ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる

文字の大きさ
136 / 188

136 リュウ、彼女の覚悟は見たよね

しおりを挟む
私はカナミール子爵家の三男に、無実なのに指名手配された。

だから妹のフロマージュを見捨てると言った。

だけど私以上に迷惑をかけられているマヤ。彼女がフロマージュを助ける決断をした。

私は淡々と作業をした。

右手をフロマージュの額に当て、左手でマヤの右手をつかんだ。

「やるよ」

「・・はい」

「『超回復』そして行ってこい変換」

ぱちいいいい。「は、あれれ?」

いきなり死の淵から蘇ったフロマージュが体を起こした。

体力も全快だから、こうなる。

ほっぺも年相応に膨らんでピンクで愛らしい。

「フロマージュ!」。子爵婦人が娘を抱き締めた。

だけど・・。

マヤの右手は肘から下が、干からびてミイラになった。

床に座り込んだマヤをリュウ、ダリア、オーグが介抱している。

ぼそっ。リュウにだけささやいた。

「リュウ、マヤには、回復スキルで欠損した腕を治せることまでは言ってない」

「え、本当に?」

「だけど、彼女は決断をした。人に対する優しさを十分に持っている。彼女がリュウのそばにいてくれる。それなら安心」

「・・マヤ」

「私、オルシマの街に新しい男ができた。今回はそれを言いに来た」

嘘だ。リュウと同じくらい好きな男はできた。

だけど、結ばれないことも確定している。

「・・そうか。いずれはそうなるかと思ってた。ユリナは魅力的だから、モテるもんな」

顔が熱くなって、話はそこで止めた。


マヤを床に寝かせて肘から先を切断した。

痛覚は残っていたようでマヤは悲鳴をあげた。

フロマージュが、目をそらさず見ていた。

ダリアに包帯を巻かれ、ぐったりしているマヤ。

彼女をリュウがお姫様抱っこした。

リュウは、私があとでマヤを治療すると分かっている。

だけど、治療できると知らないマヤの覚悟を見せられた。

そして、長年の思いをぶつけられた。

優しい目でマヤを見ている。かつて私に向けてくれた「1番目」だけに見せる目だ。

マヤの恋は実る。だけど、少し寂しくなった。


私はカナミール子爵に、切断したマヤの腕を渡した。

「カナミール子爵様、これがあなたの娘を救ってくれたよ」

「ああ、マヤ殿の腕・・。娘のために」

「お父様、私に下さい」

フロマージュが、気持ち悪いくらいに干からびた、マヤの右腕を大事に抱き締めた。

「三男に嫌な思いをさせられてるから、マヤにはやめていいって言ったんだけどね」

「すまぬ。マヤ殿だけでなく、お仲間にもご足労をかけた。この礼は必ずする」

「私個人はいらない」
「しかし」

「今の私は基本、貴族の願いは聞かない」

「では、なぜ今回は・・」

「今回は借りを返しただけ。この街は劣等人の私達を虐げなかった」

モナ、ナリス、アリサ、そうだったよね。

「誰かの善政のお陰で、街にいた2年間は仲間と楽しく過ごせた。ただの恩返し」

「そうか。当たり前のことで感謝されるとは。しかしマヤ殿には、大きな対価を用意させてもらう」

「貴族の三男に目を付けられたばかりに嫌な思いもして、危ない目にもあった。その上に右腕まで失くした」


「謝罪のしようもなく・・」

「マヤに着けてあげる「義手」には、あてがある。お願いは1つだけ。2度と三男をマヤの前に現れないようにして」

「待ってくれ、それは当然のことだ。この礼を・・」

返事をせず、5人で子爵邸を出た。

子爵夫妻、マヤの腕を抱えたフロマージュが付いてきた。


すんなりと子爵邸を出て、「暁の光」と私の5人で街に出た。

しかし、門の前には多くの人が集まり、使者さんもいた。

「ユリナ殿、フロマージュお嬢様は」

「私はスキルを使ったけど、治療に失敗した」

「え」

「だけど、マヤが自分の腕を犠牲にして助けてくれたわ。ほら、フロマージュちゃんも元気に歩いて来たでしょ」

リュウに抱かれて眠る、右腕がなくなったマヤを指差した。

そして、その腕はフロマージュが持っていた。

ざわっ。

ミハイルさん達から、また黒い空気が漏れだしている。

あいた。貴族の横暴があったかのような絵図だ、これは。

私がいた頃から「暁の光」と付き合いがあった冒険者もいる。みんな尖った空気を醸し出した。

困った・・

すると、フロマージュがマヤを抱いたリュウの前に出てきた。

そしてひからびた腕を抱いて、マヤの前に跪いた。

「マヤお姉ちゃんありがとう。そしてごめんなさい。カルゴお兄様が悪いことをしたのに、私を助けてくれてありがとう」

「フロマージュ・・」

「この腕を犠牲にしてくれてありがとう。この腕をなくさせてごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい」

マヤは起きない。だからリュウが代弁した。

「いいよ。マヤも冒険者だ。やることはすべて自己責任だ。今回の判断は、自分の意思でやった。だから、救われたお嬢さんは、一生懸命に生きてくれ」

ダリア、オーグも続いた。

「元気でね」
「無病息災」


吟遊詩人がこの光景を見て、何かをメモしている。

街の人の記憶から「リュウ&ユリナ」の恋物語が消え、「リュウ&マヤ」の物語に書き換わることを望む。

名作を仕立ててもらいたい。

私のやつは、私自身が恥ずかしすぎる、


そもそも美少女とは・・

新作を作ってくれるなら、取材をなんぼでも受けていい。


「暁の光」の4人は今、一軒家を借りて拠点にしている。そこに向かうことになった。

領主邸から約2キロの道のりは、マヤを見に来た人でごったがえしていた。

後日談。ここでは関係ないが、美少女マヤ物語ができあがったそうだ。

◇不治の病の侵された「旧知の」領主の娘を救うため立ち上がった、Dランク冒険者マヤのストーリー。

◇「秘薬」を求め低レベルで特級ダンジョンに飛び込むことにした。

◇しかし力が足りず、リュウを巡る意地悪な恋敵、特殊スキルを持ちのユリナに懇願して協力を得る。

◇戦いの中、マヤは右腕を失いながらも秘薬を手に入れフロマージュを救う。

◇マヤは腕を無くしたことを告げず黙って去る。

◇それを見て心打たれたリュウ。彼が命がけで、アーティファクトの義手を探しあて、マヤの腕にをはめる。

◇マヤとリュウは、愛を育みながら冒険者を続けていく。

吟遊詩人よ頼む。

私の恥ずい物語が上書きされるまで、歌いまくってくれ!

しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

転落貴族〜千年に1人の逸材と言われた男が最底辺から成り上がる〜

ぽいづん
ファンタジー
ガレオン帝国の名門貴族ノーベル家の長男にして、容姿端麗、眉目秀麗、剣術は向かうところ敵なし。 アレクシア・ノーベル、人は彼のことを千年に1人の逸材と評し、第3皇女クレアとの婚約も決まり、順風満帆な日々だった 騎士学校の最後の剣術大会、彼は賭けに負け、1年間の期限付きで、辺境の国、ザナビル王国の最底辺ギルドのヘブンズワークスに入らざるおえなくなる。 今までの貴族の生活と正反対の日々を過ごし1年が経った。 しかし、この賭けは罠であった。 アレクシアは、生涯をこのギルドで過ごさなければいけないということを知る。 賭けが罠であり、仕組まれたものと知ったアレクシアは黒幕が誰か確信を得る。 アレクシアは最底辺からの成り上がりを決意し、復讐を誓うのであった。 小説家になろうにも投稿しています。 なろう版改稿中です。改稿終了後こちらも改稿します。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

【完結】妖精を十年間放置していた為SSSランクになっていて、何でもあり状態で助かります

すみ 小桜(sumitan)
ファンタジー
 《ファンタジー小説大賞エントリー作品》五歳の時に両親を失い施設に預けられたスラゼは、十五歳の時に王国騎士団の魔導士によって、見えていた妖精の声が聞こえる様になった。  なんと十年間放置していたせいでSSSランクになった名をラスと言う妖精だった!  冒険者になったスラゼは、施設で一緒だった仲間レンカとサツナと共に冒険者協会で借りたミニリアカーを引いて旅立つ。  ラスは、リアカーやスラゼのナイフにも加護を与え、軽くしたりのこぎりとして使えるようにしてくれた。そこでスラゼは、得意なDIYでリアカーの改造、テーブルやイス、入れ物などを作って冒険を快適に変えていく。  そして何故か三人は、可愛いモモンガ風モンスターの加護まで貰うのだった。

雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった〜

霞杏檎
ファンタジー
祝【コミカライズ決定】!! 「使えん者はいらん……よって、正式にお前には戦力外通告を申し立てる。即刻、このギルドから立ち去って貰おう!! 」 回復術士なのにギルド内で雑用係に成り下がっていたフールは自身が専属で働いていたギルドから、何も活躍がないと言う理由で戦力外通告を受けて、追放されてしまう。 フールは回復術士でありながら自己主張の低さ、そして『単体回復魔法しか使えない』と言う能力上の理由からギルドメンバーからは舐められ、S級ギルドパーティのリーダーであるダレンからも馬鹿にされる存在だった。 しかし、奴らは知らない、フールが【魔力無限】の能力を持っていることを…… 途方に暮れている道中で見つけたダンジョン。そこで傷ついた”ケモ耳銀髪美少女”セシリアを助けたことによって彼女はフールの能力を知ることになる。 フールに助けてもらったセシリアはフールの事を気に入り、パーティの前衛として共に冒険することを決めるのであった。 フールとセシリアは共にダンジョン攻略をしながら自由に生きていくことを始めた一方で、フールのダンジョン攻略の噂を聞いたギルドをはじめ、ダレンはフールを引き戻そうとするが、フールの意思が変わることはなかった…… これは雑用係に成り下がった【最強】回復術士フールと"ケモ耳美少女"達が『伝説』のパーティだと語られるまでを描いた冒険の物語である! (160話で完結予定) 元タイトル 「雑用係の回復術士、【魔力無限】なのに専属ギルドから戦力外通告を受けて追放される〜でも、ケモ耳少女とエルフでダンジョン攻略始めたら『伝説』になった。噂を聞いたギルドが戻ってこいと言ってるがお断りします〜」

アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。 ふとした事でスキルが発動。  使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。 ⭐︎注意⭐︎ 女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。

処理中です...