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135 恋敵のマヤに意地悪する

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カナミール子爵邸に向かって歩いている。

血液の病に倒れた11歳の娘、フロマージュを治療するため。

妹分になったマヤのためだけを考えて、子爵に恩を売る。

使者のマルクルさんと約束して2時間半後、私とマヤはカナワの街に到着した。

マルクルさんと一緒にいた騎士が待っていて、貴族専用門に通された。

私は堂々と街に入った。マヤは恐縮していた。

ここから領主邸まで直線で2キロ。曲がり道もあるから、実際には3キロくらい。

カナミール子爵の配下は総出で、私達の道を妨げないように交通整理をしている。

捕縛を選んだら、遠慮なくミハイルさんが暴れていただろう。

「ユリナ!」
「あ・・。久しぶり」

リュウだ。オーグとダリアもいる。何か月ぶりだろうか。相変わらずリュウは優しい目をしている。

「なんで、ユリナとマヤが一緒に」
「リュウ、歩きながら話そうか。私、領主邸に向かってるの」

とりあえず、マヤと偶然に知り合ったこと、カナミール家三男に絡まれたことを言った。

三男のことではリュウが激怒怒。マヤは大切にされている。

みんなと色んな話をする前に、この件を片付けたい。


15分後。

私達は子爵邸に到着した。私には、迷いが生じている。

「マヤ、ちょっと危険があるかも。引き返すなら今かもよ」

「・・いえ。リュウちゃんの彼女だったユリナさんをしっかり見させてもらいます」

リュウもさすがにマヤの気持ちに気付いている。

複雑な顔だ。

領主邸の門が開いていた。

何も妨げはない。

私は門番を無視して中に入った。「暁の光」の4人は会釈していたが。

子爵邸本宅の入り口も開いていて、丸腰の騎士が並んで、2階にあるフロマージュの部屋に私達を誘導する。

フロマージュの部屋にすんなり到着した。

ドアを開けると、ベッドに顔色が悪く、やせこけた娘が寝ていた。

そして身なりがいいが、目の下にくまを作った男性と女性が立っていた。

「ユリ・・・」
私は男性の呼びかけを無視して、娘の額に手を置いた。

以前、スマトラさんの頭の中に感じた病巣。その小さなものが、体中に撒き散らされている。

血流に乗った毒素で、心臓も痛めつけられている。

ボロボロだ。

「マヤ」
「何ですか」

「名もなき神は、この子を治していいって言ってるけど、私はためらってる」

「え、何でですか」

子爵夫妻と思われる男女の表情が一変した。

期待させた分だけ、驚愕の表情が大きい。

リュウ、オーグ、ダリアは黙って見てくれている。

「だって、この子はあなたを冤罪で捕まえ、汚そうとしているカナミール家三男の妹でしょ」

「だけど・・」

「妹がこんなことになり、子爵様の警戒が緩い。それをいいことに、私の捕縛まで狙ってるわ」

子爵は目を見開いている。

「治療してあげても、この家の人間の誰かが敵になる。あなたの身の安全が保証されない」

婦人。「あの妾のクソガキが・・死なす」。
憤怒の表情を浮かべている。

「私はさっきから「気功回復」を発動したいけど、心が拒否して「気」が練れない」

「そんな。この子が可愛そうです。何か手はないのですか」

「そこの子爵様も調べてるけど、私の力は仲間には癒やしとなって作用する」

子爵も把握しているらしく、その言葉に反応する。

「だけどね」

子爵が反応した。やはり、子爵は「等価交換」のことも調べてる。

「私が敵と思ってスキルを使うと、その相手をひからびさせる、悪魔の攻撃に変わるの」

「そんな・・」
「ね、リスクが高いよ」

「この子、私の妹と同じくらいです。ユリナさん、お願いです。助けてあげたいです」

リュウ達は、何となく気付いたようだ。

恐らく「暁の光」に迷惑をかけている三男を、私が悪者に仕立てあげようとしていることに。


そのとき、フロマージュちゃんが薄く目を開けた。

「さっき目が覚めて・・。お姉ちゃん達、来てくれてありがとう。だけど、お兄様が迷惑かけてごめんなさい」

涙を流してる。

「お父様、お母様、たくさん迷惑をかけて、ごめんなさい。もういいです・・。ごめん・・なさい・・」

そう言うのが精いっぱい。また目を閉じてしまった。


マヤが私の方を見た。だけど私は非情だ。

「マヤ、本人もそう言っている。ここの娘は放って帰ろう」

しかし、マヤは何かを決意した。そして私のミスリルワンピースの袖をつかんだ。

「ユリナさん、スキルを使って下さい。この手は離せません」

「私と殴り合うの? ダンジョンでオーガを無力化したの見たでしょ」

「それでも、離しません」

「仕方ない。それなら、1つだけ手があるよ」
「お願いします」

「単純に、戦闘の時にも使えるスキルの使いかたをするの」

「何をやるんですか?」

「あんたの右手から「栄養」を吸い取る。その栄養を使って、フロマージュちゃんの病気を治すの」

「え?」

「名もなき神が言ってる。その資格があるのは、マヤ、あんただけだって」

マヤは私が魔物を「等価交換」で干からびさせるとこを見ている。

「行ってこい変換」も見せた。

だから、奪った養分で、私とマヤ、2人の傷を治したことも理解している。

だけど『超回復』があれば、干からびた部分でも治せることは、知らない。

マヤは、「等価交換」に使われた肉は、もう廃棄物だと思っている。

私は意地悪だ。

「どうする。フロマージュちゃんは死にかけてるよ。マヤとフロマージュに「行ってこい変換」を使ったら、助かる」

「・・」

「けどね、変わりにマヤの右腕が完全に壊死する」

「壊死。腐り落ちるのですか?」

「すぐに腕を切断するしかない」

「右手がなくなる・・。もうリュウちゃんと並んで歩くことが・・」


だけど。

マヤはしっかりとした光を宿した目で、リュウに向き直った。

「リュウちゃん」

「マヤ」
「私、もう一緒に冒険する力がなくなる。だけど、この子を見捨てられない。もう時間もない」

泣いている。

「一緒にいれば、いつか彼女になれるかと思ってた。それも無理みたい」

私に自分の右腕を差し出した。

「だけどね、子供の頃から大好き。大好きだよリュウちゃん」


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