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130 恋のバトンを渡すため

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マヤを強化し、リュウに渡すことにした。

予定は3週間。

リュウには内緒。

マヤを強くすることは「暁の光」にとってもメリットがある。

サプライズプレゼントと思ってもらおう。


それに街には、入りにくい。

成り行きで、領主の馬車を盗賊から助けた。

裸マスクで正体不明。

なのに、「不可解な技」の繋がりで、私と特定されてしまった。

助けてやったのに。やっぱり貴族は信用できん。

念のため街に入らず、5キロほど離れた場所でマヤと合流。

すでに人相書が出回っているそうだ。

「私がカナワに来た当時にあったユリナさんの人相書が、また街の入り口に貼られてました」

「街に入らなくて正解か。ところでマヤ」
「はい」

「私の人相書き、吟遊詩人の歌にあるような美人なのかな」

「・・・」

返事がない。

どうも、そこはだリアルに私の貧相な顔。的確に、緻密に再現されている、ようだ。

くっそう!

「リュウ達には何て言ってきたの」
「お母さんも心配しているし、一旦様子を見に帰ると言って来ました」

「それなら大丈夫かな。3人とも疑ってなかったかな」
「ダリアさんは何かを勘づいたようです」

「ダリアか。あの無口なオーグと心を通じ合える「猛者」だもんね。何か言われた?」

「あせる気持ちも分かるけど、無理するなって」

「マヤのサプライズ強化が終わったら、3人に会いに行く。説明するよ」

「リュ、リュウちゃんにもですよね・・」

すごく不安そうな顔だ。


「ふふっ。そんな顔しないの。今回は義理堅いリュウに、きちんとお別れを言いに来たの」

「・・そうなんですか?」

「私が未練がましく、自分のギルドカードを渡した。そのせいで、新しい恋が芽生えても、ためらってたら悪いから」

「新しい恋ですか」

「そう。身勝手だけど、私も新しく好きな人ができた。けじめつけなきゃと思って」

「新しく・・」

「ミシェルっていうんだ」

「あ、ああ。そうなんですね。リュウちゃんとよりを戻すためにきたんじゃ・・ないんですね」

ほっとしてる。

この街に戻ってきても、トラブルが目に見えている。もう、オルシマに大切な場所もある。

私の仲間がいる。

私と同じような劣等人、それに近い人を助ける事業を始めた。

「ユリナさんにも新しい生活があるんですね」

余裕がでてきた。そしたら、優しいリュウが私のことで足踏みしてないか、心配になった。

リュウは好き。

だけど、マヤが必死にリュウを支えようとしている。なんだか安心した。

「リュウ。一緒に幸せになりたいのではなく、幸せになって欲しいと思っている」

リュウとマヤ。
ミシェルとミール。
どちらも、幸せになって欲しい。

悲しくもある。だけど、それは本心だ。

「ところで、どこに向かって歩いているんですか」

「行きたいダンジョンがあるんだけど、付き合う覚悟はある?」

「まさか、この方向は」

「ダルクダンジョンだよ」

「えええ!」

「リュウの元カノは、この中で死にかけてバケモノスキルを手にしたのよ」
「・・・」

会っていきなりだけど、今の私ならマヤを死なせず強化できる。

にわかに信じがたい話。だよね。

昨日会ったばかりで信用するのは難しい。

「断ってもいいよ。1人でも中に入るから」

「1人でも入るんですか」

「うん」
「何のためですか」

「今なら、ここの魔物でも倒せる。1階の奥にある10階まで続く「奈落」の穴に入りたいの」

「え、なぜそんな場所に」

殺された3人の仲間の遺品を探す。

何だっていい。何でもいいから見つけたい。

「話は聞いています」

「そう。悲しんでいた私にリュウは優しくしてくれた」

思い出すと、やっぱり胸か温かくなる。

けど私、スキルの秘密を隠しながら、リュウを幸せにできかった。

だから、ここに潜ったあと、今度こそ、お別れしようと思ってる。

「ダルクダンジョンの10階からソロで生還したって話は本当なんですね」

「正確には8階で人に助けてもらったから、単独で動いたのは10階から8階まで」

「そこで使ったのが、リュウちゃんを助けた、強力な回復スキルなんですね」

「そうだよ」

考えてみれば初対面の女が持ちかけるには、非常識な話。

「私も一緒に行かせて下さい」

「そんなに簡単に信用していいのかな」

「信用する材料は十分にあります。昨日、ためらわずにオークから助けてくれましたし」

こうしてリュウの元カノの私、リュウとの関係を恋人同士に格上げしたいマヤで臨時パーティーを組むことになった。

◆◆

「ユ、ユリナさん、なんで散歩みたいに歩いているんですか。ここ1階とはいえ特級ダンジョンですよ」

「出る魔物は、最高でもレベル55のオーク。魔物は基本、単独行動だから大丈夫だよ」

マヤはレベル22でHPは242。レベルアップ1つ当たりのHP上昇度は11とまずまずだ。

例によってミスリル装備を貸して、ガチガチに防御を固めている。

得意武器は短剣だが、今回に限り大剣を持たせている。

「私には強力な回復スキルがある。腕が飛んでも軽症。他人も同じように治せる」

自分が瞬殺されないことだけ考えろ。それを何度も言った。

「分かりました」

私が友達を亡くした奈落の大穴は入り口から4キロの場所にある。

今は半分の地点だ。

オークが現れた。

「ユリナさん、あれって」

彼女が言い終わる前に、オークに走った。

正面からいきなり行って、振り下ろしのパンチ。

が、当たる瞬間に『超回復』

攻撃を弾かれたオークが態勢が崩した。

トレントの枝で脚をぺしぺししながら「等価交換」。

数回繰り返すと、オークの膝からべきっと音がして転んだ。

マヤには不思議現象に映ってるだろう。

「さあマヤ、身体強化を使って。敵の射程外から大剣をたたきつけて」

思った通り、スキルを発動させれば彼女は大剣でも扱えた。

等価交換で弱らせたから経験値は半減するが、15分で推定レベル50オークを倒せた。

「次行くよ」
「はい」

恋する乙女のパワーレベリング道場が開幕した。

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