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107 貴族の次は『闇』

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複数の貴族家の勧誘が来たが断った。すると一番強気な太った使者が、ミールのことを言い始めた。

私には「害する」としか聞こえていない。

暴れようと思ったが、ギルマスが来ていて待ったが掛かった。副ギルマスもいる。

「ユリナ、ちょっと待て。ここで貴族家の人間50人以上を皆殺しにするのはやめてくれ」

「なにを言う」

ざわざわざわざわ。

貴族家の人間どもがざわついている。

ドルン伯爵家の一番強そうな護衛が怒気を込めて言った。
「それは、私達も含めてということか」

「いや」

「ではなんだ」

「止めに入る俺達も危ない」

「なっ」

「ユリナ、お前が倒した魔物について話していいか」
「情報隠してないから、いいよ」


「騎士さんよ。あんたレベル75のオークジェネラルを1人で倒せるか」

「なめるな。それに相当するレベル70のハイオーガは倒したことがあるぞ」
「あんた、無傷だったか」
「さすがにそんな訳がなかろう」

「ユリナは無傷だったぞ」
「は?」

「それどころか、オークジェネラルのレベル75にプラスして、オークソルジャーレベル70が2匹、ノーマルオークレベル70が2匹、オークヒーラーレベル65が1匹も同時に単独で討伐している」

「ば、馬鹿な」

「受付嬢によると、ダンジョンを出てきたかすり傷もないユリナが、ノカヤ上級ダンジョンクリアの証明を出したそうだ」

「嘘じゃないだろうな」

「目撃者も多数いるから調べたらよかろう」

「そんな弱そうな女が・・」

「だが、誰にも見せてない奥の手も持ってるようだ。な、ユリナ」
「人を人間兵器みたいに言わないでよ。街中でやらないくらいの常識は・・あるのかな?」

「ふざけるな。我ら貴族家の精鋭はオークどもとは違うぞ」

「だね。ダンジョンオークと違って逃げたりしそうだから、仕留めるのに時間がかかりそう」

「き、貴様」

「気にさわったんならごめんなさい」

「ふざけるな!」殴りかかってきた。

うっかり口を滑らせて、収まりがつかなくなった。

一発はしゃあないか。

ごぎっ。

私のようなスキルではなく、剣で高レベルなハイオーガを倒せる人間のパンチ。久々に顔面が陥没した。

『超回復』

5メートル飛んで後の人を巻き込んだが、どうせ似たり寄ったりの貴族家の人間だと思う。だから治療はしない。

私はゆっくり立ち上がって無傷をアピールした。

「ねえ騎士さん」
「な、なんで無傷で・・」
「後ろで怪我した人の責任はドルン伯爵家で取ってね」

近づいて、私を殴った奴の胸をつついた。

「うう」

私は彼らに背を向けて歩き出した。

「ど、どこに行く」

「街を出て4キロ行ったら初級ダンジョンがあるから、そこに行きましょう」

ざわざわ。

「あそこなら時間が経てば死体も消えるからさ。人間50体の処理って、かなり面倒なのよね」

まあ、やったことはないが・・

街の出入口の方に再び歩き出すと、貴族家の人間が私を避けながら、根こそぎ門の方に向かい出した。

私より遅れて街から出たら、外で殺されるとでも思っているのだろうか。

「ふう、ギルマス。ありがとう、止めてくれて」
「見てるだけの予定だったが、ユリナの雰囲気が変わったもんでな」

「反省します」
「そうだな。街中で大量殺人とか不味いぞ」
「てへへ」



教会上層の関係者と予測している4人だけが残っている。

「ところで、あそこに立ってる4人、何者かしら」

ダンジョン、街道、最近では私が夜過ごす、木の近くにも現れる。今日は隠れない。

しばらくは鬱陶しかったが、ここ数日はそこまで気にならない。なぜだろうか。

「あいつらか、恐らく教会上層の関係者だな」
「やっぱり・・」

「何かされたか?」

「ずっと監視されてる。ノカヤ上級ダンジョンの40階にも付いてきたよ。ところで、なんで教会関係者って分かったの?」

「奴らの中の1人が怪我をしてるらしい。全員が手練れのようだが、ユリナを監視しながら上級ダンジョンに入るのは厳しかったとみえる」

「よく分かったね」

ギルマスがニヤニヤし始めた。

「2日ほど前に、薬屋のベカンさんのとこに、腕の骨折がうまく治らない若い奴が来たそうだ。そいつの持ち物に真っ赤な色の十字架マークがあったそうだ」

ベカンさん。メルバさんとの「ホネマスク活動」で心臓を治した人だ。

「気になったから、俺のとこに来たのさ。「謎のEランク冒険者ホネマスク1号」に伝言で、気をつけるように言ってくれとさ」

「げふん!」
危ない。エールを飲んでいたら、噴き出してるとこだった。


例の男子4人に近付いた。今回は逃げない。

1番強そうな30歳くらいの奴もいる。

「なんで逃げないのかな」

若いのが3人いるが、1人がギルマスからもらった情報通りに具合が悪そうだ。それも普通じゃないくらい。

それを3人で庇っている感じだ。

「ああそうか。暗部っぽいのに感じた違和感がこれだ」

暗殺系なイメージの割に、仲間を庇い合っている。ダンジョンでもリーダーぽい人が若手3人を助けながら私に付いて来てたのだろう。

そっちを優先していなければ、探知力がない私に見つかるはずがない。


彼らはずっとこっちを見ている。おかしな事に、視線が暖かいというか、善意すら感じる。

細身の男子は顔色が悪すぎる。だけど、私に助けを求めない。

私が回復スキルを持つことを知っているはずなのに・・。

「ユリナ様、マルコをお助け下さい」

ユリナ「様」の様はともかく、顔色が悪いマルコ君の手を取って診断しようとすると、意外なことを言い出した。

「何を言い出す、ヤン。ユ、ユリナ様、あなたが闇スキル持ちの私に触ってはなりません」


本気で言っている。目がマジだ。

教会上層で年月をかけて洗脳されたのだろう。

「馬鹿なこと言わないで!」
「あっ」

両手でマルコ君の右手を捕まえた。左腕の怪我から血が腐ったんだろうか。色んな場所に毒のようなものが飛び火している。

危険だ。

「闇は影に馴染みやすいだけの、立派なスキル。光は明るい技が多いだけの、ただのスキル」

マルコ君はじっとこちらを見ている。

「名もなき神が叫ぶ。光は心の中にあればいい。それをはき違えている人間なんて死んでもいい。だから、マルコは助けろと!」

「わ、私にも明るい場所で生きる資格があるのですか」

いつの間にか人が集まった中でスキルを使った。


『超回復』

マルコ君が泣いている。



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