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119 相手からしたら理不尽な

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イーサイド男爵家。

そう聞くだけで、ジュリアに持っていたくらい、黒い感情が沸いてきた。

アリサに良く似た弟。

イーサイド男爵家から彼女を追放したクソガキの顔を見た。

それから、怒りの沸点が異様に低くなっている。


私の頭の中に封印していた記憶が鮮明に蘇る。

ダルクダンジョン。

あのシーン。

アリサがジュリアの炎を浴びて、半身が焦げていた。

「ユリナ、悔しい・・」

そう言いながら、髪から、服から炎が上がった。

崖から落ちて、私の視界から消えていった。

「ぐううおおお!」

奴らが追放していなければアリサとは知り合つてない。

だけど追放してなけば、アリサは悲惨な死を迎えずに済んだ。

「アリサ。あんたはイーサイドと戦っても喜んでくれない。それでも私は暴れずにいられない」


私は鎖かたびら一枚になって、左手にスライムを持った。

敵の集団に向かって走った。


敵は私を生け捕りにするのが目的だ。だから、戦士系は素手に紐を持っている。

魔法使いはまだ、魔法の準備もしていない。

「ねえ、イーサイド家の兵隊と聞くだけで、イライラしてる」

残り4メートル。

「そんな舐めた気持ちで私を相手にしてたら死ぬよ」

「ははは、強がりを」
「強がり?」

「あんた、戦闘に関しては追放されたアリサのような、劣等人だろう。スキルなしの低ステータスだ」

「隊長さん、アリサを知ってるの?」

「ああ、俺もアリサをカナワに連行した中にいたからな」

「ちょうどいい。アリサが少ない金しか持たされず追放された。なぜ少なかったか知らない?」

「ああ、男爵家から出た金自体が大したことなかった上に、俺らがカナワまでの護衛料に半分くらい頂いてから渡したからな」

「なんだ、ここにいるのは盗賊」
「なに?」

「死ね、死んでしまえ」

まっすぐ188センチ隊長に向かった。

反射速度の差は歴然。

隊長は私を素早く捕まえてがっちりとホールドした。

前屈みになった隊長のでかい体が目隠しになる。

「スライムアタック」
ぱーーーーーん。

「等価交換」

隊長は弾け、体が100センチに縮んだ。

同時に私は隊長の残骸が体に触れたまま「等価交換」を唱えた。

色んなものの破片が高速で飛んで、4人くらい傷を負っている。

私は、元の160センチに戻って、何事もなかったかのように立ってる。

裸でね。

魔法使いが右斜め15メートルの場所にいる。ガード役の盾持ちが前で守っている。

今度は大きな盾に向かってぶつかっていって、「スライム変換」「スライムパンチ」「超回復&破壊的絶対領域」を素早くやった。

ぱーーーん。

大盾は私のスライムパンチで弾け、高速で魔鉄の盾の尖った破片が飛び散った。

「ぎゃああ」
「がががっ」
「ぐっ」

こいつらを殺しても、盗賊のときと同じ感情しか沸いてこない。

「等価交換」「スライムパンチ」「等価交換」「スライムパンチ」「等価交換」「スライムパンチ」。

何かが宙を舞っている。私も血みどろになっている。

どかっ。

拳闘士に、腹のど真ん中を殴られた。

「『超回復』&破壊的絶対領域」

腹にめり込んだ拳を瞬時に押し戻し、肩まで破壊した。

「金剛気功術・・。なんでもいいや」

あっという間に20人以上も倒れ、捕獲部隊の腰が引けてきた。

残りは40人。

逃げ始めたやつも追って、最低でも後頭部に鉄棒の一撃を食らわせた。

逃げ切ったやつも、こっそり残ったミールの仲間が処理する。

私の怒りは伝わっている。

「お、お前はオルシマの聖女とか呼ばれているんだろうが」

「そうよ。呼んで欲しいわけじゃないけどね」

「なんだこれは、虐殺ではないか」

「ん?ただの盗賊退治だよ。アリサからお金を盗んだやつと、その仲間を退治するの」

そして、ミールやマルコ君たちを守る。

そのためなら「聖女」と呼ばれてもいい。

そう思ったら、彼らの敵でもあるこいつら、ゴブリンやオークにしか見えない。

「そんな・・ぐえ」

相手の言葉を待たず、革ひも流星錘を首に巻き付け、「等価交換」を発動した。


怪我人も放置して、そのまま進んだ。

どうやらイーサイドの領都には教会もあり、長男君の元に集まった高性能の戦闘系も多くいるようだ。

私1人ならサマンサさんとの接触は困難。だけど、隠密行動が得意なミール達がうまくやってくれる。

「闇属性の「ニンジャ」「アサシン」「闇剣士」って、みんな有能だもん」

私が騒ぎを起こしてる間に、サマンサさんを確保してもらう。そして話をする。

ミールやマルコ君たちにお願いした。

くれぐれも命がけのミッションをしないようにと、こちらは厳命した。

心配になったから生還を「命令」として出したのだ。

私を泣かせたくないなら、絶対に死ぬなと何度も言った。

マルコ君達は、そんなことで泣いた。

最初はマルコ君達の涙が不思議だった。

だけど、その程度でも、彼らの心には染みてしまったんだろう。

虐げられ、苦しんだ彼らだ。

私みたいな偽物でも「聖女」と呼ばれる人間に、気持ちを向けられることが嬉しかったんだ。


私とナリスは両親、モナは孤児院のシスターの言葉が残っていて、思い出すと胸が暖かかった。

だけどアリサは、それすら持ってなかった。

それなのに・・

それでも私に優しくしてくれた。

彼女はいずれ子供を産めたら、命がけで愛情を注ぐと言ってた。

思い出すと泣けてくる。

非常識な存在となった今でさえ、平静を保てない。




    
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