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136 リュウ、彼女の覚悟は見たよね

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私はカナミール子爵家の三男に、無実なのに指名手配された。

だから妹のフロマージュを見捨てると言った。

だけど私以上に迷惑をかけられているマヤ。彼女がフロマージュを助ける決断をした。

私は淡々と作業をした。

右手をフロマージュの額に当て、左手でマヤの右手をつかんだ。

「やるよ」

「・・はい」

「『超回復』そして行ってこい変換」

ぱちいいいい。「は、あれれ?」

いきなり死の淵から蘇ったフロマージュが体を起こした。

体力も全快だから、こうなる。

ほっぺも年相応に膨らんでピンクで愛らしい。

「フロマージュ!」。子爵婦人が娘を抱き締めた。

だけど・・。

マヤの右手は肘から下が、干からびてミイラになった。

床に座り込んだマヤをリュウ、ダリア、オーグが介抱している。

ぼそっ。リュウにだけささやいた。

「リュウ、マヤには、回復スキルで欠損した腕を治せることまでは言ってない」

「え、本当に?」

「だけど、彼女は決断をした。人に対する優しさを十分に持っている。彼女がリュウのそばにいてくれる。それなら安心」

「・・マヤ」

「私、オルシマの街に新しい男ができた。今回はそれを言いに来た」

嘘だ。リュウと同じくらい好きな男はできた。

だけど、結ばれないことも確定している。

「・・そうか。いずれはそうなるかと思ってた。ユリナは魅力的だから、モテるもんな」

顔が熱くなって、話はそこで止めた。


マヤを床に寝かせて肘から先を切断した。

痛覚は残っていたようでマヤは悲鳴をあげた。

フロマージュが、目をそらさず見ていた。

ダリアに包帯を巻かれ、ぐったりしているマヤ。

彼女をリュウがお姫様抱っこした。

リュウは、私があとでマヤを治療すると分かっている。

だけど、治療できると知らないマヤの覚悟を見せられた。

そして、長年の思いをぶつけられた。

優しい目でマヤを見ている。かつて私に向けてくれた「1番目」だけに見せる目だ。

マヤの恋は実る。だけど、少し寂しくなった。


私はカナミール子爵に、切断したマヤの腕を渡した。

「カナミール子爵様、これがあなたの娘を救ってくれたよ」

「ああ、マヤ殿の腕・・。娘のために」

「お父様、私に下さい」

フロマージュが、気持ち悪いくらいに干からびた、マヤの右腕を大事に抱き締めた。

「三男に嫌な思いをさせられてるから、マヤにはやめていいって言ったんだけどね」

「すまぬ。マヤ殿だけでなく、お仲間にもご足労をかけた。この礼は必ずする」

「私個人はいらない」
「しかし」

「今の私は基本、貴族の願いは聞かない」

「では、なぜ今回は・・」

「今回は借りを返しただけ。この街は劣等人の私達を虐げなかった」

モナ、ナリス、アリサ、そうだったよね。

「誰かの善政のお陰で、街にいた2年間は仲間と楽しく過ごせた。ただの恩返し」

「そうか。当たり前のことで感謝されるとは。しかしマヤ殿には、大きな対価を用意させてもらう」

「貴族の三男に目を付けられたばかりに嫌な思いもして、危ない目にもあった。その上に右腕まで失くした」


「謝罪のしようもなく・・」

「マヤに着けてあげる「義手」には、あてがある。お願いは1つだけ。2度と三男をマヤの前に現れないようにして」

「待ってくれ、それは当然のことだ。この礼を・・」

返事をせず、5人で子爵邸を出た。

子爵夫妻、マヤの腕を抱えたフロマージュが付いてきた。


すんなりと子爵邸を出て、「暁の光」と私の5人で街に出た。

しかし、門の前には多くの人が集まり、使者さんもいた。

「ユリナ殿、フロマージュお嬢様は」

「私はスキルを使ったけど、治療に失敗した」

「え」

「だけど、マヤが自分の腕を犠牲にして助けてくれたわ。ほら、フロマージュちゃんも元気に歩いて来たでしょ」

リュウに抱かれて眠る、右腕がなくなったマヤを指差した。

そして、その腕はフロマージュが持っていた。

ざわっ。

ミハイルさん達から、また黒い空気が漏れだしている。

あいた。貴族の横暴があったかのような絵図だ、これは。

私がいた頃から「暁の光」と付き合いがあった冒険者もいる。みんな尖った空気を醸し出した。

困った・・

すると、フロマージュがマヤを抱いたリュウの前に出てきた。

そしてひからびた腕を抱いて、マヤの前に跪いた。

「マヤお姉ちゃんありがとう。そしてごめんなさい。カルゴお兄様が悪いことをしたのに、私を助けてくれてありがとう」

「フロマージュ・・」

「この腕を犠牲にしてくれてありがとう。この腕をなくさせてごめんなさい。ごめんなさい、ごめんなさい」

マヤは起きない。だからリュウが代弁した。

「いいよ。マヤも冒険者だ。やることはすべて自己責任だ。今回の判断は、自分の意思でやった。だから、救われたお嬢さんは、一生懸命に生きてくれ」

ダリア、オーグも続いた。

「元気でね」
「無病息災」


吟遊詩人がこの光景を見て、何かをメモしている。

街の人の記憶から「リュウ&ユリナ」の恋物語が消え、「リュウ&マヤ」の物語に書き換わることを望む。

名作を仕立ててもらいたい。

私のやつは、私自身が恥ずかしすぎる、


そもそも美少女とは・・

新作を作ってくれるなら、取材をなんぼでも受けていい。


「暁の光」の4人は今、一軒家を借りて拠点にしている。そこに向かうことになった。

領主邸から約2キロの道のりは、マヤを見に来た人でごったがえしていた。

後日談。ここでは関係ないが、美少女マヤ物語ができあがったそうだ。

◇不治の病の侵された「旧知の」領主の娘を救うため立ち上がった、Dランク冒険者マヤのストーリー。

◇「秘薬」を求め低レベルで特級ダンジョンに飛び込むことにした。

◇しかし力が足りず、リュウを巡る意地悪な恋敵、特殊スキルを持ちのユリナに懇願して協力を得る。

◇戦いの中、マヤは右腕を失いながらも秘薬を手に入れフロマージュを救う。

◇マヤは腕を無くしたことを告げず黙って去る。

◇それを見て心打たれたリュウ。彼が命がけで、アーティファクトの義手を探しあて、マヤの腕にをはめる。

◇マヤとリュウは、愛を育みながら冒険者を続けていく。

吟遊詩人よ頼む。

私の恥ずい物語が上書きされるまで、歌いまくってくれ!

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