匹出した。最近また、誰かに監視されている気がする。

手からゴブリンを「等価交換」に使う前に、視線に背を向けて発動。

皮と骨だけになったゴブリンを地面に置いた。

そしてエールをいただく。


1時間して、ウイスキーも飲んでいる。

酔って干し肉と間違い、干からびたゴブリンをかじってしまった。

劇マズだ。この間違いは、もう10回以上やった。

お口直しで強めのウイスキーだ。

「明日はギルドに顔を出さないと。恐竜ダンジョンの情報を少しでも集めたいな」

目的はバイオレンスではない。

10日前にミールと数人の子供に風ドラゴンパピーの肉を振る舞った。

焼いて食ったら、すごくおいしかった。

ところが、ドラゴンパピーは私は皮と鱗が目的なので、大半の肉は商人さんに売ってしまった。

キセの街の下流にあるダンジョンは、私なら長時間活動ができる。未到達の5階以降も狙う。

◆◆
次の朝、街に入って冒険者ギルドで、活動報告をした。

ドラゴンダンジョンの情報は少なかったが存在した。ランクは暫定で「特級」。5階、8回にセーフティーゾーンがある。10階フロアボスは10メートルのランドドラゴン1匹、3メートル火属性プチドラゴンという早くも強力な布陣。12階から下の情報はない。


帰ろうとギルドを出ると、どこから聞き付けてきたか、とある伯爵家からスカウトに来ていた。

太った使者だか、それなりの地位がありそう。護衛は剣士5人。女の魔法使い風が2人入っている。

他にもスカウトっぽい人が7団体に見えるが、伯爵家に遠慮する立場なのか、伯爵家の人間と私を囲むように立っている。なんと合計で50人ほどに見える。

だけど注意すべきは、その外側にいる4人。ダンジョン、夜の川縁、所々で私を監視していた、教会関係者と思われる奴らがいる。

戦闘力も1人だけ飛び抜けた印象。教会の中の奴だ。立ち方がミールに似ていて、さらに2段階も強くした感じだ、


どうやらスカウトは、スマトラファミリーがいないタイミングで私に接触を図り、鉢合わせになったようだ。

なぜ今か。

私が冒険者ランク降格に不満を持っていると思ったようだ。

高位戦闘職、高位魔法使いの高ランク冒険者には、有力者も手を出しにくい。

狙ってくるなら、降格でギルドと不和が生じやすい今が多いらしく、ギルド関係者から覚悟しておけと言われている。

「モテモテだけど、困ったな」

伯爵家から提示された仕事内容は、当主の警護。プラス伯爵家に連なるものの「治療」。報酬は破格だか、完全な囲い込みだ。


「私、別にEランク降格に不満がないです。なので冒険者を辞める予定もありません」

ざわざわざわ。

「ドルン伯爵様の申し出を断るのか」

「それに治癒の力も「名もなき神様」に借りています。貴族と結託して汚い金儲けの手段にしたら、スキルを取り上げてられる契約なんです。もったいない話ですが、お断りさせていただきます」


私が何を言い違えたのか、空気が冷えた。私を取り囲んだ50人に睨まれている。

どうやら農村出身の私は、貴族家の使いへの返答を間違ってしまったようだ。

「我がドルン伯爵家のみでなく、7つもの貴族家も敵に回すのだな」

「いや、そんなつもりは・・」

「ならば、なぜ断る。孤児や貧乏人の面倒を見る生活などより、数段階もレベルが高い暮らしができるぞ」

「いりませんよ」

「それに、ミールという娘の身の安全のことも考えてやら・・ね・・ば」
「なにを言った!」

私は一瞬で臨戦態勢に入ってしまった。

「・・ミールや孤児院の子供がどうした?」

最低でもこの使者は、スライムパンチで肉片にしてやる。


「ストップだ。待ってくれユリナ」

収納指輪からスライムを出そうとした瞬間、ギルマスから待ったがかかった。

    
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